「カラーテイ」 斉藤彰子VSダイナマイト・リン

 とあるアメリカの団体でのお話。
 名実ともに世界一の規模を誇るこの団体には、世界中から様々なレスラー達が集まってくる。
 高額なファイトマネーのため、より大きな名声のため、そして力試しのためと理由はそれぞれだが、
 選手層の厚さも世界一のここでは、成功を収められる人間はごくわずかしかいない。
 そんな過酷なリングで、この日、一人の日本人がデビューを飾る。

 初めてそのレスラーを見た観客達の反応は、一様ではなかった。
「今時、それは無いだろう」
 という意見もあれば、
「こういうわかり易いのがいいんだよ!」
 と、大歓声を上げるファンもいた。
 何にせよ、まず彼女の出で立ちが周囲に大きな印象を与えたのだった。
 空手着姿なのである。
 昔から、日本人といえば過度にステレオタイプなキャラクターばかりのアメリカマットとはいえ、
 まんま空手着姿のレスラーは過去にもいない。
 かといって無駄にペコペコとお辞儀したりというアピールも無く、むっつりと無表情にリングへ歩を進めて行く。
 何しろ、当人はキャラクターを作っているつもりなど毛頭無く、いたって真面目に海外武者修行中なのである。
 

『“ぷっ……あっははははははは!!!”』
 一方、先に入場していたダイナマイト・リンは、自分の対戦相手を目にするなりマットを叩いて笑い転げた。
『“いや~、いいね。何か、コレぞ日本人って感じだよね!”』
 英語がわからないらしく、目の前でキョトンとしている相手に向かい、リンは構わず英語でまくしたてる。
『”もちろん何言ってるかわかんないよね。うんうん、分かるように言ってあげよう。
  ええっと、サ、サ……サトーサンだっけ?”』
 一つ大げさに咳払いしてから、リンはわざとたどたどしく発音しながら話しかけた。
『サトーサン、あい・あむぅ・だいなまいと・りん。
 ゆー・ぴっく・うろんぐ・ないとぉ・とぅー・かむ・ひあ!』
 このあと、リンは相手が無反応なのをいいことにマイクで散々笑いものにしたのだった。
 そしてゴングが鳴ると同時に両手と片足を上げ『アチョー!!』と叫び、
 さらには両手を合わせて無駄に深く頭を下げて見せる。
 が、そのリンが頭を上げた瞬間、
ヒュッ
 と対戦相手の右足が唸りを上げてリンの側頭部を直撃した。
 倒れたリンを即座に押さえ込み、3カウント。
 空手着に身を包んだレスラーが、アメリカデビュー戦を秒殺で飾ったのだった。
 

「言葉が通じなくても、バカにされていることぐらい分かる!」
 完全に意識が飛んでしまっているリンに向かって、斉藤彰子はそう吐き捨てた。
 戦う場所がどこであっても、誰に何と思われようとも、斉藤は自分の道を曲げるつもりはない。
 空手着姿は、斉藤のそんな覚悟のあらわれと言える。
 ともあれそんな事情とは関係なく、衝撃のKOデビューを飾ったカラテガールを、
 アメリカの観客は盛大な歓声と拍手で祝ってくれた。

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by right-o | 2009-09-27 23:36 | 書き物