『エンジェルカップ』二日目 第一試合 小川&真壁&つばさVSミスティ&ソフィア&ユン

 二日目を迎えたエンジェルカップ。
 初日に続いて第一試合に出場する小川は、二日前とは打って変わった爽やかさで試合に臨もうとしていた。
「今日は大丈夫そうだな」
「ええ、勝ち負けという意味では重要な試合じゃありませんからね」
 引き続き試合の無いジョーカーと真帆は相変わらず控え室でごろごろしており、
 鏡に至っては会場に来もしない。
 試合のある中森もふらりと控え室を出て行ってしまった。
「とはいえ、別の意味では大事な試合です」
「二回戦に向けて、か」
 小川と当たるトーナメント二回戦の相手は、真壁那月かマスクド・ミスティ。
 三日目に行われる両者の対決で勝利した方ということになる。
 これから始まる6人タッグにおいて、小川はこの二人と敵味方に分かれて戦うのだ。
 どちらと戦うことになるとしても、間近で相手を研究できる、またとない機会であった。
「一昨日の分まで、頑張って第一試合してきますよ」
 最後に大きな伸びを残して、小川は軽やかに控え室から出て行った。


「この前のヤツ、出て来なさいッ!!」
 一番最後に入場して来た小川がリングに入るなり、対角線上のソフィアが気色ばむ。
 初日の試合で秒殺された相手に復讐したいのだろう。
「ご指名ですけど?」
「……仕方ありませんね」
 真壁に促され、やれやれという感じで先発しようとした小川は、
 しかしゴングが鳴ると同時に踵を返し、真壁の肩へそっと手を触れた。
「ちょ、ちょっと!?」
 さっさとロープをくぐって場外に下り、鉄柵に背中を預けて真壁へ手を振る。
 どうあっても戦うのを拒否するという体であった。
「何なんですの、まったく……!」
 味方へ苛立ちつつも、いきなり試合権利を移された真壁はロープをくぐった。
 それを見て青コーナーからも声がかかり、ミスティにタッチ。
 二日後のシングルマッチへ向けての前哨戦が始まった。

 基本的に、試合は真壁×ミスティ、つばさ×ユンというトーナメント戦と同じ組合せで進み、
 真壁とミスティは互いにじっくりと手の内を探り合い、
 対照的につばさとユンは本番さながらの熱さをみせてぶつかり合った。
 そんな様子を、小川はコーナーに頬杖をついて眺めている。
 時折突っ掛かってくるソフィアをいなしながら、完全に傍観者と化して……いたかったのだろうが、
「自分だけ見物を決め込もうとしても、そうは参りませんわよ!」
 ぼーっとし過ぎていたのか、逆に真壁から強引なタッチを受けてしまった。
 仕方なくリングに入ると、案の定出てきたのはソフィア。
 真っ直ぐ突っ込んでくるソフィアに対し、その右足の付け根あたりに左足を引っ掛けて、
 小川はカウンター気味の延髄斬り。
「あれっ?」
 が、しかしこれが見事に避けられた。
 頭を下げて延髄斬りをかわしたソフィアの前には、べちゃっと仰向けに落下した小川。
 それも軸にしていた右足を曲げ、膝から下が極めてくださいとばかりに立っている。
「足首へし折ってやるんだからッ!!」
「いっ、痛い痛い痛いっ!!」
 ソフィア渾身のアンクルホールドに捕まり、小川は情けない悲鳴を上げた。
 完全に気が抜けていたようである。
 そして一度は必死にロープを目指そうと手を伸ばしかけ、ちょっと考えた。
(トーナメント戦とは無関係だし、もう負けちゃおうかな)
 ほんの少しの意地と合理的な思考の間で葛藤している小川を余所に、試合は動く。
「まったく、何をなさってるのかしらっ!」
 ロープを飛び越えて踊り込んで来た真壁のエレガントブローが、
 小川の足首意外目に入っていなかったソフィアの顔面にクリーンヒット。
 マットに這いつくばっていた小川はこの優雅な一撃を目にできなかった。
 しかし兎も角も脱出に成功してコーナーから伸びるつばさの手に飛びつき、
 その後右足を引きずりながらも、KOされたソフィアを飛び越して青コーナーへ。
 最後の仕上げをつばさに託し、真壁と共に残りの相手を足止めにかかった。
「よ~しっ、決めちゃうからね!!」
 コーナーに飛び乗ったつばさは、ソフィアが立ち上がるのを待って跳躍。
 落差で勢いをつけたフェイスクラッシャーを豪快に決め、この試合に終止符を打った。


 小川ひかる                           マスクド・ミスティ
 真壁那月  (12分15秒 フェイスクラッシャー→片エビ固め)  ソフィア・リチャーズ×
○野村つばさ                            ユン・メイファ


「助かりました。ありがとうございます」
 小川から差し出してきた握手を、つばさと真壁は胡散臭そうに握り返した。
「……それで、二回戦に向けて対戦相手の研究は済んだのかしら」
「ええ。ルチャ・リブレを勉強する必要がありそうです」
 真壁の皮肉に、小川も皮肉で返す。
 作り笑顔を浮かべたその内心では、口に出したのとは全く逆の予想が浮かんでいるのであった。

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by right-o | 2010-08-10 18:00 | 書き物