「ダ・グリンゴ・キラ」チョチョカラスVSジョーカーレディ

ゴツッ
 という嫌な音が、屋外に設けられた大会場に響く。
 ジョーカーレディの振り抜いたイスで額を打たれ、
 たまらずチョチョカラスは大の字になって倒れた。
 レフェリーは当然、すぐにゴングを要請してジョーカーの反則負けを宣告。
 しかし当の彼女は全く意に介さず、そのままカラスのフォールに入る。
「ほら、どうしたんだい?カウントだよ」
『……ッ!?』
 ワン、ツー、スリーと3回マットが叩かれ、ジョーカーの勝利。
 3本勝負で行われているこの試合、これで1対1の五分となった。
 が、なおもジョーカーはカラスの上に覆いかぶさっている。
「フフフ、…さっさともう一度やるんだ」
『くっ……!』
 ワン、ツー、と叩いた後、公平でなければならないはずのレフェリーでも、
 流石に今回はカラスの復活を願わずにはいられなかった。
 その思いが通じたのか、カラスはわずかに肩を浮かせて敗北を拒む。
「チッ…!」
 反則攻撃で大ダメージを与えることで、1本捨てた後に2本連取しようという企みは破れた。
 とはいえ、それでもジョーカーの優位は揺るがない。
 マスクに血を滲ませながら必死で立ち上がろうと膝をついたカラスを尻目に、
 ジョーカーはカラスの背面側にあたるロープをくぐってエプロンに出ると、
 トップロープに両手をかけて相手が立ち上がりきるのを待った。
(なに、どの道今日は“取って置き”で仕留める予定さ)
 頭が回らず敵を見失っていることすら気づけないカラスが、
 なんとか自分の足で立ち上がったのを見計らい、再びジョーカーレディが襲い掛かる。
 トップロープの中央部分を大きくたわませて跳躍すると、
 リング中央で左右に揺れているカラスの後頭部を掴み、
 勢いと自分の体重を乗せてマットに叩きつけた。
 ジョーカー・アタック。
 何人ものテクニコを沈めてきたジョーカーレディの必殺技にも、仮面の貴婦人は屈しない。
 うつ伏せに倒れたカラスをひっくり返して押さえ込んだジョーカーを、
 カラスは先程よりも力強く跳ね返した。
「……チッ!」
 流石のジョーカーも多少驚いたが、この技を返されること自体は初めてではない。
 それどころか、
 ここから何度カラスの「貴婦人」らしからぬ意地に負けて逆転を許したかわからない。
(だが今日という今日は、きっちり息の根を止めてやる…!)
 そのために新技を用意してきたのだった。
 狙うのは、頭部。
 脳を揺らして思考を飛ばしてしまう以外、この粘りを断ち切る方法はない。
「終わりだ!」
 カラスの腹部に蹴りを入れて前傾させると、
 自分も背面を向き、背中同士を上下逆に接触させる。
 そして同じ方の腕をそれぞれ付け根辺りで絡ませて固定すると、横に半回転する。
 そうすると、
 前屈みになったジョーカーの上に、
 カラスが上を向いて背中で圧し掛かっているような状態になり、
 さらにそこからジョーカーが立ち上がることで、
 立ったジョーカーの背中に逆さまのカラスが張り付いているという形になる。
(なんだ、これは……!?)
 おぼろげな視界に逆さまに映る観客席を見ながら、
 しかしそれでもカラスは自分がどうなるかは理解していた。
「死ねぇっ!!」
 カラスを逆さに背負ったジョーカーが尻餅をつくことで、
 当然カラスは頭から落下することになる。
 それも両腕を完全に固定された状態で硬いメキシコマットの上へ、2人分の体重を乗せて。
 実際には大した音はしなかったものの、
 カラスの落下は額の流血と相まって
 「グチャッ」という音が聞こえてきそうな凄まじい様相だった。
「フ…フフフフフ」
 ピクリとも動かないカラスを、もはや形だけという感じでジョーカーが押さえ込むと
 すぐさまレフェリーがマットを3つ叩いた。
 それを聞くや、ジョーカーは勝ち名乗りも受けずにコーナーに上がり、
 静まり返った客席に向かって両手を広げ喜びを爆発させる。
「アッハハハハハハハハハハハ!!」
 今宵、AAC最大の興行のメインイベントは、最悪のバッドエンドを迎えた。
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by right-o | 2008-04-30 21:26 | 書き物