「フランケンシュタイナー/ウラカンラナインベルティダ」

 とある団体の寮の一室。
「何というかこう、二度目の載冠ともなると貫禄みたいなものが……」
「……ごめん美月ちゃん、わかんない」
 初めて美月がジュニア王座を奪取してから一年が経ち、
 この間にベルトは美月→綾→ノエルと巡って再び美月の腰に戻って来ていた。
「あーあ、ボクもジュニアに挑戦できれば……」
「なんだと」
「……もういっぺん……言ってみろ………」
 未だ無冠の相羽が迂闊な愚痴をこぼした瞬間、美月とノエルが左右から相羽の頬をつねる。
「ほほう、ジュニアなら自分でも獲れると?私たちになら勝てると?」
「……地味な奴の発想……痩せた考え……」
「ふええ……」
 だが美月は、しばらく相羽の頬をねじり倒してから不意に噴出し笑いを見せた。
「ふっ、しかし和希さんの場合、相手が誰というより自分に問題があるようですね」
「……セルフ……垂直落下……」
「うわあああ言うなあああああ!!」
 言われた途端、相羽は顔を真っ赤にしながら俯いてしまう。
「フフフ、あの場面が何度放送でリプレイされていたことか」
 ノエルと美月が二度目のジュニア王座戦を争ったのと同じ日、
 相羽も中堅ベルトへ二度目の挑戦を果たしていた。
 永原から代わった王者相手にまあそこそこ善戦しているかと思われた矢先、
 雪崩式のフランケンシュタイナーを仕掛けようとした相羽は見事に失敗。
 コーナーに座った相手の首を挟んだ両足がすっぽ抜け、
 相羽一人だけがマットに頭から突き刺さったのだ。
 呆れ返った対戦相手は、勝手に目を回した相羽を蹴り倒して3カウント。
 運悪くテレビ放送の入っていたイベントで、相羽は無様な醜態を晒してしまった。
「雪崩式ならブレーンバスターぐらいにしとけばいいのに、慣れない技を使おうとするから」
「だ、だってタイトルマッチなら秘密兵器ぐらい使いたくなるじゃないか!?」
 雪崩式フランケンシュタイナー程度が秘密兵器という発想はともかく、
 こう言われると美月も同じような覚えがある。
 ただ美月の場合、失敗したことが結果的に良い方に出ただけのことだ。
「まあ何にしても似合いませんから、やめた方がいいですよ」
「え~、ちょっと練習すればできるようになるって。色んなやり方もあるし」
 なんかイラッとしたが、美月は久々で相羽の話につきあってやることにした。


「フランケンといえば、まず元祖ですか」
「スコッ……リリィ・スナイパーだね」
 フランケンシュタイナーを開発したのは、スナイパーシスターズの妹リリィの功績。
 とはいえ、今や本人が使用する場面を見ることはほとんど無いと言っていいほど。
「ちなみにフランケンシュタイナーとウラカンラナ……なんとかは本来別の技だそうですが、
 もう大概混同されすぎてわからなくなってますね」
「それだけ使う人が多いってことかな」
「確かに。日本人で有名なところだと、まずは武藤さんでしょうか」
 数多くの必殺技を持つ武藤めぐみだが、それらを返されたあと、
 さあこれから反撃と勢いづく相手にズバリと決めてみせるのがフランケンシュタイナー。
 正に奥の手といった使い方であり、フォール率はかなり高い。
「フォールせずに投げ捨てる形だと使う人はもっと多くなります」
「ボクは何故かAGEHAさんが印象に残ってるんだけど」
 本人は涼しい顔で使いこなしているが、AGEHAのフランケンは見た目かなり危なっかしい。
 何しろ身は軽くとも身長があるため、大抵は頭がマットにつかないよう、
 相手の横に体を流す形で仕掛ける。
「更に派生技もありますからね。やはり有名なのは雪崩式ですか。で、誰のを真似たんです?」
「ソニックキャット……」
 雪崩式フランケンの元祖はソニックキャット。
 ここから更に細かく派生して、投げる前に相手の前で腰を振るのが渡辺智美、
 コーナーに座っている相手に横のトップロープから飛びついて投げるのが小早川志保、
 そしてコーナー上でタッグパートナーに肩車させた相手を投げ捨てる軽業は成瀬唯のもの。
「あとは……一応リバースフランケンというのもありますね」
「あれ使うときの上原さんって、絶対殺す気だよね……」
 背中を向けた相手に向かってフランケンを仕掛けるのはブレード上原ぐらい。
 もちろんフォールなどという生易しい結果にはならず、相手は後頭部をマットで強打する破目になる。
 更に上原はこれを雪崩式で使用したこともあるが、
 よほど相手を選んでいるのか、一応怪我人は出ていない。
「他に変わった使い方と言えば、保科さんと橘さんですかね」
「合気道って奥が深いよね」
「多分、合気道は関係無いんじゃないですかね……」
 保科は意表を突くフランケンから流れるように腕ひしぎへ移行するが、
 何から着想を得た動きなのかはわからない。
 橘はショルダースルー等で跳ね上げられた際、空中で体勢を立て直してフランケンでカウンターを取る。
 見た目非常に華麗であり、観客を味方につけて一気に流れを引き寄せることができる。
「ああそうそう、パワーボムのカウンターとしても使われます」
「といえば、やっぱり伝説の祐希子市ヶ谷戦だよねぇ」
 マイティ祐希子VSビューティ市ヶ谷戦の見所の一つが、市ヶ谷のビューティボムを巡る攻防。
 これを祐希子がフランケンで返そうと試み、市ヶ谷はこれを更に踏ん張って持ち上げようとする。
 この攻防の際、返し損ねた祐希子が真っ逆さまにマットへ叩きつけられた瞬間は、
 テレビ・会場問わず見ていた者全員を一瞬で氷つかせた。


「というわけで、やっぱり和希さんには似合わない技なので諦めてください」
「え、いや、何が『というわけ』なの……?」
「とにかく、諦めてください」
「そんなあ……」
 口を尖らせて抗議する相羽をなだめすかしながら、
 美月は内心ちょっと本気で相羽にフランケン系の技を使わせたくなかったりする。
(なるべく他人と技が被るのは避けたいところ……)
 実は、美月にも思いついている技があったのだ。

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by right-o | 2010-09-26 19:03 | 書き物