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 美月たちの参加したタッグリーグが開催されたシリーズの最終戦。
 それぞれジョーカーとマリアにシングルでイジメ倒された美月と相羽が見守る前で、ある重要な一戦が始まろうとしていた。
 この団体の初代ジュニア王者決定戦である。
 今まで無差別級のタイトルしか無かったこの団体に新しい王座の創設を決意させたのは、
 デビュー間もない二人の天才だった。
 その一人はノエル白石。
 美月と相羽の友人で、160cmに満たない体格からは考えられないよう怪力の持ち主である。
 そしてもう一人は、ノエルよりもさらに小さくて幼い、正反対の天才であった。


「きゃっ!」
 ロックアップの状態から力任せに跳ね飛ばされ、榎本綾は勢いよくマットの上を転がった。
 腕力の差は歴然としている。
「む~……!!」
 頬をぶすっと膨らませた綾は、諦めずもう一度組み合いに行くかと見えた。
 が、掴みにきたノエルの腕をかいくぐってロープへ走り、セカンドロープへ飛びつく。
 そこから後方にジャンプしながら振り返り、同じく振り向いたノエルの腕を取って流れるようなアームホイップ。
「……!」
 投げられた勢いのまま立ち上がったノエルが突っ込んでくるのを飛び越えてかわし、
 ロープから返ってきたところへ綺麗なドロップキックをヒット。
 しかしノエルは微動だにしない。
 無表情のまま、困り顔の綾に向けて強烈な逆水平を振るった。
「痛ぁっ!」
 一発で涙目になった綾の右手を掴み、ノエルは片手一本でロープへ振ってみせる。
 戻ってくるところを屈んで待ち構えると、綾の身体を右肩に乗せて身体を起こし、上空に高々と放り上げた。
 ショルダースルーと呼ばれる序盤の定番技である。
 普通、投げられた相手は投げた方の後ろに放物線を描いて落ちるが、綾はノエルの真上に飛び上がった。
 投げられると同時に自分でもマットを蹴っていたのだろう。
 ぽーんと宙を舞った綾は、投げたと思って油断しているノエルの頭を落下しながら両足で挟み、
 そのままフランケンシュタイナーで投げ捨てる。
「いっくよー!!!」
 勢い余って場外に転がり落ちたノエルに向けて走り込んだ綾は、
 ロープの直前で踏み切り、身体に捻りを加えながらジャンプ。
 きりもみ回転しながら場外に飛んだ綾は、立ち上がったばかりのノエルを再び床に押し倒した。
「うん、今日もいけるよ!」
 可愛く気合をかけて観客にアピールする綾の姿は、どこをどう見てもプロレスラーには見えない。
 それでもこうしてノエルを手玉に取るあたり、紛れもない才能の持ち主であることは間違いなかった。

 試合はほとんどの場面で綾が主導権を握る展開が続いたが、かといって一方的に押しているかというとそうでもない。
 綾の攻めている時間が四とすればノエルは一ぐらいのものだが、二人の体力と腕力の差を考えれば、
 それでようやく五分といったところである。
「あうッ」
 ノエルの振り回した右腕を正面からもらい、綾はその場で一回転して顔からべちゃっと落下した。
 助走無しのラリアットでこの有様である。
 まともにやり合っていてはとても勝負にならない。
「はぅ~……」
 それでもなんとか立ち上がった綾は、ふらふらと歩いてロープを支えに寄り掛かった。
「………」
 綾を心配する声が上がる中、ノエルが小さくガッツポーズを作って追撃を宣言。
 反対側のロープへ飛び、今度は走り込んでのラリアット狙い。
 既に死に体の綾は絶体絶命かと思われたが、これは擬態だった。
 勢いに乗って突進してくるノエルの右膝へ、絶妙なタイミングの低空ドロップキック。
「ッ!!」 
 前のめりに倒れたノエルは、綾が背にしていたセカンドロープで喉を強打。
 ロープの上に首を載せたままで動きが止まった。
「よーし、これで決めちゃうんだからー!!」
 ここから畳み込むのが綾の必勝パターン。
 反対のロープへ走って勢いをつけると、まずはダウンしているノエルの顔面へ619。
 顔を蹴られたノエルがリング中央へたたらを踏んで後退する一方、
 綾は619をヒットさせた状態からするりとエプロンへ出て、大きく深呼吸。
「えーいっ!」 
 かけ声と共に飛び上がり、トップロープを踏み台にして更に大きくジャンプ。
 ノエルの肩へ正面から飛び乗ると、そこから高速のウラカンラナで一気に丸め込んだ。
 これまで自分より大きなレスラーを何人も破ってきた綾の得意技である。
 しかし、
『返せぇぇぇぇぇぇ!!!』
 という相羽の絶叫が届いたのか、ノエルはなんとか3カウント寸前で肩を上げた。
「「ええ~!?」」
 と、綾と綾ファンが一緒になってレフェリーに詰め寄った直後、
 即立ち上がったノエルが綾を一気に担ぎ上げ、まるでぬいぐるみのように軽々と頭上に放り上げる。
 そして自分からマットに背中をつき、落下してくる綾へ両膝を突き出して迎撃。
 相羽を破って以来定着したノエルの決め技であった。
 膝頭に思い切りお腹を打ちつけてぐったりした綾を、すかさずノエルが押さえ込む。
 が、今度は綾がノエルの必殺技をギリギリでクリアした。
「負けたく、ないもん……っ!」
 予想外の粘りに会場中が驚嘆の声とストンピングで応える中、
 互いに余裕の無くなった二人は最後の引き出しを開けにかかる。
 まずはノエルの右腕が唸りをあげて襲いかかり、これを綾がしゃがんで回避。
 返す刀の左腕もかわして回り込むと、ノエルの背後から飛びついて肩車の形をつくった。
「えーいッ!!」
 そのまま全体重を後ろにかけ、相手の背面に対してのフランケンシュタイナー。
 成功していれば、後頭部からマットに突き刺さったノエルは意識を飛ばしていたことだろう。
 しかしノエルは首に綾の両足を巻き付けたままで踏み止まった。
 ノエルの全身が小刻みに震えているあたり、綾がもうあと数百グラム重かったなら勝敗は違っていたかも知れない。
「……おしまい……!」
 歯をくいしばって身体を前に起こし、ノエルは綾を強引に元の肩車の体勢に持っていった。
 そして肩の上にいる綾の頭を右手で掴み、前方に引き落としながら開脚して尻餅をつく。
 頭からマットに叩きつけられた綾の姿に、会場全体がどよめきの声を上げた。


「やった!やったね!!」
 勝負がついた瞬間、相羽はリングに飛び込んでノエルに抱きついた。
「ベルトだよ!チャンピオンだよ!!」 
 出てきたベルトを見て自分のことのようにはしゃぎ回る相羽に、ノエルは不思議そうに首を傾げてみせる。
「…………」
 そんな仲間の様子を、美月だけが浮かない表情でリングしたから見上げていたのだった。

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by right-o | 2010-02-13 23:58 | 書き物
 美月と相羽が参加したタッグリーグの第一戦。
 二人が『勝つならここ』と意気込んで対戦する相手は、マリア・クロフォード&ジョーカーレディ組であった。
 海外のそれぞれ別団体から来たレスラー二人が、組んだというより余り物同士で組まされた感のあるタッグであり、
 その他のチームがゴールデンペアやらジューシーペアやらの強豪ばかりであることを考えれば、
 美月たちがここに賭けるのも自然なことではあった。

『♪ワンコイン渦巻くChance……赤か黒かOne more chance……』
 富沢あたりが曲名だけで勝手に選んだらしい入場テーマに乗って、ジョーカーとマリアは花道を歩いてくる。
 その間、互いに顔を合わせるようなことはない。
「やっぱり仲が良いわけじゃないみたいだね」
「そこに付け入るスキを見つけるしかありません」
 それぞれ対角のコーナーに上って客席へアピールしている二人を場外から見上げつつ、
 仲の良さはともかくタッグ経験では五十歩百歩の美月と相羽は、いまだ希望的観測を持ち続けている。

「ふんぐっ!」
 先発の相羽とジョーカーが真正面から組み合い、そのまま動かない。
 体格と気合で負けていない相羽は、先制のトーキックを入れてジョーカーを一旦ロープへ押し込み、反対側へ飛ばした。
「せいっ!」
 跳ね返ってきたジョーカーの顔面へ打点の高いドロップキック。
(お、今日は気合入ってるな)
 と、ドロップキックを見ればその日の調子がわかるというコアな相羽ファン(数人)も納得の一発を決めた相羽が、
 拳を突き上げて勢いづいた。
 しかし、仰向けに倒れたジョーカーを引き起こそうとしたところで、下になったジョーカーがサミング。
「あうっ」
「今度はこちらの番だな」
 ジョーカーが怯んだ相羽の鼻を思いきりつまみ上げ、そのままマリアの待つ赤コーナーへと連行していく。
 こうしてこの試合の相羽の見せ場は終わったのだった。

 試合開始から十分経過。
(どうしたもんですかね)
 なんと美月は、未だリング内に足を踏み入れていなかった。
 対角線上で一方的に痛めつけられるている相羽を、ただただ見ていることしかできなかったのだ。
(甘かったかあ……)
 別に気が緩んでいたわけでもなく、認識が違えば結果が違ったとも思えないが、美月としては反省せざるをえない。
 経験のなせる技か、それともヒールの思考というのは国境を越えて共通するものなのか、
 初めてタッグを組んだはずのジョーカーとマリアは完全に息が合っていた。
 それは互いの連携がどうというレベルの話ではなく、例えばジョーカーがコーナーに座り込んだ相羽の顔を踏みつければ、
 注意しに来たレフェリーとジョーカーが揉めている間、ロープの間から伸びてきたマリアの足が代わりに相羽を踏んでいるし、
 逆にマリアのサソリ固めに捕まった相羽が必死にロープへ手を伸ばせば、やはりジョーカーがレフェリーの注意を引きつけ、
 ロープブレイクまでの時間を引き延ばす。
 反則混じりではあるが、二人の動きはとにかく噛み合っていて無駄が無かった。
 やはり組んだ機会が無くとも、小悪党というか頭脳派のヒールとして互いに通じるものがあるのだろう。
 最も巧妙だったのが、一瞬の隙を突いた相羽が脱出に成功し、
 青コーナーから必死に伸びていた美月の手に飛びついた場面。
 相羽と美月の手は確かに触れたはずなのに、コーナーから飛び出そうとした美月はレフェリーに阻まれて押し戻され、
 タッチしたはずの相羽はジョーカーに引き摺られて再び赤コーナーへと連れて行かれた。
 これは、タッチが成功しそうだと思ったマリアがエプロンからレフェリーの服を掴んで注意を引くことで、
 実際にタッチした瞬間から目を逸らさせていたために起こったことである。
 美月がどんなに抗議しても、タッチしたところを見ていないレフェリーは交代を認めず、
 その間に相羽はマリアが持ち込んだムチを使って首を絞められていた。
 巧妙に悪事を重ねる知能犯の前に、リング外の美月はどうすることもできない。
 反則混じりの攻撃にはブーイングが飛ぶと同時に相羽を応援する声も高まって、
 相羽もそれに応えようと必死になって立ち上がるが、
 その辺もまたマリア&ジョーカーの嗜虐心を煽るらしく、結局いいように弄ばれてしまう。
 観客から見れば、もうどう足掻いても逆転の目は無いと思われた。
 しかし、芸術的なほど巧妙に立ち回る頭脳派ヒールの行動は、美月の頭にも刺激を与える結果になったようである。
(レフェリーの見たことが全てだというなら……!)
 さらにしばらく相羽の耐える姿を見続けたあと、ついにチャンスは巡ってきたのだった。
 ジョーカーが相羽をロープに振った際、客席から一際大きな野次が飛び、それにジョーカーがほんの少し気を取られた。
 その間、美月は左手でタッチロープを握ったまま精一杯右手を伸ばし、ロープへ飛ばされた相羽の背中にそっと触れる。
 これをレフェリーは見逃さずにタッチの成立を宣言しているが、他のところに気を取られているマリアとジョーカーは気がつかない。
 勝負が決まったと見て、いくらか集中が切れていたのかも知れない。
 といって、ここで普通に美月が交代したところで、パートナーが既に使い物にならない以上、
 相羽がやられたことを今度は美月がやられるだけである。
「さて、そろそろ終わりにしようか!」
 跳ね返ってきた相羽の鳩尾へ爪先を蹴り込んで悶絶させたジョーカーは、そう言いながらコーナーのマリアと視線を交わした。
 続いて上半身を前傾させた相羽の上に自分の背中を預け、それぞれ左右の腕を絡ませる。
 そこからぐるりと体を横に回転させて自分が下になると、腕を絡ませたままで背中を起こして立ち上がった。
 こうすると、立ったジョーカーの背中に逆さまの相羽が張り付いている形になる。
 この状態から尻餅をつくことで、相手を頭からマットに叩きつけるのがジョーカーレディの危険技だが、
「そのままだ」
 いつの間にか赤コーナーに上っていたマリアが短く指示を出した。
 そして動きを止めたジョーカーの背で、足を垂らしてコの字型になっている相羽のお尻目掛け、コーナーから飛ぶ。
 マリアの両足が相羽に乗った瞬間にジョーカーも尻餅をつき、都合三人分の体重を乗せて相羽はマットに突き刺さった。
(うわぁ……)
 それを見て心の中で相羽の無事を祈りながら、美月はそっとリングを離れる。


「うう……首が縮んだかと思った」
「大丈夫ですか?」
 美月が相羽に肩を貸しながら花道を帰って行く後ろで、マリアとジョーカーが物凄い剣幕でレフェリーに詰め寄っていた。
 二人とも怒り過ぎて完全に母国語で怒鳴っているため、何を言っているかほとんどわからない。
「え、勝ったの……?」
「言ってみれば頭脳の勝利です」
 そう言いながら、美月は花道脇の観客に自分のこめかみを指して小さくアピールしてみせる。
 相羽が撃沈されたあと、もちろんジョーカーはフォールに入った。
 しかし試合権利が美月に移っているため、レフェリーはカウントを入れない。
 それに文句をつけたマリアとジョーカーがレフェリーと揉め始めた後ろから、客席から調達したイスを持った美月が忍び寄った。
 そしてジョーカーだけが気づいて振り向いた瞬間、持っていたイスを放り投げて大きく後ろ受け身。
 いかにもイスで殴打されましたというふうに額を押さえてぐったりして見せたところで、
 その様子に気がついたレフェリーが即座にゴングを要請し、まんまと反則勝ちを成立させたのだった。
「目には目を、ってね」
 こうして初戦を白星で飾った二人だったが、このあとは事前の予想通り一勝もできず、
 さらに最終戦でそれぞれマリア、ジョーカーとシングルが組まれてしまうのだが、
 とりあえずこの日だけは意気揚々と引き上げて行ったのだった。

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by right-o | 2010-02-11 19:43 | 書き物
 とある寮の一室……ではなく食堂。
「大ニュースだよ美月ちゃん!」
「……ハイハイ凄い凄い」
 ノエルと静かな夕食を終えたばかりの美月は、いきなり飛びこんで来た相羽を軽く流す。
 しかし、相羽は美月のスルーをさらに天然でスルーした。
「タッグリーグに出られるんだよ、私たち!」
 満面の笑顔で重大事を発表した相羽だったが、目の前の二人は無反応に近い。
「……凄いの?」
 ノエルは真顔で美月の方を向いて首を傾げた。
「いや、ノエルさんのタイトル挑戦ほどでは」
「だ・か・ら!私と美月ちゃんも負けないように頑張って、一緒にベルトを……」
「和希さん、夢を見るにはまだちょっと陽が高いですよ」
 ふぅ、と息をついた美月は、とりあえず相羽へ座るように促した。
「今回の参加メンバー、知ってますか?」
「すっごい豪華だよね!」
「その豪華な中に私たち二人が入ったらどうなります?」
「え……、どうって?」
「昔の人は、言いました」
 いきなり振ってきた美月に、すかさずノエルが合わせる。
 「……勝ち目の無い戦いをする馬鹿がいるかよ……」
 無駄に呼吸の合っている二人だが、実は台詞の使い道は大きく間違っている。
「そういうことです。先輩の胸を借りようとか、当たって砕けろとかいう殊勝な気持ちにはなれないんですよ」
「え、いや、そう言われても……」
 すっかり困ってしまった相羽を見たことで、なんとなく美月の気が済んだらしい。
「ま、しかし決まったことなら、相手がどうあれベストを尽くして……というより、勝ち目が無いならせいぜい楽しむようにしましょう。
 何しろ、これまでタッグ戦はほとんど経験がありませんからね」
 そう言うと、美月は三人分の飲み物を取りに席を立った。

「タッグといえば連携だよね」
「そう。名のあるタッグチームはほとんどが個性的な連携を持っています」
「……ゴールデンペア、ジューシーペア、武藤&結城、龍子&石川、オーガ&ガルム、滝&北条……」
 ノエルが上げた名前にそれぞれの連携技をあてはめると、
 まずゴールデンペアはサンドイッチラリアットとダブルインパクトがシグネチャームーブ。
 どちらも来島のナパームラリアットを生かす形になっている。
 同じく武藤&結城もダブルインパクトを使うが、これは千種が肩車した相手へ、
 めぐみがラリアットではなくシャイニングウィザードを叩きこむ変形技。
 また、ごく稀にシャイニングウィザードでもなくスワンダイブ式のフライングニールキックを当てるバージョンもあり、
 ファンの間では俗にめぐちぐインパクトと呼ばれていたりする。
 サンドイッチラリアットの方を使うもう一組は龍子&石川で、パワーファイター二人による挟み撃ちは強烈な説得力を誇る。
 龍子組は更にサンドイッチ式の延髄斬りも使用するが、これまた重量感のある連携である。
 オリジナルの連携が非常に多彩なジューシーぺアが決め技に用いるのは、
 上戸が肩車した相手へ内田がフェイスクラッシャーを仕掛けるという動き。
 たまにダイヤモンドカッターになる場合もあるが、どちらにしても相手は非常な落差でマットに落ちることになる。
 二人揃うと何故かヒール色のあるタッグチームになる滝&北条の連携は、
 北条が右肩に担いで持ち上げた相手へ滝がDDTを見舞う形。
 単純だが威力のあるこの技と『嫉妬しろ』の決め台詞で、一時期二人は観客から大きなヒートを買っていた。
 逆に根っからのヒールタッグにベビーフェイス並の人気を呼んだのが、オーガ&ガルムの連携技。
 ロープから跳ね返ってきた相手の体を小鳥遊が正面から両足を抱えてすくい上げたところへ、
 すかさず朝比奈が空中の相手の首をダイヤモンドカッターに捉えるというもの。
 躍動感と説得力に溢れるこの動きで、この二人は延べ二十回近くタッグタイトルを奪取している。
「みぎりさんとつかさちゃんのアレは……連携なのかなあ」
「仕掛けている方が痛そうだというやつですね。しかも結構外すし」
 正に『虎の威を借る狐』状態の大空みぎり&真鍋つかさ組だが、
 唯一の連携は、みぎりが自分の肩の上に立つつかさを、倒れている相手の上に叩きつけるというもの。
 相手に避けられた場合、投げっ放しのスプラッシュマウンテンをくらうのと変わらない様になる。
「この前来てた海外の、ウォン姉妹だっけ?あれ凄かったよね」
「目まぐるしい動きでしたね。しかも息ぴったり」
 ウォン姉妹は意外にも華麗な連携で観客を魅せてくれる。
 まずはシンディーが相手の足にカニ挟みを仕掛けて前のめりに倒し、その首をサードロープに引っ掛ける。
 そしてブリジットが場外に飛び出た相手の頭を蹴りあげる間に、シンディーはコーナーに飛び乗ってからのダイビングフットスタンプ。
 最後にエプロンからリング内に飛びこんだブリジットが、セカンドロープを使った三角飛び式のムーンサルトで締め。
 以上の動きを、『イー、アル、サン、スー』と息を揃えて流れるように行うのである。
「姉妹と言えば……」
「村上姉妹ですか。あれは私たちでも真似できそうですね」
 千春が片膝を立ててバックブリーカーに捕えた相手へ、
 千秋がコーナーから首を狙ったギロチンドロップを投下するのが村上姉妹の連携。
 お手軽そうに見えるが非常に危険である。
 ちなみに、村上姉妹のどちらかが八島と組んで試合する場合、八島にパイルドライバーで持ち上げられた相手の足を、
 コーナーから飛んだ姉妹が押さえつけて体重を預けるという凶悪な攻撃を狙ってきたりする。


「でもやっぱり、連携なんて慣れないとうまくできないよね」
「まあそうでしょうけど、どうせなら何か考えましょう。それと、何も私たちだけが急造タッグというわけではないみたいですよ」
「え、そうなの?」
「一組、海外の別の団体から来た外国人同士で組んでるところがあります。人数が余ったんですかね。
 ひょっとして……を狙うとすればここだと思いますよ」
「おお!金星狙うぞー!!」
 後日そのチームから、うわべの連携だけがタッグ戦の要素ではないということを嫌というほど教えられるのだが、
 この時点では美月でさえそんなことを予想してはいなかった。

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by right-o | 2010-02-03 23:41 | 書き物
 いつも通りの寮の一室。
「むぅ……」
 珍しいことに、相羽が腕を組んで唸っていた。
「野菜を食べないからです」
「へ?」
「食物繊維を取らないからですよ」
「……何の話?」
 悪意の無いスルーをくらった美月は、ただ黙って肩をすくめる。
「何でもありません。それよりどうかしたんですか?」
「あ、うん。そろそろ新しい技を覚えようと思って。
 やっぱりこう、独創的で説得力があって誰にも真似できない大技を……」
「ブレーンバスターがいいですよ」
 語りに入りかけた相羽を美月の断定が止めた。
「な、何で?」
「和希さんらしいから。言い換えれば普通だから」
「………」
「まあ半分は冗談ですよ。それにブレーンバスターといっても色々ありますし、
 必ずしも皆が使う一般的な技というわけではありません」
 ぶすっと膨れた相羽の頭をポンポン叩きながら、美月は眼鏡を押し上げて説明を始めた。


「ブレーンバスターにだって他の技と同じく様々なバリエーションがありますし、
 当然使い手それぞれのクセがあります」
「他と比べてあんまり意識されない気がするけどね」
「例えば中森さんのは高速ブレーンバスターと呼ばれています。
 その反対というか、滞空ブレーンバスターと呼ばれているのが来島さん」
 重心を低く落とした状態から素早く背後に反り投げるのが中森のブレーンバスター。
 見た目の派手さより確実性を求めた形と言えるかもしれない。
 対して来島のブレーンバスターは、相手を持ち上げきった地点でぴたりと静止、
 相手をマットへ垂直にした姿勢を保つことで自分の力を十分にアピールしてから、
 一気に背後へ倒れて相手の背中を叩きつける豪快な技だ。
「そうだ、美沙ちゃんの掛け方は変わってるよね」
「あー、まあ独創的というか横着というか」
 美沙の場合、一度浮かせた相手の身体をトップロープの上に投げ出し、
 ロープの反動を受けて背後に投げきる珍しい形を使う。
「あとはロコモーションと雪崩式ですかね」
「八島さんの雪崩式は高っかいよね~……」
 投げたあとも相手を放さず、そのまま腰を切って勢いをつけつつ立ち上がり、
 すぐに二発目、三発目と続けるロコモーション式のブレーンバスターはAGEHAの得意技。
 三連続で投げてから屈伸式のフライングボディプレスに繋ぐのがお決まりのパターンである。
 雪崩式の場合セカンドロープから投げる形が一般的だが、
 ヘビー級の体格でありながらこれをトップーロープに上って放つのが八島。
 ロープまでの高さに八島の身長を加えたその落差は、見ているだけで痛みが伝わるほどだ。
 
「ところで垂直落下式は?」
「もちろん忘れていません。が、その前にその『垂直落下式』という呼称は正しくありません」
「へ?どういうこと?」
 美月は、横でコタツに入ったまま寝ているノエルが枕にしていたクッションをそっと抜き取ると、
 それをコタツテーブルの上に置き、向かい合った相羽の方へ身を乗り出した。
 釣られて身を乗り出して来た相羽の頭を両手で掴むと、少し勢いをつけて顔面をクッションへ押しつける。
「ぶっ」
「はい、この技の名前は?」
「……え?う~ん……フェイスバスター?」
「そう。顔を叩きつけて攻撃するからフェイスバスター。当たり前の話です。
 というわけで、ブレーンバスターも本当はブレーンを痛めつける技でなきゃいけないんですよ」
「ブレーン……って何だっけ?」
「brain、つまり脳みそのことです。要するに、本来は頭から落とす垂直落下式こそが正しいブレーンバスターの形なんです」
 ちなみに垂直落下式の使い手も数多いが、代表的なのは伊達遥。
 長身と相まって非常に見映えがよく、さらに落差がついて威力も高い。
「山本さんとか使うよね」
「いや、あれは落とす時のステップがDDTだからブレーンバスターじゃない!……って本人が言ってました」
「ふーん。あ、そういえばこの前から来てる外人さん、かなり危ない落とし方してなかった?」
「ああ、ザ・USAでしたっけ?アレは何と言えばいいのか……」
 ある意味最も危険なブレーンバスターを使うのがUSAで、
 彼女は雪崩式ブレーンバスターの状態から身体を捻りながら落下し、相手の頭をなんとコーナーポストの上へ垂直に叩きつける。
 ただしここまで凝った技になると滅多に決まらず、目にする機会のほとんどないレア技と化していたりするのだが。


「ま、やっぱり普通のブレーンバスターがいいと思いますよ。普通の体格の和希さんなら」
「むっ……」
 普通以下よりは普通の方がマシじゃあないか、と、相羽のふくれっ面をつつきながら、美月は思ったりした。

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by right-o | 2010-01-17 18:54 | 書き物
 とある寮の一室、いつもどおりの三人組。
「ふあぁ……美月ちゃんは最近ゲーム好きだねぇ」
 寝ているノエルと起きている美月の、そのちょうど中間状態にある相羽が、欠伸をするついでに声を上げた。
「遊んでいるのではありませんよ。ゲームのエディット機能を使って勉強しているのです」
「何の勉強?」
「“将来ドームのメインを飾る際に入場演出をどうするか”について」
「………」
 数十秒後、安らかに目を閉じようとしていた相羽の肩を美月が掴んだ。
「……たまにはボケとツッコミを交代してもいいと思いませんか?」
「……そのボケはわかりにくいよ」
 一つ大きな伸びをして、相羽はコタツの上に身体を起こした。


「あ、入場と言えば、ソニック先輩のアレってどういう仕組みなのかな?」
「私にもわかりません。社長に聞いても教えてもらえませんでしたし」
 ソニックキャットの入場、というか登場シーンでは、
 入場ゲートの背後に設置されたスクリーンの映像からソニックが直接飛び出してくるように見える。
 アニメとのタイアップならではの凝った演出であった。
「あと八島さんのバイクって自前?毎回違うみたいだけど」
「基本的に自分のものだそうです。たまに現地のディーラーが貸してくれるなんて話もありますが」
 八島はバイクに跨ったままでステージの上に現れ、リングの回りを一週してから停車する。
 花道の長い大会場ではスピードも出せるため、その迫力が一層増した。
「ちなみに市ヶ谷さんのリムジンも自前だそうですよ」
「まあ、あの人はね……」
 花道の側までリムジンで乗り付けるのが市ヶ谷お嬢様。
 色んな意味で他の誰にも真似の出来ない入場である。
 ちなみに市ヶ谷を意識してか、過去に一度だけ祐希子がスポーツカーを自分で運転しながら現れたことがあったりするが、
 あわや大惨事というほどの危険運転だったためにそれ以降は封印された。
「市ヶ谷さんで思い出しましたが、アメリカのお嬢様はまた変わった演出ですよね」
「ローズさん?あれ試合してる時間より入場にかける時間の方が長いと思うんだけど」
 普通、選手入場時のスクリーンにはこれから入場する選手を紹介する映像が流されるが、
 ローズ・ヒューイットの場合は何故かまず控え室の扉が映る。
 専用の控え室の扉が二人のメイドによって開かれ、そこから無駄に優雅な足取りで入場したあと
 更に花火やら何やらの演出があり、試合そのものはほとんど一方的に秒殺して終わるというパターンが多い。
「あ、ところでさあ、越後さんって最近何か嫌なことでもあったの?」
「後輩の指導にうんざりしたとか何とか。まあ噂ですけど」
 つい先日、越後は缶ビール片手に客席から現れ、自分のテーマ曲を観客と一緒に口ずさみながら練り歩き、
 缶ビールを飲みながら竹刀で自分の頭を叩いて入場したあと、イスや竹刀を使った無茶苦茶な試合をして帰って行った。
 が、いつもの地味な越後よりむしろこのスタイルの方が好評だったようである。
「後輩って富沢さんとか?あの人の入場も……」
「誰か録音して本人に聞かせてやるべきです。続けてると確実にファン減りますよアレ」
 マイクを持ってアニソンを歌いながら入場する富沢だが、歌そのものは観客が耳を押さえて頭を抱えるほどのレベル。
 ついでに著作権的な意味で社長も頭を抱えているが、本人に止める気はないらしい。
「止めた方がいいと言えば、十六夜さんの時の花火は法的に大丈夫なんでしょうか?」
「あれはホントに恐いよね……」
 十六夜が入場したあと、掲げた両手を振り下ろすと同時に四つのコーナーから轟音と共に火柱が上がる。
 目測2m近く上がっている火柱は、消防法などと照らした場合にどうなのか怪しいところだ。
「ついでに恐いと言えば、私は滝さんの入場が一番恐いです」
「ええ~、あれ一回やってみたくない?」
「いや……あれだけは……」
 滝は大会場で試合をする際、たまにワイヤーに吊られて空から入場してくる場合がある。
 これが似合うのも滝ぐらいのものだろう。


「まあドームとか言わないまでも、いつかは自分だけの入場スタイルで大歓声の中を……」
「でもまずは人気と実力が伴わないとね」
 珍しく夢見がちに遠くを見つめる美月に釘を刺した相羽は、さも『言ってやった』というような顔をしている。
(む、むかつく……)
 美月は無線式のコントローラーを握り締め、投げても壊れないかどうかの確認をした。

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 いつも通りの寮の一室、コタツの上。
「やっぱり、基本が大事だよね!」
 眠っているノエルと眠たそうな美月を完全に無視して、今日も元気な相羽が大声を上げた。
 ノエルに負けたことで、もう一度初心に返ってやり直そうという話らしい。
「はあ」
 珍しくコタツの中で微睡んでいた美月が不機嫌そうに流しても、相羽は全く意に介したりしない。
「プロレスラーの基本といえば、ドロップキック!」
(そうかなあ)
 なんだか腑に落ちない部分を感じつつも、美月は諦めて話に乗ってやることにした。


「と言っても、和希さんドロップキックだけは綺麗じゃないですか」
「うん、よく言われるよ。“だけ”ってところも含めて……」
 実際、相羽のドロップキックは定評があった。
 ロープへ振った相手にカウンターで決めるシンプルな形ながら、非常に打点が高く、相手の胸板ではなく必ず顔面に決める。
 若手らしい思い切りの良さが現れた、現在の相羽を象徴するような攻撃である。
「他には……って、いちいち上げてたらキリがありませんから、分けて考えましょう。
 まずは和希さんのような“その場飛び”の形」
「例えば祐希子さんのとか?」
「そうそう、いわゆる『ドロップサルト』」
 祐希子がたまに見せるドロップキックはかなり特殊で、両足を横に揃えて相手を蹴ったあと、
 空中で仰向けになった姿勢から後方に宙返りして体の前面からマットに落ちる。
 ちょうどドロップキックしながらムーンサルトするような形だ。
「うまく説明できませんが、個人的にはジョーカーレディが好きですね」
「あ、なんとなくわかるかな」
 両足が揃わず形は決して綺麗とは言えないながら、ここぞという場面で素早く繰り出すのがジョーカーレディ。
 メキシコでの経験からくるものか、その粗さが逆に魅力的でもある。
「他には……と、ここで何故か内田さんが思い浮かんだんですが」
「ボクは上戸さんが……。うう、思い出すだけでお腹イタイ……」
 本人達は特に意識していないのだろうが、ジューシーペアは二人ともドロップキックを有効な繋ぎ技として使っている。
 まずタッグマッチで上戸が相手をキャメルクラッチに捕らえたところへ、その動けない相手の顔面目掛け、
 内田が助走付きの正面飛びドロップキックで飛んでくる連携。
 単純な動きながら、ロープ間を何度も往復するなどして観客を引きつける技術は内田ならではのもの。
 無防備な相手の顔面を蹴りにいく内田は非常に楽しそうである。
 一方上戸のドロップキックは、助走をつけて相手のどてっ腹を両足で蹴るというもの。
 しかし、あの体格に勢いを乗せて繰り出される一発の威力は尋常ではなく、
 相羽はリング中央から一気にコーナーポストまで吹き飛ばされた経験があった。
「そういえば、美月ちゃんも使ってなかったっけ?」
「低空ドロップキックなら。まだまだモノにしたとは言えませんが」
 相手の膝を狙っての低空ドロップキックは、美月たち軽量級が大型選手を相手にする際の定番だ。
 また、真鍋などは倒れている相手の顔面へ滑り込むようにして放つこともある。
「さて次はコーナーから飛ぶタイプ、いわゆる『ミサイルキック』です。これも各人それぞれに味がありますね」
「意外なところだと六角先輩が得意なんだよね」
 ベースのスタイルに似合わず、六角がたまに見せるミサイルキックは全身を真っ直ぐに伸ばして華麗に決まる。
 一説によればこの技は、六角がスター候補だった時代の名残だという。
「いや、意外と言えばみぎりさんですよ。まさかあの身長で飛ぶだなんて……」
「あれは絶対に食らいたくないよね……」
 みぎりがコーナーから飛んだ光景には、その場にいた全員が目を見張って呆気に取られた。
 それでも当の本人にとっては何でも無いことのようで、
 正面飛びで両足を揃えた形のミサイルキックを軽々と決めて見せたのだった。
「あとビックリしたのはディアナちゃんかなあ」
「う~ん、私たちとは体のバネが違うんでしょうね」
 ディアナのドロップキックはとにかく滞空時間の長さが群を抜いている。
 真上に高々と飛び上がり、縮めた体を落下の勢いに乗せて精一杯伸ばす様子は、
 遠目にも躍動感が伝わって非常に人気が高い。
「バネと言えば真帆先輩のアレも凄いよね」
「『コーナー・トゥ・コーナー』というやつですね。あの人はもう何でもアリじゃないでしょうか」
 真帆の場合はディアナと違ってその飛距離に優れる。
 圧巻なのは、コーナー下に座り込んだ相手へ隣のコーナーから飛んでのドロップキック。
 コーナー間を丸々射程に収めたのは真帆が最初であった。
 後に小早川もアレンジした形でのコーナー間飛行を成し遂げ、
 真帆とのタッグでは左右の隣接するコーナーから中心の標的へ同時に飛んだこともある。
「最後はスワンダイブ式ですか。これは流石にそれほど使う人が多くありません」
「真田先輩ぐらい?」
 やや意外だが、真田はこの技を綺麗に使いこなしていたりする。
 後頭部を狙ったエグイ一発は、確実に試合の流れを変えてしまう。
「あと、さっきも出た内田さんなんかはスワンダイブ式でも膝を狙ってきたりします。
 とはいえ、何と言ってもこの技はRIKKAさんでしょう」
「無影蹴だね。あの技だけは他の人がいくら頑張っても真似できない気がする」
 RIIKKAの場合、スワンダイブ式というより三角飛び式と言う方がずっと正確だろう。
 リング内から勢いをつけてトップロープに飛びつくと、マットと水平になるような角度でロープの反動を両足に受け、
 そのまま反転して強烈なミサイルキックを放つのだが、これを避けられた時には反対側のロープで反動をつけて、
 一度目と同じ動きでまた飛んでくるのである。
 ここまで来ると、身体能力とか平衡感覚とか、そういう些末な問題では無いような気がしてくる。
「それと最後に一つ、どこにも分類できないドロップキックがありました」
「あ、この前鳴瀬さんがやってたやつ?」
「そうです。ドロップキック・スイシーダとでも言うんですかね」
 鳴瀬が最近編み出した動きは、トップロープを飛び越えて場外の相手へのドロップキック。
 着地が非常に難しく、使用する方の危険度はかなり高い。
 それでも平然と飛んでしまうあたり、鳴瀬のバックグラウンドが現れているのかも知れない。


「……とまあ、大体こんな感じですか」
「う~ん……」
「自分で言ってたように、初心を大事にすればいいんですよ。他人の真似なんてしなくても」
 相羽にはそう言いつつも、内心は美月の方も考えることが多かった。
(飛び技も考える必要があるのかな)
 苦手分野ではあったが、相羽以上に体格に恵まれない美月としては、
 それを補うに果たして技術だけで足りるかどうか、不安になることもあるのだった。

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by right-o | 2009-12-30 22:06 | 書き物
 若手だけで争われるトーナメントの決勝戦。
 リング上で相対する二人の友人を見つめる美月の頭へ、突然重さが加わった。
「よ。どっちが勝つと思う?」
「……ノエルさんです」
 人の頭に肘をつきながら話しかけてきた六角葉月へ、美月は即答する。
「お前、友達なら少しは迷ってやれよ……。
 というかノエルはよく知らんけど、相羽は結構頑張ってるぞ?」
「ノエルさんの勝ちで間違いありません」
 ふーん、と、美月の上で頬杖をついた六角が、ニヤリと笑った。
「じゃあ、賭けるかい?今夜の飲み代」
「後輩に酒代をたかる気ですか?」
 とは、美月は言わなかった。
「いいですよ」
 それだけ頭上に向かって呟くと、ただ黙ってリングの上だけを見つめていた。


「いっくよぉッ!」
 まずは相羽の逆水平から試合の幕が上がった。
 腰を切って全身を使った綺麗な一発を胸板に受け、ノエルも同じ技でやり返す。
「うっ!?」
 お手本のような相羽の逆水平に対し、ノエルの方はただ腕を横に振っただけ。
 それでいて、体の芯に響くような重みが備わっている。
 地力の違いであった。
「負けないッ!」
 重ねて逆水平にいった相羽へ、さらにノエルが返す。
 しばらくは新人らしい意地の張り合いが続くかと思われたが、
「ぶッ!?」
 三度目の逆水平に対し、ノエルは躊躇無くラリアットを打ち返した。
 これを全く予想していなかった相羽は、たまらずひっくり返って後頭部を強打。
 試合開始から二分と経たずに後頭部を押さえて悶絶する。
「うわあ……」
 あまりと言えばあんまりな攻撃に、六角は思わず声を漏らした。
 そのすぐ下にある頭から「だから言ったでしょう」とでも言いたげな気配が伝わってきている。

 同期でありながら、ノエルと相羽は初対決であった。
 美月とは勝ったり負けたりを繰り返していながらノエルと当たる機会が無かったのは、
 元々相羽たちとノエルでは団体からの扱いが違ったことによる。
 要するに、ノエルの方が期待されていたのだ。
 これまでのところ、その団体側の見立て通りの試合展開が続いていた。
「よいしょ」
 痛めつけた相羽を両肩の上へ仰向けに担ぎ、ノエルは小さく気合をかける。
 両腕を一杯に伸ばして相羽を真上へ放り投げると同時に、自分は素早くマットへ転がり、膝を立てた。
「ぐぅっ……!」
 お腹からノエルの膝の上へ落下させられた相羽は、飛び技をいわゆる「剣山」で返されたのと同じ状況になる。
 ノエルが自分で考え出したオリジナルホールドであった。
「うわあぁぁッ!!」
 しかし、相羽の反撃はここから。
 誰もが終わったと思った状況をカウント2.9ではね除けると、拳を握って立ち上がる。
 すぐに放たれたノエルのラリアットを仁王立ちで、受け止めると、頭を振ってさらに気合を高めた。
「カズキ……しつこい……」
 ちょっとだけ眉間に皺を寄せたノエルがロープへ走り、今度は勢いをつけたラリアット。
 が、相羽はこれをかいくぐってバックを取った。
「このッ!!」
 重心を落として溜めを作ることなく、予備動作無しで引っこ抜く。
「このぉぉぉぉッ!!!」
 スターライトジャーマンが綺麗な半円を描いたが、相羽はフォールの姿勢からマットを蹴り、
 ノエルの腰を捕まえたままで逆立ちするようにして立ち上がった。
 そのまま、下で潰れているノエルをもう一度引っこ抜く。
 両肩をついた状態からスローモーションのように持ち上がったノエルが、もう一度半円を描いて両肩をついた。
 相羽が思いつきでやってみた、スターライトジャーマンによる連携。
「……うっ」
 声にならない声を上げながら、ノエルがギリギリで肩を上げる。
 会場中の誰もが安堵か無念の溜息を吐いたあと、その全員が両足で地面を踏みならした。
「いっっくぞぉぉっ!!!」
 今こそ勝負所と見た相羽が、全身に気合を漲らせてノエルが立ち上がるのを待つ。
 立ち上がりきったところで、今度は相羽がロープへ飛んでのラリアット。
 倒れないノエルへ、さらにその背後のロープを使って後頭部へもう一発。
 こうして棒立ちにしておいて最後に正面からのラリアットでトドメ――
 を狙おうとした時、完璧なタイミングで振り回されたノエルの右腕が相羽の喉元を直撃。
 自分が走り込んだ勢いと合わさって、その場で見事に一回転した。
「今度こそ、終わり……!」
 引き起こした相羽を軽々と右肩の上へうつ伏せに抱えたノエルが、不気味に宣言する。
 しかし、相羽はまた死んではいなかった。
(耐えてみせる……ッ!)
 恐らく真下に叩きつけるつもりだろうが、ノエルの背丈なら大した落差は無い。
 天井を見ながらそう考えて受身に備えていた相羽は、いつの間にかマットに膝を抱えて転がるノエルを見ていた。
 何が何だか分からない内に膝頭が腹部に食い込み、息が詰まる。
 ノエルは、肩の上に乗せた相羽をひっくり返しながら投げ上げて、再度必殺技を決めたのであった。
 ラリアットと共に、自分に高さが無いことを自覚した上で選んだ決め技だった。


「ちぇっ」
 ようやく美月の頭から肘をどかせた六角が、口を尖らせてそっぽを向いた。
「先輩ごちそうさまです。三人分ですよ」
「はいはい、わかってるよ」
 それ以上何も言わずに控え室へ帰って行く可愛げの無い後輩の後ろ姿を、六角は興味深く見つめる。
(コイツも悔しかったりするのかねえ)
 同期に水をあけられた形の美月がどういう反応をするか、六角はなんとなく楽しみであった。

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by right-o | 2009-12-23 10:25 | 書き物
 とある団体の寮の一室。
 新人の間で争われるトーナメントの決勝戦を数日後に控えたこの日、 
 美月と相羽とノエルの3人が、同じコタツに入っていた。
 当日にトーナメントの優勝を争う相手の寝顔を神妙に見つめる相羽の傍で、
 既に敗退している美月が黙々とテレビゲームに興じている。
 
「ねえ美月ちゃん」
「……はい」
「ラリアットって私に似合うかな?」
「は?」
 自団体が題材のテレビゲームをプレイしていた美月が、一旦ポーズをかけて首を傾げた。
「んー……どうでしょうね」
 美月たち3人の中では文字通り“頭一つ抜けている”相羽だが、あまり力強い印象は無い。
「まあ、無理して使うことはないと思いますよ。他に使ってる人が大勢いますし」
「いや~、でもプロレスラーになったからにはラリアット打ちたいよ。
 こう、勝負所で『前!→後ろ!→前!!』みたいな」
「……そういうものですか」
 散々使い古されたジャーマンスープレックスなんかを必殺技に選ぶ人間の考えることはわからない。
 そう思いながら、美月はコントローラーを操作してタイトル画面に戻った。

「一口にラリアットと言っても、実は使う人間と用途によって全く別の技になります」
「うんうん、使い手のコダワリだよね」
 2人が並んで見つめるテレビ画面の中で、相羽らしきキャラクターがリングに立っている。
 美月がゲーム中のレスラーエディットモードで適当に作成したものだった。
 まだまだ相羽や美月はデフォルトキャラクターとして登録されていないため、自分たちで作るしかないのだ。
 あとは登録されている技を選択するだけで、画面上の相羽がその動きを再現してくれる。
「まずは……と、これから試してみますか。ナパームラリアット」
「来島さんの代名詞だね」
 一時期は乱発し過ぎるほど多用していた来島の切り札は、ただ力任せに腕を振っているだけに見える。
 ただその力が尋常ではないため、相手によっては一回転させてしまうほどの威力があった。
 また、パワー型としてそこまで大柄ではない来島は、より大きな相手を薙ぎ倒すため、
 ややアッパー気味に相手の顎をかち上げるように打つこともある。
「次、龍子さん」
「魂のラリアットだねえ」
 龍子のラリアットで有名なのは、走り込まずにその場で振り回す一発。
 右拳を握り締めながら左手で相手の頭を掴んで引き摺り起こし、その首を刈り取るようにして放たれる。
「あと日本人で決め技にしてるのは……楠木さんぐらいですか」
「ユーリスターハンマーだね」
 長身から相手の顔面を削ぎ飛ばすように振り下ろす剛腕は説得力十分ながら、
 なかなか当たらないのが楠木のラリアット。
 ちなみに繰り出す際は技名を叫んでいるが、「ユーリスターハンッ……」ぐらいまでしか言えてないことが多い。
「その他、単に繋ぎ技として使うレスラーは数えきれません」
「あー、印象に残ってるのは……ライラさんとか」
 突進しながらほとんど殴りかかるような横軌道で飛んでくるのがライラのラリアット。
 これで引き倒された相手には、漏れなくボロボロになるまで容赦の無いストンピングが降ってくる。
「意外なところで鏡さんも使います」
「あの人結構腕力あるよね……」
 鏡は相手の腕を捻った上で、その腕を取ってこちらへ引き寄せたところにカウンター気味で放っていく。
「それと八島さんのも独特」
「いきなり飛んでくるやつだね」
 八島の場合、通常は腕を振りながら両膝をつくように体重をかけて相手を引き倒す。
 それと希に使うのが、ロープへ振られて跳ね返ってくる際に飛び上がって放つフライングラリアット。
 あの体格がふわりと浮いて落ちてくる様子は、対戦相手にとって大変な恐怖である。
「飛ぶと言えば十六夜さんはコーナーから飛んで打ってきます。それと似たようなのを最近真田さんが使ってましたっけ」
「ダイビングラリアットかあ」
 十六夜はコーナーからジャンプしてリング内の相手へ振り下ろす。
 まさに「災厄降臨」と言いたくなるような光景だが、当てたあとに転がりながら着地する様子が意外に器用でもある。
 また最近真田が開発した新技は、上体だけをおこしたハーフダウンの相手へダイビングラリアットを決めるもの。
 落差が技の説得力を増しているが、相手の状況をセットするのが難しい。
 それともう一人特殊な当て方をするのが祐希子で、相手に飛びつくようにして腕を当てたあと、
 きりもみ式に自分の体を一回転させて着地して見せる。
「あ、小縞さんを忘れてました」
「あれはカッコイイよね~」
 小縞はラリアットへ行く前に左肘のサポーターを投げて予告する。
 これが見た目に反して意外な威力があり、何度か格上を沈めたこともあった。
「……とまあ、日本人に関してはこんな感じでしょうか」
「う~ん、迷うよね」
 画面中の相羽を見る限り、どれも今ひとつ似合っていなかったような気が美月にはする。
「外国人の方も見てみましょうか」
「やっぱりポセイドンボンバーかなあ」
 右腕を直角に曲げてのラリアットがクリス・モーガンのポセイドンボンバー。
 この技で幾多の日本人レスラーがマットに沈んだ。
「でもこの技、何故かアメリカではただの繋ぎ技なんですよね。
 向こうだとギロチンドロップがモーガンの絶対的なフィニッシュなんだとか」
「へー……」
「あとは金持ちキャラのローズさんですか。あんまり似合っているとは思いませんが」
「迫力は凄いけどね」
 突進してから肩口を当てるように振り抜くローズのラリアットは、
 肩に担いだ相手をコーナーへ投げつけてからなど、標的を棒立ちにさせる工夫があって面白い。

「一応、以上が代表的なところです」
「んー……悩む!」
「だから無理して使うことないって。これだけ使ってる人がいるんだから」
 何やら腕を組んで考え込み始めた相羽を無視し、美月は自分が進めていたデータの続きを始めようとした。
(そういえば)
 もう一人身近にラリアットを得意とする人間がいることを思い出したが、美月は黙っていた。
 どの道、相羽は数日後に身をもってその一発を体験することになるのだから。

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by right-o | 2009-12-20 11:09 | 書き物
 相羽和希、ノエル白石、それに杉浦美月が、寮の一室に集まっていた。
 三人揃ってのデビュー戦を翌日に控えたこの夜、彼女たちは、明日から始まる自分たちのキャリアについて語らいながら、
 それぞれに(専ら相羽と美月が)高まる緊張を和らげようとしていた。

「そういえば、最初リングに入る時ってどうするんだろう」
「リングに入る時って……ああ、リングインの方法ですか」
「うん。でも新人の内は、あんまり目立つことしない方がいいのかな」
「いえ」
 会話の途中で、美月の眼鏡がキラリと光った。
 丸机を挟んで盛り上がる二人をよそに、傍らでは机に突っ伏したノエルが寝息を立てている。
「新人かベテランかなどということは関係ありません。
 プロレスラーたるものは目立つのが仕事。そのためにはリングイン一つとっても工夫が必要です」
「そうかなあ。でも、その辺は全然教えられてないよ?」
「まあわざわざ練習するものでもありませんけどね。
 ただ確かに……目立つと言っても、リングインの方法など流石にやり尽くされているでしょうし、
 今更独自のものを研究する時間もありません」
「ってことは、やっぱり普通に……」
「そうではなくて、手っ取り早く言えば誰かの真似をすればいいんですよ」
 ここで暫く、相羽と美月は視線を中に浮かせて考え込んだ。
「うーん、真似って言われても……」
「とりあえず、思いつく限り先輩方のリングイン方法を上げてみましょうか」
「ん~……ああ、ソニック先輩はカッコイイよね!」
 ソニックキャットは、入場時コーナーに上ってポーズを決めたあとでリングへ飛び下りる。
 同じパターンのリングインは他にウィッチ美沙がいて、
 こちらはコーナー上で「美沙があなたを裁判します!」と言ってから。
「最初にコーナーへ上る形ですね。これは目立ちますが……何というか、キャラが確立してる人専用じゃないでしょうか」
「あと覚えてるのが、市ヶ谷先輩」
「ああ、アレ……」
 市ヶ谷の場合、必ずお付の二人がトップロープとセカンドロープを一杯に広げたところで、本人が悠々とロープを跨ぐ。
「あの人ならではですね。他人には真似できません」
「真似できないと言えば、前にみぎり先輩が一回だけトップロープ跨いだよね?」
「直後に本人が恥ずかしさでへたり込んだ時ですね。誰がやらせたんでしょうか」
「他だと、鏡先輩のもよく覚えてる」
 鏡は、エプロンから客席に向けて自分の肢体を見せびらかすように体を反りつつ、
 そのままサードロープを蹴ってぐるりと反転し、リング内に着地する。
 ちなみに同じ方法でリングアウトするのが十六夜美響で、
 こちらはリング内からロープに背を預けながらトップロープ越しにセカンドロープを掴み、
 同じく後ろに一回転して場外に下りる。
 こちらは鏡と違って色気を感じさせず、十六夜の体格に似合わない身軽さを示しているかのようであった。
「残念ながら、和希さんでは誰も喜びません」
「う、でも美月ちゃんに言われたくない」
「……。さて、私が印象に残っているのは、まず八島先輩でしょうか」
「え、普通じゃない?」
「いやまあ、普通なんですけどね。そこを普通に感じさせないのがあの人というか」
 八島のリングインはゆっくりとセカンドロープからリングに入るだけなのだが、
 対戦相手への視線を外さないまま、あの大きな体がのそりとロープをくぐる様は、なんとも言えない迫力があった。
 ついでに言えば八島はリングアウトの方が少し凝っていて、
 トップロープから乗り出してサードロープを掴み、そのまま体を横に逃がして場外へ着地する。
「あとは、滝先輩、祐希子先輩、真田先輩ぐらいですか」
 滝は、ロープをくぐる前にセカンドロープに片足を引っ掛け、客席に投げキッスやら何やらとアピールする。
 ちなみにこれと同じ形で客に悪態を吐くのが村上姉妹。
 祐希子の場合は片手でトップロープを持ってひらりと飛び越え、
 真田は花道からダッシュしてきた勢いのままリングに向かって滑り込む。
 どちらも選手のキャラクターがよく現れていて、客ウケがよかった。
「そうそう、綾先輩のは可愛いよね」
「小川先輩なんかは単純ながら一工夫ある感じですね。それと神田先輩はリングインが突然派手になりましたっけ」
 榎本綾はセカンドロープを掴んだあとで小さく跳ね、片足ずつリングに着くのではなく、一気に体をロープの中へ入れてしまう。
 これもリングをちょこまかと動き回る彼女の個性が現れていると言えた。
 小川はロープに正対してからまず上体でトップロープをくぐり、
 次いで差し入れた右足でサードロープを蹴って残った左足を抜く、珍しい形。
 最後の神田は、何に感化されたのか、両手でトップロープを握ってから前転してのリングインを最近やり始めた。
「う~ん、どうしようかな~」
「迷いますね……」
 話が尽きない二人の傍らで、「もっと試合の内容に関わる部分について議論しろよ」と、
 ノエルが思っていたかどうかは定かではない。

 翌日。
 まず真田式リングインを試みた相羽は、滑り込んだ際にリングと自分の間に起こった摩擦熱で悶絶し、
 次いで小川の真似をしてみた美月は、サードロープを蹴り損ねて前にずっこける。
 そんな二人を尻目に、ノエルだけが神田と同じ方法で華麗にロープを飛び越えて見せたのだった。
 が、雑誌やらネットやらでは失敗した相羽と美月の方に注目が集まったのだから、
 本人たちの思惑はどうあれ、目立つということに関しては成功したと言えなくもない。

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by right-o | 2009-10-20 21:23 | 書き物