「コードブレイカー」 ジューシーペアVSゴールデンペア 第2戦 Ⅳ

 内田からタッチを受けたあと、暫くは上戸の大活躍が続いた。
 ロープへ振った来島目掛け、その場で一回転してからお株を奪うようなラリアット。
 さらに引き起こして背後に回ると、今度はきっちりホールドする形のジャーマンを豪快に決める。
 これに来島はギリギリで肩を上げたが、その後すぐには起き上がれず、横になったままで頭を抱えてしまった。
「っつ……」
(良くない落ち方をしたようね)
 今の一発か、もしくはその前の投げっ放し、またはそれより前、内田がスリーパーを切り返した変形のリバースDDTか。
 それらの内のどれか、もしくはどれもが原因となって、来島は頭部にダメージを負ってしまったようだった。
(場所が場所だけに気が引けるけど…容赦はできないわ)
 部位が違っても、要は先ほど内田が足を攻められたのと同じこと。
 王者組に出来た大きな弱点を、狙わない手はない。
「おらおら、どうしたッ!」
 リングに出ている上戸も、もちろん加減しなかった。
 一度ロープを背負ったあと、うつ伏せになっている来島へゆったりと近づき、
 飛び上がっての右膝を後頭部へ投下。
 続いて場内から悲鳴のような声が上がる中、抵抗しない来島を無理矢理立たせると、
 その頭を両腿で挟み込んでジャンピングパイルドライバー。
 ぐったりした来島の上に覆い被さったが、それでも3カウントだけは許さない。
 それならと上戸は、上体だけを無理に引っ張って両膝立ちにした来島の頭へ腕を回し、
 わざと祐希子のいる赤コーナーを向いてヘッドロックに捕えた。
「恵理っ!起きてッ!!」
 祐希子が叫び、客席から「キシマ」コールが起こり始めると、
 いよいよ上戸はふてぶてしさを見せる。
「おいレフェリー、コイツ大丈夫なのかよ?チェックだろ」
 言いながら来島の頭を捻じ切るような勢いで締め上げ、
 ついにそれを見たレフェリーが、だらりと垂れている来島の手を取って持ち上げた。
 一回、二回と上げられた手が虚しく落ちたが、
 三度目、レフェリーストップとなる寸前で落ちかけた手が止まる。
「うおおぉぉぉぉっ!!!」
 そのまま上戸の腰をがっちり固め、ヘッドロックをかけられた状態から背後に投げ捨てるバックドロップ。
 どうにか意識を繋いだ来島は、ふらつきながら祐希子の手に飛びついた。

「お返し、いくわよッ!」
 タッチを受けた祐希子はすぐにロープへ飛び乗り、
 立ち上がりかけていた上戸に向かってスワンダイブ式のドロップキック。
 受けながらも立ち上がった上戸へ、さらに左右のエルボーからローリングしてもう一発。
「なんの、まだまだぁッ!」
 これも受け止めた上戸がその場でラリアットを振り抜いたが、祐希子も仁王立ちになったまま動かない。
 パートナーの頑張りに応えるような気迫で、ついに祐希子が肘で上戸を薙ぎ倒して見せた。
「決める!!」
 流れを掴んだと見たのか、祐希子は上戸の大きな体を持ち上げ、
 シュミット式バックブリーカーを決めてニュートラルコーナーの前にセット。
 そしてリングに背を向ける形でコーナーを駆け上がり始めた。
(マズイ…!)
 そう感じた内田は早々とカットへ動こうとしたが、
 重い体を必死で引き摺ってこちらへ向かう来島を見て思い直す。
 開始からとにかく全力を出すことだけを考えてきた中で、ここにきてようやく、
 内田の頭に勝利へのシナリオが浮かんできつつあった。
 それにはまず、上戸一人でこの局面を乗り切ってもらわなければならない。
 内田はコーナーからロープをくぐってすぐ、圧し掛かるようにして動きを止めにきた来島に、わざと捕まった。
 その直後、高々と祐希子が宙を舞う。
「返せッ!!」
 会場中の、自分達を応援してくれているファンの誰よりも、内田が一番大きく叫んでいた。
 その声に応え、上戸はどうにか2.9を守った。
(よしっ!)
 上戸の肩が上がった瞬間から内田は自分の仕事に移る。
 死に体の来島に膝を入れ、正面から首を脇に抱えて青コーナー上に座った。
 そこから首を振り回すようにしてスイングDDT。
 これで来島にダメを押し、戦闘不能にしたはずだった。
 次いでそのままリング内に介入すると、
 もう一つの必殺技を狙って、上戸を肩車で持ち上げていた祐希子の顔面をトラースキックで蹴り飛ばす。
 上戸を乗せたままで前に崩れた祐希子を見届け、コーナーへ戻った。
「早くっ!!」
 これまたダメージの深い上戸とタッチを交わして内田がリングインすると、
 案の上、祐希子の方は這い戻っていた来島との交代を躊躇っている。
「くっ…!」
(悪いけど、あなたから勝たせてもらうわ)
 交代を諦めて自分の方を振り向いた祐希子を、内田はじっと見据え、待ち構える。
 しかし、
「代わってくれっ…!」
 言うなり、来島の手が伸びて祐希子の肩に触った。
「アイツには、この前取られてるんだ…!」
 言葉通りの意地か、それともパートナーの助けになれないことへの情けなさか。
 下がろうとしない祐希子を押しのけて入ると、来島は確かな足取りで内田へ向かって走り込む。
「あっ…!」
 つい気迫に釣り込まれて中央に出てしまった内田の首を、来島の右腕が刈り取った。
 内田はその場で綺麗に一回転し、顔からマットへ着地。
「なぁにやってんだよ!起きろッ!!」
 何秒か完全に意識が飛んでいたらしく、カットに入った上戸の声でようやく気がついた。
「任せたぜっ!!」
 そう言い捨てて、上戸は祐希子ともつれ合いながら場外へ。
(いけない!)
 とにかく必死で自分の意識を奮い立たせ、体を起こす。
 目の前には、来島がロープを背に受けて右腕を振りかぶっている光景。
(どうする…!?)
 もう、つい数十秒前の余裕も計算も頭に無かった。
 しかも、不思議と体が避けようとはしない。
 内田の足は前に出ていた。
 再度ナパームラリアットにくる来島へ自分から飛び掛り、両膝を揃えて顔面へ添える。
 そのまま来島の髪を夢中で掴んで後に倒れ、膝で顔を跳ね上げた。
「クソっ…!?」
 まだ倒れない来島の頭を肩の上に担ぎ、目に映ったニュートラルコーナーへ向かってダッシュ。
(決まれ…ッ!!)
 コーナーを駆け上がって、宙返りしながら二度目の変形リバースDDTを決めると、
 来島の両足を抱えて押さえ込みながら、必死でそう祈り続けた。


「はぁ、はぁ…」
 リングの隅、コーナーにもたれて座り込んだう内田は、
 ロープをくぐって中に人が集まってくる様子を、ただぼうっと眺めていた。
(あれ、どうなったんだっけ…?)
 頭が鳴るように痛く、思考がうまく働かない。
 しかし考え事の答えは、何よりも確かな形でもたらされた。
「う」
 金色に輝く重たいベルトが胸の上へ乱暴に置かれ、聞きなれた声が降ってくる。
「なにボケっとしてんだよ!お前のだぜ」
 同じベルトを肩にかけた上戸が内田の手を取って強引に引き起こし、
 そして持っていたマイクを内田に渡した。
「ほら、ビシッと締めてくれよ」
「え?あー…」
 試合が終わった安堵感と試合に勝った嬉しさ、それに頭の痛さが混じり合って何も口に出せずにいたところで、
「おいっ!!」
 という来島の大声が会場に轟く。
「また負けちまったけど、すぐに取り返してやるからな!もう一回、オレ達と戦え!!」
 花道の上、祐希子に肩を貸され、後頭部に氷嚢を押し当てた痛ましい姿でも、
 来島は相変わらず意地を張っている。
 それを見て内田は、今度は本心からこう切り返した。
「…しばらくは、ヤダ」
 と。

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by right-o | 2009-01-30 23:16 | 書き物