レッスルPBeM 火宅留美 その3

以下全文、STRさんが書かれた文の転載です。

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Wrestle Angels PBeM

Episode1 天使轟臨 ~Angels Flying in the Supercell~

〔ストーリー〕

西暦20X1年、夏――

渾然となって馳せ巡る数多の運命の輪は、まだ見ぬ未来へとただ一心に突き進む

歴史を人間が作るのか、人間がたどった轍それそのものが歴史なのか?

されど一度、四角いリングの魔性にとらわれたならば、もはや引き返すことは叶わぬのだ

少女たちの流す汗も、涙も、すべては闘いのキャンバスを彩る画材にすぎぬのであろうか――

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■VT‐X(ヴォルテックス) SIDE■
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◇◆◇ 1 ◇◆◇

<<ドキュメント『災禍の中心に立つ~プロレスラー・十六夜美響の12ヶ月~』>>

<VT‐X道場外観>

NA(ナレーション):
福岡県某所にある、女子プロレス団体【VT‐X(ヴォルテックス)】の道場。
 全国的な知名度は新女やWARSなどに及びもつかない新興団体だが、九州では最も大きな勢力を持っている。

<某マンション入り口>

「あら。……ご苦労なことね」

彼女は、VT‐Xの大黒柱といえるスター選手。
《十六夜 美響》。
このいっぷう変わった名を持つ女性には、ありがたくないニックネームがついている。

<道場へ向かう車内>

テロップ:
『災厄の女神』と呼ばれることについてはどう思いますか?

「そうね、特に否定しようがないわ。私の周囲で、そういったことが多発したのは事実だし」

NA:
『災厄の女神』。
プロレスラーなら、こうした凄みのあるキャッチコピーをつけるのは、普通のことだ。
でも、彼女の場合は、違う。

<イメージ映像>

NA:
プロレス入りして以来、周囲に事故やケガが頻発した。
いくつかの団体が潰れたのも、彼女が災いを呼んだためだ、と言う者もいる。
彼女は災厄を操ることが出来るのだ、という者さえいる。

<道場へ向かう道>

テロップ:
『災厄』はコントロール出来る?

「フフッ。客観的に検証出来ない物事は、『信じる』か『信じない』かの二択しかないわ」
「だからそう信じたい人は信じればいいし、そうでない人はそれで仕方がないわね」

テロップ:
最近は『災厄』の様子は?

「これといってないようだけれど、さぁ、いつまた表に出てくるか、分からないわ」
「…………」

<イメージ映像>

NA:
災厄の持ち主と称されたことで、彼女は根無し草のプロレス人生を送ってきた。
そんな美響が、みずから団体を起こした。
それがVT‐Xである。
不安はなかったのだろうか。

<VT‐X道場>

「不安は、もちろんあるわ」
「でも、だからといって何もしない人生なんて、退屈過ぎるでしょう?」
「私の傍に集ってくるような人間は、皆、覚悟の上のはず」
「だから、不安はあえて考えないようにしているわね。……あらあら、もうおしまいかしら?」
(目の前でトレーニング中の若手外国人選手がへたりこんだのを見て、英語で何やら話しかける。すると選手は、また歯を食いしばって再開した)

テロップ:
彼女には何と?

「やめてもいい、代わりはいくらでもいる、とね」

<VT‐X道場・リング上>

NA:
災厄がどうとか言わなくても、リングの上には危険がいっぱいだ。
危険な受け身を取ったりしなくても、ほんのささいな油断やミスが、即、重大な事故につながる。
人間の身体は、想像以上に、もろい。
だとすれば災厄とは、誰しもが持っているものではないのか。

「フフッ、そういうロマンティックな思考は、嫌いではないけれど」
「誰だって、意図せず他人を傷つけてしまうことはある」
「災厄のせいにして済むのなら、その方がいいのかもね」

NA:
しかし、まさに『災厄』そのものとしか思えないような出来事が、我々の目の前で起こった。……


◇◆◇ 2 ◇◆◇


 ▼ 日本 福岡県某所 VT‐X道場


『その瞬間』のことを、〈安宅 留美〉ははっきりと憶えている。

「あァ。……アイツが、アホみたいにロープを昇ってたよ」

アイツとは、〈オースチン・羊子〉。
留美とは同期の練習生であるが、非常に、非常にウマが合わない。
同じ練習生でも、〈ルーチェ・リトルバード〉あたりは言葉が通じないこともあって、逆にこれといって接点もない。
が、羊子とは顔を合わせれば口喧嘩が絶えない。
口だけではすまず、取っ組み合いの喧嘩に発展することもザラであった。

「Rumi S×cks!! アホ! ボケ、カス!!」
「てめぇっ、大概にしろよっ!!」

最初はそれなりに制していた先輩レスラーたちも、最近では

――まぁ、いいか。

といった感じで、だいたい好きにやらせるようになってきた。
大概はどっちも疲れ果てた所で、真壁あたりがまとめて竹刀でブチのめし、おしまいとなる。

「落ちろ! テストどころか人生からも落ちろ!」
「てめぇこそ落ちろ! どん底まで落ちろや!!」

そんな仲である。

「喧嘩するほど仲がいい? ハァ? そんなわけねェだろ」

「大体、アイツまだ芸能事務所か何かに入ってるんだろ? 所詮、プロレスを舐めてんだよ。さっさと芸能界にお帰り下さいってなもんだ」

そんな留美であったが、『その瞬間』はショックであった。
ちょうど休憩中で、水分を取っている最中。

「ハァ、ふぅ、ふぅぅぅ……」
「る~みん、なかなかキレが良くなって来たです~~」

呑気な《獅子堂 レナ》は息をさして切らしてもいない。

「まぁ、まだまだ全然ひよっこですけど」

鼻で笑う真壁。いつかシメる。
近々行なわれる予定のプロテスト。
そこで合格すれば、リングに上がれる。
客の前で、おおっぴらにこの連中をボコボコにできるのだ。
最も、今の実力では返り討ちが関の山かも知れないが……

ふと、目の端にロープと、それにぶら下がっている羊子の姿が映る……

(……バカと煙は高い所が好きってか)

そんな風に冷笑した矢先――
ブチン、と嫌な音がした。

「――――ッッ!!」

次に響いたのは、

――――ドサッ

明らかに“ヤバい”音。
マットの上に、ロープを手にした羊子が倒れていた。
何が起こったのか、気づくまでには、更に時間を要した。

「あ……ああっ!」

最初に声を上げたのは誰だったか。
留美は、その場に立ち尽くすことしかできなかった……



《十六夜 美響》が行なう、ロープ昇り訓練。
天井から吊るされたロープを昇るというシンプルなものだが、腕力だけで昇るのは容易ではない。
軽々とこなせるのはVT-X内でも十六夜のみであろう。
以前、羊子は挑戦して、とても無理だとギブアップしていたはずだったが……
今回再トライしたは良かったが、突然ロープが切れ、落下してしまった。

あれ以来、VT-X内には、良からぬ空気が漂っている。
羊子のケガは事故だが、あんな頑丈なロープが、途中で切れるなど、ありうることだろうか?

――災厄。

十六夜美響がその身に集めるという、災い。
これは、その影響ではないのか。

――そんなバカな。

と笑い飛ばせる人間はいなかった。
実際、これまで十六夜が所属してきた団体では、しばしばこうした『説明できない』アクシデントが起きてきたのだから。
しかし、VT-Xにおいては、旗揚げ以来、こうした事態は皆無だった。
ゆえに人々は、忘れかけていた。
災厄の噂を。
いや、忘れようとしていただけだったのかも知れない。

当の十六夜は、例の『一兆円トーナメント』(結局はバトルロイヤルに変更されたが)に参戦するため、【JWI】に遠征中。
彼女が不在なのだから、これはあくまでただの事故。
いや、それは関係なく、彼女が属する団体に災厄は舞い降りる……
そんな不穏な話が飛び交ったのは、無理もないことであったろう。



留美は、入院した羊子の見舞いに行く気はなかった。
ルーチェなどは毎日のように通っているようだったが。
そもそも行く義理もないし、それどころか

――行かない方がいい

と周囲から止められたこともある。
が、そんな風に言われれば、

――逆に行きたくなるのが人情ってもんだろ。

と、ご丁寧に鉢植えを買って、入院先に向かった。

 ▼ 日本 福岡県某所 某病院

部屋をチラリと覗くと、

「………………」

見たことがないほどに、打ちひしがれた姿の羊子がいた。

「ヘッ、ザマァねぇなぁ。いいツラだぜ」

と面と向かって嘲笑いたい所であったが……流石にやめておいた。
代わりにメッセージを残して、鉢植えを置いて帰った……



 ▼ 日本 福岡県某所 VT‐X道場

その分、というわけでもないが、プロテストには気合を入れて臨んだ。
スパーリングでの結果次第だが、相手は容易ではない。

《伊達 遥》。

十六夜に次ぐ新世代のエースとして期待される、国内有数のストライカーである。
ふだんは会話が成立しないほどの人見知りだが、ことリングの上の威厳とたたずまいは、ベテランはだしといえる。

――せめて、こいつぐらいは超えていかないとな。

と留美が目指すべき標的の一人とも言える。
幸いにも……というか、ここの所の伊達は精彩がない。
羊子の事故でかなりショックを受けているのかも知れない。
とはいえ容易な相手ではなかったが、スパーリングでは互角の攻防を展開、パワーを見せ付けた。



プロテストの合格にも、留美は喜びもしない。
デビュー前のTV番組のインタビューでは、さんざん言いたい放題でビッグマウスを披露する。
団体をPRするためのイベントでも好き勝手に吹きまくり、観衆を煽ってみせた。

 ▼ 日本 福岡県 キャナルシティ博多

「俺がこんなショボくれたクソ田舎のヘボ団体にいてやるのもホンのしばらくだ。その間にせいぜい観に来いや。一生の思い出だぜ」

「俺はスター候補じゃねぇ、スーパースター候補なんだよ。そんな俺サマがデビューしてやるんだ、ありがたく思え」

「いいか、お前らは俺だけ観てりゃいいんだ。俺だけ観に来い。分かったか、三流団体の三流ファンども!!」

――とまぁ、さんざんしゃべりまくった。
オマケとばかりにノリノリで一曲歌ってやったが、これが大変なブーイング。
とはいえ、無反応よりよっぽどマシであろう。

「――相変わらずヒドい歌ね」
「っ! てめぇ……」

控え室に戻った留美の前に現れたのは、羊子でった。
退院したとは聞いていたが……

「へっ。……何の用だ? 引退したんじゃなかったのかよ。デビュー前に引退たァ斬新だけどな」
「……フン。おあいにく。もうしばらく居残ってやることにしたわ。……マネージャーとしてね」
「はァ?」

負傷が癒えるまでは、マネージャーとして興行に帯同することになったという。

「ケッ。悪徳マネージャーかよ。せいぜい、もっと重傷負わないように大人しくしてるんだな」
「そうね……そうするわ」
「……っ」
「あぁ……それと」
「あァ?」
「……お見舞い、ありがとう」
「…………」

寂しげにつぶやいて去っていく羊子の背中は、流石に小さく見えた……


◇◆◇ 3 ◇◆◇


そして、留美のデビュー戦の時がやってきた。

 ▼ 日本 福岡県 大牟田市文化体育館

◆◆ 安宅留美デビュー戦 ◆◆

 〈火宅 留美〉(VT-X)

 VS

 《獅子堂 レナ》(VT-X)

「これに負けたら、『眠れる獅子拳』に入門して貰いますから~」
「ちょっ、まっ!?」

デビュー戦から、とんだ試練であった。

「大変ねェ。セコンド、ついてあげようか?」
「お前だけは絶対いらねーー、超いらねーー」

羊子の誘いも断り、いざデビュー戦に挑む――

そういえば、デビューを知ったイトコの《神楽 紫苑》から電話があったっけ……

『やっとデビューなんだって? テスト受かったんだ。良かったわねぇ~~』
『ケッ、あったりまえだろ。遅ぇくらいだ』
『ふ~ん。じゃあさ、デビューしたらウチに来ない? ギャラは払えないけど~』
『納豆で顔洗って出直せや』

……まったく参考にもならなかった。

リングアナが呼び出しをかける――

『俺が福岡を盛り上げてやる!

 最高の素材が最悪の性格と交じり合った、現代の怪物!!

 〈火宅 留美〉選手の入場です!!』

留美が花道に現れるや、それだけで場内からはブーイングが鳴り渡った。

(……っ、コイツは、結構キツいな)

分かっていたつもりだが、存外しんどい。
だがあくまでもふてぶてしく、大仰に観客を煽ってみせる。

そして試合。
流石に人前での闘いは、勝手が違う。
思ったことと身体が連動せず、空回りしてしまう。
しかし、獅子堂の容赦ない打撃を味わい、追い込まれるうちに、次第に落ち着いてきた。
パワーと打撃を生かして反撃にかかる――

――が、この時、羊子が動いた。
気づけばリングサイドに来ていて、レフェリーのスキを狙って、留美にパウダーをぶちまけたのである。

「!? て、てめぇ……ッ!!」

そこを見逃すほど獅子堂甘くはなく、打点の高いドロップキックが顔面にヒット!
大歓声とともに、そのまま3カウント……と思いきや。
羊子はレフェリーにもパウダーを食らわせており、反則裁定が下って、留美の勝利となった――

 ○火宅 VS 獅子堂×
 (14分29秒:反則)

『デビュー戦勝利おめでとう! 一生の思い出になったでしょ、ス~~パ~~スタ~~~……候補さんっっ!!』

羊子がマイクで煽るや、場内どっと沸いた。
もとより留美は怒り心頭、パウダーまみれの真っ白な顔で羊子を追い回したが、それがまたウケもしたのである。

(やっぱりっ、心身ともにブッ潰しておくべきだったぜ……ッ!!)

何はともあれ、こうして留美のレスラー人生はスタートした……

……が、それもあっさり吹き飛ぶかもしれない暗雲が、VT-Xに立ち込めつつあった。





<名古屋レインボープラザ・外観>

NA(ナレーション):
【JWI】の名古屋大会。
十六夜美響は、いわゆる『一兆円バトルロイヤル』に参戦した。

<名古屋レインボープラザ・リング上>

NA:
次々と猛者たちが脱落していくなか、最後に残ったのは2人。
JWIの《南 利美》、そして《十六夜 美響》である。
勝った者が、《ビューティ市ヶ谷》が持つ『JWI認定世界最高王座』への挑戦権と、『副賞』一兆円を手にするのだ。

<試合前インタビュー>

「一兆円を手に入れたら? ……フフッ。どうしようかしらね」
「九州ドームを買い取って常設会場に? それも悪くないかも知れないわ」
「まぁ、貰ってから考えるとしようかしら」

<名古屋レインボープラザ・リング上>

NA:
最後に立っていたのは、十六夜だった。

「挑戦権は有難く頂くわ。でも――」

NA:
一兆円は要らない。
その代わりに、ベルトと共に賭けて貰うものがある。

「私が勝ったら――ビューティ市ヶ谷! 貴方に、うちの団体に移籍して貰うわ。
 その賭け代に、一兆円は安くはないでしょう?」

 <<<――――オーーーッホッホッホッ!!!>>>

高笑いと共に花道に現れるた市ヶ谷は、たちどころに快諾。
それどころか、

 <<<ケチなことは言いませんわ! この団体ごと、持っておゆきなさい――万が一、いいえ600億が一、勝てたならば!!>>>

NA:
十六夜美響。
ビューティ市ヶ谷。
VT-XとJWIの命運は、この2人の危険な闘いに、ゆだねられた――

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by right-o | 2012-02-19 20:50 | 書き物