『エンジェルカップ』 TNAエピローグ

『こんばんは!いまだエンジェルカップの熱気冷めやらぬ今日この頃ですが、
 今夜のTNAは重大発表が目白押し!!それらを紹介していくためにも、まずはこの人の登場です!!』
 いつも以上の超満員となった会場に霧子の声が響き、続いてパンク調の曲がかかると、
 観客の中でエンジェルカップを見た者は一様に首を傾げる。
 どこかで聞いたが、誰の入場曲だったか……と思い出そうとしている内に本人が現れた。
 着ているものこそ黒いスーツだが、金髪のツインテールを纏める大きな赤リボン、
 小さな体に似合わぬ高飛車な表情と態度は、まさしくソフィア・リチャーズその人である。
 花火に驚かされることもなくリングに立ったソフィアは、マイクを要求した。
「簡潔に自己紹介するわ。
 あたしが、今日からこの団体のジェネラルマネージャーになったソフィア・リチャーズよ!」
 言い切った瞬間、客席全体が「「えぇ~!?」」という声で満たされた。
 ソフィアはエンジェルカップ後のセレモニーでTNAオファー賞を受けていたが、
 それはレスラーとしてのオファーではなかったのである。
「うるさいうるさいうるさい!!あたしがGMなのよ!誰にも文句は言わせないんだからね!!」
 最後に「ふんっ」と鼻をならして一方的に宣言すると、
 ソフィアは再度リング下に向かって何かを要求した。
「今夜わざわざあんた達の前に出てきてやったのは他でもないわ。コレをお披露目するのよ!」
 そう言ってソフィアが取り出したのは、黄金地に赤でTNAの文字が入った大きなベルト。
 この団体が初めて設立したシングル王座のベルトであった。
「誰がこのベルトを持つにふさわしいか決めてもらうわ。まず手始めに全員で……」
 言い切らない内に鏡のテーマがかかり、次いで本人が姿を現した。
 いつもと変わらぬ優雅な歩みでリングへ上がり、見る見る不機嫌になっていくGMと相対する。
「GMの話を遮るなんて、どういう……」
「誰がそのベルトにふさわしいか、今更決める必要があると?」
 最初から、話を聞くつもりなどあるはずもない鏡は、ただ右手をソフィアに向かって差し出した。
「私以外に、それを巻く資格などあるはずが……」
 と、今度は鏡の言葉が遮られ、意外にも中森の曲がかかる。
 どよめきの中でマイクを持って現れた中森は、歩を進めながら喋り始めた。
「シングルの準決勝でコロッと負けて、この団体の恥を晒した人間にベルトを巻く資格があると?」
「……決勝トーナメントにすら出られなかった人に言われる筋合いはありませんわ」
 完全に自分のことを棚に上げて噛みついた中森に対し、言われて明らかに不機嫌になった鏡が返す。
「確かに、私は決勝トーナメントに出られなかった。お前の汚い反則のせいでな。
 あれさえ無ければ、今頃お前の足首をへし折って、私が決勝を戦っていたはずだ」
「はっ、バカな……!」
 鏡でなくても呆れるほどの暴論なのだが、中森が言うと何となく本当のような気がしてくる。
 恥ずかしげも無くこんなことを言ってのける中森には、明らかに心境の変化があった。
「だったら、今ここで試してあげましょうか……!?」
 そして中森はついに、鏡からこの一言を引き出した。
 これを言わせるためだけの挑発であった。
「ああ、望むとこ……」
「「ちょっと待ったぁ!!」」
 しかし、ここで更に割り込みが入る。
 曲すらかからないまま、客席を割って現れたのはジョーカーと真帆。
 百鬼夜行から勧誘を受けた二人は、既に形からヒールに入っているのか、
 黒と白で揃えた新コスチュームに変わっている。
「エンジェルカップでの活躍を言うなら、ベストパフォーマーたるこの私にも、
 ベルトを巻く資格はあるんじゃないのか?」
「ベルトはかなりウマいって聞いたぞ!!」
 そして、鏡と中森が何か言おうとする前に、
「「ちょおおおおおっと待ったぁ!!!」」
 更に出てきたのは藤原&みずきのヒロインコンビ。
「悪が蔓延る様子を黙って見ているわけにはいきません!!」
「エンジェルカップに出ていないからといって、ベルトを争えないのは不公平です!!」
 この後、栗浜からエミリー・ネルソン、果てはどさくさに紛れて星野ちよるまで手を挙げ、
 リング上はかなり混沌としてきた。
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!
 黙ってGMであるこのあたしの言うことをゲフッ」
 ついにキレたソフィアがわめき始めたところで、痺れを切らした真帆が鏡へスピアー。
 これが見事にかわされてソフィアを直撃。
 以後ついに口撃では収まらなくなり、リング上の全員を巻き込んだ大乱闘へと発展していった。


「あーあ……かわいそうに」
 乱闘を繰り広げるレスラーたちの足元、お腹を押さえて悶絶しているソフィアをモニター越しに見ながら、
 小川は自室のリクライニングチェアに背中を預けた。
 その指には、ジュニアトーナメント王者の証である指輪が光っている。
「まさかこのタイミングでベルトとは思わなかったけど……まあ、あまりがっつくのも柄じゃないわ。
 折角のお休み、満喫させてもらいましょ」
 机の上に積まれた参考書の山を見ながら、小川は一人で呟いた。
「とりあえず……そうね、危険物取扱あたりから手をつけましょうか。まだ日もあるし……」
 それぞれが大小の変化を迎えた中、TNA組唯一の優勝者は、
 一人プロレスを離れて趣味に没頭していく。
 こうしてエンジェルカップという祭りは終わり、また新しい祭りへの準備が始まった。

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by right-o | 2010-09-15 08:21 | 書き物