「ラッキーキャプチャー」ジューシーペアVSゴールデンペア  後編

「…まあ、やられた分は返しておかなくちゃね」
 そうこぼしつつ青コーナーに上った内田に背を向ける形で、
 祐希子を肩車した上戸が立っている。
 何が起こるのかとざわつく観客に対して、首を切るポーズでアピールした後、内田が飛んだ。
 そして肩車されている祐希子の後頭部を鷲掴みにすると、
 そのまま荒っぽく顔面をマットに叩きつける。
 凄まじい落差のフェイスクラッシャーが決まった。
「返せッ!!」
 思わず来島がコーナーで声を上げるほどの一撃だったが、ここは祐希子が意地を見せた。
「チッ!」
 舌打ちしつつも上戸は引き起こした祐希子をブレーンバスターの体勢に捕え、
 既に次の攻め手に移っている。
 一息に祐希子を持ち上げると、投げるのではなくコーナーポストの上に座らせた。
「行くぜ!!!」
 祐希子を設置したコーナーから出ているロープに足をかけ、サード、セカンドと上がって行く。
 普段ならセカンドロープから仕掛けるところだが、
「今日は特別だ!」
 と、さらにトップロープにまで上り始めた。
(あーあーあー………)
 慣れない高さのせいでバランスが取れず、ぐらぐらしている上戸の姿はかなり危なっかしい。
「おっとっと……うおっ!?」
「このっ!」
 さらに、ようやくトップロープ上に両足で立てたところで、
 蘇生した祐希子の反撃に遭って今にも自分が落下しそうである。
「手間のかかる…!」
 それを見た内田は、すかさず2人がやりあっているコーナーまでエプロンを駆けると
 サードロープに足をかけ、コーナー上に座り込んでいる祐希子にハイキックを一撃。
「よっし!おおおりゃあああぁぁぁ!!!」
 パートナーの援護を受けた上戸による、
 トップロープからの雪崩式ブレーンバスターが豪快に決まった。
 2人分の体重が数メートルの高さから落下し、マットと観客を大いに振るわせる。
「祐希子っ!」
 ここは流石に来島がカットに入る。
 余計な動きをしていた分初動が遅れた内田は、来島の介入を阻止できなかった。
「なんだテメェ、邪魔すんな!」
 来島は特に余計なことはせずにすぐ引っ込んだが、
 ここでほんの一瞬上戸の気を引けたことが相方を救うことになる。
「終わりだ!!」
 そう宣言した上戸が祐希子を引き起こし、
 背後から腕を回して得意のジャーマンでトドメを刺そうとしたところで、
「ハッ!」
 と、祐希子は胴に回った上戸のクラッチを一息に切ると、
 その場で後方に宙返りしつつ背後の上戸の頭をオーバーヘッドキックで蹴りつけた。
「ぐっ…!」
 不意の逆襲にふらついた上戸だったが、なんとか踏みとどまると、
 来島へタッチに行きかけていた祐希子の足を掴んでさせまいとする。
 しかし逆に、掴まれた足を軸にしてもう一方でマットを蹴って放たれた
 祐希子の延髄斬りをくらい、ついに尻餅をついてしまった。
「マッキー!」
「祐希子!」
 互いに交代したい両者は、霞みがかかった意識の中で自分の呼ぶ声がする方に漸進し、
 ほとんど同時に交代を果たした。
 両者とも疲労が濃いのか単にものぐさなのか、
 コーナー横のサードロープ付近に寝転がったまま飛び出していったパートナーを見送った。
 そして対角線の両端からダッシュして来た控えの二人は、リング中央で激突。
 まず内田が、走ってきた勢いそのままに来島に飛び掛ってエルボーを浴びせ動きを止める。
 さらにロープに走ってもう一発入れるが、来島は倒れることなく受け止めた。
(っこの、馬鹿力…!)
「フンッ!」
 3度目を狙おうとした内田は、走りこんだところをパワースラムに捕えられて一回転。
 内田の力を利用しつつさらに自分の体重を乗せた、来島の見事な一発が決まった。
「決めるぞ!!」
 背中をしたたかマットに打ち付けられて顔をしかめながらも、
 来島が右腕で握りこぶしを作ってアピールしているのは内田にもしっかり見えている。
「誰がくらうかっ!」
 立ち上がりを狙った来島必殺のナパームラリアットは、
 内田の低空ドロップキックで阻まれた。
 続けて内田は膝を押えて転がった来島の右足を掴み、足4の字固めで追い込んでいく。
「ぐあああ……ッ!」
 再三狙われた膝関節を捕えられ、さしもの来島も呻き声を上げた。
 しかし、試合序盤とは違い本気で膝の痛みと戦っている来島を余所に、
 技をかけている内田の方は全く別のことを考えていたりする。
(後は邪魔なもう片方をどうするか、ね)
 内田の思い描くフィニッシュへのお膳立ては、これでほとんど全て整った。
 残す最後の仕上げへの手順を、技をかけつつ考える。
「くっ…このぉ……!!」
 この間、もちろん来島もじっとしてはいない。
 始めは腕を伸ばしてロープを掴もうとしていたが、
 これを諦めると今度は反転することで逃れようと試みていた。
「おっと!」
 来島の抵抗を抑えつつ、内田の視線はコーナーに控える祐希子を見ている。
 内田と同じくこの程度で来島は音を上げないと考えているらしく、
 今のところカットに入る素振りは無い。
(なんとか出てきてもらわなきゃ)
 そんなことを考えていたのが通じたのか、
「おらぁっ!」
 ほぼリング中央に位置している内田と来島を飛び越えて、
 コーナーを飛び出した上戸が祐希子に突っかかっていった。
 上戸はエプロン越しにエルボーを見舞って祐希子をリング下に落とすと、
 返す刀で膝の痛みに耐えている来島の頭に向かってその逞しい太股を投下。
 ブーイングを聞きながら悠々と青コーナーへ引き上げようとしたところへ、
 今度は怒った祐希子が襲い掛かる。
「何すんのよ!?」
 上戸の背後をドロップキックで蹴り飛ばすと、
 ついでに内田へストンピングを加えて来島を救出した。
(チャーンス!)
 ところがその祐希子が赤コーナーへ戻ろうとしたところへ、
 今度は内田がエルボーをくらわせたことで、リング上は四者が入り乱れる展開へ。
 まずは内田が赤コーナーから祐希子を対角に振ったところへ上戸がラリアット、
 その直後に根性で立ち上がった来島が上戸をバックドロップで投げ捨てる。
 そして来島の振り向き様を狙い、最後に内田がトラースキックで顎を撃ち抜いた。
 気がつけば、立っているのは内田一人。
 正しくここが絶好の見せ場と言える。
 本当に最後のダメ押しとして、来島が立ち上がるのをエプロンに出て待ち構え
 スワンダイブ式の低空ミサイルキックをくらわせると、
 内田はしばし間を置いて息を吸い込んだ。
「ラッキィィィィ、キャプチャー!」
 両手の人差し指で来島へターゲッティングし、ロープへ走る。
 膝を庇いつつもまた立ち上がった来島へ“背面を向けて”飛び掛ると、
 両脚を広げて来島の腰の辺りを挟み込んで一旦体を固定。
 来島の胴を脚で挟んだところから上体を反らせて反動をつけ、
 今度は来島の股の間をくぐりながら膝を捕えにかかる。
「な…、何だ!?」
 来島にとっては何が何だかわからない内に、膝十字固めが完成していた。
「ぐ…!うあああああ…!!!」
「ふふん、諦めなさい!」
 自由な上半身で必死にマットを這ってロープを掴もうとする来島だったが、
 これまでと違い明らかに本気で極めにきている内田は全く動きそうに無い。
「恵理っ!?」
 頼みのパートナーも、いつの間にか場外に落とされて上戸に捕まっている。
「ぐぅっ……!!」
 もがくのをやめ、今度は顔を突っ伏して痛みに耐えようとしていた来島の握り拳が、
 ついに開いた。
 しかし最後にわずか残った意地が邪魔をしているのか、
 マットを叩くはずの手は、開かれたままで虚空に留まって震えている。
(もう、一息…ッ!)
 来島の粘りを断ち切るため、内田もさらに力を込める。
「くっそぉぉぉ……!」
 ついに来島の我慢が限界に達しようとしたその時、急に内田の視界が暗くなった。
「このッ!」
「ぶっ!?」
 場外で上戸をなんとか振りほどいた祐希子が、
 エプロンから両脚でトップロープに飛び乗ってジャンプすると、
 そのままふわりと内田の顔面にギロチンドロップで着地したのだった。
「悪ぃ!」
 祐希子はすぐ上戸によって再び場外に投げ捨てられたものの、
 鼻に直撃をくらった内田は思わず手を離してしまっていた。
「痛ったぁ……!」
 鼻を押さえて立ち上がった内田が、
 とりあえず気を取り直して攻撃を再開するべく来島の方を振り向いたところ、
「……ッ!!?」
 来島の右腕が唸りを上げて内田の首に叩き込まれた。
 ショートレンジで振り抜く形になったナパームラリアットは、
 足の踏ん張りが利かないために上半身ごと浴びせるような形になったものの、
 そのせいでむしろ余計に効いたかもしれない。
 後頭部から着地した内田は、
 そのまま首をぐにゃりと曲げつつ後方へ折れてうつ伏せに倒れた。
「うおおおおおお!!」
 一方の来島は、足をわざと思い切り踏ん張り、
 膝をバシバシ叩きながら自分に喝を入れている。
 完全に攻守交替。
 観客も来島勝利の雰囲気を感じて大歓声を送っている。
「立ちやがれ!!」
 肘のサポーターを直した来島が、今度こその助走付きナパームラリアットを予告。
(ったく、首が飛んだかと思ったわよ…)
 うつ伏せから四つん這いになった内田は、時間をかけて少しづつ立ち上がる。
 頭を強く打ったものの、体はまだなんとか動く。
 それを確認しながら、マットについた両腕を伸ばし、体を起す。
「おいっ!大丈夫か!?」
 胴体を祐希子にがっちりと組み付いて押えられている上戸が、場外から声を張り上げた。
 リング内の動きに合わせ、当然場外の攻守も入れ替わっているのである。
 膝を伸ばして完全に立ち上がる寸前、内田は俯いたままで視線だけを上戸に送った。
 一瞬目を合わせただけでも、
 同じような修羅場をいくつも乗り切ってきた二人が意思を通わせるのに不足は無い。
「おおりゃああッ!!」
 精一杯の力を振り絞ってなんとか立ち上がったように見えた内田に向かって
 ロープを使って十分な助走をつけたナパームラリアットが炸裂しようとする寸前、
 向かってくる来島の腰にまとわりつくように飛びついて後方に回った内田は、
 来島の股に腕を通しつつ前回り受身のように背中で着地。
 意表を衝かれて驚く来島を引き倒してスクールボーイで丸め込んだ。
 さらにそれで終わらず、来島の両脚を咄嗟に組み合わせて4の字のような形をつくると、
 来島を飛び越えるように前転しながら左の足首を掴んで押さえ込み、
 懸命に来島の体へ体重をかける。
『1!2!…』
「恵理っ!!?」
「おっと!!」
 思わぬ事態を目にし、すぐにリングへ飛び込もうとした祐希子を、
 今度は上戸がしがみついて阻止。
『3!』
 レフェリーの手が3度目にマットを叩いたと同時に、
 来島が体全体を使って内田を跳ね飛ばした。
 内田はそのまま逃げるようにリング外に転がり出て、
 駆け寄って来た上戸に向かって小さく舌を出す。
「やったな!」
「なんとか、ね」
『おいおいおい!!』
 二人が場外で慎ましく喜んでいると、
 不意にリングの上からマイクを持った来島の声が降ってきた。
『お前らこんなことで勝ったつもりかよ!もう一回オレ達と勝負しろ!!』
「…どうする?」
「決まってんだろ!」
 いつの間にかマイクを持っていた来島に対して、
 内田は実況席に置いてあったマイクを手に取り、ちょっと考えた後、
『ヤダ』
 と一言。
 これには横の上戸が、「エッ!?」という一番意外そうなリアクションをしていた。
 「まあまあ」と肩を叩いて相方を宥めつつ内田は言葉を続ける。
『負けたクセにもう一回勝負して欲しい、って言うんなら…タダってことはないわよね?』
 この言葉に、上戸は「おお」と納得し、来島と祐希子はやや緊張する。
『普段から身に付けてもいないようなベルトなら、私達がもらってあげるわ。賭けてくれるわよね?』
『いいわ、次はタイトル賭けてあげる!』
 最後は来島からマイクを渡された祐希子が締め、これで長い試合が終わった。
「ベルトか~!楽しみだぜ!!」
「これで、しばらくは嫌でもこの団体で使ってもらえそうね」
 多少の計算違いはあったものの、
 持ち前の機転と息の合ったパートナーのお陰で見事目的を果たしたジューシーペアは、
 痛む体を引き摺りながらも意気揚々とバックステージに消えていった。
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by right-o | 2008-04-14 21:20 | 書き物