ラッキー内田VS中森あずみ

「よっ」
 ゴングと同時に内田のハイキックが伸び、平然と上体を反らした中森の顎先をかすめた。
 似たようなファイトスタイルの二人だが、内田の方がやや外連味の強いところがある。
 両者が再び距離を取って向き合うと、内田はおもむろに構えを解いて中森の方へ歩き出した。
「……っやぁッ!」
「っ……!」」
 大振りの逆水平を仁王立ちで受け止め、今度は中森がやり返す。
「いッ……!?」
 さも効いたかのように胸板を押さえたあと、内田はもう一発逆水平を返すと見せかけ、突然のサミング。
 中森が顔を覆ったスキにロープへ飛んだ。
「うっ!?」
 虚を突いたと思いきや、すぐに立ち直った中森がトーキックで迎撃。
 前屈みになった内田の鼻っ柱へ、思い切りデコピンを叩き込んでやり返した。
 怯んだ内田をヘッドロックに取ると同時に腰で跳ね上げて前方に投げ捨て、グラウンドのサイドヘッドロックへ移行。
 すぐに内田が自由な両足で中森の頭を挟み込み、ヘッドシザースに切り返す。
「ちっ」
 簡単には頭が抜けないとみるや、中森は相手の股に頭を突っ込んだままで膝立ちになり、
 横向きにマットへ寝ている内田を仰向けにする。
 そこから両手と挟まれた頭頂部を支えに、逆さまの体を真っ直ぐ伸ばして倒立。
 そのまま勢いをつけて前へ倒れることで、ヘッドシザースから頭を抜くと同時に、内田の上半身に跨る形になった。
「……ふんっ」
 両肩を押さえつけフォールを取りにきた中森へ、内田は体を曲げつつその脇に両足を引っ掛けて前に転がし、
 ローリングクラッチホールドの体勢。
 しかし1カウントも入らないまま、フォールを跳ね返した中森も返された内田も、
 背中側にころりと転がって立ち上がった。
「ふぅ……」
「……」
 どうやら、長い戦いになりそうである。

 その後、やはりどちらも決め手を欠いた。
「ラッッキィィィィィィ、キャプチャー!!」
 中森へ背中を向けて飛びつき、その胴を両足で挟み込む。
 この姿勢から、相手の股をくぐりつつ足を取っての膝十字固め――
 しかし中森は、自分の下を通過しようとする内田の上へ、ただ膝を折って座り込んだ。 
「人の見せ場を……このっ!」
 必殺技を文字通り潰された内田もただでは起きない。
 フォールを跳ね返すと同時に中森の足首を捕らえて立ち、アンクルホールドに切り返す。
「チッ!」 
 ロープエスケープが困難と見た中森は、マットに這った姿勢から体を半回転して仰向けになると、
 同時に足を曲げて引きつけた内田を、正面から蹴り飛ばして振り払った。
 続いて即座に立ち上がり向かって来た中森へ、内田はやや不用意気味なミドルキック。
 その蹴り足を待っていたように受け止め、中森はドラゴンスクリューへ。
 が、内田の右足が捻り上げられる寸前、左足が宙へ浮いた。
(これぐらいのこと……!)
 見え透いたカウンターの延髄斬りを屈んでかわし――た、と中森が思ったほんの一瞬後、
 通り過ぎたはずの内田の左足が戻って来た。
 着地と同時に再度マットを蹴った左足が同じ軌道を逆からなぞり、その踵が中森のこめかみを打ったのだ。
「くっ……!」
 この通り、それぞれの得意技は完全に読まれていた。

 流れが均衡している以上、このままでは体力勝負の持久戦しかない。
(それもいい)
 覚悟を決め、あくまで相手のミスを待つ中森と
(冗談じゃない……!)
 どうにかして積極的に状況の打開を図ろうとする内田。
 この意識の差が、最終的に勝負の明暗を分けることになる。

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by right-o | 2009-11-01 20:41 | 書き物