「噛みつき」「バックドロップホールド」フォクシー真帆VSテディキャット堀

 とある団体の地方興行の第一試合。
 屋外で行われたこの興行、まずは前座の定番カードである猫と狐の対決が、
 普段どおりに会場をゆる~く暖めていた。
 
「それっ」
 ロープワークから堀がマットに横這いになったところで、真帆が、
「なに寝てるんだ?」
 と言いつつ背中を踏んづけたり、
「あっ!向こうでお肉焼いてるにゃん!」
「ホントかっ!?」
 というふうに騙された真帆に向かって堀が逆襲したり、
 そんな感じで試合はいつもと変わらずにダラダラと続いている。

 が、そんないつもと変わらない展開に、この日はちょっとした変化が起こった。
「テディキャット堀、うまいのかー!?」
「い、痛い!痛いにゃん!!」
 コーナーに追い詰めた堀の額に向かって、
 セカンドロープに乗った真帆が噛みつき攻撃を仕掛ける。
 2人の試合における定番ムーブの一つであったはずのこの攻撃が、
 この時はどういう加減か深く決まりすぎた。
 その結果、真帆の大きな八重歯が堀のおでこをほんの少し傷つけ、
 本当にわずかながら流血させてしまった。
「あー!血が出てる…」
 わざわざセコンドから手鏡をもらい、前髪を上げて堀が傷口を確認している傍、
 真帆も真帆で、
「ぺっぺっ!今日の堀っちはいつもよりマズイぞ……」
 とやっている。
 どっちもどっちであった。

「もう怒ったにゃん!」
 言うなり、堀はリングネーム通りの身軽さでコーナートップにひらりと飛び乗った。
 一応、彼女なりに本気で怒ってはいるらしい。
 そこから、真帆がこちらを向くのを見計らって飛び、
 立っている真帆に対して身体を浴びせていく。
 しかし。
「おっと」
 という感じで、あっさり真帆に受け止められてしまった。
「にゃっ!?離せにゃん!!」
「わかったぞ」
 応えると同時に、横向きに抱えた堀の身体を、
 ブロックバスターの要領でそのまま背後にぽーんと放り投げる。
 堀もそれほど小柄でないとはいえ、
 2人の腕力の差は、堀にとってなかなか厳しいものがあるようだ。
「うぅ~………」
「お腹空いたから、そろそろ終わりにす…」
 だが、仰向けにダウンしている堀を引き起こそうと、
 真帆が堀の頭に手をかけた時、文字通り急に風向きが変わった。
 広めの駐車場で行われていたこの興行、
 周囲にはこれに集まる客目当てで露店が多く出ていた中で、
 特に匂いの強い、お好み焼き・たこ焼き・焼きそば等のソースものが多かったことが、
 言ってみればこの試合の決め手になったのだ。
「!!」
 ばっ、と匂いが漂ってきた方を振り向いた真帆は、
 リング上をふらふらと歩いてロープ際までくると、
 露店の方を見つめたまま動かなくなってしまった。
 ぐぅ~、という間抜けな音までさせたことから考えても、完全に電池切れである。
「今がチャンスにゃん!?」
 背中を見せながらぼけっと突っ立っている真帆を見てそう確信した堀は、
 すかさず背後から真帆の腰に取り付くと、
 一息に臍で反り投げてそのまま爪先立ちブリッジ。
 なかなかの高角度でバッチリ極まったバックドロップホールドで、
 自分を流血させた憎き狐に復讐を果たすことに成功した。

 試合後、涎を垂らして失神(?)していた真帆は担架で退場。
 そのまま露店まで運ばれた。
 そして帰り際に真帆がアメリカンドックを奢ってあげたことで、
 この短い抗争には終止符が打たれたんだとか。
[PR]
by right-o | 2008-07-09 23:17 | 書き物