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『エンジェルカップ』四日目第一試合 ソフィア・リチャーズVSマスクド・ミスティ

『こんばんは!今宵もTNAの番組にようこそ!!
 本日も実況は私、井上霧子と、解説には特別に小川ひかるさんに来ていただいてます!!』
『こんばんは』
『さて今夜の番組は特別編、
 いくつもの団体を跨ぐイベントであるエンジェルカップの一環として行われるわけですが……』
 屋内会場でありながら、大小のド派手な花火が鳴り響いたあと、
 TNA主催の四日目は普段と同じ霧子の実況で幕を開けた。
 ちなみに、番組内の扱いとしては実況の霧子だが、
 実はこの団体の社長というのはファンの間で周知の事実である。
(キャラ作ってるのよね……)
 試合が無いということで解説役に呼ばれた小川は、
 普段より倍のテンションで喋り続ける霧子を今更ながら珍しそうに眺めていた。
 小川の知る限り、この実況が入った放送はどこにもライブでは流れていない。
 プロレス専門チャンネルとDVD、それに後でネット配信されるのみである。
 とはいえ、今回は他団体と合同のイベントなので、
 ひょっとしたら他の媒体にも流れている可能性はあった。

 霧子の話終わりに被せるように、マスクド・ミスティの華やかな入場曲がかかり、
 同時に入場ゲート上の大型ビジョンに選手紹介の映像が流れ始める。
 この手の映像を持っていない選手のものは、
 恐らくこれまで行われた試合を元に急造するのだろう。
 無駄に整った設備に映える華やかさで入場したミスティがリング上で優雅に一礼すると、
 今度はパンク調の曲に変わってソフィア・リチャーズの入場。
 派手な衣装に不機嫌顔でゆるやかなランプを下るソフィアだったが、
 突然その左右で花火が吹き上がった。
「ちょ……ッ!?聞いてないわよ!!」
 驚いて尻餅をついてしまったソフィアを見て、実況しながら霧子の口の端が曲がる。
(この人の仕業か)
 他の団体の社長に負けず劣らずクセのある女社長の隣で、小川は小さくため息をついた。
『ところで毎回思うんですけど、この花火って消防法とか……』
 派手だが、ある事情からわざと壊れやすく作っている実況机の下で、
 霧子が小川の足をつねってきた。


 会場の半数近くが一見客という話もあるTNAアサイラムでは、
 見た目からして分かりやすいミスティとソフィアはむしろあっさりと受け入れられた。
 ミスティが過剰ともいえるアピールを行い、それを見たソフィアが苛立つ度に、
 観客は声援と笑い声を惜しまず提供してくれる。
 が、数分を過ぎて本格的な試合になってくると、ややソフィアが優勢になったせいで、
 ミスティが関節技に長く捕まる展開となった。
『ソフィアはこれで自分のペースに持ち込もうと……えっ?』
 霧子が、実況しながら小川に向かってしきりとリングを指している。
(か、介入しろと!?)
 霧子は、試合内容の好みが非常に偏っている。
 それは様々な理由からだが、とにかく関節技が長く決まるような試合ははっきりと嫌っていた。
『はあ……』
 わざとマイクに拾わせるように大きなため息を残し、小川は仕方なく実況席を立った。
 入場ゲート前のステージから、わざと目立つように花道を下ってリングへ向かう。
 すると、リング上のソフィアが目ざとく見つけてくれた。
「アンタ!初日に卑怯な手であたしに勝っただけじゃなく、自分と関係無い試合まで妨害しようっての!?」
 前半には言い返してやりたかったが、後半部分に関しては何も言えなかったので、
 小川はただ無言でソフィアに向かって手を振った。
 と、完全に注意を逸らしたソフィアに対し、ミスティは背後から腕を股の間に通してひっくり返し、
 スクールボーイで丸め込んでそのままあっさりと3カウント。
「もうっ!ちょっと!!なんでよぉっ!!!」
 マットの上で手足をジタバタさせて悔しがるソフィアを見て、小川は内心流石に心苦しかった。
 その様子を
『小川さん、完全にソフィアをオモチャにして遊んでいるようですね!』
 などと、介入を命じた本人はしれっと実況しているのであった。

 ×ソフィア・リチャーズ(5分23秒 スクールボーイ)マスクド・ミスティ○


by right-o | 2010-08-14 13:54 | 書き物