ジューシーペアVSゴールデンペア 第2戦 Ⅰ

 入場を終えたジューシーペアの二人は、後入場の王者組をリングの上で待っていた。
「で、今回は作戦とかあんのか?」
「別に。もう好きなように暴れていいわよ」
「おっしゃ!そうこなくっちゃな!」
 ゴングが待ち切れないようにはしゃぐ上戸の横で、内田は静かに瞳を閉じている。
(その代わり、私も好きなようにさせてもらうけどね)
 片方だけ開かれた内田の左目が、赤紫色の髪をした対戦相手を捕えた。

 メジャー団体ならではの、タイトルマッチに関わる煩雑な儀式を終えたあと、
 両タッグチームはリング中央で改めて向かい合った。
 一ヶ月前の初対戦時と比べて、同じ組み合わせでありながら異なる点が二つある。
 一つは、ゴールデンペアの腰に巻かれている威厳ありげなベルトの存在。
 もう一つは、前回の対決で勝ちをさらった張本人である内田の表情。
 相変わらず火花を散らしての睨みあいを繰り広げている上戸と来島の隣で、
 内田もまた、正面から祐希子と向かい合っていた。
 これまで、特に一週間前の祐希子との前哨戦で、のらりくらりと立ち回り、
 目の前の試合以外のことまで考えて戦っていた時とは、明らかに態度が違う。
(私も、あとは思いっ切り暴れるだけよ)
 観客の期待を十分に煽り、団体とチャンピオンにはベルトを賭けさせることに成功した。
 舞台が全て整った今は、奇策や相手の意表を突いての勝ちを狙う場面ではなく、
 自分の本当の実力を存分に見せつけるための時間であった。


 睨み合いから一旦離れ、両チームがそれぞれのコーナーへと戻る。
 当然先発は自分達だと思っていきり立つ上戸と来島の傍で、
 内田と祐希子は大人しくロープをくぐってエプロンへ下がった。
 が、
「な、おいっ!?」
「お先にっ!」
 ゴングと同時に飛び出しかけたパートナーの肩を叩き、内田と祐希子は同時にロープを乗り越えてリングへ踊り込んだ。
「なんだよ祐希子っ!?」
 それぞれのコーナーで同じような声を上げるパートナー達を尻目に、二人の試合巧者が飛び出し、
 まずはドロップキックがリング中央で交錯する。
 続いて内田がロープへ走ると、これを祐希子は正面から両足を開いてリープフロッグで飛び越え、
 振り向くと同時に、返って来た内田の勢いを利用した見事なアームホイップ。
 対して内田も起き上がりざまに素早くやり返し、二人は互いを手品のように軽々と数回投げ飛ばしあった。
 ここでもう既に手を叩きかけている観客もあったが、ファーストコンタクトはまだ終わらない。
「ッ!」
 不意をついてトーキックを入れた内田は、祐希子を一気にロープへ押し込んで反対側に飛ばすと、
 これ見よがしに背中を屈めてショルダースルー狙い。
「はっ!」
 祐希子の方は、内田を前転して飛び越えつつその胴を両腕で捕まえて引き倒し、
 ローリングクラッチホールドを決めようとする。
 しかし、内田はその力を利用し、足を開いて尻餅をついた祐希子の前で後転、
 体を丸めたままで両足をマットにつくと、その場で小さくジャンプして祐希子の顔面へ両足を揃えたドロップキック。
「ぶっ」
 が、祐希子の方も顔を蹴られた勢いで後ろに転がり、
 起き上がりかけていた内田の顔を、全く同じ要領で蹴りつけた。
「うっぶ」
 両者が、赤くなった鼻を片手で押さえながら中腰で向かい合うと、
 ここでようやく、万雷の拍手が沸き起こるための間ができた。

「おい!早く代われよっ!!」
「祐希子、代わってくれ!」
 内田と祐希子が素晴らしい攻防を見せたあと、その余韻に浸っていた会場の空気を、
 赤青両方のコーナーから響いた大声が掻き消した。
 リング上の二人が、視線を合わせたままじりじりと下がって交代すると、さらにその空気は一変する。
「「おおぉりゃあぁぁぁ!!!」」
 全速力で飛び出して来たパワーファイター同士が、リング中央で文字通りに激突。
 小技の応酬で相手の出方を見よう、などと微塵も頭に無い両者は、今日も初めからパワー全開でぶつかり合った。
 互いに一歩も退かないタックル合戦から、まず最初に仕掛けたのは上戸。
「おらっ!」
 と、いきなり膝を入れてロープへ押し込み、
 そこから来島を反対側に飛ばしつつ自分も走って追いつくと、
 来島が振り返ってロープを背負った瞬間、そのどてっ腹へさらに膝を突き刺す。
 この大きな体を使った豪快なキチンシンクを、往復で決めてみせた。
 しかし、もちろん来島はこの程度で止まらない。
「効かねぇっ!!」
 何事も無かったように上戸の足を払いのけ、腕を掴んで今度は来島が上戸をロープへ飛ばす。
 そして返って来たところで、自分より大きな上戸を軽々と振り回してパワースラムで叩きつけた。
「効くかよっ!!」
 とても女性二人が起こしたとは思えない衝撃がリングを揺らしたが、上戸もまたダメージを感じさせない。
 覆い被さった来島を跳ね除け、立ち上がりざまに思い切りその顔を張った。
「テメェっ!」
「こンのッ!」
 張られたら、張り返す。
 カウント2で肩を上げる行為と並ぶプロレスラーの条件反射であったが、
 二人は足を止めたままで、何十発もお互いに相手の頬を平手で打ち続けた。
 初めは相手の一発をまず受けてからやり返していたのが、
 段々と一発受けてやるのも面倒になってきたのか、最後にはただひたすら腕の動くに任せて張り続け、
 それぞれ頬が真っ赤に腫れ上がったところで、フルスイングした右手が交錯。
「ちぃっ!」
「クソッ!」
 二人は、ふらついて尻餅をつくタイミングまで同じだった。

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by right-o | 2009-01-26 22:07 | 書き物