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「タッグチームムーブ」

 とある寮の一室……ではなく食堂。
「大ニュースだよ美月ちゃん!」
「……ハイハイ凄い凄い」
 ノエルと静かな夕食を終えたばかりの美月は、いきなり飛びこんで来た相羽を軽く流す。
 しかし、相羽は美月のスルーをさらに天然でスルーした。
「タッグリーグに出られるんだよ、私たち!」
 満面の笑顔で重大事を発表した相羽だったが、目の前の二人は無反応に近い。
「……凄いの?」
 ノエルは真顔で美月の方を向いて首を傾げた。
「いや、ノエルさんのタイトル挑戦ほどでは」
「だ・か・ら!私と美月ちゃんも負けないように頑張って、一緒にベルトを……」
「和希さん、夢を見るにはまだちょっと陽が高いですよ」
 ふぅ、と息をついた美月は、とりあえず相羽へ座るように促した。
「今回の参加メンバー、知ってますか?」
「すっごい豪華だよね!」
「その豪華な中に私たち二人が入ったらどうなります?」
「え……、どうって?」
「昔の人は、言いました」
 いきなり振ってきた美月に、すかさずノエルが合わせる。
 「……勝ち目の無い戦いをする馬鹿がいるかよ……」
 無駄に呼吸の合っている二人だが、実は台詞の使い道は大きく間違っている。
「そういうことです。先輩の胸を借りようとか、当たって砕けろとかいう殊勝な気持ちにはなれないんですよ」
「え、いや、そう言われても……」
 すっかり困ってしまった相羽を見たことで、なんとなく美月の気が済んだらしい。
「ま、しかし決まったことなら、相手がどうあれベストを尽くして……というより、勝ち目が無いならせいぜい楽しむようにしましょう。
 何しろ、これまでタッグ戦はほとんど経験がありませんからね」
 そう言うと、美月は三人分の飲み物を取りに席を立った。

「タッグといえば連携だよね」
「そう。名のあるタッグチームはほとんどが個性的な連携を持っています」
「……ゴールデンペア、ジューシーペア、武藤&結城、龍子&石川、オーガ&ガルム、滝&北条……」
 ノエルが上げた名前にそれぞれの連携技をあてはめると、
 まずゴールデンペアはサンドイッチラリアットとダブルインパクトがシグネチャームーブ。
 どちらも来島のナパームラリアットを生かす形になっている。
 同じく武藤&結城もダブルインパクトを使うが、これは千種が肩車した相手へ、
 めぐみがラリアットではなくシャイニングウィザードを叩きこむ変形技。
 また、ごく稀にシャイニングウィザードでもなくスワンダイブ式のフライングニールキックを当てるバージョンもあり、
 ファンの間では俗にめぐちぐインパクトと呼ばれていたりする。
 サンドイッチラリアットの方を使うもう一組は龍子&石川で、パワーファイター二人による挟み撃ちは強烈な説得力を誇る。
 龍子組は更にサンドイッチ式の延髄斬りも使用するが、これまた重量感のある連携である。
 オリジナルの連携が非常に多彩なジューシーぺアが決め技に用いるのは、
 上戸が肩車した相手へ内田がフェイスクラッシャーを仕掛けるという動き。
 たまにダイヤモンドカッターになる場合もあるが、どちらにしても相手は非常な落差でマットに落ちることになる。
 二人揃うと何故かヒール色のあるタッグチームになる滝&北条の連携は、
 北条が右肩に担いで持ち上げた相手へ滝がDDTを見舞う形。
 単純だが威力のあるこの技と『嫉妬しろ』の決め台詞で、一時期二人は観客から大きなヒートを買っていた。
 逆に根っからのヒールタッグにベビーフェイス並の人気を呼んだのが、オーガ&ガルムの連携技。
 ロープから跳ね返ってきた相手の体を小鳥遊が正面から両足を抱えてすくい上げたところへ、
 すかさず朝比奈が空中の相手の首をダイヤモンドカッターに捉えるというもの。
 躍動感と説得力に溢れるこの動きで、この二人は延べ二十回近くタッグタイトルを奪取している。
「みぎりさんとつかさちゃんのアレは……連携なのかなあ」
「仕掛けている方が痛そうだというやつですね。しかも結構外すし」
 正に『虎の威を借る狐』状態の大空みぎり&真鍋つかさ組だが、
 唯一の連携は、みぎりが自分の肩の上に立つつかさを、倒れている相手の上に叩きつけるというもの。
 相手に避けられた場合、投げっ放しのスプラッシュマウンテンをくらうのと変わらない様になる。
「この前来てた海外の、ウォン姉妹だっけ?あれ凄かったよね」
「目まぐるしい動きでしたね。しかも息ぴったり」
 ウォン姉妹は意外にも華麗な連携で観客を魅せてくれる。
 まずはシンディーが相手の足にカニ挟みを仕掛けて前のめりに倒し、その首をサードロープに引っ掛ける。
 そしてブリジットが場外に飛び出た相手の頭を蹴りあげる間に、シンディーはコーナーに飛び乗ってからのダイビングフットスタンプ。
 最後にエプロンからリング内に飛びこんだブリジットが、セカンドロープを使った三角飛び式のムーンサルトで締め。
 以上の動きを、『イー、アル、サン、スー』と息を揃えて流れるように行うのである。
「姉妹と言えば……」
「村上姉妹ですか。あれは私たちでも真似できそうですね」
 千春が片膝を立ててバックブリーカーに捕えた相手へ、
 千秋がコーナーから首を狙ったギロチンドロップを投下するのが村上姉妹の連携。
 お手軽そうに見えるが非常に危険である。
 ちなみに、村上姉妹のどちらかが八島と組んで試合する場合、八島にパイルドライバーで持ち上げられた相手の足を、
 コーナーから飛んだ姉妹が押さえつけて体重を預けるという凶悪な攻撃を狙ってきたりする。


「でもやっぱり、連携なんて慣れないとうまくできないよね」
「まあそうでしょうけど、どうせなら何か考えましょう。それと、何も私たちだけが急造タッグというわけではないみたいですよ」
「え、そうなの?」
「一組、海外の別の団体から来た外国人同士で組んでるところがあります。人数が余ったんですかね。
 ひょっとして……を狙うとすればここだと思いますよ」
「おお!金星狙うぞー!!」
 後日そのチームから、うわべの連携だけがタッグ戦の要素ではないということを嫌というほど教えられるのだが、
 この時点では美月でさえそんなことを予想してはいなかった。

by right-o | 2010-02-03 23:41 | 書き物