レッスルPBeM 火宅留美 その2

※以下全文、STRさんが書かれたものの転載です。


 ◇◆◇ 0 ◇◆◇

Wrestle Angels PBeM

Episode1 天使轟臨 ~Angels Flying in the Supercell~

〔ストーリー〕

西暦20X1年4月――

日本の女子プロレス界は、新たなうねりの中に飲み込まれつつあった。
――それは自然の流れ?
――あるいは何者かの意志?

そんな大きな渦とは関係なく……
それぞれの想いを胸に、それぞれのやりかたでプロレス界という荒波に飛び込んだ少女たち。
彼女たちの行方はいかに――

*-----------------------------
■VT‐X(ヴォルテックス) SIDE■
*-----------------------------


◇◆◇ 1 ◇◆◇


福岡県某所、新興女子プロレス団体【VT‐X(ヴォルテックス)】の社長室――

「色々と動きが出てきたようね」

ディスプレイに躍るネットニュースに目を通しながら満足げにつぶやいたのは、VT‐Xのトップレスラー、《十六夜 美響》。

「これがお望みだったんだろ? 災厄の女王様」

VT‐Xの社長が振り向く。

「えぇ。どんな形であれ、動きがあるのはいいことだわ。かき回しがいがあるもの」
「そのためなら、JWIだろうが東京女子だろうが、お呼びがかかれば即参上――か」
「そういうことね」
「気楽に言ってくれる」

社長は苦笑するしかない。
VT‐Xは九州の中では大規模な団体ではあるが、まだまだ地力はない。
良くも悪くも、その運命はエースである十六夜の双肩にかかっているといっていい。
その彼女が、ほいほいと無責任に他団体へ打って出ていいものではあるまい。

「私がいなくても神塩や遥がいるわ。レナや那月も、少しはマシになってきているし」
「どうだかな。……まぁいい。JWIには色よい返事をしておくさ」

JWIが発表した“一兆円トーナメント構想”。
各プロレス団体のエース選手を一同に集め、トーナメントを開催、優勝を争わせようという企画である。
その優勝者には、賞金一兆円(!)と、市ヶ谷への挑戦権が与えられる――という、なんともフザけた話。
他団体はほとんど突っぱねるか無視しているようだが、十六夜はあえてそれに乗ろうという。

「これがお前の言う“渦”か」
「えぇ。でも、まだまだ全然、足りていないけれど」

もっと、たくさんの渦を生み出さねばならない。
もっと、巨大な渦を作り出さなくてはならない。
さもなければ――

「“大渦”が現れた時、ひとたまりもないわ」
「……分かっている。そのための、VT‐Xだ」


◇◆◇ 2 ◇◆◇


ここは【VT‐X(ヴォルテックス)】の選手寮の一室……

「う、うぅ~ん……うぐ……ぬぐぐ……」
「貴方は入りたくな~る……“眠れる獅子拳”に弟子入りしたくな~る……」
「んぐ……んんん……」
「ねむれりゅ……ひひけん……ぐうすぅ……むにゃむにゃ……」
「……って途中で寝ないで下さいよっ!!」

〈安宅 留美〉は同室となった先輩レスラー、《獅子堂 レナ》に苦情を言ったが、相手は留美のベッドに潜り込んだまま寝入っているので、仕方なく上のベッドに移る。

(ったく、なんで俺がこんな目に……)

最初は、それなりに好待遇なのかと思った。
同じ練習生でも、あの外国人と××××野郎(自主規制)が同室なのに対して、自分は先輩との相部屋。
期待されてるからこそ、そうなったとばかり思っていたが、

(……そうでもないのかもな)

この獅子堂という先輩、別に無理難題を押し付けたり暴力を振るったりはしないので、ごく扱いやすいのだが、こんなふうにことあるごとに“眠れる獅子拳”とやらに勧誘されるのは正直ウザい。
あまりにうっとうしいのでいっそ入門してやろうかとも思うくらいだが、何だかそれはそれで負けた気がするので、ガマンしている。
それに、そんなことを気に病んでいるほど、練習生はラクじゃない。



「ワタシ、ワルクナイ! ナンデ、ナグッタ!?」

何やら叫んでいる〈ルーチェ・リトルバード〉。
日本語がカタコトしか話せないため、ぶっちゃけあんまり絡みようがない。

それより厄介なのは、

「……ケッ。おい、まだ辞めねーのか? さっさとアメリカに帰ったらどうだ」
「アxホール! そっちこそ、ママのxxxxにxxxxしてきた方が利口なんじゃないの?」
「っ、てめぇ、俺が英語分からないと思ってムチャクチャ言ってるだろっ!」
「だったら日本語で言ってあげようか? この●●●●野郎っ、ママの●●●●に●●●●!!」
「てっ、てめぇ、このっ!!」
「やるか――」

……バキッ!! バッキイ!!

『い゛っ゛だぁっっ!?』

「はいはい、それくらいにして、さっさと練習に戻るっ」

『……オッス』

竹刀を振り下ろした《真壁 那月》に睨まれ、しぶしぶ練習に戻る。

〈オースチン・羊子〉――
新人テストで会って以来、これでもかという程にソリが合わない相手である。
天敵、ってのはこういう奴を指すのかも知れない。



「ハーイ。そっちはどぉ? まだ夜逃げしてない?」
「してたら、アンタからの電話に出られねーよ」
「はは、そりゃそうね。で、どうなの? やってけそう?」
「……全然、たいしたことねーよ。楽勝楽勝」
「ふ~ん、だったらいいけど。うちも新人獲ったんだけどさ~、どいつもこいつも変なのばっかりで、超面白いわ。アンタもそっちがダメだったらウチに来れば~?」
「っ、余計なお世話だ。俺はこっちでビッグになってやるよっ」
「はぁん……まぁいいや。じゃーね。早いとこ、同じリングに立てるようになってよ」
「フン、そっちこそ、俺と闘えるまで、廃業しないように頑張れよ」
「ふっふふふふ」

従姉にあたる《神楽 紫苑》。
現在は大阪の【ワールド女子プロレス】に属し、チャンピオンとして君臨している。
今の自分とは天と地の差があるが、いずれは……


◇◆◇ 3 ◇◆◇


さて、練習生にもちょっとした休みがない訳ではない。
しかし、一番見たくないツラと出くわした。

「ごきげんよう、留美さん」
「……はァ? なーにがごきげんようだ。そんなキャラか、お前」
「もちろんです。わたくし、帰国子女ですので」
「うぜー超うぜーよお前。さっさと辞めたら?」
「そういう貴方こそさっさとお辞めになったらいかがですかこのSxxK野郎」
「あぁ!?」
「……おっといけない。ついわたくしとしたことが、心の底からの本音を吐いてしまいました」
「お前顔貸せやコラ」
「まぁ、無駄話はいいんです。貴重な余暇を無駄にしたくないですしね」
「お、ま、え、が、無駄にさせてるんだよ!!」
「やれやれ、図体がでかいくせに細かい人だ。それより本題ですが」
「俺コイツ殴っても罪にはならないと思うな」
「真壁さんが、【WARS】の興行に出ることはご存知ですね」
「……あ? そういや、そんな話もあったな」

先輩レスラーの真壁は、【WARS】の《永沢 舞》と親交が深いらしい。
そのつながりで、永沢の凱旋興行であるWARS福岡大会に特別参戦を予定しているとか。

「わたくし、真壁さんのお手伝いで同行する予定なんです」
「はぁん? ……」

なんでわざわざ……と疑問を抱いたが、はっと思い当たった。

「そういやお前、永沢舞を倒すためにレスラーになりたい、とか言ってたよな」

テストの時のアピールで、そんなことを口走っていた気がする。

「さぁ……そんなこともあったかも知れませんね。なにぶん緊張していたので」
「何言ってやがる。まさかお前、興行をブチ壊そうとか思ってんのか?」
「ふふっ、何を言い出すかと思ったら。これだからMxxT野郎はイヤなのです」
「マジぶっ飛ばすぞテメェなめてんのか」
「とにかく、これから出かけますが……貴方も一緒にどうです?」
「……はぁ? 何で俺が行かなきゃならねーんだよ」
「えぇ、別に理由はありません。でも、どうせヒマなのでしょう?」
「くっ、くっくっくっ。残念だったなぁ」
「……?」
「今日は、『レッスル西日本』の取材が入ってるのさ!」
「…………っ」

初めて動揺を見せた羊子の様子に、してやったりな留美。
ローカルな格闘技雑誌ではあるが、取材には違いない。

「悪いなぁ~、お前さんが下働きに行ってる間に、こっちは取材だぜ、しゅ・ざ・い」
「……っ、クッ……オレをさしおいて、なんでこんな脳味噌筋肉、略して脳筋FxxK野郎に……っ」
「まぁ、お前も頑張れや。あーっはっはっ」

久しぶりに羊子を言い負かし、いい気分な留美。

(……そういや、今日の大会じゃタイトルマッチもあるんだっけか)

WARSの総大将・《サンダー龍子》に、フリーの大物ヒール《フレイア鏡》が挑む一戦。

(鏡さん……か)

以前、地元で偶然すれ違い、何となく会話をした憶えがある。
まさかあの頃は、こうして自分もレスラーになるなどとは予想だにしていなかったが。

ともあれ今は、午後からの取材に備えるとしよう。



……そして、数日後……

「――さて、安宅留美くん。なぜ呼ばれたか、分かるかな?」
「……えぇ、薄々は」

VT‐Xの社長室。
そこに留美は呼び出しを受けていた。

心当たりは、もちろんある。
先日受けた『レッスル西日本』の取材。
あの時、留美は自慢のビッグマウスを連発し、大言壮語を吹きまくった。
後になって、流石に言い過ぎたのでは……とも思ったが、マズい部分は掲載しないだろう、とタカをくくっていた所はある。
が、送られてきた『レッスル西日本』の最新号を見て目が点になった。

――『身の程知らずな新人登場! 傍若無人のビッグマウスで、団体、業界、ファンを痛烈批判!!』

……いや、確かにちょっと、大げさに言ったけども。
なーんの実績もない、ただの練習生の言動ですよアナタ。
それをこんな、センセーショナルに書き立てなくても――

「ふむ。……何か、言いたいことはあるかな?」
「………………いいえ」

少なくとも、あの記事には、彼女が言っていないことは書かれていなかった。
『片田舎のショボい団体』とか、
『世間知らずのローカルマスコミ』とか、
『安っぽい郷土愛にあふれた生温かいゆるゆるファン』とか、
言ったのは事実で。

「そうか。……」
「…………っ」

「――分かった。練習に戻ってくれ」
「え……あの……っ」
「ん? どうかしたのか」
「いえ、その、……おとがめっつーか、そういうのは」
「おとがめ? なんでそんなものが必要なのかな」
「いや、そりゃ……」
「呼び出したのは、アレが記者の作文なのか、君が本当に口にしたのか、確認したかっただけだ」
「…………」
「本当に言っていたのなら、それでいい」
「は、はぁ……」
「これからも遠慮はいらん。君がやりたいようにやりたまえ。
 つまらん常識だの、良識だのに色目を使って、遠慮する必要など微塵もない」
「………………っ」
「それが、【VT-X】の流儀だ」

どうやら、思った以上に、この団体は――
ハチャメチャであるようだった。


[PR]
by right-o | 2011-12-18 19:58 | 書き物