「キメラプレックス」「ジャンボの勝ち!」 マッキー上戸VSボンバー来島

「ラッキーキャプチャー」の続きです。

 とある大型体育館の控え室。
 ジューシーペアの二人は、あてがわれた部屋で、
 いつも以上に対照的な過ごし方をしていた。
 入念な準備運動を終えてヤル気に満ちている上戸を横目に、
 内田の方はイスに深く腰を下ろし、腕と足を組んでじっと動かない。
「なあ、何がそんなに気に入らないんだよ?」
 試合前に静かなのはいつものことだが、
 今日の内田は、集中しているというよりむしろ憮然としているように見える。
「…アナタに言ってもわからないわ」
「あっそ。まあ今日は組むわけじゃないから、そっちが不機嫌でも別に関係ねーけどよ」 
 この日はこれから、来週に控えたタッグタイトルマッチに向けて最後の前哨戦が組まれていた。
 セミで上戸が来島と、メインで内田が祐希子とシングルで当たることになっている。
「何せ今日こそは来島のヤツと…!」
「決着をつけてやる、とか思ってないでしょうね?」
 目を閉じていた内田が、器用に右の瞼だけを上げて上戸を見た。
「悪いかよ?」
 ハァ…、と長い溜息を吐いてから、内田は改めて上戸に向き直り、ちょっと怖い顔をする。
「いい?今日は本番じゃないんだから、手の内を全部見せることはないのよ」
「あー……つまり?」
「奥の手は使うなってこと。具体的に言えば、アレはジャーマンまでにしといて」
「ああ!大丈夫、アレを使うまでもねーって。じゃ、そろそろ行ってくるぜ!」
 言いながら、上戸が元気よく控え室を飛び出したあと、
 内田はもう一つ大きな溜息をついた。
 さっき言ったことは、もう上戸の頭からすっかり消えてしまっている頃だろう。
(まあ、二十分で決まる勝負とは思えないけど…)
 試合時間が短いことだけが、内田にとって救いだった。
 内田のこの辺りの考え方は、ちょっと屈折して見えるほど無駄に深い。


 が。
 内田のわずかな期待を裏切り、
 上戸VS来島の試合は、とんでもないハイスパートで繰り広げられていく。
 両者とも、「様子見はこの前済ませた」、とばかりに最初からパワー全開。
 まず額を突き合わせた後、どちらからともなくヘッドバット合戦が始まる。
 それぞれ十回食らわせた辺りでそれに飽きた二人は、
 ボディスラム、ブレーンバスター、パワースラムとそれぞれに掛け合った。
 さらに、来島がコーナーからのダイビングショルダーアタックを見せれば、
 上戸はリング内からロープ超えのフロントスープレックスで場外へ投げ捨て、
 互いに初対戦では開けなかった引き出しをどんどん披露していく。
 場外に出たら出たで観客席にまで雪崩込んで殴り合い、
 さらに地面の薄いマットをわざわざ剥がしてから、
 パイルドライバーを決めたり、返したりしながら意地を張り合った。
 ただ、この外に出ていた間には、いくらかの時間が経っている。

『二人とも、リングアウト負けにするぞ!』
 試合時間が十五分を経過した時点で、
 場外乱闘の長さに痺れを切らしたレフェリーが脅しをかけた。
 そして仕方なくリング内に戻ってきた二人は、
 また元のように額を突き合わせての睨み合いに戻る。
 ここで上戸が仕掛けた。
「オラァッ!」
 おもむろにロープへ飛ぶと、反動を使って来島へラリアット。
 「オマエの得意技で勝負だ」という、これ以上ない挑発だった。
「ッ…こんなもんかよ!!」
 仁王立ちで受け止めた来島が、右手を握り込んで震わせる。
 来島のお返しを期待した観客達が、一斉に騒いで盛り上がった。
「うおおおおおッ!!」
「ぐっ!?」
 もちろん来島はナパームラリアットで応え、今度は上戸が両足を踏ん張ってこれに耐える。
 しかし、流石に効き目が違った。
 倒れはしなかったものの、上戸の体が明らかにぐらついている。
「どうした!もう終わりか!?」
「うるっせぇぇぇぇ!!!」
 示し合わせたように同じタイミングで逆方向へ走ると、
 二人は全体重を前に預けてリング中央に殺到した。
 そしてさらに全力を込めて、同時に右腕を振り抜く。
「くはっ!?」
「がっ!!?」
 それぞれの喉元に炸裂した一発に、来島は数歩ふらついて持ちこたえ、
 上戸は後ろに転がって吹き飛んだ。
 純粋な腕力なら来島が上なのかも知れないが、
 それよりも、ラリアットにかける来島の意地が上戸を遥かに上回っていたと言える。
 確かな手応えを感じた来島は、頭を振って意識の靄を払うと、
 倒れた上戸にすかさず覆い被さった。
(ヤバイ……ッ!)
 そう感じた瞬間、無意識に上戸の足がロープに伸びていた。
 それを見逃さず、レフェリーが2まで入れたカウントを即中断して立ち上がる。
「チッ!」
 来島もすぐに立つと、肘のサポーターを直して「トドメ」をアピール。
 右腕をぐるぐる回して改心の一発を予告した。
 一方、
「…あんな…ヤツにッ……!」
 上戸はまだ試合に負けたわけでもないのに、
 歓声が無ければ周囲に聞こえるぐらい大きな歯軋りをしながら悔しがっていた。
 ロープに逃げなければ負けていたかも知れない。
 そう考えるだけで、無性に悔しくて、腹が立った。
 それが自分のいらない挑発が招いた事態だとかいうことは、覚えていない。
 ついでに、自分の体の痛みも忘れている。
 試合前にパートナーからもらった忠告は、言うまでもない。
「おりゃああぁぁぁぁ!!!」
 起き上がりを待って放たれた来島の攻撃を、上戸はこの試合で初めてかわした。
 ナパームラリアットをかいくぐって来島のバックを取ると、
 まずはジャーマンスープレックスで投げ捨てる。
「だあッ!!」
 レフェリーがフォールを数えようと身を屈める間も無く、
 来島の腰に手を回したままで立ち上がり、そのまま腕を持ち替えてドラゴンスープレックス。
「終わりだぁぁぁぁ!!」
 同じ要領で、さらにもう一発ロコモーション式のクロスアームジャーマン。
 ここまで反則的な大技を連続でもらっては、いくらタフな来島でも意識がもたない。
『ワン!ツー!…』
 しかし、俗に言う“レスラーの本能”からか、
 レフェリーの「ツー」を聞いた瞬間に来島の目が開いた。

(間に合えっ!)
 それでも結局、ゴングは鳴らされ、肩が上がったのは一瞬あと。
「よっしゃあ!!」
「おい!ちょっと待てよ!!」
 上戸はガッツポーズを作って立ち上がったが、来島は納得がいかない。
「返しただろ今の!見てないのかよ!?」
 レフェリーは、両方を無視した。
 試合が再開されることも、上戸が勝ち名乗りを受けることもないまま、
 ただリングアナウンサーの声だけが響きわたった。
『ただ今の試合、時間切れによる両者引き分けとなります』
「「ハァ!!?」」
 仲良く声を揃えたあと、事情を飲み込んだ二人は、
 またまた元のように額をつき合わせて火花を散らす。
 結局、内田の見立ては当たったが、希望はやはり、叶わなかった。

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by right-o | 2008-09-11 18:46 | 書き物