タグ:レッスルPBeM ( 6 ) タグの人気記事

◇◆◇ 3 ◇◆◇


▼日本 埼玉県所沢市 さいたまドーム


VT-XとJWIの運命をかけた、十六夜と市ヶ谷の決着戦の時が訪れた。


■■ JWI認定世界最高王座 王座戦 ■■

〔王者〕
 《ビューティ市ヶ谷》(JWI)

 VS

〔挑戦者〕
 《十六夜 美響》(VT-X)


異例の五本勝負で行なわれるこの一戦。

最初に登場の十六夜は、シンプルなジャージ姿で登場――
と思いきや、入場ゲートに吹き上がったパイロ(火薬仕掛け)に包まれ、姿が消える。

「!!」

場内騒然とする中、青白い煙の奥から姿を現したのは――禍々しいコスチューム姿の、カラミティ・クイーン、十六夜美響。

「今日は――“全力”で、いかせて貰うわ」

妖しく微笑み、単身、リングイン。

そして、王者の入場――

<<オーーーーッホッホッホッホッホッホッ!!!>>

豪快にもほどのある高笑いと共に現れた、ビューティ市ヶ谷。
こちらは、JWIの選手たちを従え、堂々たる女王の行進――という風情。
なにせ地元、歓声は九分九厘、市ヶ谷へのものである。


<一本目>:ジャケットマッチ(胴着着用、打撃禁止。3カウント・ギブアップでの決着)


まずは、お互い胴着姿で闘うジャケットマッチ。
これはなんといっても、柔道出身の市ヶ谷が圧倒的に有利であろうと思われた。
十六夜を幾度となく投げまくり、叩き付けた市ヶ谷であるが、柔道ではないので、それで一本とはならない。
そんな中、

「――――ッ!」

ふと市ヶ谷が“偶然”スリップして体勢を崩した所へ、その隙逃さず十六夜が飛び掛かった。

「うぐ……ッ!?」

予想外に胴着を“使いこなし”た十六夜が寝技で圧倒、一本目を奪取したのである。

 ×市ヶ谷 vs 十六夜○(17分25秒:裸絞め)

「クッ! まぁいいですわ、これくらいはいいハンデですものね!!」
「……台詞が負けフラグみたいになってるわよ」


<二本目>:グローブマッチ(打撃のみ)


雲行きの怪しくなった市ヶ谷、膂力を生かして猛ラッシュを仕掛けるが、ことごとくブロックされ、有効打とならない。

「猪口才な――――」

気迫もあらわにラッシュを仕掛ける市ヶ谷……と、突然、足元がフラついた。
またしても“偶然”にも、シューズの紐が切れてしまったのだ。
それを見逃さず、十六夜がパンチの連打を見舞い、よもやの王手をかけた――

 ×市ヶ谷 vs 十六夜○(7分4秒:TKO)

「そ、そんな……」
「い、市ヶ谷様……っ」

リングサイドに控えるJWI勢は、顔面蒼白で見守るしかない。
それにしても。
一本目のスリップは、汗のせいだと思えば分からぬでもないが、二本目のヒモは……
よもや、これが“災厄”なのであろうか。


<三本目>:スモーマッチ(相撲ルール)


三本目は相撲ルール――もっとも、まわし一丁にはならないが。
水着の上にまわしをつけた状態での相撲マッチ。
さしもの市ヶ谷も顔が引きつって見えるのは、気のせいか。

「フッ……フフフッ。だいぶ、身体も温まって来ましたわ!!」

後がない市ヶ谷、ここはきっちりと投げ飛ばし、辛うじて一本奪取。

 ○市ヶ谷 vs 十六夜×(24秒:下手投げ)


<四本目>:ストリートファイトマッチ(私服による試合、反則裁定なし)


そして四本目、一転して過激きわまる荒々しいスタイルの試合。
凶器使用OKのこの一戦、漆黒の防護服に身を包み、竹刀やイス、脚立まで持ち込んだ十六夜に対し、市ヶ谷は瀟洒なドレス姿で、しかも素手で登場。

「私に、武器など必要ありませんわ――何故ならば、この肉体そのものが武器なのですから!」

とうそぶいたのは良かったが、序盤から竹刀やイスでメッタ打ちにされ、さしもの市ヶ谷もグロッキー状態に追い込まれる。

「ルーチェ!! テーブルをッッ!!」
「~~ッ」

更に十六夜、ルーチェたちに運び込ませた長机をリング内に投げ込み、

「お嬢様、机をどうぞ――」

と冷笑し、市ヶ谷の背中目掛けて打ち下ろす!!

「おぐぅっ!?」
「い、市ヶ谷様ァーーーッ!!」

場内悲鳴に包まれるなか、更に十六夜の猛攻が続くが、

「調子に乗るのは――その程度になさいッ!!」

市ヶ谷気迫で反撃、十六夜をテーブルに据え付けるや、自らは脚立に登り、最上段からのダイブを図った――その時。

「!!」

突如、脚立が――中ほどから、折れた。

「――――ッッ」

市ヶ谷たまらず、体勢を崩して、真っ逆さま。
危険な角度で、脳天からリングに突き刺さる!

「…………」

ドーム内の観客、ショックで声もない。
これが――“災厄”の力なのか?
が、更に衝撃を与えたのは、十六夜の行動である。

「もっと――テーブルをッッ!!」
「あ……あっ!」

ルーチェらに指示し、受け取るや否や、倒れ伏す市ヶ谷の上に、置いた。
それも一つではなく――三つ、四つと。

「…………!!」

ルール上は、反則裁定なし。
だが、これはあまりにも――
市ヶ谷の姿が見えなくなるまでに机が積み重ねられる。
そこへ、更に。

「……せいっ!!」

十六夜、非情のテーブル上ボディプレス!
あまりの凄惨な有り様に、場内声も無し――

「れ……っ」

「麗華様ァァーーーーーッッ!!」

そう叫んだのは、JWI軍の誰かであったか。

「――――ッッ!!!」

テーブルの山にうずくまっていた十六夜美響が、身を起こした。
と、同時に――

<<オーーーーーーーーッホッホッホッホッ!!!!!>>

哄笑と共に、鮮血にまみれたビューティ市ヶ谷が、テーブルを跳ね飛ばしながら、復活!

<<ウォーミングアップは――――終わりですわ!!!!!>>

「…………ッ!!」

茫然と立ち尽くす十六夜ににじり寄るや、首根っこを掴み、そのままコーナーへブン投げる!

「う、ぐ……っ!?」

悶絶する十六夜を引っ張り上げるや、コーナー最上段に抱え上げ――

――スペーストルネードビューティボム!!(錐揉み雪崩式ビューティボム)

市ヶ谷大流血も、執念の反撃でかろうじて勝利を掴んだ――


 ○市ヶ谷 vs 十六夜×(13分33秒:スペーストルネードビューティボム)


「Monster……!!」

思わずそうつぶやいたのは、ルーチェだったか、羊子だったか。


<五本目>:???


ついに2-2の五分のまま、最終決着戦となる五本目に到達した。
大型ビジョンに映し出されたルーレットによって決定された、五本目のルールは――

――シックスメン・タッグマッチ!!

両軍、パートナーを二人選んでの一本勝負。
ここで十六夜が挙げた名は、神塩や伊達らではなく――

「――ルーチェ・リトルバード――」
「……What??」

よもや、ルーキーのルーチェ、そして、

「――オースチン・羊子」
「……はぁぁっ!?」

あろうことか、デビューすらしていない、羊子であった。

「フン……ッ、そちらがその気なら――」

市ヶ谷が指名したのは、これまたルーキーの〈水上 美雨〉と〈紫乃宮 こころ〉。
いわば五分の様相となったわけだが、

「ちょ、ちょっと待って下さいよっ。オレはっ」
「コスチュームは、持ってきているでしょう――?」
「…………っ」


<五本目>:シックスメン・タッグマッチ

 《ビューティ市ヶ谷》(JWI) & 〈水上 美雨〉 & 〈紫乃宮 こころ〉

 VS

 《十六夜 美響》(VT-X) & 〈ルーチェ・リトルバード〉 & 〈オースチン・羊子〉


ダメージの大きい十六夜と市ヶ谷はほぼリングインせず、実質、若手同士のタッグマッチという形の展開。
ルーチェがこころと場外戦を展開しているさなか、羊子にチャンスが訪れる――

「DEEEEYA!!」
「……うっおっ!?」

美雨を高速ブレーンバスターで投げ、鎌固めに移行。

「ぐ、お、おぉぉ……っ!」

そこから更にがぶり状態に戻り、ヒザ蹴りを連発!!
これぞ、デビューを目指し、ルーチェとの特訓で身に着けた必殺技・“ホーンズ・オブ・エイリース”!!
初披露にして、大一番の決着をつけるか――と思われた。

が、突然、衝撃が羊子を襲った。

「う……ぐっ!?」

強烈なダメージに、たまらず技を解く――
見上げた先にいたのはしかし、こころでも、市ヶ谷でもない。

「な…………ッ!?」
「クッククク……ッ、いいザマだなぁっ、ニセ外人野郎ッッ!!!」

哄笑とともに、更にイスを振り下ろしたのは――

「る、ルミ……ッッ!?」

リングに戻ってきたルーチェも、驚愕の色を隠せない。

「な、何……ッ、考えてん……だっっ! Dxxkhead!!」
「考えてるさ、てめーらよりは、なッッ!!!」

――おい、アイツ、例のアレじゃねぇっ?
――そうだ、アイドルから逃げ出した、なんとか留美!!

そのまま、羊子はもとより、ルーチェや美雨など、敵味方かまわずイスで殴打する留美。
混乱の中、颯爽とリングに駆け上がる影ひとつ。

「少し、おイタが過ぎるようね――」
「!!」

留美を一撃し、イスを奪い取ったのは、JWIのナンバー2・《南 利美》であった。

「……イスって言うのは」

そして、そのイスを留美目掛けて振り下ろす。

「こうやって、使うのよ――」

バキィッッ!!

「お……ごぉっ!?」
「な……?!」

南がイスで殴打したのは、留美ではなく――味方のはずの、美雨。
場内騒然とする中、南は市ヶ谷や十六夜もイスで蹴散らし、リング上を占拠。

「いいかげん、貴方の気まぐれに付き合わされるのも、我慢の限界ってことよ――」

市ヶ谷に三行半を叩き付け、JWIのジャージを脱ぎ捨てる南。
その下には着込んでいるのは、

「……【ジャッジメント・セブン】!?」
「そういうこった――――」

これも意気揚々とVT-Xのジャージを脱ぎ捨て、J7シャツを誇示する留美。
新女を中心に猛威を振るう反乱軍と、加担したというのか。

「ふ、ざけ……やがって……ッッ!! U Sxxk Ass!!」

怒り心頭に達した羊子は、留美に飛びかかったが、

「小賢しいんだよッ、雑魚がッッ!!」
「ぐ……あッッ!?」

豪快なチョークスラム一閃、リングに叩き付ける。

「ルミィィィーーーーッ!!」
「ウッグッ!? てめ……ッ!」

ルーチェ、怒りのトラースキックが留美のアゴにヒット――

その後――
雪崩れ込んできたJ7勢がリングを荒らしまわり、JWI・VT-X軍と入り乱れての大乱闘。
試合が無効となったのは、言うまでもない。


 ▲羊子 vs 美雨▲(19分54秒:留美らの乱入によるノーコンテスト)


南らが撤収すると、残された市ヶ谷・十六夜は共闘を宣言、J7打倒を掲げた。
ルーチェや羊子もまた、そんな渦中に巻き込まれていくことになるのであろうか。




▼日本 東京都新宿区 BAR『Dead End』


「――御苦労様。なかなかの暴れっぷりだったじゃないの」
「そりゃアどうも。……」

騒動の後。
J7軍の打ち上げに参加した留美は、南にそう労われた。

「そのデカさを上手く生かせば、好きなように暴れ回れる。期待させて貰おう」

これはJ7のリーダー格・《越後 しのぶ》の言。

「流石、神楽サンの従妹だけあって、度胸はあるなぁ~。ま、こないだの件は、ご愛嬌ってことで」

そう笑い飛ばすのは《成瀬 唯》。
かつては神楽と同じワールド女子に所属していたが、現在はフリーとなり、J7に参加している。
他でもない、留美に連絡を入れてきたのは――彼女であった。

「……ひょっとして」
「ン?」
「いや。……何でもねェ」

まさか、神楽が成瀬に、留美の身柄を託したのでは?
……という疑いが一瞬浮かんだが、すぐに振り払った。
そんなはずはないし、万が一そうだったとしても、知ったことではない。

(これからは――俺の、好きにやらせて貰う)

(そう、好きなように、な……!)



そして、一ヶ月後――


▼日本 東京都新宿区 国立霞ヶ丘陸上競技場


新日本女子プロレスの――いや、日本最大のプロレスの祭典『Athena Exclamation X』が開催された。
国立競技場には10万人近いオーディエンスがつめかけ、史上最大規模のイベントとして盛大に幕を開けたのである。
大会のサブタイトルは“Last Judgment”――――
その名の通り、【ジャッジメント・セブン】が中心となるマッチメークが行なわれ、《ビューティ市ヶ谷》が久々に新女のリングに上がり、《サンダー龍子》が初参戦するなど、色々な意味で話題の多い大会となった。

メインイベントでは、《マイティ祐希子》が負傷のため返上した“ダブル・クラウン”をめぐり、王座決定戦が行われた。
しかし、そのカードは、しばらく前なら予想だに出来ないものである。


<メインイベント NJWP・IWWF認定無差別級タイトルマッチ 時間無制限一本勝負>

 《南 利美》(ジャッジメント・セブン)

 VS

 《武藤 めぐみ》(NJWP-USA)


市ヶ谷を裏切り、【ジャッジメント・セブン】の新たなボスとして君臨する《南 利美》と、アメリカから凱旋した新女の新鋭・《武藤 めぐみ》の対決。
新星武藤の縦横無尽な無重力殺法に大観衆は酔いしれたが、久々の祭典登場となった南も緩急自在の攻めで応じ、次第にペースを掴んでいく。
そして終盤、武藤の秘技・“フロム・レッド・トゥ・ブルー”(青コーナーに配置した敵めがけ、赤コーナー最上段からミサイルキックを放つ超跳躍技)を受け切った南が、新技“ダブルクロス・サザンクロス”(変形リストクラッチ式エクスプロイダー)を繰り出し、決着――

 ○南 vs 武藤×(24分13秒:ダブルクロス・サザンクロス)

『残念だったわね。まだまだ、貴方じゃ勝てないって事よ――』

“ダブル・クラウン”を奪取した南、そしてJ7が、新日本女子の覇権を握ることとなった。
混迷を深める日本の女子プロレス界は、更なる闘いのステージへ突き進む――

[PR]
by right-o | 2012-08-19 17:56 | 書き物
レッスルPBeMのリアクション04を掲載させていただきます。
すんません今頃……

※字数制限かかったので共通部分は省略させていただきました。
 STRさんのサイトでご覧ください

▼日本 福岡県福岡県博多区 さざんれあ博多 多目的ホール


VT-X、地元定期興行――
100人ばかりの観客の前で、レスラーたちが試合を行なっている。

「オラァーーッ!!」
「DEEEEYAAA!!」

容貌魁偉な長身レスラーと、小柄なガイジンレスラーが激しくシバき合う。
良く言えばケンカファイト、悪く言えば技術もへったくれもない、大雑把なドツき合いである。
反則パンチや顔面キックもいとわぬ荒々しいファイトは、VT-Xの売りの一つだが、新人同士だけになおさら容赦がない。
もっとも、同じ戦法なら、ガタイの大きい方――この場合は〈火宅 留美〉に分があるのが道理。

「ルーチェ! もっとキック! そう、ロー!! RUMI Can't Wrestling!!」
「ゴチャゴチャうるせえんだよっ、ニセ外人野郎!!」
「Bullshit!! Shut The Fxxk Up!!」
「ッ、何言ってるかわからねーけど、ムカッつく!!」

やたらと留美に絡んで、〈ルーチェ・リトルバード〉を援護しているコイツは、〈オースチン“プリティ・ガール”羊子〉。
いわゆる悪徳マネージャーというやつ。
ケガのためレスラーデビューを諦め、最近はこうしてマネージャー業にいそしんでいる。
留美とは天敵といっていいくらいに、ソリが合わない相手であった。
そんな妨害を受けつつも、最後はランニング・ビックブートでルーチェを沈めてピン。

(……くだらねェ)

勝ち名乗りを受けながらも、気の乗らない留美。
それも道理かも知れない。

(なにが丸坊主だ。……)

突然勃発した、VT-XとJWIの抗争。
といっても、彼女たち下っ端にはあずかり知らぬ話であり、気づけば更に『負けたら丸坊主』などというオプションまでついていると来た。
留美が思うには、この件は要するに

(VT-XがJWIに吸収される、ってアングルだろ)

だとすれば、形はどうあれ、JWIの下につくことになろう。
その方がギャラは良くなるのかも知れないが……
はした金のために、負け犬扱いされるのも業腹だ(しかも、自分が負けたわけでもないのにだ)。
それ自体、気に食わないところへ持ってきて、丸坊主の一件だ。

(とっととオサラバした方が利口だな)

そうも思うが、彼女もそこまで自分を高く買ってはいない。
今の時点では、そう高く買ってくれる団体があるとも思えぬ。
ツテがあるとすれば、

(……アイツ、か)

従姉にあたる《神楽 紫苑》。
【ワールド女子プロレス】のチャンピオンであり、最近はヒール軍団を率いて活躍している。
しかし、頭を下げるのもシャクにさわり、なかなか踏ん切りがつかずにいた。



そんなおり、留美にTV番組から出演オファーが来た。


▼日本 福岡県福岡市博多区 VT‐Xオフィス


「『仮面刑事アンタレス』? 何だソレ」
「私も良く知らないけど、子供向けのヒーロー番組みたいね~~」

《ナナシー神塩》からオファーの件を聞いた時は、正直、気が乗らなかった。

「なんだ、ガキ向けの特撮かよ。そんなしょーもないモン、出たくねーな。エセガイジンの奴に振ったらどうよ」
「あ~、羊子ちゃんには別のオファーが来てるのよね~。動物番組なんだけど」
「はァん……ま、ケモノ臭い番組より、マシか」

ギャラもまぁまぁ悪くはないので、結局受けることにした。


▼日本 東京都調布市 味の元素スタジアム


留美の役柄は、ヒーローに倒される怪人――の人間体。
そんなチョイ役であるからして、ちょっと顔を出してすぐ終わり……
かと思いきや、そうでもなかった。

(……こんなに待たされるのかよ)

出番自体はごく短時間なのだが、それまでの拘束時間が実に長い。

「ほんま、こんなに長いとは思わんかったわぁ」

とボヤいたのは、〈紫熊 理亜〉――
留美と同様、ゲスト出演で呼ばれているプロレスラーで、リングネームは〈Σ(シグマ) リア〉として知られている。
もっとも留美と違い、黙っていれば芸能人としか思われないほどの美貌であり、今回も重要な役柄なのであったが。
留美の従姉・神楽が所属する【ワールド女子プロレス】に所属するだけに、話題はそこそこあった。

「へぇ~、神楽サンの従妹なんや。そう言えば、ちょっと面影ある……ないわ。ごめん、勢いで言うてもた」
「さぞかし、苦労させられてるんだろ?」
「ソッ……ソンナコト……ナイケド……」
「…………」

そういいつつ目をそらしたのは、何ゆえであろうか。

「そういえば、ヴォルさんとこは大変らしいねぇ」
「まぁね……」
「丸坊主か~~。まぁ、ルミさんは似合いそうやし、ええんちゃう?」
「…………」

ええわけがない。




▼日本 福岡県福岡市博多区 VT‐Xオフィス


ともあれ。
『仮面刑事アンタレス』での熱演が評価された――のかどうか、分からないが。
別のオファーが舞い込んできた。

「アンタ、あのガイジン野郎のジャーマネだろ。俺に何の用だ?」
「ジャーマネ……っていうわけじゃないんだけどねぇ」

苦笑するこの男性は、〈オースチン・羊子〉が所属する芸能事務所【Ωプロダクション】のプロデューサーであった。
しかし今回の訪問は、羊子がらみではなく……

「実は、うちの事務所で、プロレスイベントを開催する予定でして――」

それに出演して欲しい、というのだ。

「フ~~ン……そりゃ、カネ次第だけど」
「えぇ、もちろん。これくらいで考えていますが――」
「……!?」

と提示された額は、驚くほど高額なもので、予想よりも0が一つ多かった。

「……詳しく、聞かせて貰いましょうか」

思わず、いつになく丁重な口調になったのも、無理はない。

プロレスイベント【AngeRing!!】――
Ωプロダクションが手がけるプロレス興行……だが、一般的なそれとは大きく異なる。
何しろ、所属アイドルやタレントを中心とした内容で、レスラーはあくまで添え物。
イメージ的には“バトル・ミュージカル”のようなものを考えているらしい。

「要は、リングで歌や芝居をやろうってことですか」
「えぇ、そんな感じですね」

……言わんとすることは分かる。

「それでですね、安宅さんには、こうした役どころでお願いしたいんですが」

と、企画書を渡される。

「なになに……? 〈アークデーモン留美〉? なんすかコレ」
「あぁ、アタケってなんか読み辛いでしょう? その方が分かりやすいかなって」
「…………」

若干イラッと来たが、まぁ、ドラマの役名のようなものだし……と割り切る。
しかし、よくよく読んでみると、流石に看過出来ないレベルの内容も出てきた。

「あのー……この、《帝王エンジェル》ですか。このヒトたちと闘えばいいってことで?」
「えぇ、そうですね」
「それで、最後はこっちが負ける、と」
「はい。もちろん」

プロレスは、いわゆる意味での競技、スポーツではない。
ゆえに、あらかじめ勝敗や試合内容を打ち合わせたうえで行なう――場合もあると聞く。
いかんせんVT-Xの場合、そういったものがあるのかないのか定かでない。
少なくとも留美に対しては、そういう“指導”は一度もないので、好きにやらせて貰っている。
よって、それはそれで問題はなかったが、

「この、『負けたら即レスラー引退、帝王エンジェルに弟子入りしてアイドルを目指す』……って言うのは?」
「あぁ、もちろんストーリー上の話ですよ。本当に引退していただく必要はありません」
「フ~~ン……」

どうやら、チョロい仕事のようだ。
それでこれだけのギャラを取れるなら、やらない手はない。

「分かりました。……やらせて貰います」
「っ、ありがとうございます! いや~、助かりましたよ。いろんなレスラーさんにオファー出したんですけど、断られちゃって」
「へぇ……?」

これだけの金額なら、十分やり手がいそうなものだが。

「いや~、羊子の言う通りでしたよ。貴方なら受けてくれるんじゃないかって」
「……っ、そう、ですか」

どうやら、ヤツからの紹介、のようなものらしい。
そう言われるといささかシャクではあったが……
まぁ、この場合はヤツにも、いささか、爪の垢くらい、これっぽっちくらいは、感謝してやらないでもない、と言っても過言ではない。かも知れない。
もっとも……
この感謝は、まもなく取り下げられることになったのだけれども。




▼日本 東京都渋谷区 Ωプロダクションレッスン会場


「貴方がアークデーモンさん?
 ……なるほど、悪魔っぽいビジュアルをお持ちですわね」

“共演”することになる《帝王エンジェル》との顔合わせ。
リーダー格の《クイーン東豪寺》の第一声がそれであった。

「うんうん、地獄の底から這い上がってきたばっかりって感じ~☆ 超ウケる~~♪」
「……お二人とも、事実を素直に口にするのはやめた方がいいですよ」

《ミストレス朝比奈》をたしなめたのは《エンプレス三条》であるが、あまりたしなめてもいないかも知れない。

「……どーも」

頬を引きつらせた留美であったが、これもギャラのため――とせいぜい愛想笑いを絶やさずにおく。

「最初に言っておきますけれど――」
「え?」
「わたくしたち、プロレスなど、やる気はありませんの」

東豪寺が断言した。

「……っ、そんなこと、言われたって」

仕事は、仕事ではないか。

「わたくしたちはトップアイドルですのよ? それがどうして、あんな野蛮な真似をしなくてはいけませんの? 意味が分かりませんわ」
「…………」

それは本人たちの勝手だが、留美に言われても困るところだ。

「こんな社長の思いつきのようなイベントで、ケガでもしたら馬鹿馬鹿しいですわ。どうせ貴方も、真面目にやる気はないのでしょう?」
「っ、そりゃ……まぁ」

カネさえ貰えるなら、それでいいと思っているのは確かだが。

「社長がうるさいから、やるにはやるけどぉ~~。痛いの嫌だし、なんかいい感じに誤魔化せない~?」
「は、はぁ……」
「え~と、台本だと…………」



<メインイベント>

 《帝王エンジェル》
 VS
 〈アークデーモン留美〉

帝王エンジェル、最初に入場。持ち歌『ゆるしてタイキック』を披露。

Q東豪寺:プロレスなんて、ちょっと練習すれば楽勝ですわ。
M朝比奈:そうそう♪ 簡単だよね~~☆
E三条:……歌や踊りよりは、ずっと楽ですね。誰にでも出来ます。

(以下アドリブ。プロレスをバカにする発言)

AD留美:おいお前ら、適当なこと言ってんじゃねーぞ!

(アークデーモン登場。場内を威嚇しながらリングに上がる)

AD留美:そんなに簡単だって言うのなら、俺が相手してやるよ。
Q東豪寺:上等ですわ。ちょっぴり図体が大きいからといって、勝てると思わないで。

(以下アドリブで舌戦。残りの尺次第で調整)

AD留美:ゴチャゴチャうるせえ! まとめてかかってこいよ。

(試合開始。3人がかりで挑む帝王エンジェルだが、全く歯が立たない。
 留美、適当に痛めつける)

AD留美:おい、いいザマだな! ファンの前で恥ずかしくねーのか。
Q東豪寺:くっ! ファンのみんな、わたくしたちに力を貸して!

(観客、帝王エンジェル応援グッズ(物販で販売)を掲げて励ます。
 復活した三人、合体攻撃で留美を倒す)

Q東豪寺:これがアイドルの力ですわ。
M朝比奈:ファンのみんなの応援があれば、あたしたちは無敵なの☆
E三条:……ユニヴァース。
AD留美:すみませんでした。どうか、私もアイドルにして下さい。(土下座)
Q東豪寺:仕方ありませんわね、ミュージック・スタート!!

(四人そろって持ち歌『ラッキー☆シスター』を歌う。留美のヘタクソな踊りに場内爆笑。ハッピーエンド)



「まぁ、話の流れはともかく……『適当に痛めつける』と言われましてもね。貴方、どうするつもりですの?」
「そりゃ……投げ飛ばすとか、張り手したり、とか」
「えぇ~っ? 痛そぉぉ~~~」
「……アイドルは……顔が命なんですけど」
「は、はぁ……」

……この辺でようやく、留美は他のレスラーがこのオファーを避けた理由を悟った。

(こ、こいつら……タチが悪い!)

「そうですわね……貴方、『手から毒電波が出る』みたいな設定にしなさい」
「……はぁ?」
「あ、なるほど~。それを浴びてるってテイで、あたしたちが苦しむフリすればいいんだ~~」
「はっ、はぁ……」

むしろ、こっちの頭が痛くなってきた。
もはや“プロレスごっこ”の域ですらなくなりつつある。

(……ま、いいか)

楽してカネが手に入るのだから、少々のことは我慢しよう。
よしんばこれで興行がコケたところで、自分の知ったことではないのだ。





▼日本 東京都江東区有明 有明スポーツアリーナ


かくして、【AngeRing!!】開催の当日――
人気アイドルが多数出演するとあって、会場は2万人近いファンで埋め尽くされている。

(……っ、こんなデカいハコなのかよ)

これまで多くても1000人規模の会場でしか試合をしたことがない留美にとっては、大変なプレッシャーと言える。
おまけに、いつものような力任せのやりたい放題ではなく、台本通りに進行させなければいけないのだ。
更にプレッシャーなのは、この興行、生中継でTV放映されるということ。

「やぁ、君が妖かしのカラミティ・レディの弟子だね」
「……っ」

控え室で硬くなっていた留美に声をかけたのは、【東京女子プロレス】の麗人キャラレスラー《ミシェール滝》。
留美にとっては、レスラーとしてより、TVでのタレント活動の方が印象が強い。

「デビューし立てでいきなりメインとは大変だろうけれど――頑張ってくれたまえ」
「は、はぁ」
「私たちがいくら盛り上げた所で、メインが失敗しては、何もかも台無しだからね」
「……っ」
「そうプレッシャーをかけるなよ、翔子。彼女はルーキーだぞ」

そうフォローを入れてきたのは《ロイヤル北条》。
【日本海女子プロレス】を率いるパワーファイター。
この二人はかねてから知り合いで、今回は久々にタッグを結成するというわけ。

「フフッ、それもそうだ。我々の所の子鹿ちゃんたちも、まだまだだからね。健闘を祈るよ」
「……どーも」


――そして、運命のメインイベント。


<メインイベント>

 《帝王エンジェル》
 VS
 〈アークデーモン留美〉


場内の大型ビジョンに、これまでのいきさつ――留美が記者会見で大暴れ(もちろんアイドルに手をかけたりはしない)したり、帝王エンジェルのライブに乱入して、“悪魔的な”歌を披露したりした顛末――が流される。
アイドルの誇りをかけて、あの悪魔を倒す! と気炎を上げる帝王A。
そして台本に従い、帝王Aの入場、一曲披露……と進行していく。

『お前ら! 好き勝手なこと言ってるんじゃねーよっ』

ここでようやく、〈アークデーモン留美〉が登場。
むやみにゴチャゴチャした鎧のような甲冑を頭からスッポリ着せられ、ひどく視界が悪い。
おかげで客席の様子もよく分からないので、緊張せずにすんだのはまだしもかも知れなかった。
リングに上がり、いざ甲冑を脱いで見ると――

「……う……ッッ」

大観衆に囲まれていることを改めて実感し、思わず、足がすくむ。
マイクを手に取ったものの、

「――――ッッ」

台詞が完全に飛んでしまい、何も出てこない。
妙な間が生まれ、場内がザワつき始める。

『――フン、何かおっしゃりたいのかしら? これだから、脳みそまで筋肉で出来てるプロレスラーなどとは、絡みたくありませんのに――」

とっさに東豪寺がアドリブを入れ、会場が笑いに包まれる。

『……っ、お、お前ら、俺が、相手、してやる……よ』

普段なら難なく出来るマイクが、尻すぼみになってしまう。

――何だソレー? 全然迫力ねーぞー!!
――やる気あんのかー、アークデーモン!!

客席からのヤジに、いつもなら反撃してやる所だが、そんな余裕もない。

『いいですわ、そんなにお相手して欲しいのなら!
 アイドルの力、見せて差し上げます――――』

強引に話を打ち切り、ゴングを要請する東豪寺。
流石に、この辺の肝のすわり具合は尋常ではない。

しかし、いざ試合――となっても、留美は精彩を欠いた。
当初の打ち合わせ通り、『両手から毒電波を出し、相手を苦しめる』という展開に持っていくも、息が合わず、グダグダに。

――何やってんだ? 意味わからーん!
――プロレスやれ、プロレスーー!!

観客席からの容赦ないヤジに、いよいよパニックになる留美。

「う、ウガアッ!!」
「きゃうっ!?」

思わず、朝比奈を力任せに突き飛ばしてしまう。

「ちょっ! 何してるんですのっ!!」
「っ、う――」

緊張が極限に達し、棒立ちになってしまう。

「うっ……うわあああああ……っっ!!」
「……ちょっ、ちょっと!? 貴方……何処へ!!??」

…………




▼日本 福岡県福岡市博多区 VT‐Xオフィス


「あはっ! あはははははっ! イッツ・クール!! 最高だわアイツ、あっはははははは!!」

〈オースチン・羊子〉は腹を抱えて爆笑していた。
【AngeRing!!】の生中継を観戦中、問題のメインイベント。
よもや、こんな展開になるとは――斜め上だった。

「?? ルミ、ドウシテ、逃ゲタ??」

ルーチェなどは、理解に苦しんでいる。
もとより理由は当人にしか分からないが、

『分不相応な仕事をやろうとした報いってこと。あ~、笑った笑った』

番組上では、まさかの留美逃走に、さしもの《帝王エンジェル》も困惑を隠せぬ様子が流れている。

(全国生中継でこの醜態……アイツも流石に、戻ってこれないかもね)

ちなみに、AngeRing!!の方は。
間もなく、急場をしのぐべくヒールキャラへ変身した滝と北条が登場、アイドル相手に見事な立ち回りを披露、きっちりと場内を沸かせ、クライマックスを盛り上げてみせたのは、流石であった。





リングからの『逃走劇』の後……
留美は会場からも逃げるように去り、博多行きの新幹線に飛び乗った。

(クソッ……クソッタレが……ッ)

あんなことになるくらいなら。
いっそ、収集がつかないくらいに暴れてやれば良かった。
カネのために自分を殺したあげく、あんな赤っ恥をさらす羽目になるとは。

博多に戻っても、VT-Xの寮へ帰る気にはなれなかった。
どの面下げて顔を出せよう。

(さぞかし、あのガイジン野郎は大喜びだろうぜ……ッ)

羊子の件を思い出すと、ハラワタが煮えくり返る。
だが、オファーを受けたのは自分であり、その点では誰を恨みようもない。

チラリとネット関係を見てみると――
案の定、大バッシングを受けている。


――アイドル相手に試合放棄、水着姿のまま会場から逃走!!
――プロレスラーの恥、二度とリングに上げるな!
――アイドルから逃げるプロレスラーってwwww
――アークデーモンは にげだした!!(笑)


世間からは失笑を、業界からは大ヒンシュクを買っていた。

「クソッ! 好き勝手、抜かしやがって……ッ」

と、ケータイに着信。

「っ? 何だ……」

登録されていない番号である。
時が時だけに、ややためらわれたが、留美は大きく息をついて、着信ボタンを押した……


[PR]
by right-o | 2012-08-19 17:54 | 書き物
以下全文、STRさんが書かれた文の転載です。

◇◆◇ 0 ◇◆◇

Wrestle Angels PBeM

Episode1 天使轟臨 ~Angels Flying in the Supercell~

〔ストーリー〕

西暦20X1年、夏――

渾然となって馳せ巡る数多の運命の輪は、まだ見ぬ未来へとただ一心に突き進む

歴史を人間が作るのか、人間がたどった轍それそのものが歴史なのか?

されど一度、四角いリングの魔性にとらわれたならば、もはや引き返すことは叶わぬのだ

少女たちの流す汗も、涙も、すべては闘いのキャンバスを彩る画材にすぎぬのであろうか――

*-----------------------------
■VT‐X(ヴォルテックス) SIDE■
*-----------------------------

◇◆◇ 1 ◇◆◇

<<ドキュメント『災禍の中心に立つ~プロレスラー・十六夜美響の12ヶ月~』>>

<VT‐X道場外観>

NA(ナレーション):
福岡県某所にある、女子プロレス団体【VT‐X(ヴォルテックス)】の道場。
 全国的な知名度は新女やWARSなどに及びもつかない新興団体だが、九州では最も大きな勢力を持っている。

<某マンション入り口>

「あら。……ご苦労なことね」

彼女は、VT‐Xの大黒柱といえるスター選手。
《十六夜 美響》。
このいっぷう変わった名を持つ女性には、ありがたくないニックネームがついている。

<道場へ向かう車内>

テロップ:
『災厄の女神』と呼ばれることについてはどう思いますか?

「そうね、特に否定しようがないわ。私の周囲で、そういったことが多発したのは事実だし」

NA:
『災厄の女神』。
プロレスラーなら、こうした凄みのあるキャッチコピーをつけるのは、普通のことだ。
でも、彼女の場合は、違う。

<イメージ映像>

NA:
プロレス入りして以来、周囲に事故やケガが頻発した。
いくつかの団体が潰れたのも、彼女が災いを呼んだためだ、と言う者もいる。
彼女は災厄を操ることが出来るのだ、という者さえいる。

<道場へ向かう道>

テロップ:
『災厄』はコントロール出来る?

「フフッ。客観的に検証出来ない物事は、『信じる』か『信じない』かの二択しかないわ」
「だからそう信じたい人は信じればいいし、そうでない人はそれで仕方がないわね」

テロップ:
最近は『災厄』の様子は?

「これといってないようだけれど、さぁ、いつまた表に出てくるか、分からないわ」
「…………」

<イメージ映像>

NA:
災厄の持ち主と称されたことで、彼女は根無し草のプロレス人生を送ってきた。
そんな美響が、みずから団体を起こした。
それがVT‐Xである。
不安はなかったのだろうか。

<VT‐X道場>

「不安は、もちろんあるわ」
「でも、だからといって何もしない人生なんて、退屈過ぎるでしょう?」
「私の傍に集ってくるような人間は、皆、覚悟の上のはず」
「だから、不安はあえて考えないようにしているわね。……あらあら、もうおしまいかしら?」
(目の前でトレーニング中の若手外国人選手がへたりこんだのを見て、英語で何やら話しかける。すると選手は、また歯を食いしばって再開した)

テロップ:
彼女には何と?

「やめてもいい、代わりはいくらでもいる、とね」

<VT‐X道場・リング上>

NA:
災厄がどうとか言わなくても、リングの上には危険がいっぱいだ。
危険な受け身を取ったりしなくても、ほんのささいな油断やミスが、即、重大な事故につながる。
人間の身体は、想像以上に、もろい。
だとすれば災厄とは、誰しもが持っているものではないのか。

「フフッ、そういうロマンティックな思考は、嫌いではないけれど」
「誰だって、意図せず他人を傷つけてしまうことはある」
「災厄のせいにして済むのなら、その方がいいのかもね」

NA:
しかし、まさに『災厄』そのものとしか思えないような出来事が、我々の目の前で起こった。……


◇◆◇ 2 ◇◆◇


 ▼ 日本 福岡県某所 VT‐X道場


『その瞬間』のことを、〈安宅 留美〉ははっきりと憶えている。

「あァ。……アイツが、アホみたいにロープを昇ってたよ」

アイツとは、〈オースチン・羊子〉。
留美とは同期の練習生であるが、非常に、非常にウマが合わない。
同じ練習生でも、〈ルーチェ・リトルバード〉あたりは言葉が通じないこともあって、逆にこれといって接点もない。
が、羊子とは顔を合わせれば口喧嘩が絶えない。
口だけではすまず、取っ組み合いの喧嘩に発展することもザラであった。

「Rumi S×cks!! アホ! ボケ、カス!!」
「てめぇっ、大概にしろよっ!!」

最初はそれなりに制していた先輩レスラーたちも、最近では

――まぁ、いいか。

といった感じで、だいたい好きにやらせるようになってきた。
大概はどっちも疲れ果てた所で、真壁あたりがまとめて竹刀でブチのめし、おしまいとなる。

「落ちろ! テストどころか人生からも落ちろ!」
「てめぇこそ落ちろ! どん底まで落ちろや!!」

そんな仲である。

「喧嘩するほど仲がいい? ハァ? そんなわけねェだろ」

「大体、アイツまだ芸能事務所か何かに入ってるんだろ? 所詮、プロレスを舐めてんだよ。さっさと芸能界にお帰り下さいってなもんだ」

そんな留美であったが、『その瞬間』はショックであった。
ちょうど休憩中で、水分を取っている最中。

「ハァ、ふぅ、ふぅぅぅ……」
「る~みん、なかなかキレが良くなって来たです~~」

呑気な《獅子堂 レナ》は息をさして切らしてもいない。

「まぁ、まだまだ全然ひよっこですけど」

鼻で笑う真壁。いつかシメる。
近々行なわれる予定のプロテスト。
そこで合格すれば、リングに上がれる。
客の前で、おおっぴらにこの連中をボコボコにできるのだ。
最も、今の実力では返り討ちが関の山かも知れないが……

ふと、目の端にロープと、それにぶら下がっている羊子の姿が映る……

(……バカと煙は高い所が好きってか)

そんな風に冷笑した矢先――
ブチン、と嫌な音がした。

「――――ッッ!!」

次に響いたのは、

――――ドサッ

明らかに“ヤバい”音。
マットの上に、ロープを手にした羊子が倒れていた。
何が起こったのか、気づくまでには、更に時間を要した。

「あ……ああっ!」

最初に声を上げたのは誰だったか。
留美は、その場に立ち尽くすことしかできなかった……



《十六夜 美響》が行なう、ロープ昇り訓練。
天井から吊るされたロープを昇るというシンプルなものだが、腕力だけで昇るのは容易ではない。
軽々とこなせるのはVT-X内でも十六夜のみであろう。
以前、羊子は挑戦して、とても無理だとギブアップしていたはずだったが……
今回再トライしたは良かったが、突然ロープが切れ、落下してしまった。

あれ以来、VT-X内には、良からぬ空気が漂っている。
羊子のケガは事故だが、あんな頑丈なロープが、途中で切れるなど、ありうることだろうか?

――災厄。

十六夜美響がその身に集めるという、災い。
これは、その影響ではないのか。

――そんなバカな。

と笑い飛ばせる人間はいなかった。
実際、これまで十六夜が所属してきた団体では、しばしばこうした『説明できない』アクシデントが起きてきたのだから。
しかし、VT-Xにおいては、旗揚げ以来、こうした事態は皆無だった。
ゆえに人々は、忘れかけていた。
災厄の噂を。
いや、忘れようとしていただけだったのかも知れない。

当の十六夜は、例の『一兆円トーナメント』(結局はバトルロイヤルに変更されたが)に参戦するため、【JWI】に遠征中。
彼女が不在なのだから、これはあくまでただの事故。
いや、それは関係なく、彼女が属する団体に災厄は舞い降りる……
そんな不穏な話が飛び交ったのは、無理もないことであったろう。



留美は、入院した羊子の見舞いに行く気はなかった。
ルーチェなどは毎日のように通っているようだったが。
そもそも行く義理もないし、それどころか

――行かない方がいい

と周囲から止められたこともある。
が、そんな風に言われれば、

――逆に行きたくなるのが人情ってもんだろ。

と、ご丁寧に鉢植えを買って、入院先に向かった。

 ▼ 日本 福岡県某所 某病院

部屋をチラリと覗くと、

「………………」

見たことがないほどに、打ちひしがれた姿の羊子がいた。

「ヘッ、ザマァねぇなぁ。いいツラだぜ」

と面と向かって嘲笑いたい所であったが……流石にやめておいた。
代わりにメッセージを残して、鉢植えを置いて帰った……



 ▼ 日本 福岡県某所 VT‐X道場

その分、というわけでもないが、プロテストには気合を入れて臨んだ。
スパーリングでの結果次第だが、相手は容易ではない。

《伊達 遥》。

十六夜に次ぐ新世代のエースとして期待される、国内有数のストライカーである。
ふだんは会話が成立しないほどの人見知りだが、ことリングの上の威厳とたたずまいは、ベテランはだしといえる。

――せめて、こいつぐらいは超えていかないとな。

と留美が目指すべき標的の一人とも言える。
幸いにも……というか、ここの所の伊達は精彩がない。
羊子の事故でかなりショックを受けているのかも知れない。
とはいえ容易な相手ではなかったが、スパーリングでは互角の攻防を展開、パワーを見せ付けた。



プロテストの合格にも、留美は喜びもしない。
デビュー前のTV番組のインタビューでは、さんざん言いたい放題でビッグマウスを披露する。
団体をPRするためのイベントでも好き勝手に吹きまくり、観衆を煽ってみせた。

 ▼ 日本 福岡県 キャナルシティ博多

「俺がこんなショボくれたクソ田舎のヘボ団体にいてやるのもホンのしばらくだ。その間にせいぜい観に来いや。一生の思い出だぜ」

「俺はスター候補じゃねぇ、スーパースター候補なんだよ。そんな俺サマがデビューしてやるんだ、ありがたく思え」

「いいか、お前らは俺だけ観てりゃいいんだ。俺だけ観に来い。分かったか、三流団体の三流ファンども!!」

――とまぁ、さんざんしゃべりまくった。
オマケとばかりにノリノリで一曲歌ってやったが、これが大変なブーイング。
とはいえ、無反応よりよっぽどマシであろう。

「――相変わらずヒドい歌ね」
「っ! てめぇ……」

控え室に戻った留美の前に現れたのは、羊子でった。
退院したとは聞いていたが……

「へっ。……何の用だ? 引退したんじゃなかったのかよ。デビュー前に引退たァ斬新だけどな」
「……フン。おあいにく。もうしばらく居残ってやることにしたわ。……マネージャーとしてね」
「はァ?」

負傷が癒えるまでは、マネージャーとして興行に帯同することになったという。

「ケッ。悪徳マネージャーかよ。せいぜい、もっと重傷負わないように大人しくしてるんだな」
「そうね……そうするわ」
「……っ」
「あぁ……それと」
「あァ?」
「……お見舞い、ありがとう」
「…………」

寂しげにつぶやいて去っていく羊子の背中は、流石に小さく見えた……


◇◆◇ 3 ◇◆◇


そして、留美のデビュー戦の時がやってきた。

 ▼ 日本 福岡県 大牟田市文化体育館

◆◆ 安宅留美デビュー戦 ◆◆

 〈火宅 留美〉(VT-X)

 VS

 《獅子堂 レナ》(VT-X)

「これに負けたら、『眠れる獅子拳』に入門して貰いますから~」
「ちょっ、まっ!?」

デビュー戦から、とんだ試練であった。

「大変ねェ。セコンド、ついてあげようか?」
「お前だけは絶対いらねーー、超いらねーー」

羊子の誘いも断り、いざデビュー戦に挑む――

そういえば、デビューを知ったイトコの《神楽 紫苑》から電話があったっけ……

『やっとデビューなんだって? テスト受かったんだ。良かったわねぇ~~』
『ケッ、あったりまえだろ。遅ぇくらいだ』
『ふ~ん。じゃあさ、デビューしたらウチに来ない? ギャラは払えないけど~』
『納豆で顔洗って出直せや』

……まったく参考にもならなかった。

リングアナが呼び出しをかける――

『俺が福岡を盛り上げてやる!

 最高の素材が最悪の性格と交じり合った、現代の怪物!!

 〈火宅 留美〉選手の入場です!!』

留美が花道に現れるや、それだけで場内からはブーイングが鳴り渡った。

(……っ、コイツは、結構キツいな)

分かっていたつもりだが、存外しんどい。
だがあくまでもふてぶてしく、大仰に観客を煽ってみせる。

そして試合。
流石に人前での闘いは、勝手が違う。
思ったことと身体が連動せず、空回りしてしまう。
しかし、獅子堂の容赦ない打撃を味わい、追い込まれるうちに、次第に落ち着いてきた。
パワーと打撃を生かして反撃にかかる――

――が、この時、羊子が動いた。
気づけばリングサイドに来ていて、レフェリーのスキを狙って、留美にパウダーをぶちまけたのである。

「!? て、てめぇ……ッ!!」

そこを見逃すほど獅子堂甘くはなく、打点の高いドロップキックが顔面にヒット!
大歓声とともに、そのまま3カウント……と思いきや。
羊子はレフェリーにもパウダーを食らわせており、反則裁定が下って、留美の勝利となった――

 ○火宅 VS 獅子堂×
 (14分29秒:反則)

『デビュー戦勝利おめでとう! 一生の思い出になったでしょ、ス~~パ~~スタ~~~……候補さんっっ!!』

羊子がマイクで煽るや、場内どっと沸いた。
もとより留美は怒り心頭、パウダーまみれの真っ白な顔で羊子を追い回したが、それがまたウケもしたのである。

(やっぱりっ、心身ともにブッ潰しておくべきだったぜ……ッ!!)

何はともあれ、こうして留美のレスラー人生はスタートした……

……が、それもあっさり吹き飛ぶかもしれない暗雲が、VT-Xに立ち込めつつあった。





<名古屋レインボープラザ・外観>

NA(ナレーション):
【JWI】の名古屋大会。
十六夜美響は、いわゆる『一兆円バトルロイヤル』に参戦した。

<名古屋レインボープラザ・リング上>

NA:
次々と猛者たちが脱落していくなか、最後に残ったのは2人。
JWIの《南 利美》、そして《十六夜 美響》である。
勝った者が、《ビューティ市ヶ谷》が持つ『JWI認定世界最高王座』への挑戦権と、『副賞』一兆円を手にするのだ。

<試合前インタビュー>

「一兆円を手に入れたら? ……フフッ。どうしようかしらね」
「九州ドームを買い取って常設会場に? それも悪くないかも知れないわ」
「まぁ、貰ってから考えるとしようかしら」

<名古屋レインボープラザ・リング上>

NA:
最後に立っていたのは、十六夜だった。

「挑戦権は有難く頂くわ。でも――」

NA:
一兆円は要らない。
その代わりに、ベルトと共に賭けて貰うものがある。

「私が勝ったら――ビューティ市ヶ谷! 貴方に、うちの団体に移籍して貰うわ。
 その賭け代に、一兆円は安くはないでしょう?」

 <<<――――オーーーッホッホッホッ!!!>>>

高笑いと共に花道に現れるた市ヶ谷は、たちどころに快諾。
それどころか、

 <<<ケチなことは言いませんわ! この団体ごと、持っておゆきなさい――万が一、いいえ600億が一、勝てたならば!!>>>

NA:
十六夜美響。
ビューティ市ヶ谷。
VT-XとJWIの命運は、この2人の危険な闘いに、ゆだねられた――

[PR]
by right-o | 2012-02-19 20:50 | 書き物
※以下全文、STRさんが書かれたものの転載です。


 ◇◆◇ 0 ◇◆◇

Wrestle Angels PBeM

Episode1 天使轟臨 ~Angels Flying in the Supercell~

〔ストーリー〕

西暦20X1年4月――

日本の女子プロレス界は、新たなうねりの中に飲み込まれつつあった。
――それは自然の流れ?
――あるいは何者かの意志?

そんな大きな渦とは関係なく……
それぞれの想いを胸に、それぞれのやりかたでプロレス界という荒波に飛び込んだ少女たち。
彼女たちの行方はいかに――

*-----------------------------
■VT‐X(ヴォルテックス) SIDE■
*-----------------------------


◇◆◇ 1 ◇◆◇


福岡県某所、新興女子プロレス団体【VT‐X(ヴォルテックス)】の社長室――

「色々と動きが出てきたようね」

ディスプレイに躍るネットニュースに目を通しながら満足げにつぶやいたのは、VT‐Xのトップレスラー、《十六夜 美響》。

「これがお望みだったんだろ? 災厄の女王様」

VT‐Xの社長が振り向く。

「えぇ。どんな形であれ、動きがあるのはいいことだわ。かき回しがいがあるもの」
「そのためなら、JWIだろうが東京女子だろうが、お呼びがかかれば即参上――か」
「そういうことね」
「気楽に言ってくれる」

社長は苦笑するしかない。
VT‐Xは九州の中では大規模な団体ではあるが、まだまだ地力はない。
良くも悪くも、その運命はエースである十六夜の双肩にかかっているといっていい。
その彼女が、ほいほいと無責任に他団体へ打って出ていいものではあるまい。

「私がいなくても神塩や遥がいるわ。レナや那月も、少しはマシになってきているし」
「どうだかな。……まぁいい。JWIには色よい返事をしておくさ」

JWIが発表した“一兆円トーナメント構想”。
各プロレス団体のエース選手を一同に集め、トーナメントを開催、優勝を争わせようという企画である。
その優勝者には、賞金一兆円(!)と、市ヶ谷への挑戦権が与えられる――という、なんともフザけた話。
他団体はほとんど突っぱねるか無視しているようだが、十六夜はあえてそれに乗ろうという。

「これがお前の言う“渦”か」
「えぇ。でも、まだまだ全然、足りていないけれど」

もっと、たくさんの渦を生み出さねばならない。
もっと、巨大な渦を作り出さなくてはならない。
さもなければ――

「“大渦”が現れた時、ひとたまりもないわ」
「……分かっている。そのための、VT‐Xだ」


◇◆◇ 2 ◇◆◇


ここは【VT‐X(ヴォルテックス)】の選手寮の一室……

「う、うぅ~ん……うぐ……ぬぐぐ……」
「貴方は入りたくな~る……“眠れる獅子拳”に弟子入りしたくな~る……」
「んぐ……んんん……」
「ねむれりゅ……ひひけん……ぐうすぅ……むにゃむにゃ……」
「……って途中で寝ないで下さいよっ!!」

〈安宅 留美〉は同室となった先輩レスラー、《獅子堂 レナ》に苦情を言ったが、相手は留美のベッドに潜り込んだまま寝入っているので、仕方なく上のベッドに移る。

(ったく、なんで俺がこんな目に……)

最初は、それなりに好待遇なのかと思った。
同じ練習生でも、あの外国人と××××野郎(自主規制)が同室なのに対して、自分は先輩との相部屋。
期待されてるからこそ、そうなったとばかり思っていたが、

(……そうでもないのかもな)

この獅子堂という先輩、別に無理難題を押し付けたり暴力を振るったりはしないので、ごく扱いやすいのだが、こんなふうにことあるごとに“眠れる獅子拳”とやらに勧誘されるのは正直ウザい。
あまりにうっとうしいのでいっそ入門してやろうかとも思うくらいだが、何だかそれはそれで負けた気がするので、ガマンしている。
それに、そんなことを気に病んでいるほど、練習生はラクじゃない。



「ワタシ、ワルクナイ! ナンデ、ナグッタ!?」

何やら叫んでいる〈ルーチェ・リトルバード〉。
日本語がカタコトしか話せないため、ぶっちゃけあんまり絡みようがない。

それより厄介なのは、

「……ケッ。おい、まだ辞めねーのか? さっさとアメリカに帰ったらどうだ」
「アxホール! そっちこそ、ママのxxxxにxxxxしてきた方が利口なんじゃないの?」
「っ、てめぇ、俺が英語分からないと思ってムチャクチャ言ってるだろっ!」
「だったら日本語で言ってあげようか? この●●●●野郎っ、ママの●●●●に●●●●!!」
「てっ、てめぇ、このっ!!」
「やるか――」

……バキッ!! バッキイ!!

『い゛っ゛だぁっっ!?』

「はいはい、それくらいにして、さっさと練習に戻るっ」

『……オッス』

竹刀を振り下ろした《真壁 那月》に睨まれ、しぶしぶ練習に戻る。

〈オースチン・羊子〉――
新人テストで会って以来、これでもかという程にソリが合わない相手である。
天敵、ってのはこういう奴を指すのかも知れない。



「ハーイ。そっちはどぉ? まだ夜逃げしてない?」
「してたら、アンタからの電話に出られねーよ」
「はは、そりゃそうね。で、どうなの? やってけそう?」
「……全然、たいしたことねーよ。楽勝楽勝」
「ふ~ん、だったらいいけど。うちも新人獲ったんだけどさ~、どいつもこいつも変なのばっかりで、超面白いわ。アンタもそっちがダメだったらウチに来れば~?」
「っ、余計なお世話だ。俺はこっちでビッグになってやるよっ」
「はぁん……まぁいいや。じゃーね。早いとこ、同じリングに立てるようになってよ」
「フン、そっちこそ、俺と闘えるまで、廃業しないように頑張れよ」
「ふっふふふふ」

従姉にあたる《神楽 紫苑》。
現在は大阪の【ワールド女子プロレス】に属し、チャンピオンとして君臨している。
今の自分とは天と地の差があるが、いずれは……


◇◆◇ 3 ◇◆◇


さて、練習生にもちょっとした休みがない訳ではない。
しかし、一番見たくないツラと出くわした。

「ごきげんよう、留美さん」
「……はァ? なーにがごきげんようだ。そんなキャラか、お前」
「もちろんです。わたくし、帰国子女ですので」
「うぜー超うぜーよお前。さっさと辞めたら?」
「そういう貴方こそさっさとお辞めになったらいかがですかこのSxxK野郎」
「あぁ!?」
「……おっといけない。ついわたくしとしたことが、心の底からの本音を吐いてしまいました」
「お前顔貸せやコラ」
「まぁ、無駄話はいいんです。貴重な余暇を無駄にしたくないですしね」
「お、ま、え、が、無駄にさせてるんだよ!!」
「やれやれ、図体がでかいくせに細かい人だ。それより本題ですが」
「俺コイツ殴っても罪にはならないと思うな」
「真壁さんが、【WARS】の興行に出ることはご存知ですね」
「……あ? そういや、そんな話もあったな」

先輩レスラーの真壁は、【WARS】の《永沢 舞》と親交が深いらしい。
そのつながりで、永沢の凱旋興行であるWARS福岡大会に特別参戦を予定しているとか。

「わたくし、真壁さんのお手伝いで同行する予定なんです」
「はぁん? ……」

なんでわざわざ……と疑問を抱いたが、はっと思い当たった。

「そういやお前、永沢舞を倒すためにレスラーになりたい、とか言ってたよな」

テストの時のアピールで、そんなことを口走っていた気がする。

「さぁ……そんなこともあったかも知れませんね。なにぶん緊張していたので」
「何言ってやがる。まさかお前、興行をブチ壊そうとか思ってんのか?」
「ふふっ、何を言い出すかと思ったら。これだからMxxT野郎はイヤなのです」
「マジぶっ飛ばすぞテメェなめてんのか」
「とにかく、これから出かけますが……貴方も一緒にどうです?」
「……はぁ? 何で俺が行かなきゃならねーんだよ」
「えぇ、別に理由はありません。でも、どうせヒマなのでしょう?」
「くっ、くっくっくっ。残念だったなぁ」
「……?」
「今日は、『レッスル西日本』の取材が入ってるのさ!」
「…………っ」

初めて動揺を見せた羊子の様子に、してやったりな留美。
ローカルな格闘技雑誌ではあるが、取材には違いない。

「悪いなぁ~、お前さんが下働きに行ってる間に、こっちは取材だぜ、しゅ・ざ・い」
「……っ、クッ……オレをさしおいて、なんでこんな脳味噌筋肉、略して脳筋FxxK野郎に……っ」
「まぁ、お前も頑張れや。あーっはっはっ」

久しぶりに羊子を言い負かし、いい気分な留美。

(……そういや、今日の大会じゃタイトルマッチもあるんだっけか)

WARSの総大将・《サンダー龍子》に、フリーの大物ヒール《フレイア鏡》が挑む一戦。

(鏡さん……か)

以前、地元で偶然すれ違い、何となく会話をした憶えがある。
まさかあの頃は、こうして自分もレスラーになるなどとは予想だにしていなかったが。

ともあれ今は、午後からの取材に備えるとしよう。



……そして、数日後……

「――さて、安宅留美くん。なぜ呼ばれたか、分かるかな?」
「……えぇ、薄々は」

VT‐Xの社長室。
そこに留美は呼び出しを受けていた。

心当たりは、もちろんある。
先日受けた『レッスル西日本』の取材。
あの時、留美は自慢のビッグマウスを連発し、大言壮語を吹きまくった。
後になって、流石に言い過ぎたのでは……とも思ったが、マズい部分は掲載しないだろう、とタカをくくっていた所はある。
が、送られてきた『レッスル西日本』の最新号を見て目が点になった。

――『身の程知らずな新人登場! 傍若無人のビッグマウスで、団体、業界、ファンを痛烈批判!!』

……いや、確かにちょっと、大げさに言ったけども。
なーんの実績もない、ただの練習生の言動ですよアナタ。
それをこんな、センセーショナルに書き立てなくても――

「ふむ。……何か、言いたいことはあるかな?」
「………………いいえ」

少なくとも、あの記事には、彼女が言っていないことは書かれていなかった。
『片田舎のショボい団体』とか、
『世間知らずのローカルマスコミ』とか、
『安っぽい郷土愛にあふれた生温かいゆるゆるファン』とか、
言ったのは事実で。

「そうか。……」
「…………っ」

「――分かった。練習に戻ってくれ」
「え……あの……っ」
「ん? どうかしたのか」
「いえ、その、……おとがめっつーか、そういうのは」
「おとがめ? なんでそんなものが必要なのかな」
「いや、そりゃ……」
「呼び出したのは、アレが記者の作文なのか、君が本当に口にしたのか、確認したかっただけだ」
「…………」
「本当に言っていたのなら、それでいい」
「は、はぁ……」
「これからも遠慮はいらん。君がやりたいようにやりたまえ。
 つまらん常識だの、良識だのに色目を使って、遠慮する必要など微塵もない」
「………………っ」
「それが、【VT-X】の流儀だ」

どうやら、思った以上に、この団体は――
ハチャメチャであるようだった。


[PR]
by right-o | 2011-12-18 19:58 | 書き物
c0130614_10221119.jpg


 安宅留美、17歳。
 別に貧しい境遇で育ったわけでもない。
 両親は普通に働いていたし、家族関係も良好だ。
 一人、親戚にちょっとハジけた従姉がいるが、周囲にいる変わった人間なんてそれぐらいだった。

 そういう訳で、不自由や抑圧とは無縁の生活を送って来た彼女だが、何か物足りなかった。
 普通に学校に通って、就職して、生活する。
 多分このままでは、そうやって人生は過ぎて行くんだろう。
 何かつまらない。
 普通では物足りない。
 もっと良い生活がしたい。
 家とか、服とか、車とか、宝石とか、その他思いつく限りの贅沢な物を手に入れてみたい。
 そして人に羨ましがられてみたい。
 金や所有物だけじゃなく、容姿とか、才能とか、人格とか、
 自分という人間に対する他人からの惜しみない賛辞を、嫌というほど受けて見たい。
 尊敬されたい。
 
 詰まるところ、成功したい。
 このまま名も無い世間の一員として過ごすのではなく、
 有形無形の欲しいものを全て手に入れた上で、自分の名前を世間一般に知らしめたい。
 そのためなら、我慢はしよう。
 それは仕方が無い。
 望んでいるものがすぐ手に入ると思うほど、子供ではない。
 そんな子供っぽい決心をした17歳の春であった。
 

 さて、意を決したところで考える。
 具体的に、成功するためにはどうしたらよいか。
 まず一般的なところで、勉強する手がある。
 勉強して、良い大学に行って……そのあとはよく知らないが、
 とにかくこの頭を使う道が、多分最も一般的な成功へ続く道だろう。
 が、これはダメ。
 自慢じゃないが、頭のデキを褒められたことはあんまりない。
 口はよく動く方なので、それに直結している頭も、そんなに悪くは無いんじゃないか……
 と自分では思っていても、細々したことは覚えてられない性質なので、
 これまで他人からの評価は芳しくない。
 頭がダメ、となれば体か。
 体という言葉には様々な意味があるが、あんまり道徳的でない道は削除して考える。
 その辺、育ちがいい。
 というか、金はともかくとしても、尊敬は期待できないという考えもある。
 改めて、健全な意味で、体を使って成功する道を考えてみた。
 こっちには自信がある。
 何よりこれまで、自分より背の高い同性にはお目にかかったことがないし、
 体つきも決して軟弱ではない。
 そこで更に、より具体的に、体を使って何をするか考える。
 世の中には様々なスポーツが存在するが、その中で成功できそうなものは何か、と考えた時、
 案外と選択肢が少ないことに思い当った。
 野球やサッカー等のメジャースポーツで、女性が男性並みに成功することは不可能に近い。
 かといってそれらよりマイナーなスポーツでは、そもそも仮にトップに立ったところで、
 社会的に成功しているとは言い難い。
 どうしたもんか、と、思考に行き詰って、ふとテレビを点けた。
 ちょうどプロレス番組をやっていたところで、画面にはワールド女子の試合が映し出されている。
 そこには見慣れた顔があった。
 その、安宅留美と同じ色の髪をした妖艶な女性は、
 リングの上で腰に手を当ててしなを作りながら、自分が持っているベルトを掲げ誇示していた。
(何やってんだか)
 従姉であった。
 当の本人もよくわからない内に、プロレスラーになっていたような人間である。
 そんなヤツが頂点(の内の一つ)に立っている業界とは、一体どんなところなのか。
(あれ?)
 あんなのが頂点に立てるなら、自分にだって出来るだろう。
 ついでに、プロレスで成功するというのは、かなり儲かるという話を従姉が言っていた気がする。
 さらに、団体によっては地上波放送があるので、知名度を得るという意味でもまあ申し分無い。
(コレにするか)
 そうと決まれば善は急げ。
 確か地元にもプロレス団体があったはずで、そこが業界で一番大きいというわけでは多分ないだろうが、
 その点はゆくゆく大きい団体に拾ってもらうか移籍すればいいだけの話。
 それに大所帯の下っ端は色々と面倒くさそうなので、とりあえずそこそこの規模で始めるのも悪くない。
 と、そういうわけで、安宅留美はVT-Xの門を叩いたのだった。

[PR]
by right-o | 2011-10-31 11:31 | 書き物
※以下全文、STRさんが書かれた文書の転載です。


西暦20X1年3月……

空前の盛り上がりを見せる女子プロレス界。
全国的な人気を誇る巨大団体・【新日本女子プロレス】を筆頭に、
サンダー龍子率いる【WARS】、ビューティ市ヶ谷の【JWI】、
ブレード上原が支える【太平洋女子プロレス】、
新興ながら勢いのある【東京女子プロレス】などが覇を競い、他にも小規模団体が乱立している。

そんな混迷と動乱の時代……
若さと情熱に溢れ、恐れを知らぬ少女たちが、新たに四角いジャングルへ飛び込もうとしていた。
いずれマット界に訪れる巨大な嵐の存在を知る由もなく……


福岡県某所にある、新興女子プロレス団体【VT‐X(ヴォルテックス)】の道場――

「……996、997」
明日のレスラーを目指す少女たちが集まり、入団テストを受けている。
VT‐Xは歴史の浅い新団体とはいえ、九州では随一の規模を誇るだけあって、希望者も多数詰め掛けている。
まずは小手始めのスクワット……だが、この時点で早くも脱落者が続出。
「998、999、1000!」
1000回のヒンズースクワット――
女子プロレスラーとしては、さして過分な要求とはいえない。
が、最後までやりとげたのはホンの数人。
「お疲れ様です~。あ、もうギブアップな方は、帰って下さいね~~」
審査に立ち会っているVT‐Xレスラーの一人、《神塩ナナシー》が呑気な声で告げる。
息も絶え絶えな少女たちが、はいずるみたいにして道場を出て行く。
「フン…情けないわね」
鼻で笑ったのは《真壁那月》、まだ若手ながら打撃には定評のあるVT‐Xのレスラーである。
「でも~、去年は那月もあんな感じだったけど~~」
突っ込むのはこれまたVT‐Xの《獅子堂レナ》。
「い、いいでしょうっ、ちゃんと1000回こなしたんだから!」
実際、重要なのは1000回こなせるかどうかもさることながら、これを経てなおかつテストを受け続ける気力があるかという気力である。
流石に1000のカベを超えた連中は、疲労の色を濃くしつつも、その目は死んでいない。
その中でも、とりわけ強い眼差しを持つ3人の少女――

一人はアメリカ出身、あちらでは相応に試合もこなしてきたというレスラー。
また一人は長身で眼光鋭い、一匹狼風。
そして整った顔立ちだが、不遜な面構えの少女。

体力テストは更に続いていく。

最初の「体力テスト」は、難なくクリアしてみせた〈安宅 留美〉。
続く「個別面接(自己アピール)」では、飾らない言葉で啖呵を切って見せたが、逆に「それくらい元気があった方がよろしい」みたいな感じで印象はなかなか良かったようだ。
とはいえ、まだまだ気を抜くわけにはいかない。
「スパーリング(練習試合)」もきっちりこなして見せる。

最初の彼女の相手となったのは、
〈ルーチェ・リトルバード〉
という外国人である。
体格的にはパッとしないが、かなり“出来る”と見える。
先ほどの体力テストはきっちりこなしていたが、面接は……どうやら日本語がほとんど喋れないらしく、さっぱりだったようだ。
相当な気持ちで向かってくるだろう。
留美は気持ちを引き締め、リングに上がった。……

――しかしこの対戦では、終始ルーチェが優位を締めた。
留美のパワーをいなし、的確な打撃を打ち込んでくる。
ダウンさせられることはなかったものの、エルボーやニーリフトを叩き込まれ、こちらは有効な技を仕掛けられぬまま、制限時間が訪れた。
引き分け? いや、明らかに判定負けという所だ。

次の対戦相手となったのは、
〈オースチン・羊子〉
である。
体格はほぼルーチェと同等、テクニックで勝負するタイプだろうか。
体力テストではかなり息が上がっていたし、面接の態度もかなり悪かった……まぁ、留美も大差なかったのだが、そこは伝え方の問題であろうか。
スパーリングには全てを賭けてくるだろう。
それより何より、

――何となく、虫が好かねぇ。

いかにも我が強そうで、そのためなら何でもやりそうな奴。
つまりは同属嫌悪であるが、本人は絶対に認めたがるまい。
留美は気を取り直し、羊子と手を合わせた――

「そこまでっ」
レフェリーを務める《伊達遥》が両者の間に割って入った。
留美のショルダータックルで吹っ飛ばされた羊子は、ぐったりとマットに伏している。
脳震盪を起こしただろうか。
「フン……ザマぁねぇな」
鼻で笑って見せるが、そこまで余裕があったわけでもない。

ともあれ、これで全てのテストが終了した。
合否発表の時が訪れる……


「それでは、合格者を発表します~」
緊張の極みにあるテスト生たちとは裏腹に、能天気な声で神塩が続ける。
「え~っとですね、まず……」
「…………っ」
息を呑み、名前を呼ばれることを祈るルーチェ……
「19番、安宅留美さ~ん」
「――当然だな」
不敵にうそぶき、立ち上がる留美。
内心では結構ドキドキであったが、当たり前といいたげに髪をかきあげる。
「それから、30番、オースチン羊子さ~~ん」
「……どーも」
こちらはチト浮かない表情ながら、立ち上がる羊子。
(ゲッ。あいつも合格かよ)
他のスパーリングでもいまいちな結果だったので、てっきり落ちたかと思ったが……
(……まぁ、いいさ)
あの調子じゃ、どうせ入門した所で、練習にはついてこれまい。
遠からず夜逃げするのが関の山だ……

それから何人かの名前が呼ばれ、合格発表は終わった。
「……以上で~す。合格出来なかった人は、またトライして下さいね~」
「――ッッ!!」
ダンッ!! と道場中に轟音が響き渡った。
思わずギョッと音のした方向を見る一同。
さっきの外国人――ルーチェとか言ったか、彼女が立ち上がり、床を踏み鳴らしたのだ。
「ワタシ、カッタ! ワタシ! アイツ、アイツ、ミンナ、カッタ!」
留美たちを次々に指差しながら、必死に訴えているルーチェ。
確かに、スパーリングだけ見れば、彼女の動きは十分なものではあった。
が、いかんせん外国人、しかも日本語が不自由とあっては、なかなか難しいだろう。
「~~~ッ!!」
「●▲×□!! $%&$! #&”$%&~~~~!!」
激情のままに英語でまくしたてる彼女、しかしもはや時すでに――

「――そうね。確かに、強さこそが全てだわ」
ふらりと道場に入ってきた女性の声が、ルーチェの絶叫をかき消した。
その姿を見るなり、留美は思わずゾクリと肌が粟立つのを感じた。
(この女は……っ)
「あら~、十六夜さん、珍しいですね~」
「えぇ。ちょっと――ね」
十六夜――《十六夜 美響》。
VT‐Xのエース格として知られる、カラミティ・クイーン。
ルーチェに視線を向け、微笑を浮かべ、何やら英語で問いかける。
気圧されながらも、うなずく彼女。
「オーケー。……社長、どうかしら」
「見込みがあるんだろうな?」
「私の目が曇っていなければね」
「……いいだろう」
社長がメモに走り書きし、神塩に手渡す。
「あ、は~い。……27番、ルーチェ・リトルバードさ~~ん」
「ハッ……ハイッ!!」
大声で返答するルーチェ。
(――厄介なのが残ったな)
と、黙って見ていた羊子が、ふいにルーチェに英語で話しかけていった。
そういえば、変わった苗字だとは思っていたが……
熱い握手を交わす2人……
その時、羊子が留美に向かってニヤリと笑って見せた。

(――あの女!)

やっぱり、好きになれそうにないタイプだ、と安宅留美は思った。……



[PR]
by right-o | 2011-10-31 08:08 | 書き物