「カベジェラ・コントラ・カベジェラマッチ」 伊達遥VS小早川志保

+技「シュバイン」「最強ハイキック」


「色々あったけど、今度は絶対に負けないんだからねッ!」
 挑戦者決定戦で敗れながらも、
 「誰も勝ったヤツを挑戦させるとは言ってない」という屁理屈によって挑戦者にされてしまった小早川は、
 前哨戦を終えたあと、それでも伊達に向かって気を吐いていた。
 しかし、後が無くなった小早川のこの言葉こそ、伊達を背後から操るつかさと吉原の思う壺。
「あらあら、大した自信よね。“絶対に負けない”だなんて」
「でもそんなに自信があるならぁ、ベルトの他にも何か賭けて欲しいな~」
「ああ、何でも賭けてやるよ!その代わりそっちが負けた時は覚悟しろよな!」
 負けないと言った手前、小早川は断れない。
 すかさず、いつも微笑を絶やさない吉原の口から、とんでもない提案が発せられた。
「それじゃあ、髪を賭けてもらいましょうか」
「負けた方が丸坊主!絶対負けないって言ったんだから、別にいいよね~?」
(よ、よくない…)
 相変わらず黙ったままで何も言い出せずにいる伊達の目の前で、
 彼女に何の断りも無く、勝手に敗者髪切りマッチが組まれてしまった。


 それでも、一度リングに上がってしまえば伊達は試合に集中することができる。
 初戦にも増して気迫一杯に向かってくる小早川の攻めを受けきった上で、
 それ以上の力を込めて蹴り返していった。
 負けられない小早川の方も、何度倒されようと夢中で伊達に食らいついていったことで、
 互いの意地がぶつかり合う好勝負になるか、と一旦は思われた。
 が、やはりこの試合を仕組んだ張本人達は、それで満足しない。
「え~いっ!」
 突然エプロンに上がったつかさが、ロープに走った小早川に向けて、
 これまで何度も試合への介入に使われてきた青いプラスチックケースを振るって脳天へ一撃。
 しかし、ここは小早川が読んでいた。
 振り下ろされたところを掴んで受け止めると、そのまま箱を取り上げようと試みる。
「げっ、放せっ!」
「お前が放せっ!!」
 ロープの間からつかさの腹部に蹴りを入れて箱を取り上げると、
 まずは目の前にあるつかさの頭へ叩きつけ、返す刀で、箱の取り合いをおろおろしながら見ていた伊達にも一撃。
 ボンッ、といういい音をさせながら凶器攻撃が決まったが、
 つかさ達の今までの行いが悪すぎたせいか、レフェリーはただ黙って見ていた。
「いくよっ!!」
 一気に勢いを掴んだ小早川は、よろめいてコーナーまで下がった伊達へ串刺し式のダブルニーアタック。
 続けて脇に頭を差し入れて持ち上げ、伊達をコーナーの上に座らせてから、
 一度しゃがんで溜めを作ってから一気に伸び上がり、真下から掌庭で顎を打ち抜く。
 そしてぐったりさせたところで両脇を下から掬って前方に叩きつけ、今度は自分がコーナーに飛び上がれば、
 初戦でも伊達を追い詰めた屈伸式のボディプレスで締める、小早川の必勝パターン…となるはずだったが、
「うふふ、あんまり調子に乗っちゃダメよ」
 コーナー上から飛ぶ寸前の小早川に向かって、吉原が真っ白い粉末を顔面へ投げつけたのだ。
「なっ…ごほっ!?」
 視界を奪い、さらに背中を押してマットへ転落させたあと、吉原が何食わぬ顔で「遥ちゃん、立って!」などと、
 倒れている伊達を励ましている反対側では、つかさがレフェリーを引き付けてきっちり仕事を果たしている。
 完全に反則だが、見事に息の合った連係だった。
(ごめんなさい…っ)
 仲間達のそんな行動を悪いとは思いながらも、伊達は本気で仕留めにかかる。
 今までもこんな調子であの二人に流されてきたが、加えて今回は自分の髪が賭かっている。
 伊達も負けたくはない。
「うっ…くそっ……!」
 起き上がったものの、粉が入ったせいで目が開けられない小早川が、
 手を振りながらよたよたと進んできたところへ、その側頭部を伊達の左ハイキックが薙ぎ払った。
 伊達の左足は完全に振り抜かれ、同時に小早川の頭が限界まで左を向く。
 そのまま、左後ろに向かってゆっくりと倒れていった小早川を見て、
 レフェリーはすかさずダウンカウントを数え始めた。
 ここでフォールに行けば初戦の再現になるが、流石に伊達はそんな気になれなかった。
『1!…2!…3!…4!…』
 しかし、進んでいくカウントを暗い表情で聞いていた伊達の目の前で、
 横倒しになっていた小早川がゆっくりと起き上がり始める。
(お、起きてくるの…!?)
 完全に意識を飛ばしたと思っていた伊達は驚いたが、それだけに、凄いとも思った。
「遥ちゃん、これを…きゃっ!?」
 エプロンからプラスチックケースを差し出した吉原を思わず突き飛ばし、
 完全に立ち上がった小早川に向かって駆け寄る。
(せめて最後だけでも、自分の力でこの子に勝ちたい!)
 大きく足を上げてから斧のような踵落としを見舞うと、
 ぐらついた小早川の頭を小脇に抱えて一気に持ち上げ、捻りを加えた垂直落下式ブレーンバスターへ。
「うおおおおおおおお!!!」
 小早川はこれに雄叫びを上げてすぐさま立ち上がると、
 今度は逆に伊達を捕え、足を交差させて落とす変形の開脚ドライバーを返していく。
 対してさらに伊達が立ち上がってきたところへ、トラースキックで正確に顎を打ち抜いた。
 そして一瞬怯んだ伊達に向かい、低い姿勢から胴体へ組み付いていく。
(タックル…!?)
 意外な動きに戸惑いを見せた伊達を正面から右肩へ担ぎ上げると、
 その長身を背後に回し、脇の下にきた頭を右手で掴みつつ左手で両足を押さえて「コ」の字型を作るように折り曲げ、
 そこから尻餅をついて首からマットへ叩きつけた。
「どう…だッ!」
 伊達に覆い被さりながら、外野を睨みつけてフォール。
 この日のために編み出した新技で、小早川が完璧な3カウントを奪った。


「ああ、もう!帰りましょうよ遥さん!」
「そうよ、あんな約束こっちが守ることないのよ遥ちゃん!」
 強引にこの場を無かったことにしようとするつかさと吉原を押しのけて、
 伊達は自分から用意のハサミを取り、後ろに回す。
 背面で結んで一つに纏めてあった後ろ髪が、根元からぼとりと落ちた。
 それでは終わらず、続けて伊達はリングの中央に置かれたイスの上へ、
 バリカンを持った小早川に背中を見せて座った。
「…やって」
 こうまで大人しくされると、逆についさっきまで息巻いていた小早川の方が困ってしまう。
「い、いいよもう。よく考えたら、あんたが悪いことしてたわけじゃないし…」
「…そう」
 伊達は立ち上がり、四方に向かって礼をしたあと、
 唖然としている二人の仲間を残して一人でさっさと帰って行った。
(なんか、気持ちいいな…)
 後ろ髪と一緒に別のものまで切り捨ててしまったように、その背中は軽やかだった。

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by right-o | 2009-01-15 23:02 | 書き物