『エンジェルカップ』八日目第六試合 フレイア鏡VSライラ神威 後編

 スタンガンから首への攻撃までは負けまいとする執念によるものだが、
 それ以降は違った。
 呻くライラの首を脇に抱え、そのまま上体をぐるりと半回転。
 背中を向けたライラの首を担ぐような姿勢から、鏡は一気に両膝をついた。
「ぐぁッ……」
 ネックブリーカードロップ。
 TNAのレスラーは身体の一点への集中攻撃を禁じられているが、
 その理由は二つある。
 一つは関節技主体のつまらない試合を防ぐこと。
 もう一つは、鏡を際立たせること。
 自分だけに許された一点集中攻撃の特権を、鏡はここで存分に発揮した。
 首を蹴って場外に転がり落とし、敷かれていた保護マットをめくり上げる。
 剥き出しになったフロアへ向け、加減無しのジャンピングパイルドライバー。
 額を擦ったライラはマスクの下から流血したが、
 それ以上に目に見えない部分へのダメージが大きい。
「クソッ……!」
 首を押さえながらリングへ縋りついたライラを見て、鏡もロープをくぐる。
 そしてエプロンまで上がって来たライラを捕まえ、
 ロープを挟んでブレーンバスターの体勢。
「……ナメんじゃねェ!!」
 当然、腕力ではライラに分がある。
 首の痛みを忘れて無理矢理引き抜きにかかったが、
 鏡は持ち上げられながら両足でセカンドロープを蹴り、
 ライラの上体ごとリングの内側へ引き摺り込もうとした。
 両足だけをトップロープに引っ掛けて宙吊りになったライラへ、落差をつけたDDT。
 徹底して首を狙っている。
「……ふふ、どうしたのかしら?」
 ライラの髪を掴んで上体を引き起こし、無理に顔を上げさせ、鏡が迫る。
「フザけんな……!」
 悪態を吐いた瞬間、鏡の拳が出血したライラの額を打った。
 二発、三発と出血箇所を殴りつけ、傷口を広げながら殴り倒す。
「まだまだ元気なようね」
 血でべったりと濡れたグローブを外して投げ捨て、再度ライラの頭を掴み、引き起こしにかかった。
 立ち上がりかけにニーリフトを入れて屈ませ、鏡は高々と右足を振り上げる。
「……フザけんなぁッ!!!」
 屈んだライラの首を狙った踵落としだったが、ライラはこれを察知。
 体を起こしつつ鏡の右脚を受け止めると、片足を取ってのパワーボムで叩きつけ、
 見事に切り返して見せた。
 ここまでコケにされては、ライラも黙ってやられてはいない。
「テメェ!このッ!死ねッ!死ねェッ!!」
 泥遊びをするようなストンピングの連打。
 鏡が動かなくなるまで右足を降らせ続けたあと、強引に引き起こして両肩の上に担いだ。
『地獄落とし……!!』
『どうかな』
 と、解説めいたことを行ったのは霧子の方だった。
 その言葉に呼応するように、死んだフリをしていた鏡はライラの背中を滑り落ちつつ、
 左手と左足を両脇に引っ掛けて後ろに倒し、横十字固めに切り返す。
「捕まえた!」 
 カウントが入るのを待たずにホールドを解き、
 素早くライラの下に右足を滑り込ませ、これで両腕を封じた。
 そして左足を首に引っ掛け、両手で作った輪で反対側の首を引き寄せる。
 横十字固めから蜘蛛絡みへの移行。
「グアアアアアッ……!!」
 両手を封じる完全な形の蜘蛛絡みでは、自力での脱出はまず不可能。
 加えてリング中央である。
「ふふふ、痛い?ねぇ、どうかしら!?」
「テメェ……!!」
 散々痛めつけられた首を極められながらも、ライラは間近に迫った鏡の顔を睨みつけた。
「ふふ、いい?いくわよ?いくわよ……?」
 暗い喜びに興奮を抑えきれない鏡は、真っ白な顔を上気させながら両手と左足に目一杯の力を入れる。
「ぐ……うぅ……!!」
 それでもライラは最後まで敗北を拒否した。
 しかし、次第に体から力が抜け、鏡を見据えていた目が虚ろになった時、
 これ以上は危険と判断したレフェリーが、両手を交差させて試合を止めたのだった。


 ○フレイア鏡 (15分08秒 蜘蛛絡み→レフェリーストップ) ライラ神威×


「負けてねぇって言ってんだろうがッ!止めてくれなんて頼んでねェんだよ!!」
「チッ」
 すぐに蘇生してレフェリーとセキュリティに凄まじい勢いで食ってかかるライラと、
 舌打ち一つ残してリングを下りた鏡。
 どちらにとっても不本意な幕切れであった。
『ともあれ、鏡さんは無敗を守りました』
『さあ、いよいよ後半戦を迎えるエンジェルカップですが、
 もはやシングルの優勝者は決まったようなものでしょう!
 それでは、USJ内TNAアサイラムから生放送でお送りしたエンジェルカップ八日目はこれで終了です!
 皆さまごきげんよう!おやすみなさい!』

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by right-o | 2010-08-21 23:29 | 書き物