紹介状

「ふむ」
 と、井上霧子は、さして大きくない社長机に向かって、
 目の前にある四つの封筒の中身を一つずつ確かめていた。
 封筒の中身は、先日受け取った招待状への答え。
 リーグ戦に向けて「小川ひかる」「フォクシー真帆&ジョーカーレディ」
 「中森あずみ」「フレイア鏡」を出場させる旨の回答。
 それと個々のレスラーについてパンフレット等に載せるための簡単なプロフィール、
 さらにエントランスミュージックと映像の入ったCDが一枚。
 これら一組が差し詰め、他団体に送り出すための紹介状であった。

 ひとつ目の封筒は小川ひかる。
 彼女の出場は霧子にとって色々と意外であった。
 そもそも決定戦で栗浜が勝つと思っていたこともあるが、問題はそのあとのマイク。
 まさか休みが欲しいなんて言い出すとは思ってもいなかった。
 人物も実力もまだまだ掴みきれていないが、それだけに予想外の活躍をしてくれるかも知れない。
 とりあえず、そう前向きに期待しておくことにした。

 ふたつ目の封筒はフォクシー真帆&ジョーカーレディ。
 ここは藤原達と五分五分と見ていたので、送り出すについて不安は無い。
 どころか、ジョーカーが一方的に利用しているだけの関係化と思っていたのが、
 決定戦を見る限りそうでもないように思われ、きちんとタッグとして機能しているようである。
 これは何かやってくれるだろう、と密かにほくそ笑む霧子であった。

 みっつ目の封筒は中森あずみ。
 これは実力的には申し分ないが、それ以外の点で不満があった。
 このリーグ戦に手を挙げた動機である。
 本人は何も言わなかったが、デビュー以来長らく鏡の影に隠れてきた中森は、
 内面に貯めこんだものが色々とあるのだろう。
 だったらリング上で言うか、黙って殴りかかればよかろうに、と霧子は思う。
 そのためわざと鏡とは試合を組まなかったのだが、それを知ってか知らずか外に機会を求めたようだ。
 いずれにせよ、動機がこんなことではあまり期待できそうにない。

 最後に、フレイア鏡。
 彼女だけは頼み込んででも出てもらわなければならなかった。
 人気、実力どちらの面でもこの団体を代表するには彼女以外あり得ないのだ。
 そして鏡も願いを言わなかったが、霧子にはほぼ想像がつくことである。
 世界中で最も人気のあるベルトに挑戦させろとでも言うのだろう。
 鏡は挑戦する機会さえあれば、今すぐにでもそれを手にすることができると本気で信じている。
 
 招待状を見返していた霧子は、「若手限定」と書かれた一文に目を留めて笑った。
 若手しかいないこの団体にとっては、何の意味も無い縛りである。
 そもそも団体そのものが若いのである。
 しかし、それがどうしたという思いがある。
 格やら年齢やらキャリアやら、一体それがどうしたというのか。
 たかが相手の肩を3秒マットにつけるだけのことに、たかが他の団体より観客を熱狂させるだけのことに、
 何を勿体つけてやがる。
「ふんっ」
 霧子は、組んだ両足を机の上にどかりと置いた。
 新しい者の勢いを、この業界に見せてやろうじゃないか。
 六角形のリングの主は、天井に向かって無言で吼えた。

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by right-o | 2010-06-13 23:18 | 書き物