「プリンスズスロウン」 相羽和希VSノエル白石

 若手だけで争われるトーナメントの決勝戦。
 リング上で相対する二人の友人を見つめる美月の頭へ、突然重さが加わった。
「よ。どっちが勝つと思う?」
「……ノエルさんです」
 人の頭に肘をつきながら話しかけてきた六角葉月へ、美月は即答する。
「お前、友達なら少しは迷ってやれよ……。
 というかノエルはよく知らんけど、相羽は結構頑張ってるぞ?」
「ノエルさんの勝ちで間違いありません」
 ふーん、と、美月の上で頬杖をついた六角が、ニヤリと笑った。
「じゃあ、賭けるかい?今夜の飲み代」
「後輩に酒代をたかる気ですか?」
 とは、美月は言わなかった。
「いいですよ」
 それだけ頭上に向かって呟くと、ただ黙ってリングの上だけを見つめていた。


「いっくよぉッ!」
 まずは相羽の逆水平から試合の幕が上がった。
 腰を切って全身を使った綺麗な一発を胸板に受け、ノエルも同じ技でやり返す。
「うっ!?」
 お手本のような相羽の逆水平に対し、ノエルの方はただ腕を横に振っただけ。
 それでいて、体の芯に響くような重みが備わっている。
 地力の違いであった。
「負けないッ!」
 重ねて逆水平にいった相羽へ、さらにノエルが返す。
 しばらくは新人らしい意地の張り合いが続くかと思われたが、
「ぶッ!?」
 三度目の逆水平に対し、ノエルは躊躇無くラリアットを打ち返した。
 これを全く予想していなかった相羽は、たまらずひっくり返って後頭部を強打。
 試合開始から二分と経たずに後頭部を押さえて悶絶する。
「うわあ……」
 あまりと言えばあんまりな攻撃に、六角は思わず声を漏らした。
 そのすぐ下にある頭から「だから言ったでしょう」とでも言いたげな気配が伝わってきている。

 同期でありながら、ノエルと相羽は初対決であった。
 美月とは勝ったり負けたりを繰り返していながらノエルと当たる機会が無かったのは、
 元々相羽たちとノエルでは団体からの扱いが違ったことによる。
 要するに、ノエルの方が期待されていたのだ。
 これまでのところ、その団体側の見立て通りの試合展開が続いていた。
「よいしょ」
 痛めつけた相羽を両肩の上へ仰向けに担ぎ、ノエルは小さく気合をかける。
 両腕を一杯に伸ばして相羽を真上へ放り投げると同時に、自分は素早くマットへ転がり、膝を立てた。
「ぐぅっ……!」
 お腹からノエルの膝の上へ落下させられた相羽は、飛び技をいわゆる「剣山」で返されたのと同じ状況になる。
 ノエルが自分で考え出したオリジナルホールドであった。
「うわあぁぁッ!!」
 しかし、相羽の反撃はここから。
 誰もが終わったと思った状況をカウント2.9ではね除けると、拳を握って立ち上がる。
 すぐに放たれたノエルのラリアットを仁王立ちで、受け止めると、頭を振ってさらに気合を高めた。
「カズキ……しつこい……」
 ちょっとだけ眉間に皺を寄せたノエルがロープへ走り、今度は勢いをつけたラリアット。
 が、相羽はこれをかいくぐってバックを取った。
「このッ!!」
 重心を落として溜めを作ることなく、予備動作無しで引っこ抜く。
「このぉぉぉぉッ!!!」
 スターライトジャーマンが綺麗な半円を描いたが、相羽はフォールの姿勢からマットを蹴り、
 ノエルの腰を捕まえたままで逆立ちするようにして立ち上がった。
 そのまま、下で潰れているノエルをもう一度引っこ抜く。
 両肩をついた状態からスローモーションのように持ち上がったノエルが、もう一度半円を描いて両肩をついた。
 相羽が思いつきでやってみた、スターライトジャーマンによる連携。
「……うっ」
 声にならない声を上げながら、ノエルがギリギリで肩を上げる。
 会場中の誰もが安堵か無念の溜息を吐いたあと、その全員が両足で地面を踏みならした。
「いっっくぞぉぉっ!!!」
 今こそ勝負所と見た相羽が、全身に気合を漲らせてノエルが立ち上がるのを待つ。
 立ち上がりきったところで、今度は相羽がロープへ飛んでのラリアット。
 倒れないノエルへ、さらにその背後のロープを使って後頭部へもう一発。
 こうして棒立ちにしておいて最後に正面からのラリアットでトドメ――
 を狙おうとした時、完璧なタイミングで振り回されたノエルの右腕が相羽の喉元を直撃。
 自分が走り込んだ勢いと合わさって、その場で見事に一回転した。
「今度こそ、終わり……!」
 引き起こした相羽を軽々と右肩の上へうつ伏せに抱えたノエルが、不気味に宣言する。
 しかし、相羽はまた死んではいなかった。
(耐えてみせる……ッ!)
 恐らく真下に叩きつけるつもりだろうが、ノエルの背丈なら大した落差は無い。
 天井を見ながらそう考えて受身に備えていた相羽は、いつの間にかマットに膝を抱えて転がるノエルを見ていた。
 何が何だか分からない内に膝頭が腹部に食い込み、息が詰まる。
 ノエルは、肩の上に乗せた相羽をひっくり返しながら投げ上げて、再度必殺技を決めたのであった。
 ラリアットと共に、自分に高さが無いことを自覚した上で選んだ決め技だった。


「ちぇっ」
 ようやく美月の頭から肘をどかせた六角が、口を尖らせてそっぽを向いた。
「先輩ごちそうさまです。三人分ですよ」
「はいはい、わかってるよ」
 それ以上何も言わずに控え室へ帰って行く可愛げの無い後輩の後ろ姿を、六角は興味深く見つめる。
(コイツも悔しかったりするのかねえ)
 同期に水をあけられた形の美月がどういう反応をするか、六角はなんとなく楽しみであった。

[PR]
by right-o | 2009-12-23 10:25 | 書き物