「ダークネスバスター」「ウルトラウラカンラナ」榎本綾VSサキュバス真鍋

「ムフー、今日もイジメてあげるよぉ」
「負けないんだからっ!」
 綾対つかさ。
 プロレスラーと言うにはいかにも貧弱に見える二人の戦いこそ、
 ある意味で激闘龍という団体を象徴するものだった。
 伊達はヒール軍団のリーダーとして、吉原と一緒にリング下に控えながら、
 スキあらばつかさを援護すべく二人の試合を見守っている。
(嫌だなあ……)
 背後から感じる観客の視線が痛い。
 参戦から一ヶ月、彼女は相変わらずなし崩し的にヒールを続けていた。


 まずはつかさが不意打ちでトーキックを入れて試合開始。
 そのままロープへ押し込んで反対側に振ると、すかさずうつ伏せに体を投げ出した。
「えいっ!」
 綾はこれを空中で前方に一回転しつつ飛び越すと、
 さらにもう一度ロープの反動をつけてからつかさに取り付き、
 体の周囲を二度ぐるぐる回る変形のヘッドシザースで投げ捨てる。
「うわわわわっ!?」
「えーいっ!!」
 続けてサードロープの下をくぐって場外に消えたつかさに向かい、
 場内(つかさから見て)側面のセカンドロープを踏み台にして、
 正面のトップロープを斜めに飛び越す三角飛び式のムーンサルトプレスで追い討ち。
「凄い…」
 と、ここで、感心している伊達を余所に、吉原は早速綾に手を出した。
 着地を決めて観客にアピールしている綾を背後から蹴り倒すと、
 一旦リング内に放り込んでからつかさに駆け寄る。
「ほら遥ちゃん、ぼーっとしない」
「あ、はい…」
 つかさを助け起こしながら伊達を見上げる吉原は、あくまで笑顔。
 そのくせヒール的な働きは妙に手馴れている。
「んーもう、頭きたもんね!」
 そう言って、つかさはリングへの戻り際にタイムキーパー席の木槌を引っ手繰っていった。
「ど、どうするのそれ…」
 心配顔の伊達の前で、つかさは立ち上がりかけている綾に近づき、
 その頭をコンコン殴り、柄の部分で額をグリグリする。
「いたい!いたい!やめてよ~!!」
「ちょ、ちょっと…」
 嫌がってるから止めなさい、と言うわけにもいかない伊達がオロオロしている間、
 イジメられている綾に対する声援とイジメているつかさへのブーイングが、
 徐々に会場を盛り上げていった。

「ムフフフフフ、もう決めちゃおっかな~?」
 ひとしきり綾を蹂躙した後、満場のブーイングに笑顔で手を振りながら、
 つかさは綾を引き起こしてブレーンバスターの体勢に捕えた。
 綾はつかさよりさらに一回り小さい。
 普段は動き回って相手を撹乱しつつ戦うしかないつかさでも、
 綾と戦う時だけは、力任せに攻めることができる。
 が。
「よいしょっ!」
 頂点まで持ち上げられた綾は、
 すかさず体を捻って、空中で肩をつかさの顎の下に滑り込ませると、
 そのまま前に尻餅をついてスタナーで切り返した。
「ぶっ!?」
 そして顎を押さえてふらふらしているつかさの上に飛びついて、
 肩車の姿勢から顔の前に回りこみながらのフラケンシュタイナーで投げ捨てると、
「いっくよー!!」
 観客を煽りつつ、つかさが立ち上がるのを待ち構える。
 立ったところで、再び助走をつけつつ前から取り付いて体の周囲を旋回、
 序盤と同じく二回転ヘッドシザースにいくと思いきや、
 つかさの背面で背中合わせに止まり、左足を右腕、右足を左手にフックしてから、
 体に反動をつけての十字固めでつかさの後頭部をマットに叩きつけた。
 つかさはなんとか肩を上げる。
「もう、おしまいにするもん!」
 ぐったりしているイジメっ子に対して、綾が可愛くフィニッシュを宣言した。
 しかし、悪いセコンド陣がそうはさせない。
 綾がロープへ走ったところで、
 吉原が、先日伊達の試合でも出てきた青いプラスチックケースを背中に叩きつけた。
(うわぁ……)
 そんな暴挙を笑顔でやった吉原に、観客と一緒に伊達も引いている。
「チャ~~ンス!」
 そして味方の援護ですっかり息を吹き返したつかさは、
 自分の方に向かって力無く歩いてきた綾を捕まえると、
 まず両手を交差させ、ブレーンバスターと同じように頭を左脇に挟んだ。
 次に左手で交差した綾の両手を維持しつつ、右手を股に差し込んで一気に持ち上げ、
 そのままノーザンライトボムで頭から垂直にマットへ突き刺す。
 場内から悲鳴が聞こえてきそうな、つかさの対綾専用の必殺技だった。
「はい、おやすみ~………って!?」
 余裕の表情で押さえ込んだが、綾はなんとかギリギリで跳ね返した。
 この頑張りを、会場全体が綾コールで後押しする。
「ちぇっ、じゃあ次はど~しよ~かな~?」
 と、つかさは場外の吉原にウインク。
 吉原の方は、相変わらずの笑顔で応えた。
「じゃ、遥ちゃんコレお願い」
「え…?」
 プラスチックケースを渡された伊達は、狼狽した。
 リング内では、つかさが、起こした綾を羽交い絞めにしてこちらに向かっている。
「流石にレフェリーが黙ってないだろうから、私はそっちをなんとかします」
「え、ちょ、ちょっと……!?」
 吉原はさっさと反対側に回ってレフェリーを引き付けに行ってしまい、
 後に遥一人がケースを持って残された。
「遥さーん、はーやーくー!」
 つかさに急かされた伊達は、仕方なくエプロンに上り、ケースを両手に持って振り上げた。
 目の前に、自由を奪われた涙目の綾の顔がある。
「ご、ごめんなさいっ……!」
 目をつぶって振り下ろすと、ボンといい音がして、手応えがあった。 
「っ……?」
 が、恐る恐る目を開けた伊達の眼前にいたのは、両手で頭を押さえたつかさだった。
 伊達の一発は、直前で綾にかわされて豪快に誤爆したのだ。
 次の瞬間、伊達はケースごと綾のドロップキックでリング下に叩き落され、
 伊達のいた場所にロープを飛び越えて綾が着地。
「今度こそ、覚悟してねっ!!」
 トップロープから飛んだ綾は、前方からつかさの両肩に座り込んで着地すると、
 そこから急角度のフランケンシュタイナーを決め、固めた。
 伊達に殴られた所からマットに着地させられ、つかさは完全に伸びている。


「わーい!勝ったよ!みんな応援ありがとう!!」
 綾が喜びのマイクアピールをしているのを背中で聞きながら、
 ヒール軍団はいそいそと引き上げていった。
 伊達の長身が、すっかり丸くなっている。
「遥さーん、もうしっかりしてくださいよー」
「ちゃんと相手を見なきゃダメよ遥ちゃん」
(そんなこと言われても…)
 伊達の苦悩は、まだまだ終わりそうになかった。

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by right-o | 2008-10-08 17:55 | 書き物