トーナメント補足その他

 国内最高峰のベルトを巻いて以来、美月を始めとする挑戦者たちを悉く跳ね返し、
 戴冠後3カ月にして早くも絶対王者の風格を漂わせはじめた伊達遥。
 そんな彼女への、次なる挑戦者を決めるためのトーナメントであった。
 参加者はまず、これまで伊達に挑戦した中で善戦した者:美月・美冬・みこと
 まだ挑戦していない者の中で、それなりに実績のある者:上戸・内田
 そして、デビュー間も無いながら、格闘技経験を持つ勢いのある若手:神田・近藤
 それと……相羽。

「折角出場枠を譲ってもらったのに……すいませんでした!」
「いや、よくやってくれたよ」
 美月戦後、控室に戻った相羽は、そこに待っていた六角と越後に深々と頭を下げた。
「越後さんも、練習に付き合ってもらったのに……!」
 相羽が謝るよりも早く、越後は相羽の肩を抱いてやる。
「私は、ほんの少しお前の背中を押してやっただけだ。
 まあ今日は経験の差だな。お前ならすぐに追いつけるさ」
 今やすっかり師弟らしくなってしまった二人を見て、六角は、微笑ましくも少し複雑な気分だった。
(自分じゃ、こうはいかなかったんだよな)
 どうにかしてやりたいと思いつつ、相羽にどう助言していいかわからない。
 そんなこともあり、直接自分が相羽を指導することは諦めたが
 その代わり六角は相羽のことを越後に相談し、
 後に自分へ回ってきたトーナメント出場権を相羽に譲ったのであった。
 その甲斐もあり、相羽はどうにか本格的に立ち直ってくれたようである。
(でも、ちょっと甘すぎやしないかい?)
 どうすべきか、どう考えるべきかを、一つ一つ言い含めるように教えていった越後の態度は、
 後輩というより、友人か身内に対するようだった。
 越後は越後で、相羽に対して思うところがあるようである。

 反対側の控室では、タオルを被った美月がベンチで横になっている。
「格下相手に、随分手こずったじゃないの」
 通りかかった内田が、そう声をかける。
 美月は、タオルの下から視線だけで抗議した。
「……冗談よ。あいつもふっきれたみたいね」
「というより、指導がよかったんでしょう」
 起き直った美月は、傍に置いていた私物の眼鏡をかけて内田を見た。
「指導?セコンドに着いてた越後さんの?」
「ほとんどは、彼女が元から出来たことかもしれません。しかし、あのブレーンバスターの変形だけは、
 あれが和希さんの頭から出て来たとは思えません」
 そんな会話をしていた時、上の階から一際大きな歓声が響いてきた。
 どうやら、今行われている神田対近藤の試合に、大きな動きがあったらしい。
「さて、人のこと気にしてる場合じゃないわ」
 既にウォームアップを終えていた内田は、入場のため階段の方へ足を進めた。
 彼女も、このあとみこととの試合が控えている。
「そっちの組合せは楽でいいわね。決勝まで格下としか当たらないじゃない」
「……人のこと気にしてる場合じゃないんでしょ。さっさと行ってください」
 こちらの師弟は、相変わらず憎まれ口ばかりであった。
 
 内田が行ってから数分後。
「……先輩」
 小さくなった神田が、これまでになく落胆した面持ちで控室に帰って来た。
 体のそこここに打撃戦の跡があり、額が一際赤く腫れあがっている。
 明らかに、負けて帰ってきた様子だ。
「……うん、まあ、そういうこともありますよ」
 適当に慰めてやりながら、これで次が難しくなったな、と美月は考えた。

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by right-o | 2011-12-23 19:01 | 書き物