「スーパーK1~4」「エクスプロイダー」 ラッキー内田VS中森あずみ

前回より

「このッ!」
 左手で相手の頭を抱え込むように押さえつけ、内田の右肘が続けて中森の顎を打った。
 振りかぶって三発目を叩きつけたあと、怯んだ中森に背を向けてその場で一回転し、遠心力を加えた四発目。
 が、渾身のローリングエルボーは青い長髪を少し波打たせるにとどまった。
 内田の肘を屈んで避けると同時に大きく空いた脇の下に潜り込んだ中森は、
 すぐに正面から右腕で内田の左肩を抱き、同時に左腕を後ろ側から内田の右の太股に巻き付けた。
「せッ……!」
 避けられた、と思った時、内田の体は宙に浮いていた。
 頭の後ろに回った腕により空中でその角度を調節され、受身もままならず後頭部をマットに打ちつける。
 変形の裏投げによる見事な切り返しであった。
(ラチが明かない……!)
 倒れたまま頭を抱えて足をバタバタさせながら、内田は改めて心の中で溜息を吐いた。
 相変わらず互いの均衡状態は崩れず、それどころか内田の焦りが拙攻を生んで押され始めているようにも思える。
 しかし、段々と鈍い痛みが後頭部から引いていくにつれて、そのあとにはまたしても拙攻案が顔を出した。
(ま、何でも試してみましょ)
 相手のミスをじっと待つよりは、多少危なっかしくても相手の先を行きたい内田であった。
 本来ここまで積極的ではないはずだが、タイプの似る中森を前にすると、かえって違う点を主張してみたくなるのかも知れない。

(効いたか……?)
 頭を抱えて体を丸めたまま起き上がってこない相手に対し、中森は躊躇せずに近づいた。
 手応えが無くもなかったし、何よりじっと待っていたところでどうにかなるものでもない。
 内田の、その触覚か何かのように跳ね上がった前髪に手をかけて引き起こそうとした次の瞬間、
 いきなり目の前に白いゴム板があらわれ、複雑な溝が刻まれたそれが中森の顔面を直撃した。
 そう中森としては形容したくなるほど、内田の動作は素早かった。
 うずくまった姿勢から頭を掴まれると同時に真上へ飛び上がった内田は、
 一度折り畳んだ右脚を精一杯に伸ばして中森の顔を蹴りつけた。
 驚く暇も無いままに中森はニュートラルコーナーまでたたらを踏んで後退したが、
 内田は中森がショックから立ち直る間も与えない。
「おおおおりゃっ!」
 自分のパートナーのような声を上げながらコーナーへ突進した内田は、
 勢いをつけて左足でサードロープを踏み、同時に右足を大きく振り上げて串刺しのハイキック。
「ぐっ」 
 続けざまに顔面を蹴られた中森は、揺れる頭に引き摺られるようにしてコーナーから前方に数歩よろめき出た。
 それを横に立って見送った直後、無防備な背面をさらす中森の後頭部へすかさずトラースキックで追い打ち。
 かろうじて倒れるのを堪えてしまった中森が、ほとんど本能だけで振り返った瞬間、
 今度は正調のトラースキックが顎先を捉え、ついに中森を大の字にした。
「やりッ!」
 ほんの数秒の間に相手の頭を四回も蹴りつけた内田は、
 自分の体重と一緒に溜まった鬱憤を押しつけるように、両足を抱えてのエビ固めでしっかりと中森を押さえ込んだ。
「……ッ!!」
 しかし、カウント3寸前で中森の肩がわずかに上がる。
 内面を隠さずに舌打ちしながら、内田はそれでも腐らずに立ち上がった。
 遅れてどうにか膝立ちになった中森の首根っこを小脇に挟み、
 ブレーンバスターの体勢から、さも大技にいくかのように間をつくる。
 そこから意表を突いての首固め――に移行しようとした内田の臀部が、マットにつく寸前で止まった。
 それどころか、足を投げ出して座った状態から体を浮かせかけたような間抜けな姿勢から、逆に引っ張り上げられようとしている。
「な……!?」
 ギリリと音が聞こえてきそうなほど歯を食いしばった中森が、体中の筋力を使って内田を持ち上げようとしていた。
 どうやら内田のセコイ不意打ちは読まれていたようであったが、それにしても力任せに返されるとは意外だった。
 ブレーンバスターで内田を持ち上げきった中森は、後ろに倒れることなくそのまま前に歩き出し、逆に前へ向かって頭を垂れた。
 すると前方に振り下ろされた内田の足がロープに引っ掛かって停止し、ロープと中森の間に架かる橋のようになる。
 この不安定な状態から何をされるにしても、間違いなく無事には済まないだろう。
(しまった)
 いつの間にか、マットを見ていたはずの内田は天井を向いていた。
 ロープから自分に向かって突き出ている内田の頭を足に見立て、首をねじ切るようなドラゴンスクリュー。
 体ごと半回転させられた内田の頭は、中森の体重を加えられつつ後頭部から着地した。

「う……」
 ぼやけた視界の中で、照明の眩しさが徐々にはっきりしてくると、内田はまず肩を上げることを思い出した。
 が、よく見れば自分の上には相手の腕一本も載せられていない。
 それを確認してようやく起き上がることを思い立って実行に移すと、相手も同じような姿勢だった。
 内田に四度も続けて頭を蹴られた中森は、無茶な反撃のあとにフォールへいく余力を残していなかった。
 よろよろと立ち上がったものの、二人とも膝が体を支えきれずに前のめりになり、抱き合うようにして同体になった。
 ように見えた。
(結局、根比べか)
 どちらかが倒れるまでの張り手合戦とか頭突き合戦とか、全く内田の趣味では無かったが、
 いかにもそういう展開になりそうな光景だった。
 しかし実は、内田はほんの数分前と同じ状態にあった。
 右腕は内田の左肩を抱くようにして、左腕は右の太股を抱えるようにして、
 内田の懐に潜り込んだ中森は、両手両足に最後の力を振り絞った。

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by right-o | 2009-11-15 18:35 | 書き物