「月光闇討デスマッチ」 草薙みこと VS RIKKA

+技「無明蹴」

 とある小さな団体でのお話。
 この日、来週の後楽園プラザで行われるタイトルマッチに向けて、
 王者・草薙みこと対挑戦者・RIKKAがタッグでぶつかる前哨戦が組まれていたのだが、
 RIKKAはいつまでたっても会場に姿を見せず、試合をすっぽかしてしまった。
「う~ん、締まらないなあ」
 試合後のリング上、みことと組んで代わりの対戦相手を蹴散らした小早川が、
 なんとなくマイクを持ったはいいが、特に話すことも無く間を持て余している。
「ま、いっか。じゃ後はチャンピオンお願い」
「はい。ええと、来週は必ず防衛してみせますので、応援を…」
「あ、すいませ~ん!」
 みことがタイトルマッチへの決意を述べて強引に締めようとした時、
 バックステージから練習生の榎本綾がトテトテと駆け寄って来た。
 そのままロープをくぐってリングへ上がると、なんというか、「直訴!」とでも書いてありそうな、
 古風な手紙をみことに向かって差し出す。
「RIKKAさんが、渡してくださいって!」
「ん~、どれどれ…」
 横から手を出した小早川が、手紙を開くついでにマイクを持ち、
 会場にも伝わるように音読し始めた。
「ええと、『三月二十四日 後楽園プラザ 月光闇討デスマッチにてそのベルトを頂戴する RIKKA』と。
 …なんか、アルファベットまで綺麗に筆で書いてあるんだけど。
 ところで、月光…闇討って何?」
「さあ、私に聞かれましても…」
 みことと小早川が二人して首を傾げた瞬間、
「例えば、こうだ」
 と、RIKKAらしき声が響き、会場の照明がほんの一瞬だけ暗くなった。
 一秒も無かった点滅のあと、二人の目の前にいたはずの綾の姿が消え、
 そこにはまぎれも無いRIKKA本人が試合用のコスチュームで立っている。
「なッ…!?」
 驚きの声をも上げさせず、RIKKAはみことへドロップックで宣戦布告。
 呆気にとられた小早川の手をするりとかわし、ロープを飛び越えて逃げ去って行った。
「な、何なんだ、あの人…」
 ちなみにその後、本物の榎本綾が控え室で眠っているのが見つかった。


 それから一週間後。
 RIKKAの提案をみことが受け入れる形で、月光闇討デスマッチは本当に行われることになった。
 一週間前の出来事以来、ファンの間で「RIKKA幻想」が過剰に高まり、
 この試合見たさにチケットの前売りが急激に伸びたため、団体側としてもやらざるを得なかったのだろう。

 ゴングが鳴ると、まずは素早いロープワークからアームホイップの打ち合い。
 技術と速度を兼ね備えた素晴らしい基本技の攻防に、客席から自然と拍手が沸き起こったところで、
 いきなり会場中が暗闇に包まれた。
(見えない…!)
 この試合形式はつまり、突然会場の照明が点いたり消えたりするというものなのだが、
 非常灯まですっかり消してしまった場内は想像以上に暗く、みことにはほとんど何も見ることができない。
 当然、そんな中では迂闊に動けず、ただじっと体を強張らせているしかなかった。
 しかしRIKKAは余程夜目が利くのか、数秒して明りが戻った時には、いつの間にかリングの外へ出ている。
「………」
「くっ!」
 追って場外へ出たみことが、リング内へ放り込むためにRIKKAを掴もうとした時、再び照明が落ちた。
 攻撃を受けるかと思わず身構えたが、襲ってくる気配は無い。
 今度は十秒近くたって闇が明けると、ややあって周囲の観客が一斉に上を向いてざわつき始める。
「………」
 みことの頭上、選手の横断幕などが張られている後楽園プラザ二階席バルコニーの手摺の上に、
 腕を組んで真っ直ぐに立ったRIKKAがみことを見下ろしていたのだ。
 が、みことは驚くより早く駆け出した。
 裏へ入って階段を二段飛ばしで上がり、二階席へ。
 場外乱闘はみことの得意とする分野ではなかったが、ともかくこれで追い詰めたはずだった。
 同じ姿勢のまま振り向きもしないRIKKAに対し、まずは手摺から引き摺り下ろすために手をかけようとした瞬間、
 またしても都合良く照明が消える。
 といっても、ほんの一瞬、ほとんど点滅と言っていいほどの短さだったが、
「そんな……!?」
 目前にいたはずのRIKKAの姿が、階下のリング上に移動していた。
 時間から考えて一階席に飛び降りたとしか思えないが、そんな音や気配など一切していない。
『おおおおお…!!』
 満員の観客は、ただただ感嘆の声を上げるしかなかった。

 その後もみことは会場中を使って翻弄され続け、少しずつ体力と気力を削られていった。
(このままでは…!)
 そう感じたみことは、誘いに乗らずリング内で相手を待つことを思いつく。
 リング内の狭い空間であれば、見えなくてもある程度は対応できるのではないか、
 と考えてのことだったが、実はそれこそがRIKKAの思う壺だった。
 四方をロープに囲まれたリング内こそ、RIKKAが弱った相手を仕留めるための空間だったのだ。
「ぐぅッ!?」
 みことがリングに足を踏み入れたあと、最初に照明が点いた直後、
 いきなりRIKKAの足の裏が視界一杯に広がっていた。
 スワンダイブ式のミサイルキックを受けて転倒したみことが立ち上がると同時に電気が消え、
 今度は背後から蹴り倒される。
 その後も暗くなる度に、前後左右のどこかからRIKKAが飛んできては無明蹴を浴びせた。
 明るい間に捕まえようとしても、何故か手が届く寸前でまた暗くなってしまう。
 偶然なのかどうかはわからないが、とにかくRIKKAを捕えるには、
 暗闇の中で攻撃を仕掛けてくる瞬間を狙う以外に無かった。
 そして追い詰められ、満身創痍のみことはここで奇策に出る。
 リングの中央に立ち、自ら目を閉じたのである。
(見えないものを見ようとしても無駄。気配を…)
 その後、ちょうど長い暗闇が明けた瞬間、、観客は今まさに背後から無明蹴で襲い掛かろうとするRIKKAを見た。
 しかし、
「そこッ!!」
「!?」
 みことは頭を屈めてRIKKAを避けつつ、自分の上を通り過ぎる相手を空中で捕獲。
 見事、兜落としに切って取った。


 試合後、防衛したベルトを受け取ったみことに全員の注目が集まった、ほんの少しの間に、
 マットに倒れて動かなかったはずのRIKKAは姿を消していた。
(一体、何者なんでしょうか…)
 リングの巫女は、自分のことを棚に上げて現代に生きるくの一を不思議がった。

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by right-o | 2009-03-23 23:35 | 書き物