「シューティングスタープレス」 小早川志保VSソニックナイト

「うっきゅっきゅ、もはや人類に希望は無いのさね!」
「なにをっ!人間は捨てたもんじゃないぞ!!」
 黒いコスチュームの悪役と、それに立ち向かう赤いスカーフの正義の味方。
 そんな光景が、何故かリングの上で繰り広げられていた。
 ここ数ヶ月、奪われたジュニアのベルトを巡って抗争を続けてきたソニックと小早川の間では、
 いつの間にかこういった、試合とは全く関係の無いやり取りが定番になっている。
「今日こそはそのベルト、返してもらうっ!!」
「ふっ、オマエには無理だおッ!!」
 黒いヒロインは、好敵手に恵まれたこともあって、
 意外にすんなりと周囲から受け入れられたのだった。


 そんな二人も、一旦試合が始まってしまえば一変する。
 超高速のロープワークから足を払ってフォールの取り合い、
 ソニックがアームホイップを連発すれば小早川はヘッドシザースで反撃し、
 互いが跳ね起きてのドロップキックは相打ち。
 スピードが身上の両者ならではの、目にも止まらない展開が序盤から続いた。
 そして、試合が進むに連れて、次第に二人の違いが出始める。

「はあッ!」
 突っ込んできたソニックをショルダースルーで場外に落とすと、すかさず小早川は飛び技を狙って反対側のロープへ。
 そして跳ね返って来た勢いそのままに、両足でトップロープに飛び乗った。
(うきゅっ!?)
 下で受けて立つ姿勢をとっていたソニックの頭上で、小早川は体を反ってバック宙。
 場外に向かってのシューティングスタープレスで落下すると、
 ソニックを押し潰しながら着地も決めてみせる。
 これには、流石のソニックも意表を突かれてしまった。
「まだまだいくよっ!」
 勢いに乗った小早川は、すぐにソニックをリングに転がし入れ、自分はトップロープ上で待機。
 起き上がりしな、コーナーから飛びつく形でのヘッドシザースホイップを狙ったが、
「ふんぐっ!」
 気合を入れたソニックの体は、マットから根が生えたように動かない。
「あ、あれっ?」
 飛び技では小早川が上回っていても、力ではソニックが遥かに上をいく。
 首にぶら下がっている小早川を一気に持ち上げると、
 そのまま全力のプラズマソニックボムで叩きつけた。
 そしてフォールには行かず、小早川の位置を調整してからコーナーへ。
「ここで、悪の必殺技が炸裂するのっ!」
 微妙に変わってしまった決めゼリフとともに、
 コーナーから前方に飛び出しつつ後方へ宙返り。
 黒い流星が小早川の上に落下した。
 が、
「負けられないんだぁッ!!」
 完全に決まった、と思っていたソニックの下から、小早川の右腕が高々と上がる。
 同時に、その健闘に対して会場から大きな声援が起こった。
(うきゅきゅ、こうなったら…)
 悪に染まったソニックは、迷うことなく場外へ。
 本部席に置いてあるジュニアベルトを強奪し、ついでにレフェリーを殴り倒して、
 小早川が起きるのを待ち構える。
 そんな姿に、元はソニックファンだったらしいちびっ子達の罵声が飛んだ。
『ソニックー!汚いぞー!!』
『負けちゃえー!!』
「うるさいおっ!!」
 ソニックが客席の方を向いて言い返した隙に、すかさず小早川がヘッドスプリングで跳ね起きる。
「へへっ、こっちだよ!」
「うっきゅッ!!」
 ベルトの大振りを掻い潜った小早川が、振り返り様にカウンターのトラースキック一閃。
 すぐさまベルトを外に投げ捨てると、悪のヒロインをコーナーの下に設置。
 会場は大きな盛り上がりを見せながら、正義のヒロインの決め技を待つ。
「あたしは、もっと高く飛んでみせるよ!!」
 その言葉通り、ソニックのものより高さと滞空時間を重視した華麗な流星が煌いて、
 悪のヒロインから完璧な3カウントを奪い取った。


「なあ、ちょっと待てよ!」
 試合が終わり、とぼとぼと花道を引き返していたソニックの背に、
 いきなり小早川の声がかかった。
「あんた、まだまだ普通にやっても強いじゃん。
 今日で引退ってわけじゃないんなら、一緒にやってこうよ」
 一旦振り返ったものの、ソニックは足を止めない。
「あ、ちょっと!…やっぱり正義のヒロインの方が似合ってるって、絶対!」
 頭を掻きながら、小早川はもじもじしている。
「いや、その、…あたしも、好きだったんだよね!ソニックキャットって!みんなも、正義のヒロインの方が好きだよね!?」
 観客は大歓声で小早川の問いに答え、
 その声に後押しされたソニックは、またとぼとぼとリングに向かって引き返し始めた。

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by right-o | 2008-12-29 17:57 | 書き物