「ハードコアタイトルマッチ」 第10代~第12代

 ある休日の朝方、選手寮玄関口。
「…私はどうなっても知りませんからね」
「ボクも知らないよ」
 玄関を出たすぐ外に、今日もレフェリー&カメラ役として美月と相羽。
 加えてもう一人、村上千春がイライラと足で地面を叩きながら何かを待っている。
「うっせーなあ。お前らは黙ってやることやってりゃいいんだよ。…お、来たな」
 寮の廊下を走る音がして、玄関からさらに村上千秋が顔を出した。
「獲物が来やがったぜ。よし、準備だ!」
 そう言うと二人の姉妹は玄関の左右に分かれ、あらかじめ用意しておいた凶器を持って身を潜めた。
 言う間でもなく、彼女らはハードコア王者である大空みぎり…が持っているぬいぐるみを狙っているのだ。
(これって、勝てるのかな?)
(勝算はあると思います。ただ、後で絶対怒られますけどね)
 そんな会話を交わしつつ、美月と相羽の二人はこれから起こる出来事に備え、姉妹からやや離れて待機。
 ほどなく、玄関の引き戸に内側から手が掛かった。
「ああ、今日も良いお天気ですね~」
 中から出てきた私服のみぎりが、空を見上げて大きく伸びをした時、
「「今だッ!!」」
 その両側から姉妹が現れ、千春の持っていた消火器が火を、もとい消化剤を噴いた。
 寮の廊下に置いてあったのを、二人が勝手に持ち出してきたものである。
「あ、あれっ?っかしいな…」
 千秋の方は操作の手順が正しく無いのか不発だったが、人間一人を無力化するには一つで十分。
「ゲホッ、ゲホッ、な、なんですかぁ!?」
「へへっ、いただきだぜ!」
 真っ白な消化剤まみれになって咽るみぎりの手からぬいぐるみを引っ手繰った千春が、
 それをその場に叩きつけ、足で踏みつけてフォール。
 すぐに美月が駆けつけて、カウントを入れ始めた。
 しかし、
「悪ぃな千秋、ベルトはアタシがもら――」
「いいやアタシがもらうぜ!」
 ここで実はわざと自分の消火器を温存していた千秋が、姉の顔面に至近距離からの噴射を浴びせてカット。
「て、テメェっ!?ゲッホ、ゲホッ!!」
「ヘッ、コイツはタッグのベルトじゃねーんだぜ。姉妹だろうが敵なんだよ。…おら、カバーだ!」
 転げまわって苦しむ千春を尻目に、今度は千秋がぬいぐるみを踏みつける。
 みぎりも動けず、これで三つ入ってしまった。

村上千秋○ (踏みつけ式体固め) ×クマのぬいぐるみ
※消火器噴射から 千秋が11代王者に

「よっしゃ!まずはとりあえず…逃げるぜっ!」
 ちゃんとぬいぐるみに持たせてあったベルトを奪い取り、千秋はブロック塀に囲まれた寮の敷地から外へ出ようとする。
 ドドドドドド……という、重低音が近づいてきていることには気づかない。
「あ!危な…」
「じゃあな!ほとぼりが冷めるまでその辺を――ぐへッ!!」
 結果、外の道路から入ってきた大型バイクと正面衝突。
 前輪に接触した千秋は、美月達の目の前でワイアーアクションのように数メートル宙を舞い、
 きりもみ回転しつつ背中から地面に落下した。
「ちょ、ちょっ…!?」
 相羽が驚き、美月が慌てて駆け寄る一方で、
「…アタシのバイクにぶつかって来るたぁいい度胸だ。キズでも入ってたら承知しないよ」
 千秋を撥ねた本人は、愛車の方を心配していた。
「救急車ッ!!」
 そうこうしている内に、美月が腕を交差させてレフェリーストップがかかる。

八島静香○ (TKO) ×村上千秋
※バイクで撥ねる 八島が12代王者に

「こ、これあげますから!とりあえず今は救急車を!!」
「ほっとけほっとけ、死にゃしないよ。それよりこのベルトはなんだい?」
「…あー、アイツ姐御に撥ねられたんスか?けっ、自分だけ抜け駆けしようとするからだぜ!」
 慌てたり説明したり、美月が忙しく動いているところへ、
 ようやく立ち直った千春が顔を真っ白にして起きてきた。
「まったく、いい気味…」
 そう言って笑おうとした時、千春の肩へ背後から大きな手が置かれる。
「私の、クマさん…」
 振り向くと同時に、千春は喉を片手で掴まれて宙に浮いていた。
「ちょ、ちょっとみぎりちゃん!?」
「みぎりさん、下はアスファルトです!落ち着いてください!!」
 結局、姉妹は二人仲良く病院送りになったのだった。

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by right-o | 2009-03-07 21:56 | 書き物