「ミスティフリップ」 ジューシーペアVSゴールデンペア 第2戦 Ⅲ

「くぅっ……!」
 自分の技で足を締め上げられながら、内田はなんとか這ってロープまで辿り着いた。
 痺れた右足を痛がる前に、まず立ち上がらなければならない。
 が、一旦技を解いたものの、祐希子はそう簡単に内田を逃がさなかった。
 ロープを支えに立ち上がりかけた内田の右足を引っ張り、再び中央へ引き戻そうとする。
「逃がさないわよ」
「しつこいっッ!」
 右足を祐希子に掴まれた片足立ちの状態から、素早く左足で踏み切っての延髄斬り。
 しかしこれを読んでいた祐希子は、頭を軽く下げるだけであっさりとかわしてみせた。
 捨て身の一撃を避けられ、内田は右足を取られたままで、またしてもマットに這わされてしまう。
 祐希子はすかさず、掴んでいた内田の右足を自分の両足に挟んで固定しつつ背中に乗り、
 ラッキーキャプチャーに続いてSTFまでやり返していった。
(まさか私が、関節技でいいようにされるなんて…!)
 想定とは真逆の展開に、流石の内田も焦り始めていた。

 このあとも、内田は王者組に徹底して捕まえられ、交代させてもらえない。
 場外で上戸を振り切った来島が祐希子と代わって入ってきても、
 青コーナーに戻るチャンスはなかなか訪れなかった。
 来島の方も、前回や上戸を前にした時の粗雑さを押さえ、
 ある意味チャンピオンらしい堅実な攻めを見せる。
 わざと立ち上がらせた内田の背後から、痛めた右足をラリアットで刈り取ると、
 そのまま足を持ってリング中央で逆片エビ固めへ。
 青コーナーの上戸へ見せつけるように、内田の体を高々と背後へ反り上げた。
「何してんだよッ!?」
 パートナーの苛立つ声を聞きながら、
(情けない…っ!)
 そう思っても、今は耐えて脱出のスキを窺うことしかない。
 五分近くローンバトルが続いたあとで、その機会はようやく巡ってきた。
 再度祐希子と交代するため、来島が内田の右足を持って引き摺るように赤コーナーへ戻ろうとした時、
 内田がパッと両手でマットを跳ね、左足だけで立ち上がる。
 そこから、先ほど祐希子にも試みた片足立ちでの延髄斬り。
「おっと!」
 祐希子がしたのと同じように、来島が頭を下げてこれを避けたところで、
「ハッ!」
 今度は倒れずに左足だけで着地して見せた内田は、
 同時に再びマットを蹴り、延髄斬りの軌道を逆からなぞるようにして、
 頭を上げた来島のこめかみを狙ってヒールキック一閃。
 不意を突かれた来島が右足を放し、内田はすぐに交代へ向かおうとしたが、
 来島の方も頭を蹴られながら踏みとどまっている。
「逃がすかよっ!」
 足の痛みをおして青コーナーへ行こうとする内田の背後を捕まえ、
 首に腕を回してスリーパーホールドに捕獲。
「ぐっ、この…!」
 同時に、手を伸ばせば届きそうな距離に迫っていた内田と上戸の間へ、
 赤コーナーから飛び出した祐希子が割って入り、せっかく痛めつけた獲物を逃すまいとする。
「くそっ、放せッ!」
 ロープの間から身を乗り出していたところを押さえられ、上戸が喚いた。
 反則と言えば反則だが、この程度は駆け引きの範囲。
 むしろ勝負所をわきまえた王者組の姿勢は、流石と褒められていいものだろう。
「もう、少し……っ!」
 内田が必死でもがいても、体格と腕力に勝る来島はびくともしない。
 それどころか、首と腕の間はぴったりと閉まって指を入れる隙間も無く、
 下手をすればこのまま落とされかねなかった。
(こんな…技で…!)
 徐々に抵抗する力が失われていく中、ぼやけてきた内田の視界に、
 祐希子に押さえ込まれながらも上戸が必死に手を伸ばしているのが映る。
 それを見るにつけ、やる気十分なのに代わってやれないパートナーに申し訳なく思えてきたが、
 次いで内田は妙なことが気になった。
 こうやって手を伸ばす時、掌は大体下を向いているのが普通だと思えるが、
 差し出されている上戸の手は上を向いているのだ。
 諦めずにタッチを要求しているのかと思ったが、それにしては指の間がしっかりと閉まっていて、
 どこか過剰に力が入っている。
 さらに、雑音が入りすぎてよくわからないが、上戸が何か叫んでいるように聞こえた。
(ああ、…そういうコトっ!)
 相棒の意図を理解した内田は、両手を上に伸ばして肩越しに背後の来島の頭を掴み、
 残った力を腕ではなく自由な両足に込める。
「…っ!飛べっ!!」
 そう叫んでいた上戸の声に応え、伸ばされている掌に右足を掛けて踏み台に。
「うおっ!?」
 その場で大きく宙返りして首にかかった腕を振り払うと、
 同時に来島の首をドラゴンスリーパーの要領で小脇に抱えながら、その背後へ尻餅をついて着地。
 リバースDDTの形で後頭部をマットへ叩きつけた。
「お待たせっ!」
「おうっ!!」
 異変に気づいた祐希子が振り向いた直後、タッチを交わした内田は場外に転がって消え、
 代わってついに上戸がリングイン。
「うおおおりゃあぁぁぁぁぁ!!!」
 まずは来島に気を取られた祐希子を思い切り突き飛ばすと、
 頭を打って立てずにいる来島の背後へ回り、強烈な投げっ放しジャーマンをくらわせる。
 さらにもう一度向かって来た祐希子を、まるで枕か何かのようにフロントスープレックスで放り投げ、
 リングをほぼ横断飛行させた。
「あー、惚れ直すわ」
 もそもそとコーナーへ戻りながら、内田はなんとなくそう言ってみる。
 今まで溜め込んでいた分を爆発させた上戸が、瞬く間にリング上を制圧した。

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by right-o | 2009-01-29 23:15 | 書き物