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「ラリアット」

 とある団体の寮の一室。
 新人の間で争われるトーナメントの決勝戦を数日後に控えたこの日、 
 美月と相羽とノエルの3人が、同じコタツに入っていた。
 当日にトーナメントの優勝を争う相手の寝顔を神妙に見つめる相羽の傍で、
 既に敗退している美月が黙々とテレビゲームに興じている。
 
「ねえ美月ちゃん」
「……はい」
「ラリアットって私に似合うかな?」
「は?」
 自団体が題材のテレビゲームをプレイしていた美月が、一旦ポーズをかけて首を傾げた。
「んー……どうでしょうね」
 美月たち3人の中では文字通り“頭一つ抜けている”相羽だが、あまり力強い印象は無い。
「まあ、無理して使うことはないと思いますよ。他に使ってる人が大勢いますし」
「いや~、でもプロレスラーになったからにはラリアット打ちたいよ。
 こう、勝負所で『前!→後ろ!→前!!』みたいな」
「……そういうものですか」
 散々使い古されたジャーマンスープレックスなんかを必殺技に選ぶ人間の考えることはわからない。
 そう思いながら、美月はコントローラーを操作してタイトル画面に戻った。

「一口にラリアットと言っても、実は使う人間と用途によって全く別の技になります」
「うんうん、使い手のコダワリだよね」
 2人が並んで見つめるテレビ画面の中で、相羽らしきキャラクターがリングに立っている。
 美月がゲーム中のレスラーエディットモードで適当に作成したものだった。
 まだまだ相羽や美月はデフォルトキャラクターとして登録されていないため、自分たちで作るしかないのだ。
 あとは登録されている技を選択するだけで、画面上の相羽がその動きを再現してくれる。
「まずは……と、これから試してみますか。ナパームラリアット」
「来島さんの代名詞だね」
 一時期は乱発し過ぎるほど多用していた来島の切り札は、ただ力任せに腕を振っているだけに見える。
 ただその力が尋常ではないため、相手によっては一回転させてしまうほどの威力があった。
 また、パワー型としてそこまで大柄ではない来島は、より大きな相手を薙ぎ倒すため、
 ややアッパー気味に相手の顎をかち上げるように打つこともある。
「次、龍子さん」
「魂のラリアットだねえ」
 龍子のラリアットで有名なのは、走り込まずにその場で振り回す一発。
 右拳を握り締めながら左手で相手の頭を掴んで引き摺り起こし、その首を刈り取るようにして放たれる。
「あと日本人で決め技にしてるのは……楠木さんぐらいですか」
「ユーリスターハンマーだね」
 長身から相手の顔面を削ぎ飛ばすように振り下ろす剛腕は説得力十分ながら、
 なかなか当たらないのが楠木のラリアット。
 ちなみに繰り出す際は技名を叫んでいるが、「ユーリスターハンッ……」ぐらいまでしか言えてないことが多い。
「その他、単に繋ぎ技として使うレスラーは数えきれません」
「あー、印象に残ってるのは……ライラさんとか」
 突進しながらほとんど殴りかかるような横軌道で飛んでくるのがライラのラリアット。
 これで引き倒された相手には、漏れなくボロボロになるまで容赦の無いストンピングが降ってくる。
「意外なところで鏡さんも使います」
「あの人結構腕力あるよね……」
 鏡は相手の腕を捻った上で、その腕を取ってこちらへ引き寄せたところにカウンター気味で放っていく。
「それと八島さんのも独特」
「いきなり飛んでくるやつだね」
 八島の場合、通常は腕を振りながら両膝をつくように体重をかけて相手を引き倒す。
 それと希に使うのが、ロープへ振られて跳ね返ってくる際に飛び上がって放つフライングラリアット。
 あの体格がふわりと浮いて落ちてくる様子は、対戦相手にとって大変な恐怖である。
「飛ぶと言えば十六夜さんはコーナーから飛んで打ってきます。それと似たようなのを最近真田さんが使ってましたっけ」
「ダイビングラリアットかあ」
 十六夜はコーナーからジャンプしてリング内の相手へ振り下ろす。
 まさに「災厄降臨」と言いたくなるような光景だが、当てたあとに転がりながら着地する様子が意外に器用でもある。
 また最近真田が開発した新技は、上体だけをおこしたハーフダウンの相手へダイビングラリアットを決めるもの。
 落差が技の説得力を増しているが、相手の状況をセットするのが難しい。
 それともう一人特殊な当て方をするのが祐希子で、相手に飛びつくようにして腕を当てたあと、
 きりもみ式に自分の体を一回転させて着地して見せる。
「あ、小縞さんを忘れてました」
「あれはカッコイイよね~」
 小縞はラリアットへ行く前に左肘のサポーターを投げて予告する。
 これが見た目に反して意外な威力があり、何度か格上を沈めたこともあった。
「……とまあ、日本人に関してはこんな感じでしょうか」
「う~ん、迷うよね」
 画面中の相羽を見る限り、どれも今ひとつ似合っていなかったような気が美月にはする。
「外国人の方も見てみましょうか」
「やっぱりポセイドンボンバーかなあ」
 右腕を直角に曲げてのラリアットがクリス・モーガンのポセイドンボンバー。
 この技で幾多の日本人レスラーがマットに沈んだ。
「でもこの技、何故かアメリカではただの繋ぎ技なんですよね。
 向こうだとギロチンドロップがモーガンの絶対的なフィニッシュなんだとか」
「へー……」
「あとは金持ちキャラのローズさんですか。あんまり似合っているとは思いませんが」
「迫力は凄いけどね」
 突進してから肩口を当てるように振り抜くローズのラリアットは、
 肩に担いだ相手をコーナーへ投げつけてからなど、標的を棒立ちにさせる工夫があって面白い。

「一応、以上が代表的なところです」
「んー……悩む!」
「だから無理して使うことないって。これだけ使ってる人がいるんだから」
 何やら腕を組んで考え込み始めた相羽を無視し、美月は自分が進めていたデータの続きを始めようとした。
(そういえば)
 もう一人身近にラリアットを得意とする人間がいることを思い出したが、美月は黙っていた。
 どの道、相羽は数日後に身をもってその一発を体験することになるのだから。

by right-o | 2009-12-20 11:09 | 書き物