「サンタクロースマッチ」 相羽和希VS???

「あっ、お帰り。早かったね」
 試合を終えて控え室へ戻って来た美月に、相羽が声をかける。
「こんな格好、早く脱ぎたいですから」
 二人とも、普段とは衣装が違う。
 裾に白い毛皮のついた赤いミニスカートに、同じく赤と白の帽子、ブーツ、チョッキ。
 上着とスカートの丈が思い切り短く、ヘソが見えてしまっていること以外は、
 いわゆるサンタクロースのコスチュームだった。
「リングの上で動くといっても、この服じゃ寒いよね」
「いや、そういう問題ではないんですが」
 この日、二人が所属する団体の年内最後の興行において、あるイベントが企画された。
 それが要するに、全選手でクジ引きして当たった選手がサンタのコスプレで試合するというもので、
 相羽と美月は仲良く二人揃って当たってしまったのだった。
 ちなみにクジはヒールとベビーフェイスを大雑把に分けた上で引かれ、
 それぞれから当たった選手を一人ずつ出すことになっており、
 試合の直前まで対戦相手がわからない。
 美月の相手はつかさで、先ほど速攻で締め上げて瞬殺してきた。
「そういえば、戻って来る途中で和希さんの対戦相手らしき人を見掛けましたよ。
 廊下ですれ違ったんですが、金髪で、背が高くて、スタイルの良い…」
「え…、それって……」
 相羽の頭に、一人候補が浮かんだ。
「ん?ああ、市ヶ谷さんではありません。
 ただ、俯いていて顔がわからなかったので、はっきりと誰かはわからないんですけど」
「背が高くて、金髪…?」
 提携先の外国人かな、と相羽は思った。
(ソフィアさん…は背が高くないか。ってことは)
 ダダーン、チョチョカラス、ナスターシャ・ハン、クリス・モーガン…
 恐ろしい相手が浮かんだが、外国人選手をヒールと考えるなら、
 最近景気の良いこの団体では有り得なくもない。
「うわー、強敵だったらどうしよう…」
「早く終わるからいいじゃないですか。
 というか試合、私の次でしょう?遅れますよ」
「あ、そうだった!」
 ばたばたと慌しく出て行った相羽を見送ったあと、美月はちょっと首を傾げて考える。
「外国人、でもなさそうな…」
 自団体の選手を頭に思い浮かべていった結果、確かに該当者が一人いた。


 入場に遅れかかり、相羽がいつも以上の全力疾走でリングに駆けつけると、
 そこは何故か異様な雰囲気だった。
 リングの周囲を、八島、小鳥遊、山本、朝比奈ら強面ヒールの面々が取り囲んでいたのだ。
 しかし全員が相羽には目もくれず、たまにリングの上にちらと目をやりながら、
 俯いて肩を震わせ笑いを堪えている。
「……?」
 客席からも忍び笑う声が漏れる中、相羽はリングに上がって対戦相手と向かい合った。
 確かに美月が言った通り、金髪長身でスタイルがいい。
 が、腰を過ぎるぐらいまで伸びた金髪は先に行くにしたがって灰色になり、
 音がしそうなほど強く噛み合わせている口元から大きめの犬歯が覗いている。
 外国人にこんな選手はいない。
(こんな人、ウチにいたっけ?) 
 美月や相羽が気づかなかったのは、恐らく目の前のサンタ姿があまりにイメージからかけ離れているのと、
 もう一つ普段はマスクを被っているせいか。
 ゴングが鳴り、恐る恐る近づいた相羽がその選手だと気づいたのは、
 いきなり顔を上げて殴りかかってきた相手の目を見た時だった。
「わッ!?」
(ライラさん!?)
 加減無しに振ってきた右を仰け反って避けながら、相羽は周囲の状況がなんとなく理解できた。
 他のヒール達は、当たりを引いてしまったライラを無理矢理に着替えさせ、
 嫌がる中を無理矢理にここまで引っ立てて来て、さらに逃げ出さないように監視しているのだろう。
 それにしても。
「け、結構、似合って…」
「ああァ!!?」
「うわわわわっ!?」
 いきなり飛び掛って来たライラの勢いに圧され、相羽は場外に一時避難。
「うくっ……!」
 その姿を見て、リングを挟んで逆方向にいた小鳥遊がたまらず笑い声を上げた。
 釣られて周囲にいる他の選手達も、我慢しきれず笑い始める。
「テメェらッ!」
 いつもと同じく殺気立っている両目だけは残念だが、
 マスクを取れば鼻筋の通って意外に綺麗な顔と、短いチョッキが一杯に張っている胸、
 ミニスカートの下から覗く形の良い太股はまだともかく、
 ちょこんと頭に乗っている白いぽんぽんのついたサンタの帽子が、
 いかにも普段のライラからは想像できず、マヌケに見えて笑いを誘う。
「殺すッ!全員あとで覚えてやがれッ!!」
 地団太を踏んで暴れる度に、上の帽子が可愛く揺れる。
 もう何を言っても笑いしか起きなかった。
「どうしようかな…」
 ただ唯一、これから気の立ったライラと戦う必要のある相羽だけは、
 笑ってばかりもいられない。
 と、喚き散らしているライラを場外で眺めていた相羽の後ろから、そっと鏡が近づいて来た。
「ちょっと、耳を貸しなさい」
 ごにょごにょと相羽の耳元へ囁きかける。
「いや、そう言われても…」
「アレをまともに相手にするよりマシですわ。まあ、失敗したらもっと酷いことになるでしょうけど」
 言い終わると、そっと離れて行った。
「うう…」
 これから普通に試合を行おうとすれば、間違いなくタダでは済まない。
 そう考えて決心した相羽は、背中を向けてコーナー下の小鳥遊へ何事か叫んでいるライラに向かって、
 音を立てないようにそろりと近づき始める。
 リングに上がり、助走の分を見積もって距離を測ると、
 一気にライラの背中に向かって突進した。
「ぶっ!!」
 勢いに任せ、背後から体当たり。
 前につんのめったライラがコーナーポストで顔面を打ったところを、
 そのままスクールボーイで丸め込む。
(決まって!!)
 夢中でライラを押さえ込んでいる相羽の手が、背中の方で何か引っ掛かるものを掴んだ。
 ついそのまま力を入れると、そのまま下にずれる。
(あれっ?)
「ッ!?」
 その“何か”というのがライラのミニスカートと、その下に着ている物の縁だと分かった時には、
 もう3カウントが入っている。
 半分まで擦り下げられて返すに返せなかったライラは、
 大観衆に向かってお尻を見せたまま負けてしまった。


「ご、ごめんなさいッ!!」
 相羽は全速力で逃げて行った。
 周囲の笑い声が最高潮に盛り上がる中、ライラ一人がリング上で怒りに震えている。
 このあと、今日一番の盛り上がりを見せたこのカードは、
 新春一発目の興行で再戦が行われることが発表された。

[PR]
by right-o | 2008-12-23 17:18 | 書き物