『エンジェルカップ』七日目第三試合 フレイア鏡VS小早川志保

(どうも屋外会場というのは……)
 日焼け止めを塗りたくった自分の肌を撫でながら、リング上の鏡はやや眉をひそめた。
 既にほとんど日が落ちているとは言え、鏡にとっては対戦相手よりも紫外線の方が気になるらしい。
 鏡はこれまで三戦全勝。
 自分以外を歯牙にもかけない自信に見合った結果を、ここまでは残してきていると言える。
 今夜、そんな鏡に対するのは小早川志保。
「どいてどいてっ!」
 観客の中を掻き分けながら、リングまで一直線に駆け抜け、トップロープをひとっ飛び。
 やや負けがこんできた感はあるが、マタドールの勢いはまだまだ健在であった。


 試合開始と同時に小早川が突っ掛ける。
 体ごと叩きつけるようなエルボーで飛び掛かり、そのまま連発。
 そしてロープへ押し込んで反対側へ振った。
 跳ね返ってきた鏡をリング中央に出て待ち受け、両足を目一杯に広げてジャンプ。
 リープフロッグからすかさずマットに身を横たえ、さらに跳ね返ってきた鏡に自分を跨がせる。
 そこから一気に飛び起き、ロープ間を二往復させられた鏡の顔面へ打点の高いドロップキック。
 まずは小早川が持ち前のスピードと瞬発力で機先を制した。
「いくよ~!!!」
 鏡が起き上がるのを待ち、今度は小早川がロープへ走る。
 とにかく動きまわることで自分のペースに巻き込みつつ、相手を撹乱してしまう。
 狙っているかどうかはともかく、小早川は自然とそういう戦法ができるだけの速度と持久力があった。
 が、対して鏡はこれを最低限の労力で迎撃する。
 自分に向かってくる小早川の額めがけ、コンパクトに振る右。
「「痛っ!」」
 それぞれが頭と拳をおさえて悲鳴を上げた。
 右の拳骨へグローブの上から息を吹きかけながら、鏡は小早川を引き起こしにかかった。
 すかさずヘッドロックに捕らえ、そのまま腰で跳ね上げて前に投げ落とし、
 グラウンドのサイドヘッドロックへ。
 静対動、という意味では、小早川にとって中森戦と同じような展開が繰り広げられていった。

 しかしある程度小早川に付き合って手数を出していた中森と違い、鏡の方がよほど効率的であった。
 小早川が持ち前のスピードを生かした猛攻で押しているかに見えても、
 鏡はここぞのタイミングでニーリフトやスパインバスターを決め、
 戦況を五分どころか一気に優勢にまで持っていく。
 試合の勘所を見極め、体格差を生かした攻撃で一気に追い詰める。
 だが、そんな鏡の攻めをまともに受けても、小早川の意地と勢いはなお衰えなかった。
「う、ぐ、ぐ……!!」
「そんなに焦らないで……少し落ち着きましょうか」
 スタンドでのスリーパーホールドに小早川を捕らえた鏡は、耳元に囁きかけながら徐々に腕の力を強めていった。
 必死で抵抗していた小早川の動きが次第に鈍くなり、
 やがて腕がだらりと下がって全く動かなくなる。
 これを見たレフェリーが近づいて来て、小早川の右腕を取って持ち上げ、手を放す。
 腕は力無く下がった。
 さらにもう一度腕を上げたが、やはり糸が切れた人形のようにだらりとしている。
 これで反応が無ければレフェリーストップ、という三回目。
「負、け、る、かぁ……!!」
 敗北を拒否した小早川は、右肩に乗っていた鏡の頭へ腕を回して固定。
 小兵の頑張りに大声援を送る観客に応えるため、小早川は両足を投げ出して思い切り尻餅をついた。
「かッ……!?」
 着地の衝撃は小早川の体を通じて鏡の顎へ。
 思わず数歩後ずさった鏡に向け、小早川は無心で肩口から飛び掛かった。
 これで吹き飛ばされた鏡はロープを背負う。
 さらに躍動した小早川は、鏡の横をすり抜けてロープを飛び越し、エプロンに着地。
(ここから仕掛けるっ!)
 再度リング内へ向けてロープを飛び越し、右膝を鏡の後頭部にあてがう。
 ここから前に体重をかけて倒せれば、必殺のカーフブランディングにもって行けたのだが、
「まったく、よく動くこと……!」
 やはり勘所を見極めた鏡は、中森と同じく小早川を自分の前に投げ出した。
 背中を曝した小早川の両腕を背後から捕らえ、そのまま強引に半回転。。
 全体重を背中に預け、その下にある小早川の頭を潰した。


 ○フレイア鏡 (8分32秒 アンプリティアー→体固め) 小早川志保×

「ふぅ」
 小早川の肩を押さえていた両手を離し、膝立ちになった鏡は、
 体の前面にかかっていた髪を両手で後ろに流す。
 自然、胸を張った姿勢になったところを、たまたま正面からテレビカメラが捉えていた。
 これに気づいた鏡はわざと小早川を跨ぐように四つん這いで近づいてみせ、
 レンズに向かって片眼をつぶる。
 こうして、鏡はリングの内外で注目度を上げていった。

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by right-o | 2010-08-19 20:31 | 書き物