レッスル小町  めぐちぐVSちあちは

 とある中堅団体。
 まだまだ団体の歴史が浅く、選手達個人の知名度は低いながらも、
 この団体の“売り”であるところのタッグマッチは業界全体から高い評価を受けていた。
 そんな熱いタッグ戦線を牽引しているのは、まだ若い4人による2つのタッグチーム。
 通称「めぐちぐ」と「ちあちは」。
 今までに数え切れないほど闘ってきた2つのチームは、
 自分達こそが団体最高のタッグチームであることの証明を巡り、
 今宵再びリング上で相見えようとしていた。


 挑戦者である村上姉妹に続いて、王者チームであるめぐちぐの2人が入場を終えると、
 1500人程度の会場全体が開始のゴングを待ちわびるようにそわそわし始めた。
 まだまだ粗削りの4人には、
 一動作で観客全てを魅了するような技術や魅力は備わっていない。
 しかし、若い彼女達はリング内を試合開始から終了まで精一杯に動き回って闘うことで、
 時にそれ以上の興奮を与えてくれる。
 この団体の観客は、選手個人ではなく
 彼女達の“試合”を楽しみに会場まで足を運んできていると言えるのだろう。

 そういう雰囲気がリング上にも伝わったのか、
 ベルト返還やタイトルマッチ宣言といった形だけの行事がなんとなく足早に行われる中、
 ついに片方が痺れをきらした。
『……同じく、タッグチャンピオン!武藤ーめぐ…』
「オラァッ!」
「オラァッ!」
 めぐみのコール時を奇襲したちあちはの2人は、
 千春の方がコーナーで千種を足蹴にしている間に、
 千秋がめぐみをセカンドロープからリング外に投げ捨てる。
 そして千種をリング中央に引っ張り出すと、
 左右から同時に足を払って千種に尻餅をつかせ、
「「せーのっ!」」
  と2人で声を合わせてサンドイッチ式サッカーボールキックを背中と胸板に叩き込んだ。
「うっぐ…!」
「へっ!」
 上体をよじって痛みに耐える千種を今度は前から蹴倒し、
 2人同時に片足を乗せてフォール。
 当然カウント2にも満たない内に千種に払い除けられたものの、
 こうして序盤は村上姉妹が主導権を握った――かに思えたが、
「ほら!こっちよ!!」
 背後から声をかけられた姉妹が同時に振り返った時には、
 既にめぐみの足の裏が眼前まで迫っていた。
 そしていつの間にか千種はめぐみの邪魔にならない位置に避難している。
 トップロープから跳躍しためぐみは、
 両足を開いて片足づつ姉と妹の顔面を蹴り飛ばして背中から着地。
 そして、今度は自分がセカンドロープをくぐってリング下に消えていった千秋を見送ると、
 復活した千種は姉の千春の方を捕獲した。
「お返しだよっ!」
 中央に引き据えた千春の左右に立ち、
 めぐみと千種は同時に千春の膝裏にローキックを放って膝立ちにさせる。
「「せぇーのっ!」」
 一旦腰を引いてタメを作り、
 左から右脚でめぐみが、右から左脚で千種がトラースキックで千春の頭を挟み込んだ。
「ぐぇっ…」
 バチッという音の後、千春はバタリと前のめりになってマットに倒れこむ。
 ここで千種が千春のカバーに入る間にめぐみが赤コーナーへ下がり、
 ようやく普通の一対一形式で試合が開始された。


 その後も両チームはお互いにコンビネーションを駆使して一進一退の攻防を続ける。
 また、千種が千春をバックドロップの体勢に捉えれば
 千秋がロープ越しに精一杯手を伸ばして千春を掴むことで阻止し、
 逆に千秋がめぐみの背後から首に腕を巻きつけて裏投げにいこうとすれば、
 すかさず千種が正面から、めぐみの膝を踏み台にしての延髄斬りを後の千秋にくらわせて
 危機を脱する。
 お互いに必殺技を読みあい、決め手を欠く。
 そんな均衡が崩れたのは、ほんの些細なミスからだった。
 試合権利のあるめぐみが、
 同じくの千秋を羽交い絞めにして千種の打撃を呼び込もうとした時、
「わわっ!?」
 めぐみの腕を振りほどいた千秋がさっと横に身をかわしたせいで、
 めぐちぐの2人は正面から衝突するところだった。
 直前でなんとか千種がストップをかけ、ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。
「ぶつかってろ!!」
 青コーナーから飛び出した千春が、背後から千種を思い切り突き飛ばしたせいで、
 めぐちぐ2人の頭がゴツーンと大きな音を立ててぶつかり合ってしまった。
「痛ったぁ……!」
 こんな好機を逃す村上姉妹ではない。
 千秋がめぐみを赤コーナーへ縫い付ける間に、
 涙目で頭を押さえる千種の腹部へ、千春がソバットを放って前傾させる。
「よっしゃ!これでもくらいなッ!!」
 相手の頭を下げさせたところへ、
 横合いから走りこんでの必殺ステップキックで額を蹴り上げるべく、千春がロープへ飛んだ。
「!?……千種っ!!」
 この狙いに気づいためぐみは、
 咄嗟に千秋を力一杯突き飛ばすと、
 腰を曲げて前傾している千種の背中に左足で飛び乗る。
 そのまま千種を足場に使い、
 千種の頭を蹴り上げようと突進してきた千春へカウンターのシャイニングウィザード。
「な……ぐはっ!!?」
「てめぇッ!」
 昏倒した千春を尻目に、なんとかうまく着地しためぐみは
 さらに背後から追ってきた千秋も振り返り様のトラースキックで蹴り飛ばした。
 顎への一撃によって、思わずたたらを踏んで後ずさった千春の腰に、
 すさかず千種の腕がまとわりつく。
「やあぁぁぁぁ!!!」
 後方への垂直落下によってほとんど意識を分断された千春へ、
 めぐみがダメ押しでトップロープをたわませてのムーンサルトプレス。
 妹の必死の救援も間に合わず、
 完全に伸びた千春の横で3度マットが叩かれ、ようやく試合は決着となった。


「めぐみっ!」
「ちぐ…」
 めぐみがフォールの体勢から立ち上がろうと体を起したところへ、
 嬉しさのあまり千種が飛びついたところ…
ゴチン
 と、2人はまたも豪快に頭をぶつけてしまった。
 拍手と笑いの中、ちょっと涙目になりながら、
 2人は手を繋いで一緒に2本のベルトを掲げる。
 恥ずかしそうに苦笑いしながら顔を見合わせた2人の絆は、
 これぐらいのことではビクともしないのだろう。
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by right-o | 2008-05-04 23:11 | 書き物