「ハードコアタイトルマッチ」 第15代~第16代

+技「無道」

(たまには、マトモな防衛戦がないものかなあ)
 だいぶレフェリーが板についてきた美月は、着ぐるみが戦うタイトルマッチを裁きながらそんなことを思っていた。
 二十四時間三百六十五日、いつでも挑戦可能。
 ほとんどルール無しというのがルールであるようなベルトを管理するにあたっては、それはなかなか無理な相談である。
 だが、これだけどう考えてもネタにしかならないベルトであっても、
 持っているチャンピオン次第で真っ当な輝きを放つことがある、ということを、
 美月はすぐ思い知ることになるのであった。


「柳生美冬!このベルトを懸けて、今すぐ自分と戦うッス!!」
 美月を伴い、ベルトを持ってリングに上がった真田は、唐突にマイクで挑戦者を指名した。
 ややあって、マイクを持った美冬が入場ゲートに姿を見せる。
「懲りんな。何度やろうと同じ事だ。お前では…」
「うるさい!自分はチャンピオンになったッス!この前のようにはいかないッ!!」
「…ほう、何の王者になったかは知らないが、私とお前の差、それしきのことで埋まりはしないと教えてやろう」
 いつも通り暑苦しい真田と、それを余裕であしらう美冬のやり取りを眺めながら、
(これはひょっとしたら、普通の試合になるか)
 と、美月も予感はしていた。
 美冬は若いながらもこの団体のエース格の一人であり、
 真田は以前から彼女を一方的に目標としてライバル視しているのである。
 どちらも反則を使うことは考えられないので、
 このまま行けば今回は全く通常の試合になるはずであった。

「おおおぉぉぉぉぉっ!!!」
「フンッ!」
 蹴りの交錯から足を止めての張り合い、離れ際にハイキックを互いの顔に擦らせるまで、
 打撃戦に限れば両者は全くの互角と言えた。
 体格と素質で上回る美冬に対して一歩も引かずに打ち合えるのは、ひとえに真田の気迫によるところである。
 しかし、それが通用するのは美冬が真っ向勝負に付き合ってくれている間だけの話。
「ちっ」
 真田の執念に呆れた美冬は正面衝突を避け、次第に打撃以外の勝負へ持ち込んでいく。
 相手の勢いを利用した腰投げで転がすと、起こした真田の背中に立てた片膝を当て、背後から両手で顎を固定、
 チンロックで体力を奪いながら、同時に試合のペースを落ち着かせる。
 かと思えば急に技を解き、強烈なサッカーボールキックを入れて真田に呼吸を忘れさせた。
「ぐぅっ…!まだまだッ!!」
 真田は座った体勢から体をよじって美冬の方を振り返りつつ、膝をついて立ち上がろうとする。
 が、無防備な状態にある真田に対し、美冬は容赦無く右足を振り上げて待ちかまえていた。
「が…ッ!?」
 首を動かして頭への直撃は避けたものの、風切り音が聞こえてきそうな美冬の踵落としが、真田の右肩に食い込む。
 裁いている美月まで思わず痛そうな顔をしてしまった一発は、試合の流れを一気に変えてしまった。

 そこからは、完全に美冬が支配していた。
 満場の『サナダ』コールに押された真田が一時的に盛り返してくる度に、
 それを適当にあしらってから肩に一撃をくらわせ、再び勢いを挫く。
 年季の入ったヒールのような試合運びの中で、美冬はただ仕上げの瞬間を伺っていた。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 何度目かに立ち上がってきた真田の顔へ肘を一発。
 案の定打ち返してきたところへ、今度は掌底を連打。
「こんのぉぉぉぉぉ!!!」
 気力と体力を振り絞り、まだ動く左の大振り一発でやり返そうとしたところが、美冬の狙い目だった。
 かわしながら真田の左側へもぐり込み、前に引き倒して脇固めへ。
 痛めていない左腕では決め手にならないかと思われたが、そうではなかった。
 這いつくばっている真田の左腕は両脚に挟んで固定し、空いた両手で右腕の方を取りに行く。
 そこから真田に背を向けつつ、右半身ごと起こした右腕を背中越しに自分の左肩に乗せ、
 相手の両腕を背後で合わせるような形で、右腕を真下に向かって思い切り引き絞った。
「うああああああああ!!!」
 要は肩から先を曲がらない方向に曲げられているのである。
 また、うつ伏せの上から相手に乗られているため、ロープに向かうことはほぼ不可能。
 自力で振りほどくには、流石の真田も疲労しすぎている。
 だが、
「余計な怪我をするだけだ。早く諦めろ」
「絶対に…嫌だ……ッ!」
 美冬にはもちろん、美月が何度促しても真田はギブアップしない。
(これは…)
 熱の入った試合の代償に、美月は最後に嫌な役をやらされることになってしまった。

真田美幸× (レフェリーストップ) ○柳生美冬
※変形脇固め 15代王者が初防衛に失敗。美冬が第16代王者に

「なんで…なんで止めたッスか…!?自分はまだ…!」
「いや、だってあのままでは…」
 ボロボロになりながらも、試合後のリング上で泣いて食い下がる真田に対して、
 美月はどうなだめていいかわからない。
(面倒くさい…)
 これなら普段通りのネタ試合の方がまだよかったと、
 特にレフェリー業に思い入れの無い美月は思ったのだった。

[PR]
by right-o | 2009-05-10 10:48 | 書き物