「ファイナルレゾリューション」 TNA 11年目3月
龍子、祐希子、ソニック、市ヶ谷とその仲間達は、
ありとあらゆる反則と抜け道を使ってベルトを保持してきた。
凶器や乱入は当たり前、さらにリングアウト負けや反則裁定では王座が移動しないことを利用した不透明な決着に加え、
極めつけはGM霧子を利用した強引な王座移動の取り消し。
最初こそベテラン達の活躍見たさに応援していた観客も、
今では会場の全てがブーイング一色になってしまっている。
「うまくいったよ」
十一年目を締めくくる最後のPPV開始前、龍子は控え室に仲間を集めて語り始めた。
「お膳立ては全部揃った。あとは、正義の味方が悪役を倒すだけだな」
「倒せなかったら?わざと負けてやろうってわけじゃないんでしょ?」
神楽が口を挟んだ。
「その時は、倒されるまでこのまま居座ってやるさ。
もっとも、ベルトに挑戦してくる奴はどれもまともに戦って勝てる相手じゃないが」
程度の差はそれぞれあっても、団体の活動期間と同じだけ現役生活を送ってきた彼女達は、
みんな体力的な全盛期はとっくに過ぎている。
小細工を使わなければ、ベルトを巡って若い選手と互角にやり合うことなどできはしなかった。
「ただ、あたしも含めて今日が最後って人間もいるんだ。
だからどう戦うかはそれぞれに任せるよ。最後ぐらいは真っ向勝負で終わるのもいい」
最後と聞いて、全員がやや表情を暗くする。
「…ちなみに、あたしは今まで通りどんな手を使ってでも勝ちにいくよ。
情けないけど、そうでもしなきゃ桜井とは対等に戦えないしね。
それに今日は全試合が反則裁定無しの完全決着ルールだ。
逃げは利かない代わりに、何やったって反則にはならない」
そう言って一息吐くと、龍子は輪になっている全員を見回して、最後まで一気に続けた。
「まだ現役を続ける奴もいるけど、間違い無くこれから今日以上に目立つ機会はもう来ない。
それぞれ自分の最後を飾る気持ちで、悔いなく戦って終わろう」
聞き終わって、全員が手を合わせるとか、威勢のいい掛け声がかかるようなこともなく、
それぞれが普段通りに自分の準備へ取り掛かった。
着替えて、体をほぐして、仲間と一緒に控え室で出番を待つ。
最後の舞台へ向け、一人々々が内に決意を秘めながらも、
ベテラン達の風景はいつもと全く変わらない。