「イリミネーションタッグマッチ」
VS
桜井千里・草薙みこと・伊達遥・小早川志保・カラミティ十六夜
+技SS「スーパーパワーボム」
ベテラン対若手の5体5生き残り戦が行われる当日。
試合開始前、控え室で小川が倒れているのが発見される。
「向こうから難癖つけてきたから、ついやり返しちゃったのよぉ」
「本当に、礼儀を知らない人間ばかりで嫌になりますわ」
そしてPPV放映開始直後のリング上で、そのことについて鏡と神楽がバレバレの弁解を行っていた。
二人ともスーツ姿な時点で、龍子側との結託を自ら明かしているようなものである。
「全くなんてことをしてくれたんですか!
…でも、欠けてしまったものは仕方ありませんね。
メインイベントの5体5イリミネーションマッチは、小川さん抜きの5対4に変更…」
「待ちなさい」
一緒に出てきたGM霧子も、この暴挙へ真面目に腹を立てる様子は全く無く、
それどころか龍子側を明らかに贔屓する決定を下そうとしたところで、
入場ゲートに現れたみことが待ったをかける。
「あなた達、よくもやってくれましね…!
試合前の選手を襲うなど、なんて卑劣な!」
「だから別に、そんなつもりは無かったんだってば」
「仮に私達が悪意を持って小川さんに暴行したとして、それであなたはどうしようと言うのかしら?」
と、もちろん鏡と神楽は全く悪びれない。
しかし、みことはその様子を見てもそれ以上怒らず、逆に奇妙なほど落ち着きを取り戻した。
「私自身は何も致しません。ただ、あなた方の行為があまりにも度を越していたせいで…」
不意に、会場中の照明が一斉に落ちる。
「“災厄”が目覚めてしまったようです」
数秒後にパッと全ての明りが点いた時には、リング上の二人の背後に、
いつの間に表れたのか、かなり大胆なコスチュームを着た赤毛の長身が立っていた。
「……!?」
背後の気配に気づいた鏡と神楽が振り返った瞬間、
彼女の両手が二人の喉を掴み、それぞれ左右片手一本で持ち上げると、二人を同時にチョークスラム葬。
「ひっ…!?」
それを見て慌てて場外に避難した霧子に向かい、みことが一方的に宣言する。
「本日のメインイベント、小川さんに代わって十六夜さんが私達の側に加わります。いいですね!?」
両軍の決着戦は、始まる前から荒れていた。
この試合、まずは両軍5人対5人の状況からスタートし、
フォール又はギブアップを奪われた選手から一人ずつ脱落、どちらかの最後の一人が負けた時点で決着となる。
龍子たちベテラン組が勝った場合は桜井のシングルヘビーが龍子へ、小早川のジュニア王座がソニックへ、
桜井たち若手組が勝った場合には祐希子・市ヶ谷のタッグ王座が伊達・みことへ、というふうに、
勝った側がベルトを一度に総獲りする形だ。
まずは両軍からソニックと小早川が先発で出た。
「いくよっ!」
「負けないのさねっ!」
コーナーから一直線に出て行ってリング中央でぶつかり合ったあと、小早川がロープに走る。
対してソニックはリープフロッグでこれを飛び越え、続けて流れるようにマットへ身を投げ出して小早川を一往復させると、
さらにロープから帰ってきたところへドロップキックを合わせた。
「まだまだっ!」
これに小早川は一瞬で跳ね起き、トーキックを入れて再びロープへ走る。
ソニックはショルダースルーで後方へ投げ捨てようとしたが、
「はッ!」
小早川は、屈んだソニックが自分の体を跳ね上げようとする力を利用し、
合わせて自分から真上に飛び上がると、
ソニックが体を伸ばしきったところへ見事なカウンターでドロップキックをくらわせた。
予期せぬ一発に、ソニックは場外まで転げ落ちてしまう。
「うっきゅ~!!」
「へへん!」
小早川が得意になって胸を張り、このまま暫くはジュニア同士のスピーディーな序盤戦が続くかと思われた。
が、しかし。
直後、つかつかとコーナーから出てきた市ヶ谷が小早川の頭を掴み、自軍の方へ引き摺って行く。
この試合でも通常のタッグマッチと同じように、交代にはタッチが必要なのだが、
市ヶ谷があまりに堂々と入ってきたため、つい桜井たちも止めに入る勢いを失ってしまった。
「ちょっ、何すんだよ!?」
「あなたには、少し用がありますのよッ!」
真帆と祐希子が押さえつけてコーナーに固定したところへ、
まずは市ヶ谷、続けて龍子が串刺しラリアット。
さらに背後のコーナーに乗った祐希子が後頭部へ膝をあてがい、
その状態のままで前方へ倒れこませ、顔面をマットに打ち付けるカーフブランディング。
「仕上げだっ、上がれ!」
「わかりましわ!」
そして、龍子の号令で市ヶ谷がコーナーに座る。
同時に龍子と祐希子はふらふらの小早川を背後から抱えあげ、
無理矢理足を開かせてコーナーの市ヶ谷へパワーボムの形になるように渡した。
こうなれば、あとは思い切り叩きつけるだけ。
この間、実に手際よく連係が進む。
「「誰がババアだ、このガキッ!!」」
セカンドロープからの高さを利用したビューティボムに、
さらに左右から龍子と祐希子が声と力を合わせて上体を下へ押し付け、小早川をマットへ減り込ませた。
こうなったら誰も返せるものではない。
全く動かない小早川へ横から滑り込んだソニックがカバーに入る中、
残る四人が飛び出してその前に立ちはだかり、妨害を阻止。
まずはベテラン勢があっさりと先手を奪うと共に、先日の発言の報いを受けさせることに成功した。