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 安宅留美、17歳。
 別に貧しい境遇で育ったわけでもない。
 両親は普通に働いていたし、家族関係も良好だ。
 一人、親戚にちょっとハジけた従姉がいるが、周囲にいる変わった人間なんてそれぐらいだった。

 そういう訳で、不自由や抑圧とは無縁の生活を送って来た彼女だが、何か物足りなかった。
 普通に学校に通って、就職して、生活する。
 多分このままでは、そうやって人生は過ぎて行くんだろう。
 何かつまらない。
 普通では物足りない。
 もっと良い生活がしたい。
 家とか、服とか、車とか、宝石とか、その他思いつく限りの贅沢な物を手に入れてみたい。
 そして人に羨ましがられてみたい。
 金や所有物だけじゃなく、容姿とか、才能とか、人格とか、
 自分という人間に対する他人からの惜しみない賛辞を、嫌というほど受けて見たい。
 尊敬されたい。
 
 詰まるところ、成功したい。
 このまま名も無い世間の一員として過ごすのではなく、
 有形無形の欲しいものを全て手に入れた上で、自分の名前を世間一般に知らしめたい。
 そのためなら、我慢はしよう。
 それは仕方が無い。
 望んでいるものがすぐ手に入ると思うほど、子供ではない。
 そんな子供っぽい決心をした17歳の春であった。
 

 さて、意を決したところで考える。
 具体的に、成功するためにはどうしたらよいか。
 まず一般的なところで、勉強する手がある。
 勉強して、良い大学に行って……そのあとはよく知らないが、
 とにかくこの頭を使う道が、多分最も一般的な成功へ続く道だろう。
 が、これはダメ。
 自慢じゃないが、頭のデキを褒められたことはあんまりない。
 口はよく動く方なので、それに直結している頭も、そんなに悪くは無いんじゃないか……
 と自分では思っていても、細々したことは覚えてられない性質なので、
 これまで他人からの評価は芳しくない。
 頭がダメ、となれば体か。
 体という言葉には様々な意味があるが、あんまり道徳的でない道は削除して考える。
 その辺、育ちがいい。
 というか、金はともかくとしても、尊敬は期待できないという考えもある。
 改めて、健全な意味で、体を使って成功する道を考えてみた。
 こっちには自信がある。
 何よりこれまで、自分より背の高い同性にはお目にかかったことがないし、
 体つきも決して軟弱ではない。
 そこで更に、より具体的に、体を使って何をするか考える。
 世の中には様々なスポーツが存在するが、その中で成功できそうなものは何か、と考えた時、
 案外と選択肢が少ないことに思い当った。
 野球やサッカー等のメジャースポーツで、女性が男性並みに成功することは不可能に近い。
 かといってそれらよりマイナーなスポーツでは、そもそも仮にトップに立ったところで、
 社会的に成功しているとは言い難い。
 どうしたもんか、と、思考に行き詰って、ふとテレビを点けた。
 ちょうどプロレス番組をやっていたところで、画面にはワールド女子の試合が映し出されている。
 そこには見慣れた顔があった。
 その、安宅留美と同じ色の髪をした妖艶な女性は、
 リングの上で腰に手を当ててしなを作りながら、自分が持っているベルトを掲げ誇示していた。
(何やってんだか)
 従姉であった。
 当の本人もよくわからない内に、プロレスラーになっていたような人間である。
 そんなヤツが頂点(の内の一つ)に立っている業界とは、一体どんなところなのか。
(あれ?)
 あんなのが頂点に立てるなら、自分にだって出来るだろう。
 ついでに、プロレスで成功するというのは、かなり儲かるという話を従姉が言っていた気がする。
 さらに、団体によっては地上波放送があるので、知名度を得るという意味でもまあ申し分無い。
(コレにするか)
 そうと決まれば善は急げ。
 確か地元にもプロレス団体があったはずで、そこが業界で一番大きいというわけでは多分ないだろうが、
 その点はゆくゆく大きい団体に拾ってもらうか移籍すればいいだけの話。
 それに大所帯の下っ端は色々と面倒くさそうなので、とりあえずそこそこの規模で始めるのも悪くない。
 と、そういうわけで、安宅留美はVT-Xの門を叩いたのだった。

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by right-o | 2011-10-31 11:31 | 書き物