「絶華」 柳生美冬&伊達遥VS真田美幸&近藤真琴

 とある大きな団体でのお話。
 この日、本来は興行のセミファイナルに他団体との対抗戦が予定されていた。
 相手は中堅どころの団体で、そこの次期エースと目されている柳生美冬と、
 同じくこの団体の若手有力株である伊達遥との対戦が注目を集めており、
 もしかしたら、将来的にそれぞれの団体を背負って立つ二人が、
 このあと歴史に残るようなライバル関係を築いていく、その記念すべき一戦になるのではないか…
 と、気の早いファンや関係者は期待を寄せていた。
 しかし、結果としてこのカードは直前で変更されることになる。
 双方のパートナーを務めるはずだった選手が強硬に反対したのだ。
 美冬と伊達に激しい対抗心を燃やしていた真田美幸・近藤真琴の二人が、
 それぞれにエース候補対決のオマケ扱いされることを拒んだのだ。
 結果、強情な二人に対して二つの団体側が折れる形で、
 対抗戦ではなく「有望視される若手対それを認めない同期」という、
 二つの団体内部での対立を組み合わせた、妙なカードになってしまった。


「任せていいか?」
「…わかった」
 まずは美冬が下がって伊達が出てくると、相手側も近藤が先発を買って出る。
 直後、
「伊達ぇッ!」
 と、いきなり右足を振り上げた近藤に伊達が応えてハイキックが交錯。
 そこから互いに気迫のこもったエルボー合戦を繰り広げ、
 最初から倒しにいくような激しい展開になるかと思われたが、
 近藤がミドルキックを放ったところで、それをキャッチした伊達が軸足を刈ってグラウンドに持ち込み、
 相手の勢いを抑えるようにしてペースを握った。
(ああ)
 コーナーからその様子を見ながら、美冬はつい心の中で一人頷いてしまう。
 自分と同じような位置にあるという伊達の心境が、なんとなくわかったような気がしたのだ。
 反対側で真田が拳を震わせているのも、恐らくは近藤に自分を重ねて見ているのだろう。

 美冬と伊達は、もちろん気の強さも十分に持っているものの、
 周囲から見れば何でも人並み以上にこなせる優等生であり、戦い方の幅も広い。
 対して真田と近藤は雑草というか、とにかく気持ちを前面に出して得意の打撃で当たっていくタイプである。
 しかも、それぞれ同世代の美冬・伊達に対しては特に負けん気が強く、
 対戦する時は普段以上の気迫と粘りを見せ、玉砕覚悟の勝負を挑んでいくのだ。
 これが美冬や伊達にとって、言ってみれば非常に面倒くさい。
 初めはこちらも同じように真っ向勝負で叩き潰していたのが、
 何度潰されてもそのつどしぶとく立ち上がってくるため、
 ある意味根負けしたような感じで、次第にあまり付き合わずあしらうようになり、
 その術も徐々に学んでいった。

「くそっ!」
 蹴り足を取られ、アキレス腱固めを極められていた近藤がどうにか抜けると、
 伊達はすかさず間合いを取って美冬にタッチ。
 近藤もそれを見て、お前はどうでもいいとばかりに真田へ場を譲る。
「おりゃあぁぁぁぁッ!!」
 こうして、試合は伊達対近藤、美冬対真田が延々と繰り返されていった。

 双方同じタイミングでの交代が何度目かになった時、ほんの一瞬だけ美冬と近藤の接触がうまれる。
「何やってんだっ!」
 と、膝十字固めに捕まった真田を救うため、カットに入ってきたのだ。
 しかし、美冬が近藤を意識した時間は長くなかった。
 そのあとすぐ、近藤はコーナーに控える伊達目掛け、
 体ごとロープを飛び越えながら向かっていき、もつれながら場外に消えたのである。
(向こうも苦労しているな)
 またしても伊達に同情してしまったが、その今夜限りのパートナーのためにも、
 今は目の前の相手を倒すことに集中した。
「くぅっ…まだまだぁッ!」
 長時間膝を反対側に伸ばされながら、真田はすぐに根性で立ち上がって来た。
 美冬はまだ、真田がギブアップしたところを一度も見たことがない。
 が、それだけに最初から関節技で勝とうという考えもなかった。
 立った瞬間、それまで痛めつけてきた膝の裏へ強烈なローキックを入れて尻餅をつかせ、
 続けて起きたままの上体へ、胸板に反対側からサッカーボールキックを蹴る要領で蹴り倒した。
 そして流石の真田も天井を向いてしまった時間を利用し、左腕と左足を取りに行く。
「なっ…?」
 左腕を左膝の裏へ通すと、さらに左の足首と右の足首を組ませ、
 ちょうど胡坐をかくような体勢にして起こす。
 これはほんの少し動きを止めるためのもので、格好そのものに深い意味は無い。
「………」
 早く立ち上がりたいという焦りから、組み合わされた手と足をほどくのに余計手間取っている真田を、
 すっとコーナーまで下がって距離を取った美冬が冷たく見下ろす。
「寝ていろ」
 そこから短く走り込んで距離を詰め、美冬は手足をほどきかけていた真田の、下を向いていた頭を、
 その額を足で掬うように思い切り蹴り上げた。
 中途半端に仕掛けて相手に火をつけることを避け、頭を狙った一発で意識を飛ばしてしまう。
 それが美冬にとっての真田対策だった。


 決着がついたあと、場外でやりあっていたところを分けられた伊達と近藤は、
 それぞれが試合直前に決まった相棒の元に駆け寄った。
「…見事、だった」
「ああ」
 伊達は言葉少なに美冬の右手を掲げてやる。
「ちくしょうッ!また負けたッス!!」
 近藤は、気がついた瞬間からマットを叩いて悔しがりはじめた真田へ、無言で手を差し出した。
 団体は違っても、同じような位置にあるもの同士、
 今回はやはり敵対心よりも親近感が芽生える結果になってしまった。

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by right-o | 2009-02-09 22:48 | 書き物