「ハードコアタイトルマッチ」 第12代~第14代

???○ (体固め) ×八島静香

とある土曜日、夕方。
「八島さんッ!敵地でベルトを他団体に奪われたって、ホントッスか!?」
「んー…ああ」
 昼間に行われた興行を終えて戻って来た、八島、美月、相羽の三人が食堂で早目の夕食をとっていると、
 どこからか今日の結果を聞きつけた真田が割り込んで来た。
「くあーッ、なんてことッスか!ベルトの他団体流出を許すとはッ!!」
「いや、まあ、他団体つってもな…何て言ったか?」
「えーと確か、日本中央なんとか…」
「とりあえず略称はJ○Aでしたね」
「名前なんてどうでもいいッス!とにかく、獲られたベルトを一刻も早くウチに取り戻さないと!
 こうなったらアタシが行くッス!そのJ○Aとかいう団体に殴り込みッスよ!!」
 一人で息巻いている真田の前で、三人は顔を見合わせて少し考え込んだ。
「確か土日で試合あんだろ?真田がその気なら明日にでも行けるぞ」
「おうッ!上等ッス!明日行って、そのベルト奪った奴をアタシの斬馬迅で薙ぎ倒してくるッス!!」
「斬馬迅で、薙ぎ倒す…」
「子供の目もありますし、実現したらちょっとシャレにならないですね…。
 とはいえ、確かにベルトを預けっ放しにするわけにもいきませんが」
 事情を知っている三人は、あえて真田に詳しい説明をしないよう、目顔で確認しあった。


 明けて日曜日。
 都内某競馬場、馬場内特設リング。
 レースコース内側の空いているスペースに設置されたリングの上で、真田は王者と対面する。
「こちらがチャンピオンです」
「………へ?」
 目の前にいるのは、馬だった。
 それも周囲のコースを疾駆しているサラブレットではなく、ほぼ大型犬ほどの大きさしかない、
 いかにも大人しそうな目をしたポニーである。
 
 ちょうど一日前の同じ場所で行われた興行にて、
 相羽や越後などを相手にハードコアタイトルの防衛戦を行っていた八島は、ふとした拍子から後ろに倒れてしまった。
 その時、普段からこの競馬場の中を人に引率されて歩いているこのポニーが偶然通りかかり、
 倒れた八島を労わるように鼻を近づける。
「な、ちょっ…!?」
 力任せに振り払うことを躊躇う八島を見て、他の選手達も動きを止めてなんとなく見入っていた中、
 美月のみが冷静に3カウントを叩き、恐らくプロレス史上初、馬のチャンピオンが誕生したのであった。

「さあ、どうぞ斬馬迅で薙ぎ倒してください」
「うっ……」
 目の前にいるポニーの瞳をどう覗き込んでも、害意の一欠片も見当たらない。
 加えてリングの周囲を囲んでいるのは、ほとんどが物珍しさに集まってきた家族連ればかりである。
 当然、子供の目も多い。
「じ、自分には…できないッス…」
 真田は、リングの上でがっくりと膝をついた。

ポニー○ (試合放棄) ×真田美幸
※第13代王者が初防衛に成功

(しかしまあ、誰かが取り戻してくれないと困るんですけどね)
 試合後そんなことを考えながら、美月がポニーを追い立ててリングから下ろそうとしていると、
 ここで予定外の乱入者が子供達の間を縫って現れた。
「ん?アレは…」
 馬であった。
 が、二足歩行している。
 茶色い体に緑色のTシャツを着た2.5頭身ぐらいの頭でっかちな馬が、
 子供達に愛想を振りまきながらリングへ向かって来たのである。
 この団体のマスコットキャラクターの着ぐるみだった。
「………!」
 頭をサードロープの下から無理矢理押し込んでリングインすると、
 モコモコした白い前足でポニーの側面をそっと押して横倒しにし、そのまま前足を上に乗せる。
「………」
 その着ぐるみに無言でじっとみつめられ、美月は仕方なしに三つを叩いた。

ター○ィー君○ (体固め) ×ポニー
※ター○ィー君が第14代王者に

 その後、手を振って子供達の歓声に応える王者を、美月は背後からまじまじと観察。
(ははあ、これは…)
 直後、おもむろに自分の頭へ両手をかけた着ぐるみへ、
 後ろからベルトを巻いてやると同時にそっと囁きかける。
「誰だか知りませんが、子供達の前でそれは脱がない方がいいんじゃないですか?」
「うっ…」
 頭と胴体の間から覗いた緑色の髪の毛を見て、美月は着ぐるみの正体を確信していた。

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by right-o | 2009-03-11 00:01 | 書き物