「ジャーマンスープレックス」

 とある病院の一室。
「はー……」
 ベッドの上で起き上がった美月は、ノエルとのタイトルマッチを映像で振り返っていた。
「よく友達にあんなことできるよね」
「……痛かった」
 膝立ちになったノエルの頭を思い切り蹴飛ばした美月に、相羽とノエルがぼそっと感想を漏らす。
「……」
 『あれぐらいの執念が無ければベルトは取れないんですよ和希さん』とでも言って
 無冠の相羽をからかいたかったが、美月は黙っていた。
 美月自身、病室の小さなテレビに映った血まみれの自分が意外だったのだ。
「でもこれでノエルちゃんに続いて美月ちゃんもチャンピオンか。
 これは来週、ボクが続くしかない流れだよね!!」
 あーはいはいと流しかけたところで、美月の眉が寄る。
「……来週?」
「そうっ!来週はボクがベルトに挑戦するんだよ!!」
「……チャンピオンから、指名されてた」
 相羽とノエルの話によれば、相羽はある王者から挑戦者に逆指名されたらしかった。


「ああ、“ジャーマン狩り”。よかったですね和希さん、その没個性な必殺技ともお別れですよ」
「よくないッ!ボクが勝って、ジャーマンをみんなに取り戻すんだ!!」
 相羽に挑戦を打診したのは、いわゆる「中堅ベルト」を持っている永原ちづる。
 彼女は自分の持っているベルトをエサに「負けた方がジャーマン封印」という無茶なルールの試合を組み、
 業界のジャーマンを独占しようとしていた。
「しかしもう結構な回数を防衛してますよね。あの人ジャーマン懸かると妙に強いし」
「うん、数々の名ジャーマンが犠牲になったよ……上戸さんとか沢崎さんとか」
 この通称“ジャーマン狩り”で真っ先に犠牲になったのがマッキー上戸。
 長身が描くブリッジの豪快さには定評があり、また正面からロープに突っ込ませた相手の背後を取って、
 二連続でジャーマンを決めるオリジナルを開発していた。
 が、その技に「大☆上戸ジャーマン」というあんまり過ぎる名前をつけていたため、
 パートナーの内田は上戸のジャーマン封印をむしろ喜んでいたらしい。
 沢崎の場合は変型で、バックを取った状態から右手で相手の左手首、
 左手で相手の右手首を取り、相手の身体の前で腕を交差させるように組んでから引っこ抜く形を得意にしていた。
 こちらは封印されてから明らかに決め手を欠いているため、ちょっと深刻である。
「まあその二人は必殺技にしてたからわからなくもないんですけど、あとの人たちはほとんど言いがかりですよね」
「うーん、他の人たちはむしろジャーマンを繋ぎ技にしてたのが、逆にもっと許せなかったのかも」
 その他意外なところでは武藤めぐみとパンサー理沙子が犠牲になっていたりする。
 めぐみのジャーマンは特徴的で、相手に組み付いてから反り投げるまでの溜めが全く無く、
 瞬発力に任せてノーモーションでブリッジまで持っていってしまう。
 理沙子の方は沢崎と同じく変型で、相手の胴体だけでなく両腕までまとめてホールドして投げる荒技だった。
 

「あ、今思いついたんだけどさ、雪崩式のジャーマンって無いのかな?」
「自分でやってみればいいんじゃないですか?どこを足場にするのか知りませんけど。
 それじゃ、一応健闘を祈ってますよ」
 相羽たちを見送ったあと、美月はベッドへごろりと横になった。
 体と手足が痣だらけなのはともかく、頭を強く打っているため安静にしていなければならない。
「お、やっぱりボロボロね。とても勝った方とは思えないわ」
 さてこれからどうして暇を潰そうかと考え始めた時、病室のドアから青いアホ毛がのぞいた。

[PR]
by right-o | 2010-04-11 16:16 | 書き物