「フェイマサー」 ジョーカーレディVSミレーヌ・シウバ

「いやー、いいデビュー戦だった。流石流石」
「……知ってましたね?知っててわざとけしかけましたね?」
 ブーイングを背に憮然とした表情で引き上げてきた美月を、ジョーカーは笑顔とハグで出迎えた。
「そうそう、メキシコじゃパイルみたいな頭から落とす技は反則なんだよ」
「だったら何で私に……」
「その辺の事情はあとでゆっくり話すとして、次は私の番だからさ。
 サクッと片付けてくるからちょっと待っててくれ」
 そういえ、ジョーカーは既にフェイスペイントを描き終えて試合モードになっている。
「あ、そうそう」
 美月を残して入場ゲートに向かおうとしたジョーカーが、不意に足を止めた。
「あんなパイルドライバー初めて見た!……パクッてもいいかな?」
 むくれている美月に手を振りながら、ジョーカーは観客の前へと出て行った。


(やっぱりキャラ作ってるな)
 観客を睨みつけたり悪態を吐いたりしながらリングに上がったジョーカーは、
 不敵な感じの笑みを浮かべてコーナーに佇んでいる。
 日本で見たときよりいくらか軽薄な感じがするあたりも演出だろうか。
 何にせよ、普段の顔を知っているとやはりちょっと違和感を感じてしまう。
 美月がそんなことを考えつつバックステージから観戦する前で、
 次の試合、ジョーカーレディ対ミレーヌ・シウバ戦のゴングが鳴った。


(格下相手のシングル戦で手間取りたくないが)
 不敵な表情は変えず、両手を広げて組む姿勢を見せながらジョーカーが距離を詰める。
 大してシウバは、ガードを上げてやや右足を浮かせたファイティングポーズから微動だにしない。
(こういう手合は苦手なんだよな……)
 間合いに入った瞬間、シウバの右足が鞭のようにしなり、
 バチッ、という音を立ててジョーカーの太股を打った。
「フンッ!」
 やせ我慢しつつも動きの止まったジョーカーへ、シウバは右足を戻すと同時に再び走らせ、
 間髪入れずに左脇腹へミドルキック。
 いきなりの強烈な打撃に、客席が一気に沸いた。
「ぐっ」
 呻き声が漏れ、ジョーカーの体が傾く。
 が、ジョーカーは後ろではなく前に向かって動いた。
 よろめきながらもシウバの肩に両手をかけ、距離を潰す。
 ちょうど立ち技の格闘技で言うクリンチの状態に持ち込んだ。
「離れろ!」
 シウバが突き放そうとしても離れないため、
 やむなくレフェリーが強引にブレイクしようとした時、ジョーカーが動いた。
 両手で頭を掴むように持ち、親指を使ってサミング。
「ぐぁっ……!」
 思わず顔を覆って後ろを向いたシウバの頭をヘッドロック気味に捉え、
 顔面をトップロープに押し付けて思いっきり擦る。
 額で発生する摩擦熱から逃れようともがくシウバを、そのまま強引にコーナーまで持っていった。
「さっきまでの威勢はどうしたっ!」
 コーナーに詰めて解放したシウバの顔面を思い切り張る。
「何だとッ」
 反発して前へ出てこようとしたところで、ジョーカーの膝が腹部へめり込んだ。
 さらに素早くシウバの足を払って座り込ませ、無防備な顔面へ両足を揃えたドロップキック。
 少し引っ張ってロープ際から離し、前腕を顔面に押し付けてカバー。
「クソッ!」
 シウバはイラ立ちながら力任せに跳ね除けたが、もはやすっかりジョーカーのペースにハマっていた。

「汚っ」
 裏で見ていた美月が思わずそう呟くほど、ジョーカーは当たり前のように反則を駆使していた。
 とはいえ、ここまで堂々としていると逆に感心してしまうほどである。
 その後もペースを握ったまま試合を進めたジョーカーは、
 開始から五分ほど経ったところで、ダウンさせたシウバを残して場外に下りた。
「ただ勝ってもつまらないな!」
 そして抵抗する客から強引にイスを奪い取ってリングへ戻る。
『おいっ』
 という感じで制止に来たレフェリーを無視してイスを振りかぶったが、
 流石にレフェリーがイスを掴んで阻止。
「ちっ」
 が、これはジョーカーの策であった。
 舌打ちしつつも、起き上がりかけていたシウバの頭を股に挟んで電光石火のパイルドライバー。
 そして素早く起き上がり、何食わぬ顔でコーナーに寄りかかる。
 レフェリーが背を向けたほんの数秒の仕事であった。
 美月の時の数倍のブーイングを受けながら、訝しげな視線を送るレフェリーに対し、
 何のことやらと首をかしげて見せる。
 完全に勝負は決まっていたが、まだフォールにはいかなかった。
「くっ……そ……!!」
 仰向けから両手をついて少しずつ必死に起き上がろうとするシウバを、
 ジョーカーは欠伸をしながら待った。
 ようやく片膝がマットから離れようとしたところで側面から忍び寄り、ジャンプ。
 上げかけていた後頭部へ右の太股を乗せ、体重をかけて真下に叩きつける。
 シウバは、後頭部にギロチンドロップをくらうような形で、顔面からマットに叩きつけられた。


 明らかに故意の反則と、そこから更に無用のダメ押し。
 会場の憎悪を一身に集めたジョーカーは、楽しそうにマイクを握っていた。
『アッハッハッハッハ!他のヤツはなんてことない。あとはお前を潰し、ベルトを奪うだけなんだよ!
 チョチョカラス!すぐにお前をコイツと同じ目に遭わせてやる!!』
 ああ、どこに行ってもこういう場合のマイクアピールは共通だなあ、
 などと思いながらリングを見ていた美月は、このジョーカーのアピールが、
 この後自分と無関係では無くなるとは、夢にも思っていなかった。

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by right-o | 2011-03-13 23:32 | 書き物