『エンジェルカップ』四日目 試合前

(よくわからん)
 並べられたばかりの折り畳イスにふんぞり返りながら、
 ジョーカーは段々と会場が作られていく風景を眺めていた。
 外面ほど裕福ではないこの団体は、それでも裏方の部分を選手が手伝うようなことは絶対に無い。
 試合以外の部分でレスラーを煩わせる事柄は、霧子がさせないのである。
 その他久しぶりでホームに帰ってきた真帆が真っ先に駆け込んだケータリング等、
 待遇は非常に良いと言える。
(まあその分ギャラは並だが)
 そんなことを考えながら、ジョーカーは人波の中で周囲に忙しく指示を与えつつ、
 人一倍忙しく立ち回ってる霧子を注視していた。
(何を考えているのか……)
 団体の全てを一から、ほぼ一人で作り上げた女社長の、ここは全てであった。
 他の団体とは一線を画して見えるTNAは、彼女の理想をそのまま形にしたものである。
 それがこれからどこへ向かうのか、他団体との交流をほとんどしなかったTNAが、
 どういう風の吹き回しか勇んで参加を決めた今回のリーグ戦に、何か鍵があるような気がした。
「……おや」
 と、入口から聞こえてきた華やかな笑い声に、ジョーカーは思わず微笑した。
 まだ観客が入ってくる時間では無い。
 ということは参加者だが、試合前に周囲のアトラクションでひと遊びしてきたのだろうか。
「ウチ以外にも、大物はいるものだな」
 そう漏らすと、ジョーカーは静かにバックステージへ消えた。
 
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by right-o | 2010-08-14 11:18 | 書き物