「ラ・ミスティカ」 杉浦美月VSジョーカーレディVSチョチョカラス Ⅱ

「お前は私が勝つのをサポートすればいい。出過ぎたことをするな!」
 ジョーカーがそう言えば、
「知ったことか。私だってベルトが欲しい」
 と相変わらずの無表情で美月が返す。
 二人は事前に、どっちが勝ってベルトを手にするか、などという無粋な打ち合わせはしなかった。
 そして結果こうなることも目に見えていたが、こうでなくては面白くないとも思っていた。
 さらにジョーカーが何か言おうとした時、突然観客のざわめきが大きくなる。
「ハッ」
 言い争う二人を尻目にリング内から跳躍したチョチョカラスは、
 ロープと平行になるほど身体を横にし、更に空中で高速回転しながら二人の上に降ってきた。
 見事なトルニージョで二人まとめて押し潰し、その内ジョーカーの頭を掴んでリングへ。
 まずはジョーカーをコーナーに振り、そのあとを追いかける。
 そしてサードロープを足場に、ジョーカーの肩を蹴って背後に大きく宙返り。
「この……!」
 踏み台にされたジョーカーが怒って前に出ようとしたところへ、
 ねらい済ましたトラースキックで顎を蹴り飛ばした。
「これからだ!」
 それまでの憂さを晴らすべく、チョチョカラスは攻勢に出ようとする。
 再度ジョーカーをコーナーに振り、自分も反対側のコーナーに待機。
 そこから一杯に助走をつけて串刺し式の攻撃に出ようとした……が、足が動かなかった。
「ちっ」
 リング下から美月がチョチョカラスの足を引っ張っていた。
 そして必死に振りほどこうとするチョチョカラスの目前には、
 反対に自分が助走をつけたジョーカーが迫っている。
「くらえッ!」
 飛び掛りつつ両膝を突き出し、それでチョチョカラスの胸板を打つ。
「ぐぅっ……」
 ふらふらとコーナーから出たチョチョカラスの背後を取り、その両肩に手を置いた。
 肩にかけた両手で自分を持ち上げ、跳び箱のようにジャンプ。
 空中で身体を傾けて右膝の内側を相手の後頭部にあてがい、
 そのままギロチンドロップを決めるように落下。
 チョチョカラスの顔面をマットに叩きつけた。
 間髪入れず、体を裏返してカバーへ。
 しかし、カウント1を聞く間もなくジョーカーは引き剥がされた。
「何をする!勝つのは私だ!!」
「知るかっ!」
 とうとう美月は、言葉ではなく右肘で応じ。対するジョーカーも拳で返す。
 つい十数分前までの盟友がリング中央で殴り合いを展開した。
 そして案の上、復活したチョチョカラスが、
 両足を開いたドロップキックで二人まとめて蹴り飛ばしたのだった。

 その後、ジョーカーと美月は、チョチョカラスに対しては微妙な共闘関係を続けるものの、
 隙あらば互いに出し抜こうと常に伺っていくようになる。
 そして徐々にチョチョカラスが支配する時間が長くなるのだが、
 そんな中で、美月に大きなチャンスが訪れる。
「これで終わりだ!」
 乱戦の中、コーナー下に美月を叩きつけ、チョチョカラスがコーナーを上る。
 華麗な飛び技で試合の幕引きかと思われた時、
 場外でダウンしていたジョーカーが、際どくリングに滑り込んできた。
「終わるのはお前だよ。ベルトはもらう……っ!」
 コーナー上で立ち上がりかけていたチョチョカラスに飛び掛ったジョーカーは、
 パンチを連発して怯ませると、自分もリング中央を向いてコーナーに上った。
 チョチョカラスの頭を肩の上に乗せて固定し、リング内に向けてジャンプ。
 雪崩式のダイヤモンドカッターという大技を決めてみせる。
 二人分の体重を乗せた落下がリングを震わせたが、
 チョチョカラスとジョーカーの下敷きになる位置にいた、美月の姿が無い。
 また邪魔をされてはかなわないので、先に美月を黙らせるべく立ち上がったジョーカーの前に、
 美月が待っていた。
「このっ!」
 反射的にジョーカーが振るった右腕に自分の右腕を絡ませ、ジョーカーの背中側に飛びつく。
 そして右足をジョーカーの左腕に引っ掛けた。
(十字固めか、いや……!?)
 過去の美月の試合を見ているジョーカーは覚えていた。
 ノエルの持つジュニア王座に挑戦した時、美月が使った危険な技のことを。
 そのまま相手を倒して十字固めにいかず、逆に相手の側に一旦体重を預けて反動をつける。
 そこから一気に相手の背中側に勢いをつけて引き倒し、後頭部をマットに叩きつける技。
 自分の頭がマットにつく寸前、ジョーカーは衝撃に備えることができた。
「さて……」
 マットに転がるジョーカーを押しのけ、美月は立った。
 対して、チョチョカラスも立ち上がりかけている。
 あれだけの大技をくらって、この短時間で立つというあたり、流石としか言いようがない。
(ただ、いくらなんでも虫の息のはず)
 普通ならとても一対一で勝てる相手ではないが、美月は覚悟を決めた。
 ふらつきながらも、チョチョカラスが振るった右の肘をかいくぐり、背後へ。
 そこから勘でタイミングを計り、振り返り様トラースキックのように右足を振り上げる。
「かはっ……!」
 目論見通り、美月はチョチョカラスの腹部に右の踵をめり込ませた。
 素早く頭を持って両足の間に挟み、パイルドライバーの姿勢。
 チョチョカラスから事前の申し出により、今回のみ危険技も見逃されることになっている。
(勝つ……!!)
 メキシコで得たもう一つの技、前転式のパイルドライバー。
 ここに来て美月が勝利を確信した瞬間、前からジョーカーが踊りかかった。
「甘いっ!」
 チョチョカラスの背中を蹴り、無防備な美月の顔面へシャイニングウィザード。
 額を打ち抜かれた美月は真後ろに倒れて昏倒し、ほんの一瞬だけ早く試合からリタイアした。
「やはり勝つのは、わた……」
 着地し、チョチョカラスと向き合ったと思った次の瞬間、
 ジョーカーはマットへうつ伏せで叩きつけられていた。
 目にもとまらぬ速さでジョーカーへ巻きついたチョチョカラスは、
 人工衛星ヘッドシザースのような回転から神速の脇固め。
 ほとんど反射的にタップしたジョーカーから、
 大逆転とも言える勝利を奪った。

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by right-o | 2011-09-12 19:39 | 書き物