「ハードコアタイトルマッチ」 第7代~第9代

「まだまだ手ぬるいな」
「はあ……そう言われても」
 タイトル管理と言う名の専任レフェリー役を富沢に任せ、しばし温泉旅行を満喫して来た美月は、
 帰るなり社長から呼び出しを受けていた。
 てっきり自分の留守中に金井達が神楽からベルトを奪った手段について何か言われると思っていたところ、
 逆に社長は金井達を褒め、美月に対して注文をつけ始めたのだった。
「この手のベルトには最初からマトモな試合なんて望んでいないんだから、
 もっとこう、カオスな展開をだな…」
 聞いている美月の方は、あからさまに「そんなこと言われても」という表情で眉を寄せている。
 大体、割と保守的なプロレス観を持つ美月には、「その手のベルト」が一体どういうものを指すのかがよくわからない。
 ふてくされ気味の美月が、
「じゃあ、具体的な手本を見せてください」
 とでも口を挟もうとしたところで、社長室のドアがコンコンとノックされた。
「失礼しますっ!金井と富沢と永原、見ませんでしたか!?」
 竹刀片手に顔を覗かせたのは越後しのぶ。
 どうやら、三人組を捜索中のようである。
「いや、見てないが…。杉浦は?」
「あ」
 そういえば、今は選手達が合同で練習しているはずの時間である。
 美月は、ここに来る直前に見掛けた金井達の様子を思い出し、即座に事情を理解した。


「………」
 選手寮一階、共用スペース。
 畳敷きの和室に、ギリッ、という越後の歯軋りの音が響いている。
(先輩方、自業自得ですからね。私は悪くありませんよ…)
 ここまで越後を案内して来た美月は、越後の横に立ちながらそんなことを考えていた。
 とっくに練習開始の時間を過ぎた今、美月の目の前で、
 金井、富沢、永原の三人は暖かな炬燵の中にもぐって、それぞれに安らかな寝息を立てているのでる。
 どう考えても、今から越後の雷が落ちるに決まっている。
 が、意外なことに、越後は一旦気持ちを落ち着けて美月に声をかけた。
「…そういえば、そこのベルト、お前が管理してるんだって?」
「え?ああ、ハイ」
 越後が竹刀で指した先、金井の頭の側にあのベルトが落ちている。
「今チャンピオンがフォールされてるぞ。見逃してもいいのか?」
「…は?誰から?」
「コタツ。よく知らんが、そういうベルトは無茶が利くんだろ。
 練習サボって寝てる奴よりはコタツの方がマシだ。コタツを王者にしてやれ」
「は、はあ…」
 美月は躊躇したが、ついさっき社長から言われた言葉を思い出して決断した。
(そんなにカオスな展開が見たいなら、見せてやりましょう…)
 たまたま仰向けになって寝ていた金井の側で、美月は素早く三つを叩いた。

炬燵○ (体固め) ×キューティー金井
※第7代王者が初防衛に失敗、炬燵が第8代王者に。

「…新チャンピオンの誕生です」
 そう宣言する美月に、越後は受け取ったカメラを向けている。
 が、落ちているベルトを掲げた美月が、それを新しい王者の上に置こうとしたところで、
「ちょっとどいてろ」
 そう言って越後が遮り、カメラを全体が映る位置に設置して炬燵の側に立った。
 寝ている三人はベルトが奪われたことに気がつくどころか、全く起きる気配が無い。
 しばらく飛距離と力加減を測っていた越後は、おもむろに炬燵布団の中に諸手を突っ込んだ。
「そぉい!!」
 気合一閃、宙を舞った炬燵は金井の頭をかすめ、
 最終的には何も無い畳の上へ、足を天井に向けて引っくり返されて着地。
 すかさず押さえ込みに行った越後が、足の内の一本へ腕を回してがっちりと固める。
 
越後しのぶ○ (ちゃぶ台返し→片エビ固め) ×炬燵
※第8代王者が初防衛に失敗、越後が第9代王者に。

「寒ッ!?」
「ふぇ…?」
「んー…もう投げられないよ…」
 炬燵を剥ぎ取られ、ようやく三人が目を覚ました。
「あっ!わたしのベルト!?返してくださいよぉ~!!」
「っていうか寒いんだから炬燵戻しましょ。あー、あとリモコンは…」
「うんうん。体が冷えると良いブリッジができないよね」
 自分の用を済ませた美月は、カメラを回収してそそくさと出て行く。
「お・ま・え・ら……ッ!今何時だと思ってんだぁッ!!!」
 怒号を背後に聞きながら、美月はそっと後ろ手で戸を閉めた。

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by right-o | 2009-03-01 23:35 | 書き物