「ハードコアタイトルマッチ」 第14代~第15代

 突如ターフに…ではなくマットに現れ、ハードコア王座を奪取していった馬の着ぐるみ。
 正体は不明だが、関係各所に無断で行われたJ○Aマスコットキャラの参戦は一時社長の顔色を失わせたらしい。
 しかしどうにか無事に事後承諾が取れた今、ター○ィー君は完全アウェーの地で初防衛戦に臨もうとしていた。


 都内、某モノレールから見える競馬場。
 砂が敷き詰められたレーストラックの内側で、二頭の着ぐるみが対峙している。
(何か、この前の競馬場とは違うなあ)
 粗末な広場の中心に設置されたリングの上から周囲を見回し、ター○ィー君はそういう感想を持った。
 この日は平日で、また時間的に夕暮れを迎えているということもあったが、
 一見して前回より明らかに子供の数が少ない。
 というか、ほとんどいない。
 代わりに新聞片手の中年層が目に見えて多く、一部を除いて年代を感じさせる様々な施設と共に、
 ある種“いかにも”競馬場という雰囲気を醸し出していた。
 と、どうでもいい話はここで置く。
(なんだコイツ…?)
 ター○ィー君は目前の対戦相手であるもう一頭の着ぐるみに目を向けた。
 見た感じ、安っぽい。
 同じ「馬」をモチーフにした着ぐるみなのにも関わらず、丸っこくて可愛いター○ィー君と違って全体的に細身で、
 全身ほぼ黄色単色の中、胴にオレンジ色の星が描かれているだけというデザインは、
 シンプルを通り越してやっつけ仕事のにおいがする。
 また表情も妙に人間臭くやさぐれていて、所謂「ゆるキャラ」的な雰囲気が漂っていた。

 ともかく、ゴングが鳴った。
(速い…!)
 よちよちとリング中央まで出てきたター○ィー君の周囲を、相手が機敏に駆け回って翻弄する。
 細身である分、向こうの方が機動性は数段上のようだった。
「……!」
 動きに対応して向きを変えるのも一苦労なター○ィー君の背後から、
 無言の気合と共に相手のドロップキックが炸裂する。
 たまらず前につんのめって倒れたター○ィー君を尻目に、
 相手はもう勝ったつもりであるかのようにリングの周囲を回り、コーナーに上って観客にアピールした。
「調子に乗るなっ!」
 着ぐるみの中で声がくぐもって、実際には「フゴフゴフフフ」ぐらいにしか聞こえない気合をかけながら、
 怒りのター○ィー君が前脚をついて立ち上がる。
 リング外へ向けて両脚を振っている相手の背後から組み付き、蹄を前で合わせてクラッチを作った。
「うりゃああああッ!!」
 着ぐるみの中で精一杯に背中を反ってのジャーマンスープレックス。
 自分の大きな頭が邪魔して流石にホールドはできなかったが、
 投げ飛ばした相手を脳天からマットに突き刺し、動きを止めることに成功した。

ター○ィー君○ (体固め) ×う○たせ
※投げっ放しジャーマン 14代王者が初防衛に成功

(向こうの中身は素人ですよ!加減してください!)
(え!?ウチの誰かが入ってると思ってた…)
 試合後のリング上、ベルトを返還された王者がレフェリーの美月とそんなヒソヒソ話をしていた時、
「ちょっと待つッス!!」
 一人と一頭の背後から、突然声がかかった。
「自分は…自分はもう迷いを断ち切ったッス!!」
 振り向くと、何故か拳をきつく握りしめた真田が立っている。
 真田は歯を食いしばってター○ィー君を睨みつけると、左足を一気に踏み出して間合いを詰めた。
「ちょ、ちょっと待っ…!!?」
「もう馬でもなんでも容赦はしないッス!おおぉぉりゃあぁぁぁぁぁ!!!」
 渾身の右ハイキックは、まさに技名の通りター○ィー君の頭を胴から斬り離し、
 客席の向こうまで大きく吹き飛ばした。

ター○ィー君× (TKO) ○真田美幸
※斬馬迅 14代王者が二度目の防衛に失敗。真田が第15代王者に

「やったッス!ベルトを他団体から取り返したッス!!」
 跳ね回って喜ぶ真田の足下で、着ぐるみから頭だけ出した相羽が目を回している。
「か、勝ったらコレ、脱ごうと思ってた…のに……」
(私は知らない、っと)
 余計な関わり合いを避けるために、美月は、
 二頭のマスコットキャラが屍を晒しているリングから、そそくさと離れていった。

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by right-o | 2009-05-02 14:00 | 書き物