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「これがメカ美月です」
 後楽園ホールのリング上、エプロンに立った美月は、
 リング内の相羽と金井に向かってそれを披露した。
「は?」
 美月がトップロープにもたれ掛けさせた人形を見て、二人は目を見合わせる。
 着ているコスチュームは美月のものに似せてあるが、大きさは4分の3ほど。
 メカっぽい要素はどこにも無く、むしろどう見ても表面はビニール製で、中には空気が入っている。
 早い話が安物の……
「メカ美月です」
 観客の心の声を打ち消すように、美月は大事なことなので二回繰り返した。
 ちなみに、相羽と金井はこれをどう呼ぶか知らなかった。
 また今風にラブドールとか呼ぶには、ちょっとあまりにも安物過ぎたようである。
「というわけで、試合開始です」
 言うなり、美月は空気人形を相羽に向かって放り投げた。
 その瞬間、相羽と金井、そして観客は美月の意図を奇跡的に理解してしまった。


「うわっ」
 フライングボディアタックで奇襲したメカ美月は、相羽を倒してそのままフォールへ。
「あ、ズルい!」
 これは金井がストンピングでカットし、メカを捕まえる。
 小型軽量のメカ美月をコーナーに詰めてエルボーの連打。
「うりゃあッ」
 さらに、メカ相手だと妙に強気に攻めて行く金井に対して、
 背後から襲い掛かろうとした相羽が絶妙のタイミングでかわされ、
 結果メカへの串刺しラリアットの形で突っ込んだ。
 たまらずメカはコーナーに崩れ落ちる。
 図らずもメカを排除した残り二人は、もつれあってリング中央へ移動。
「しっかりして!」
 その間、リング下からマットを叩いて励ます美月の声に応えるように、
 メカはロープを掴んで少しずつ立ち上がる。
「いくぞっ……ぶッ!?」
 リング中央でエルボーの打ち合いを制した相羽がロープへ飛んだところへ、
 メカ美月はその顔面目掛けてトペ・スイシーダ。
 メカならではの謎の推力が働き、マットと平行になるほどの勢いで相羽へぶち当たって行った。
 美月が相羽目掛けてぶん投げたように見えたのは気のせいである。
 しかし軽量級の悲哀か、当たり負けしたメカは相羽を倒せず、
 逆に跳ね返った自分がロープの間から場外へ弾き出された。
 そのスキに、棒立ちになった相羽を金井が背後からスクールボーイ。
「こんなので負けるかっ!」
 返して反撃しようとした相羽の足を、場外から美月とメカ美月が引っ張ってリングから引き摺り下ろす。
「邪魔するなぁっ!」
 掴み合いからエルボーを放った相羽へ、メカもナックルを放って応戦。
 互いに引かない打撃戦が場外で繰り広げられようとしていた時、
「よしっ、二人まとめて!」
 金井がリング内からのプランチャ。
 殴り合っていた二人を一度にまとめて押し潰した。
 
 軽量故にダメージの深いメカを放置し、金井は相羽を引き摺ってリング内へ。
 しかし相羽は、無理矢理引き起こそうとした金井の手を弾き、屈んだ姿勢から一気に躍動する。
「だぁッ!!」
 その場飛びで打点の高いドロップキック。
 見事に金井の顔面を打ち抜いた。
 相羽は一気に攻め込むべく、コーナーに駆け寄り、
 コーナーパッドをばしばし叩いて観客に手拍子を要求。
「決めるよっ」
 軽快にコーナーを駆け上がり、ちょうど起き上がってきた金井へミサイルキック……を放とうとした時、
 いきなり斜め下から何かが飛んできた。
「うわっ!?」
 メカならではのあり得ない軌道で足から飛んできたメカ美月は、
 コーナー上に立ち上がっていた相羽を、なんとフランケンシュタイナーで投げ捨てて見せた。
 見た目に反した高機動メカである。
 かなりの高さから投げ捨てられ、相羽はダウン。
 だが、投げたメカ美月もダメージ大きく、ぴくりとも動かない。
 リング上に立っているのは金井ただ一人。
(これは、まさか、ひょっとして……!?)
 この時、金井の中の凶暴な血が目覚めてしまった。
 具体的に言うとザンギ使いの血が。
(コイツになら、あの技を掛けられる……!!)
 金井は、動かないメカ美月をそっと仰向けからうつ伏せにし、
 その背後に立って両手を大きく上に広げ、高々と吼えた。
「祖国のために!!」
 言うが早いかバックを取ったままメカを起き上がらせ、超高速のジャーマンスープレックス。
「アルティメットォ……!」
 投げた勢いのまま相手ごと自分も後ろに回転して立ち上がり、即座に今度はメカを持ち上げ、
 立てた右膝へその背中を思い切り叩きつけた。
「アトミィィィィック……!」
 強烈なバックブリーカーから、金井はメカを真上に放り投げた。
 落下してきたところを空中で捉え、頭を下にして両足で挟み込む。
「バスタァァァァァァ!!!」
 回転して捻りを加えたパイルドライバーが炸裂した。
 金井がゲームの中では何百回と決めてきた必殺技も、現実に決まるのはこれが始めてである。
 すかさずフォールに行ったところで、金井は妙に薄っぺらくなったメカの感触に気がついた。


「あ」
 一瞬、会場全体が固まってしまった。
 スクリューパイルドライバーをくらってどこか破れたらしい空気人形の残骸を手にした金井が、
 救いを求めて泣きそうな目でを周囲を見回している。
 その後、機転を利かせたレフェリーがゴングを要請し、
 グダグダの展開にようやく終止符が打たれたのだった。

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by right-o | 2011-01-30 18:44 | 書き物
 とある団体の食堂。
 夕食を食べ終わった美月は、テーブルに肘をつきながらテレビを見ていた。
 その後ろで、非常に不毛な議論が行われている。
「ボクの方が巧いよ!」
「あたしの方が巧いもん!」
 何故か相羽と金井が互いに試合の巧拙について主張しあっていた。
 超どうでもよかった。
 美月は雑音を脳内でシャットアウトして画面に集中する。
 映像の中では、ある一つの偉大なキャリアが終わろうとしていた。
 美月が見ているのは、ある試合のDVD映像。
 それは実に十六度も世界王者に輝いた伝説的なレスラーの引退試合である。
『I'm sorry,I love you』
 顔面を流血で真っ赤に染め、
 満身創痍ながらもまだファイティングポーズをとって立ち上がろうとする伝説に対し、
 介錯役を任された、こちらも伝説レベルの大ベテランの口が、そんな風に呟く様子が見て取れた。
 この場面は何度見ても涙を誘われる。
 次の瞬間、トラースキックの一撃が伝説に終止符を打った。
 「箒が相手でもプロレスができる」と言われた名人が、リングを去った瞬間である。
 まあその後二年ぐらいして別の団体で試合してたりするのは、また別の話として。
 後ろの二人も、ギャーギャー言う前にこういうの見て勉強すればいいのに……と、思っていた時、
「あ」
 美月はあることを思いついた。
 名人は箒が相手でもプロレスができる。
 つまり、箒が相手でもプロレスができる人は、プロレスが巧い。
 いや、箒はものの例えだろう、せめて手足ぐらい付けてやろう。
「どちらの方がプロレスが巧いか、私が確かめてあげます」
 まだ不毛な議論を続けていた相羽と金井へ、美月はそう言い放った。

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by right-o | 2011-01-23 18:03 | 書き物