「まとめて!」「眉山」 フォクシー真帆&中森あずみVS相羽和希&永原ちづる

「だいじょうぶ、今度も多分なんとかなるぞ!」
 試合前に、そう言って明るく笑うパートナーの顔を、中森は溜息混じりに見た。
(この態度にも、いい加減慣れたものだな)
 と思う。タッグを結成してもう丸1年にはなるが、
 どんなに大きな試合を前にしても、真帆はこの調子なのであった。

 切欠というほどのものは特になく、
 はじめは単にマッチメーク上の余りもの同士が組まされたに過ぎない。
 それが案外うまくいったために、段々と2人で戦う機会が増え、
 気がつけばベルトまで持っていた。
 ベルトと言えば初めてタイトルに挑戦した時も、
 当時のタッグ王者の試合映像を見ながら、
 何事か勝機に繋がるものを得ようとしている中森の隣で、
「そんなもの見なくても、なんとかなるぞ」
 真帆は大あくびをしながら言ったものだ。
 何事も入念に準備する性質の中森にしてみれば、とても理解できない。
 しかし事実、なんとかしてきた。
 30分越えの死闘を制してタッグタイトルを得た後も、
 2人は強敵を相手に何度もの防衛戦を勝ち抜いてきている。
 とはいえ、中森までリング上で自然体に暴れまわっているだけで
 勝ってこられたわけではもちろんなく、
 やはり相方が自由気ままに力を振るっている陰で、
 人知れずバックアップに回っている人間の苦労があってこその成果であった。
 
 さて、そんな2人は、今夜ちょっと変わった挑戦者達を迎える。


「…どうする?」
「ん?相羽が出てきたら、真帆が出る」
 リング上、既に対戦相手を目の前にしての会話である。
 どちらが先発するか決めるところから、中森は真帆に合わせなければならない。
 常に試合の初めから出たがるかというとそうでもなく、
 真帆の気分次第であるため、中森としては試合の見通しが立てづらかった。
 今回は、対角線上で相羽が永原を押えて出てきたのを見て、
 中森を追い立てるようにしてロープの外へ出し、自分から出て行った。

 相手は妙なタッグと言えた。
 相羽・永原共にそれぞれ既存のパートナーがいながら、
 今回は彼女らを差し置いての挑戦なのだ。
 何でも、同じく得意技としてジャーマンを使っていた中で、
 技に対する考え方の違いから一旦は対立して激しい試合を繰り広げたが、
 それが済んでからは互いによく分かり合えたのだという。
 このあたり、中森ですら(奇特な)と感じるのみで、
 急造タッグだけに細かい連係の部分ではこれまでの相手よりは落ちるだろうと思っている。
 真帆に至っては言うまでもない。
 相羽と向かい合いながら、右手を上、左手を下に出して構え、
 指をわきわきと動かしながら、何が楽しいのか妙にニヤけている。
「……?」 
 実は真帆が、相羽から漂う「いじられっ子」的なオーラを嗅ぎ取って
 反応しているだけなのだが、もちろん相羽本人に自覚はなかった。
 何か秘密の作戦でもあるんだろうか、と固くなってしまっている様子は、
 相手に呑まれてしまっているのと同じかも知れない。
「そいつ、何も考えてませんよ」
 なんとなく相羽の気持ちがわかる中森は、傍で見ていてこう言ってやりたくなったりもする。
 普段からそうだし、ましてリングの上ともなると、
 ほとんどその場の思いつきだけで動いているようなものである。
 この時もそうだった。
 両者同じ構えのまま手四つに組むかと思いきや、
 真帆が突然距離を詰め、
 相羽に対してほとんど背中を見せるような勢いで、腹部に膝蹴りを入れた。
 続けて自軍側のロープに押し込み 反対側に相羽を振る。
「わっ!?」
 そして相羽が跳ね返ってきたところへ足を絡ませて、
 ドロップトーホールドという真帆には珍しい小技を見せて引き倒す。
 と同時にもう中森がリングインしている。
 この機微が、1年活動を共にしてきたタッグの強みだった。
 うつ伏せに倒れた相羽に対して正面から駆け寄った中森は、
 体を屈めると上から相羽の顎を両手で掴み、
 そのまま前転して相羽の胴体を跨ぐ形でブリッジをつくった。
 足を極めない鎌固めの体勢に似ている。
 そのようにして相羽の顔が強制的に前を向かされているところへ、
 ロープの反動を受けた真帆が正面飛びの低空ドロップキック。
 そのままさらに、今度は代わって真帆がキャメルクラッチで相羽の顔を固定したところへ、
 中森が同じようにドロップキック。
 この2発で、相羽の鼻の頭がたちまち真っ赤になった。
「う、痛ったぁ…」
「どうだっ!?」
 相羽を引き起こしながら、得意げに、コーナーに控える永原を挑発する。
 本来なら、まず真帆を調子に乗せないことが王者組を攻略するための近道なのだろう。

 もちろん相羽・永原だってやられてばかりではない。
 この2人は経験が無い分だけ、王者組と違って事前の打ち合わせが入念だった。
 そんなジャーマン娘たちの大反撃は、中盤、中森対永原の攻防から始まる。
 スキを突いた永原がバックにまわり、
 すわジャーマンかと中森が抵抗の姿勢を見せた時、相羽が動いた。
(なんだ…?)
 中森を正面から攻撃してサポートするかと思われたが、
 相羽はまず相手コーナーの真帆を攻撃すると、
 中森の背後でジャーマンの体勢に入っている永原の、さらに後ろに回る。
「「せーのっ!!」」
 2人の掛け声を聞いた後、中森は永原にジャーマンで投げられ、
 さらに中森を投げている永原を相羽がジャーマンで投げ捨てた。
 二段式に投げっぱなされた中森は
 高度、飛距離とも通常版の約1.5倍ほど飛んで頭から落ち、跳ねた。
 意識が無いのか、ぐったりしている。
「あずみッ!?」
 技をかけた方の2人にとって誤算だったことは、
 一つには飛ばしすぎてフォールに行きづらかったこと。
 もう一つは、当たり前のことだが掛けた方もダメージがあるということ。
 中森を直接投げた永原はさらに相羽に投げられたわけで、
 相羽の方も、通常の投げっぱなしジャーマンと勝手が違うために、
 どうしても頭が永原の背中の下敷きになってしまう。
 この辺は、挑戦者組も結構、抜けている。
 そういったわけで急には動けずにいた間に、
 真帆は動けない中森を無理矢理自陣まで引き摺ってきて交代した。
  
 それから5分経ち、リング外に転がっていた中森はようやく体を起こすことができた。
 痛む頭を押えてエプロンに這い上がると、
 ちょうど相手方が再度のツープラトン攻撃を仕掛けているのが見える。
「相羽、いくよッ!」
「わっかりましたっ!」
 永原は、ニュートラルコーナー付近で倒れていた真帆を引き起こすと、
 一瞬の早業でジャーマンスープレックスホールドを決めた。
 次いで相羽が、永原のブリッジから手渡しを受けるように、
 くの字に曲がっている真帆の腰に手を回す。
「いっやあぁぁぁぁ!!」
 ホールドされている真帆を、さらにぶっこ抜いてのスターライトジャーマンが決まった。
 これはなんとか中森のカットが間に合ったものの、流石の真帆も、
 孤軍奮闘した後に必殺ジャーマンを2発くらっては虫の息である。
「くっ……!」
 なんとか流れを変えたいと思っていたところ、
 中森にとってそのチャンスは意外に早く訪れた。
「永原先輩!」
 中森を場外に放り投げた永原が振り返ると、
 相羽がふらふらの真帆を羽交い絞めにして立っている。
「よーしっ!!」
 永原が腕をぐるぐる回しているのをよそに、
 リング下の中森は、リング上の真帆の目を一瞬見た。
 相羽の腕の中の真帆にも、目に光が戻ったように中森には見えた。
(経験の差かな)
 逆転の好機を逃すまいと、中森は身構える。
「うっ!?」
 うかつにも自分が中森を落とした側のロープに走った永原が、
 背中でもたれかかった瞬間を、
 素早くエプロンに上がった中森がロープ越しのスリーパーで捕えた。
 同時に真帆も相羽の手を振りほどき、背後へのエルボーで反撃すると、
 左腕を背中に回して相羽の頭を抱き、
 左肩の上に相羽の顎を乗せるようにして固定した。
 真帆が相羽の頭を肩に担いだのを見ると、中森は永原の首に回した腕を解き、
 代わりに後頭部を小突いてやる。
「げほ、げほ…ぐっ!」
 喉を押えながら前につんのめった永原にトーキックを入れると、
 真帆は相羽をそのままにしつつ、さらに永原の頭を右の脇に抱えた。
「まとめて、やってやるぞっ!!」
 肩と脇に人の頭を抱えたまま、思いっきりジャンプして尻餅をつく。
 すると勢い、永原にDDTをかけつつ、
 相羽の顎を肩で跳ね上げてスタナーをかける形になった。
 相羽は後ろに仰け反って踏みとどまったが、永原はうつ伏せになって頭を押えている。
「真帆っ!」
「おうっ!」
 その隙に、真帆は赤コーナーから伸びている中森の手に飛びついた。
「このぉっ!」
 中森は、リングインするなり顎が痛いのを我慢してラリアットを打ってきた相羽の右脇に
 頭を差し入れると、さっとエクスプロイダーで放り投げ、
 続いて永原をリング外に追いやり、再び相羽に向き直る。
 しかし相羽も投げられてすぐに立ち上がると、またも根性で中森に向かっていった。
 そこで両者リング中央で足を止めてのエルボー合戦が始まる。
「……?」
 一息つきながら、真帆はその様子を見て首を傾げた。
 中森がムキになって打撃戦に応じているのを、あまり見た記憶がない。
 そうしていると、打ち合いのリズムに不意に奇妙な間ができた。
 中森が打つ手を止めて、右足を大きく引いたのである。
 次の瞬間、大振りのハイキックが空を切った。
 見え見えの一発を、相羽が姿勢を落として回避したのだった。
「!……わかったぞ」
 ガラ空きになった中森の背中に相羽が組み付いた時、
 真帆はおおよそ相方の意図を理解した。
 と同時に、注意はリング内ではなく、コーナーに控えている永原の方に向けられる。
(引っかかった。…さて!)
 相羽に背後を取られた中森の方も、自分の策が真帆に伝わったことを確信していた。
 頭で考えることが得意でなくとも、
 中森はパートナーの勘の良さについては十分信頼している。
「はッ!」
 絶好の勝機を得たように見えた相羽が、中森を引っこ抜くと同時かやや早く、
 中森の方が自分からマットを蹴っていた。
 ただし、重心を前に投げ出すようにしてある。
 半ばまで浮かび上がった体をそのまま前に一回転させて相羽の足の間をくぐると、
 中森は両手で相羽の右足首を捕まえた。
 そして、鮮やかなジャーマン返しを最後まで見届けることなく、
 真帆は永原に向かって突進している。
「しまった…っ!?」
 カウンターでアンクルロックに捕えられた相羽は、
 上体で必死にもがいてロープを掴もうとしたが、
 初め立ったまま掛けていた中森が体をマットに投げ出して
 ガッチリ極めにかかるに及んで、無念のタップアウト負けを喫した。
 

「ほら、やっぱり今度もなんとかなったぞ!」
「わかったわかった」
 返還されたベルトを持ってぴょんぴょん跳ね回るパートナーを見て、中森は苦笑した。
 自分の方が合わせているつもりでも、やはり真帆に助けられている点は多いような気がする。
 性格は全く正反対ながら、どうして組む試合となればこう上手くいくのか、
 我ながら自分たちが不思議だった。   

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by right-o | 2008-08-18 00:00 | 書き物