「結婚式プロレス」 相羽VS美月VS越後VS真田VS伊達VS鏡VS森嶋VS小川

 とあるホテルの大広間。
 今宵ここでは、ある夫婦の結婚披露宴が催されていた。
 新郎はとあるプロレス団体の社長、そして新婦は現役の所属レスラーである。
 予定されていた式次第は順調に消化されていき、
 次はいよいよお定まりの“二人の初めての共同作業”という段になった。
 が、司会がその旨を会場に告げようとした時、
「ちょ、ちょっと待つッス!!」
 招待客の一人、真田美幸がおもむろに席から立ちあがった。
 彼女も新婦と同じく、新郎の団体に所属するレスラーである。
「じ、じ、じ、自分も社長と結婚したいッス!!!」
 いきなりの大告白に他のゲストが驚く間もなく、
「ぼ、ボクも!」
「あたしも!」
「私もですわ!」
「わ、わたしも……!」
 会場のそこかしこからぞくぞくと女子レスラーたちが名乗りを上げる。
 それを見て、司会の井上霧子は一つ咳払いをしたあと、声音を変えてこう宣言した。
『えー、ただいまより花嫁の座を懸けた時間無制限一本勝負を行います!
 なお、この試合はエニウェアフォールかつ反則裁定無し。決着は3カウントかギブアップのみ!
 負けた者から脱落していき、最後の一人に残った者が勝者となります!!」』
 いきなりのバトルロイヤル宣言を受けて戦闘態勢になった参加者たちを尻目に、
 何故か、ステージ上の席で困ったように頭を掻く新郎の隣、
 新婦のみは会場には目もくれず、何やら一心不乱の様子でテーブルに向けた顔を動かしている。


 花嫁候補に名乗りを上げたのは、相羽、美月、越後、真田、伊達、鏡、森嶋、小川。
 席から立ち上がると同時に全員が盛装を脱ぎ捨て、
 何故かその下から普段通りの試合着が現れたりしたが、細かいことを気にしてはいけない。
 一般の招待客が円卓に座って見守る状況のまま、
 一部を除いてまずは各自手近な相手へ突進して行った。
「やあああッッ!!」
「……!!」
 走り込んでのエルボーを打ってきた相羽を仁王立ちで受け止め、森嶋はお返しの逆水平。
 とても披露宴に似つかわしくない音を響かせた一発に、相羽は思わず後退。
「っ……負けるかぁっ!!」
 めげずに打ち返していくものの、腕力の差は歴然としている。
 じりじりと後ろに下がっていった相羽は、ついには背後に円卓を背負う形になってしまった。
「ええいっ!!」
 ここで相羽はトーキックを入れて森嶋を屈ませ、強引にブレーンバスターの体勢へ。
 テーブルの上に叩きつけて起死回生を狙ったが、森嶋はびくともしない。
 どころか、逆に森嶋が力を入れると相羽の体が浮き上がった。
「うわわわっ!?」
 慌ててじたばたと抵抗して森嶋をふりほどいた相羽は、
 それでも今度は間髪入れずにその場でジャンプ。
 両足で森嶋の首を挟んでフランケンシュタイナーを敢行したが、やはりびくともしない。
「……ふんっ!」
 森嶋は、自分の前にぶら下がっている相羽を力ずくで持ち上げ、そのままテーブル目掛けて叩きつけた。
 これで、相羽がこの試合最初の脱落者となった。

○森嶋 亜里沙(3分14秒 テーブルへのパワーボム)相羽 和希×

 相羽を軽くあしらってみせた森嶋は、次の相手を物色する。
 と、やや離れた位置で鏡と真田がやり合っていた。
「一気に……!」
 長身を翻して二人へ突進。
 ある意味、この試合に参加している姿が最も意外な一人である。
「うおっ!?」
 越後の振り向きざまをラリアットで薙ぎ倒し、返す刀で鏡へ。
 しかし鏡は冷静に身を屈め、森嶋の右足を抱え込んで一気に体を持ち上げる。
「引っ込んでいなさいッ!」
 鏡のフラップジャックで、森嶋は悲鳴も立てず背後のテーブルへ突っ込んだ。
 が、すぐさまフォールへ行こうとした鏡の肩を真田が掴む。
「お前の相手はあたしだっ!」
「……チッ」
 鏡が再度真田の方を向いたあと、
 森嶋が真っ二つに割ったテーブルの左右から同時に動く影があった。
「「……あっ」」
 ひとまず花嫁候補として手を挙げてすぐ、
 さりげなく席に座りなおして無関係を装っていた美月と小川である。
 同じテーブルの向いに座っていながら互いに気がついてなかった二人は、
 漁夫の利を得ようとして席を立ちかけたところで目が合った。
 ほんの一瞬の沈黙のあと、二人は同時に動く。
 まずは脅威となりそうな者を一人確実に排除するため、同時に森嶋へ覆い被さった。

○杉浦 美月
○小川 ひかる(5分3秒 体固め)森嶋 亜里沙×

 ちなみにフォールは井上霧子が会場を駆け回りつつカウントしている。
 3カウントが入ったあと、美月と小川は顔を見合わせ、どちらからともなく右手を差し出した。
 残り二人となるまで、とりあえずは手を組もう――という協定が結ばれる寸前、
「「卑怯者は花嫁にふさわしく無い(ッス/ですわ)!!」」
 真田が右足を、鏡がその場にあったイスを振り上げた。
 斬馬迅が小川の、折り畳みでも何でもないレセプションチェアの足が美月の、
 それぞれ後頭部をクリーンヒットした。

○真田 美幸(5分24秒 斬馬迅)小川 ひかる×
○フレイア鏡(5分24秒 イス攻撃)杉浦 美月×

 
 一方、会場の別の場所では伊達と越後が一歩も引かない打撃戦を繰り広げている。
 周囲が完全に引いてしまうほどの打ち合いはなかなか決着がつきそうにない。
 埒があかないと感じた伊達は、わざと後退することで背後にテーブルを背負い、
 ガードを下げてハイキックを誘う。
「はぁッ!」
 これに乗って来た越後の右足を掻い潜り、
 空振りしたことで半身からやや背後を向いた越後の腰を両手でホールド。
「私だって負けられない……!!」
 一気に越後を引き抜いて急角度のバックドロップ。
 テーブルへ逆さに突き刺さるかと思われたが、越後はまだ終わらなかった。
「くそっ!!」
 咄嗟にテーブルの上にあったビール瓶を掴むと、投げられながらも伊達の頭へ一撃。
 これで完全にKOされた伊達と、
 結局テーブルの上へ叩きつけられた越後は隣り合って仰向けに倒れ、
 それぞれ互いの腕が互いの上に乗っていた。

×伊達 遥(6分00秒 同時フォール)越後 しのぶ×


「どうやら向こうは勝手にカタがついたようですわね……!」
「あとは一対一、絶対負けないッス!!」
 いつの間にかラスト二人になっていた鏡と真田は会場中を舞台にやりあった挙句、
 最終的には新郎新婦のいるステージの上へもつれ込んだ。
 例の“二人の初めての共同作業”用の大きなケーキを前にして殴り合う二人を、
 会場中が冷や冷やしながら見守る。
 何しろ既にテーブルが3つダメになっているのだった。
 そんな形式上どうやっても荒れるはずの試合の決着は、意外にも関節技であった。
「終わりですわ!」
 真田の両足を掬って倒し、前に出した自分の右足に絡めつつステップオーバー。
 鏡必殺のサソリ固めが決まった。
 が、しかし何しろ相手は真田なので、容易にギブアップしようとしない。
「く、く……根性ォォォォォ!!」
 完全に極められていても、あるはずの無いロープブレイクを目指す真田。
 いい加減うんざりしてきた鏡だったが、
 目の前に置かれていたある物体を見た途端、自然と邪悪な笑みが浮かんでくる。
「ふふふ、これならどうかしら!?」
 サソリ固めを極めながら自由な上体で鏡が振り上げた物を見て、会場中が「まさか」と思った。
 そしてそのまさかであった。
 新郎新婦によるキャンドルサービス用の長い蝋燭を手にした鏡は、
 すかさず傍にあったチャッカマンで火を点け、容赦無く真田の背中の上へかざす。
「!?……熱ッ!!」
 流石の真田でも声を上げずにはいられないほど熱い液体が背中に落ちた。
「ちょ、シャレにならないッスよ!!」
 と言っても反則裁定無しなのでどうにもならない。
 それでも暫く耐えたあと、真田は無念のタップアウトとなった。

○フレイア鏡(12分54秒 サソリ固めwith蝋燭)真田美幸×


「ふ、フフフフ……私の勝ちですわ!」
 鏡が勝利の余韻に浸っている時、
「ぷはー」
 もう食べられないぞ、と、目の前のテーブル上一杯に置かれていた料理を食べ終えた新婦が、
 ようやく顔を上げた。
 ふー、と一息吐き、辺りを見回す。
 ちょうど鏡が新婦の方を向いたところであった。
「さあ、その席をおどきなさい。でなければ他のと同じく、実力で……」
「ケーキだぁー!!!!」
 新婦の視線は鏡の背後にそびえ立つウエディングケーキに向けられていた。
 甘いものは別腹、ということだろうか。
 さっきまで満腹だったはずのお腹に隙間をつくり、脇目もふらず巨大ケーキへ飛び掛かる。
 もちろん、その間に立っている鏡の存在はそもそも視界に入ってすらなかった。

○フォクシー真帆(13分30秒 スピアー)フレイア鏡×


 全てが終わったあと、花嫁の歯型がついたウエディングケーキへは、
 無事新郎新婦の手でナイフが入れられ、一件落着となった。
 結局のところ、数多の熱意ある花嫁候補より、
 どう見ても食べ物で釣られたようにしか見えない真帆が、新婦の座を防衛したのであった。

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by right-o | 2011-04-07 21:08 | 書き物