レッスルPBeM 火宅留美

※以下全文、STRさんが書かれた文書の転載です。


西暦20X1年3月……

空前の盛り上がりを見せる女子プロレス界。
全国的な人気を誇る巨大団体・【新日本女子プロレス】を筆頭に、
サンダー龍子率いる【WARS】、ビューティ市ヶ谷の【JWI】、
ブレード上原が支える【太平洋女子プロレス】、
新興ながら勢いのある【東京女子プロレス】などが覇を競い、他にも小規模団体が乱立している。

そんな混迷と動乱の時代……
若さと情熱に溢れ、恐れを知らぬ少女たちが、新たに四角いジャングルへ飛び込もうとしていた。
いずれマット界に訪れる巨大な嵐の存在を知る由もなく……


福岡県某所にある、新興女子プロレス団体【VT‐X(ヴォルテックス)】の道場――

「……996、997」
明日のレスラーを目指す少女たちが集まり、入団テストを受けている。
VT‐Xは歴史の浅い新団体とはいえ、九州では随一の規模を誇るだけあって、希望者も多数詰め掛けている。
まずは小手始めのスクワット……だが、この時点で早くも脱落者が続出。
「998、999、1000!」
1000回のヒンズースクワット――
女子プロレスラーとしては、さして過分な要求とはいえない。
が、最後までやりとげたのはホンの数人。
「お疲れ様です~。あ、もうギブアップな方は、帰って下さいね~~」
審査に立ち会っているVT‐Xレスラーの一人、《神塩ナナシー》が呑気な声で告げる。
息も絶え絶えな少女たちが、はいずるみたいにして道場を出て行く。
「フン…情けないわね」
鼻で笑ったのは《真壁那月》、まだ若手ながら打撃には定評のあるVT‐Xのレスラーである。
「でも~、去年は那月もあんな感じだったけど~~」
突っ込むのはこれまたVT‐Xの《獅子堂レナ》。
「い、いいでしょうっ、ちゃんと1000回こなしたんだから!」
実際、重要なのは1000回こなせるかどうかもさることながら、これを経てなおかつテストを受け続ける気力があるかという気力である。
流石に1000のカベを超えた連中は、疲労の色を濃くしつつも、その目は死んでいない。
その中でも、とりわけ強い眼差しを持つ3人の少女――

一人はアメリカ出身、あちらでは相応に試合もこなしてきたというレスラー。
また一人は長身で眼光鋭い、一匹狼風。
そして整った顔立ちだが、不遜な面構えの少女。

体力テストは更に続いていく。

最初の「体力テスト」は、難なくクリアしてみせた〈安宅 留美〉。
続く「個別面接(自己アピール)」では、飾らない言葉で啖呵を切って見せたが、逆に「それくらい元気があった方がよろしい」みたいな感じで印象はなかなか良かったようだ。
とはいえ、まだまだ気を抜くわけにはいかない。
「スパーリング(練習試合)」もきっちりこなして見せる。

最初の彼女の相手となったのは、
〈ルーチェ・リトルバード〉
という外国人である。
体格的にはパッとしないが、かなり“出来る”と見える。
先ほどの体力テストはきっちりこなしていたが、面接は……どうやら日本語がほとんど喋れないらしく、さっぱりだったようだ。
相当な気持ちで向かってくるだろう。
留美は気持ちを引き締め、リングに上がった。……

――しかしこの対戦では、終始ルーチェが優位を締めた。
留美のパワーをいなし、的確な打撃を打ち込んでくる。
ダウンさせられることはなかったものの、エルボーやニーリフトを叩き込まれ、こちらは有効な技を仕掛けられぬまま、制限時間が訪れた。
引き分け? いや、明らかに判定負けという所だ。

次の対戦相手となったのは、
〈オースチン・羊子〉
である。
体格はほぼルーチェと同等、テクニックで勝負するタイプだろうか。
体力テストではかなり息が上がっていたし、面接の態度もかなり悪かった……まぁ、留美も大差なかったのだが、そこは伝え方の問題であろうか。
スパーリングには全てを賭けてくるだろう。
それより何より、

――何となく、虫が好かねぇ。

いかにも我が強そうで、そのためなら何でもやりそうな奴。
つまりは同属嫌悪であるが、本人は絶対に認めたがるまい。
留美は気を取り直し、羊子と手を合わせた――

「そこまでっ」
レフェリーを務める《伊達遥》が両者の間に割って入った。
留美のショルダータックルで吹っ飛ばされた羊子は、ぐったりとマットに伏している。
脳震盪を起こしただろうか。
「フン……ザマぁねぇな」
鼻で笑って見せるが、そこまで余裕があったわけでもない。

ともあれ、これで全てのテストが終了した。
合否発表の時が訪れる……


「それでは、合格者を発表します~」
緊張の極みにあるテスト生たちとは裏腹に、能天気な声で神塩が続ける。
「え~っとですね、まず……」
「…………っ」
息を呑み、名前を呼ばれることを祈るルーチェ……
「19番、安宅留美さ~ん」
「――当然だな」
不敵にうそぶき、立ち上がる留美。
内心では結構ドキドキであったが、当たり前といいたげに髪をかきあげる。
「それから、30番、オースチン羊子さ~~ん」
「……どーも」
こちらはチト浮かない表情ながら、立ち上がる羊子。
(ゲッ。あいつも合格かよ)
他のスパーリングでもいまいちな結果だったので、てっきり落ちたかと思ったが……
(……まぁ、いいさ)
あの調子じゃ、どうせ入門した所で、練習にはついてこれまい。
遠からず夜逃げするのが関の山だ……

それから何人かの名前が呼ばれ、合格発表は終わった。
「……以上で~す。合格出来なかった人は、またトライして下さいね~」
「――ッッ!!」
ダンッ!! と道場中に轟音が響き渡った。
思わずギョッと音のした方向を見る一同。
さっきの外国人――ルーチェとか言ったか、彼女が立ち上がり、床を踏み鳴らしたのだ。
「ワタシ、カッタ! ワタシ! アイツ、アイツ、ミンナ、カッタ!」
留美たちを次々に指差しながら、必死に訴えているルーチェ。
確かに、スパーリングだけ見れば、彼女の動きは十分なものではあった。
が、いかんせん外国人、しかも日本語が不自由とあっては、なかなか難しいだろう。
「~~~ッ!!」
「●▲×□!! $%&$! #&”$%&~~~~!!」
激情のままに英語でまくしたてる彼女、しかしもはや時すでに――

「――そうね。確かに、強さこそが全てだわ」
ふらりと道場に入ってきた女性の声が、ルーチェの絶叫をかき消した。
その姿を見るなり、留美は思わずゾクリと肌が粟立つのを感じた。
(この女は……っ)
「あら~、十六夜さん、珍しいですね~」
「えぇ。ちょっと――ね」
十六夜――《十六夜 美響》。
VT‐Xのエース格として知られる、カラミティ・クイーン。
ルーチェに視線を向け、微笑を浮かべ、何やら英語で問いかける。
気圧されながらも、うなずく彼女。
「オーケー。……社長、どうかしら」
「見込みがあるんだろうな?」
「私の目が曇っていなければね」
「……いいだろう」
社長がメモに走り書きし、神塩に手渡す。
「あ、は~い。……27番、ルーチェ・リトルバードさ~~ん」
「ハッ……ハイッ!!」
大声で返答するルーチェ。
(――厄介なのが残ったな)
と、黙って見ていた羊子が、ふいにルーチェに英語で話しかけていった。
そういえば、変わった苗字だとは思っていたが……
熱い握手を交わす2人……
その時、羊子が留美に向かってニヤリと笑って見せた。

(――あの女!)

やっぱり、好きになれそうにないタイプだ、と安宅留美は思った。……



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by right-o | 2011-10-31 08:08 | 書き物