「ブロンコバスター」「Xファクター」 辻香澄VS真鍋つかさ

「ゼッタイ勝つッ!!!」
 今日の試合について聞かれる度に、つかさは何度もそう繰り返し答えていた。
 自分より先にベルトを獲った同期、辻香澄とのジュニアタイトルマッチ。
 普段は試合そのものより、むしろその前後のマイクアピールで活躍している印象が強いつかさも、
 今回のシチュエーションにはやはり燃えるものがあるらしい。
 本番前の前哨戦からして、つかさらしくないシリアスモードで試合に臨んで来ていた。

(つかさ…本気なんだね)
 ゴングが鳴らされる直前、入場を終えた辻がつかさの目の前でベルトを高く掲げ、誇示して見せる。
「………」
 つかさは微動だにせず、ただ黙って王者の視線をしっかりと受け止め、睨み返す。
(ボクも、容赦はしないよ!)
 いつになく緊張した雰囲気の中、二人の戦いの幕が上がった。


 ゴングが鳴ってもつかさの姿勢は変わらない。
 いつもなら最初からのらりくらりと相手を煙に巻いてしまおうとするところが、
 今回は正面から辻と組み合い、グラウンド、エルボーの打ち合い、さらにタックル合戦と一歩も引かない姿勢を見せた。
 ただ、このままでは辻に勝ちようがない。
「やぁッ!!」
 何度目かのぶつかり合いで、ついにつかさは辻の勢いに弾き飛ばされた。
 体格はほとんど同じだが、やはり真正面から戦ってはつかさに分が悪いのだ。
「ちぇっ!」
 すぐにヘッドスプリングで起き上がったつかさ目掛け、
 ロープに走った辻が、なおも力と勢いに任せた攻撃を狙う。
 つかさはもう張り合うことをせず、その場で右足を軸にして後ろに回転。
 向かってくる辻に合わせてカウンターのスピンキックを放った。
「このぐらいっ!」
 抜群のタイミングで胸元へ蹴り込んだが、それでも辻は倒れない。
 逆に蹴り足をキャッチされたつかさは、今にもどこかへ放り投げられそうである。
 しかし、ここからが今日のつかさの真骨頂。
「うりゃ!」
 左足を抱えられた、お姫様抱っこが崩れたような姿勢から、
 残された右足で踏み切り、左足の上を通ってガラ空きの顔面を蹴りつけたのだ。
 さらに、不意を突かれた辻が背後に倒れた勢いのまま場外まで転がったのに続き、
 つかさは辻の正面に立ってトップロープを掴む。
「!?」
 そのままふわりと飛んでプランチャに行くかと思いきや、まだリング内にいる間に空中でくるりと後ろを向き、
 トップロープに腰掛けるような形でバウンド。
 場外に落下しながら大きく背中を反り、フェイントを挟んだ見事な変形のムーンサルトで辻を押し潰した。
「いくぞぉーッ!!!」
 「吼えるつかさ」という初めて見る絵に、客席は奇妙な盛り上がりを見せた。

 五分、十分が過ぎても衰えないつかさの気迫に、もちろん辻も応えて見せ、
 試合は戦前の予想を上回る好内容で進んで行く。
「…っだぁッ!!」
 辻得意のノーザンライトさえ、つかさは気合で跳ね除けて見せた。
(強い…!)
 同期の友人として間近で見てきた辻の予測を大きく超えて、
 本気になったつかさは手強く感じられる。
 だからこそ余計なことをする余裕が無かったのか、
 辻は起き上がりかけたつかさの頭を強引に捕まえて小脇に抱え、すぐさま二度目のノーザンを放とうとする。
 が、投げるために重心を落とそうとした瞬間、
「うりゃああああああっ!!」
 つかさが全身の力を使って辻を後方に押しやり、そのまま一気にコーナーへ激突させた。
「このっ、このっ、このっ!!」
 次いで体を離すと同時にミドルキックを二発、さらに飛び上がって喉元へのローリングソバット。
「うっ…!?」
 たまらず辻はその場へ腰を落として座り込んだ。
 つかさのイメージからすればこういった鋭い打撃は全く意外だが、
 考えてみれば、普段自分より格段に大きい人間を相手にする場合には、あまり見せようの無い技術なのかも知れない。
 そんなことを考えながら辻が俯いていた頭を起こした時、何故かつかさの股間が目の前にあった。
「くらえっ!」
「うぐッ!?」
 何がなんだかわからないまま、
 つかさは辻の頭とその後ろにあるターンバックルを跨ぐ形でサードロープの上から両足を外に出し、
 辻の首と胸の上へ座って押し潰すように跳ね回る。
 周囲からは相手の顔面に股間を押し付けているようにしか見えないものの、
 食らう方にとってはかなり首へ負担がかかるため、笑えない技ではあった。
 ただ、やはり見た目にはふざけているようにしか見えないので、
 これまでせっかく長いこと緊張感を保ち続けてきた客席から、若干ゆるい笑い声が漏れはじめてしまう。
 そういう雰囲気を、悪いことにつかさの耳は聞き逃さない。
「……もう一回?」
 技を解いて辻を引き起こそうとしていたつかさは、客席の方へ一本指を立てて聞いてみる。
 そこそこのリアクションが得られたのをいいことに、つかさはもう一度、
 今度はちょっとふざけてリングを半周しながら距離を取り、再度座ったままの辻へダッシュ。
「…二度も当たるかっ!」
 が、両足を開いて辻の顔に跨ろうとしたところで、素早く横に逃げられてしまう。
 結果、一番下のターンバックルでお股を強打。
「お、おおぅ……」
 まるで男のようなリアクションを見せたつかさの背後へ、すかさず辻が張り付いた。
「せっかく見直してたところだったのに、あんたは……ひゃっ!?」
 ジャーマンで投げ捨てる寸前、後ろに跳ねたつかさの右足がつかさの腿を割る。
 痛さからというより意表をつかれ、辻は反射的に背中を丸めてしまった。
「アレは真面目な技だもんねっと。そして、これで終わりっ!!」
 振り向いたつかさは、屈んでいる辻の首根っこを上から両手で掴み、その場でジャンプ。
 開脚して尻餅をつきながら、辻の顔面を思い切りマットに叩きつけた。


 つかさがカバーに入り、ゴングが鳴らされる。
 が、勝者はつかさではなかった。
『ただいまの試合、辻香澄選手の反則勝ちでございます!』
「ちょ、なんでっ!?」
 そうアナウンスされても、つかさは当然納得できない。
 好勝負のあんまりな幕切れに、観客もブーイングを送っていた。
「あたしが何したっての!?今日は最後まで真面目に…」
「何したってアンタ、多分―」
 ゆらり、とつかさの背後で辻が立ち上がる。
「はうっ!?」 
 後ろからやや加減しながら蹴り上げ、金的のお返しを済ませてから、渾身の投げっ放しジャーマン。
「痛くなくったって恥ずかしいんだよっ!もうっ!!」
 頭から落ちたつかさを捨てて、辻はベルトを持ってさっさと帰って行った。

 ちなみに、この団体はルールを丸ごと男子の団体から転用していたため、
 股間への攻撃は男女を問わず反則だったのだとか。

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by right-o | 2009-04-11 18:37 | 書き物