メカ美月チャレンジ プロローグ

 とある団体の食堂。
 夕食を食べ終わった美月は、テーブルに肘をつきながらテレビを見ていた。
 その後ろで、非常に不毛な議論が行われている。
「ボクの方が巧いよ!」
「あたしの方が巧いもん!」
 何故か相羽と金井が互いに試合の巧拙について主張しあっていた。
 超どうでもよかった。
 美月は雑音を脳内でシャットアウトして画面に集中する。
 映像の中では、ある一つの偉大なキャリアが終わろうとしていた。
 美月が見ているのは、ある試合のDVD映像。
 それは実に十六度も世界王者に輝いた伝説的なレスラーの引退試合である。
『I'm sorry,I love you』
 顔面を流血で真っ赤に染め、
 満身創痍ながらもまだファイティングポーズをとって立ち上がろうとする伝説に対し、
 介錯役を任された、こちらも伝説レベルの大ベテランの口が、そんな風に呟く様子が見て取れた。
 この場面は何度見ても涙を誘われる。
 次の瞬間、トラースキックの一撃が伝説に終止符を打った。
 「箒が相手でもプロレスができる」と言われた名人が、リングを去った瞬間である。
 まあその後二年ぐらいして別の団体で試合してたりするのは、また別の話として。
 後ろの二人も、ギャーギャー言う前にこういうの見て勉強すればいいのに……と、思っていた時、
「あ」
 美月はあることを思いついた。
 名人は箒が相手でもプロレスができる。
 つまり、箒が相手でもプロレスができる人は、プロレスが巧い。
 いや、箒はものの例えだろう、せめて手足ぐらい付けてやろう。
「どちらの方がプロレスが巧いか、私が確かめてあげます」
 まだ不毛な議論を続けていた相羽と金井へ、美月はそう言い放った。

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by right-o | 2011-01-23 18:03 | 書き物